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秋風視点 過去編
79 君以外を好きになる方法/秋風《前編》
しおりを挟む「これ……波青に渡してくれる?」
「「え!?」」
双子とカフェで話をするようになってからしばらく経ち、季節は十二月になった。
俺は、リボンをかけてラッピングした二つの包みを双子に差し出した。
中身はゲーム機本体と、いくつかのソフト。
高校卒業後の一人暮らしの為に貯めていたバイト代を少し崩して工面した。
前回二人に会った時、気になることを聞いたからだ。
──『あのねあのね、しゅーくん聞いて! にいちゃんがゲームを買ってくれたんだよ!!』
──『超楽しいの! 木を切ってね、火の棒で周りをあかるくしてね、ブロックでね、自分のおうちを自由に作ったりするの!』
──『お米を畑で育てて、自分でご飯を用意するんだよ! モンスターもやっつけるんだ~!』
──『このゲーム、子供のうちからやっておくと、そおぞりょく? が身につくんだって!』
──『くりえんてい……なんとか! って言ってた! だから買ってくれたの!!』
──『創造力? クリエイティビティ?』
──『『そうそれ!!』』
波青は教育の一環として双子にゲームを買ってあげたらしい。
二人は友達と遊べて楽しいけど、波青とできないのは残念だとしょんぼりしていた。どうやら本体が二台ないと通信プレイができないんだとか。
(自分には買わなかったんだな……)
波青も俺と同じくらいバイトをしているだろうし、買おうと思えば買えるんだろうけど。
二人の将来とお家の生活費の為に、自分の娯楽には使わないようにしているに違いない。
そう考えていたら、新作ゲームの感想を語るクラスメイト達を眺めている時の波青の顔が、脳裏に浮かんできた。
手の届かないものを見つめるような、興奮と羨望を混ぜ合わせた、悲しい表情……。
「……」
俺はどうにも我慢できなくなって、気がつけば、波青に渡すゲームを買ってしまった。
できるだけ関わらないようにしなければと決めていたのに。
「波青宛で……誕生日と、クリスマスのプレゼントなんだけど。これを渡して、二人が用意したってことにしてくれるかな?」
「ええっ!?」
「どうして? しゅーくんが買ってくれたんでしょ?」
「二人からもらった方が波青は嬉しいと思うから」
「?? そんなことないと思うけど……」
「だいじなプレゼントは、自分の手で渡したほうがいーよ!」
「そーだよそーだよ!」
(うーん……)
渋った様子の双子の反応を受けて、俺は少しずるいかなと思いながら子供心をくすぐるような言い方に変えた。
「みーちゃん、かいくん。実はこれは、秘密のミッションなんだよ」
「!? 秘密のミッション!?」
「そう。世界中で、二人にしかできないこと。クリア報酬は、なんと……波青の笑顔」
「……!!!」
二人は顔を見合わせ、こしょこしょと会議をした。
「ミッションだって。なんか、スパイみたいでかっこいい……」
「うんうん。秘密なんだね」
「にいちゃんが笑ってくれるならいいかもね」
「そうだよね。海乃莉たちがゲームやるとこ見て、おにい、ちょっといいなぁって顔してたもんっ」
「僕らと一緒にやりたいはずだよね」
「そうだよ。もらっておこう!」
「うんうんっ、そうしよう!」
結論は決まったみたいだ。二人は両手を広げ、「せきにんを持ってお届けします!!」と引き受けてくれた。
次に会ったときには、波青に無事渡せたことと、とても喜んでいることを教えてくれた。
「サンタさんだれだって言われてちょっとびっくりしちゃったっ。でも、ちゃんとごまかせたの!」
「僕たち嘘がとっても上手だった!!」
「……」
(……ほんとかな……)
波青に似ているとしたら、嘘をつくのは苦手なのではという気がする。すぐ目が泳ぎそうだ。
中学生の時のエイプリルフールの日、波青は俺にイタズラしようと思ったのか、『聞いてくれよ! 俺、朝起きたら身長が五センチも伸びてたんだ!!』という苦しすぎる嘘をついてきた。
でも本人はこれでイケるという謎の自信があったのだろう。瞬きを異常に早くしながら、ドヤ? ドヤ? とこちらを興奮した表情で見上げてきて、とても可愛かった。思わず頭を撫でて、『すごいね。良かったね』と言ってしまったら、『ばーーーか!! 嘘に決まってんだろ!! 秋風が騙された! 騙された!! やーいやーいっ』と思い切り煽られてしまった。
「ほんとだよ! ぜーったい、バレてない! だから、しゅーくん、安心して!」
「おにい、ぼんやりさんだから! しゅーくんからのプレゼントってこと、全然気づいてないよっっ!!」
「そっか……。なら良かった。二人とも、ありがとう」
二人の嘘が下手だとしても、波青にはそれを上回る鈍感さがあるから気づかないというのは一理ある。俺は安心して頷いた。
「しゅーくんがくれたソフトね、どうぶつの島ってやつが一番お気に入りみたいだよ。にいちゃん、それずっとやってる!」
「! そうなんだ」
「しかも最近はね、他の人のぶつ島プレイとか、こーりゃく動画が見たいって言って、おにい、ゲームじっきょう? にハマってるの!」
「ワイチューブ! 家事しながら、いつも見てるよね」
「うんうん、楽しそうに見てるよね」
「配信者って、かっこいいんだって~」
「好きな人がいるって言ってたよね」
「……好きな人?」
信じられない言葉を聞いて、思わず声のトーンが落ちてしまった。
「そう。おにいのよく見てる人! チャンネルとーろくして毎日見てるよっ。その人、とーろくしゃがいっぱいで、ちょー人気者なんだって! 自分までえっへんしてたよ!」
「登録者がいっぱいだと、何が良いの?」
「わかんないっ。でも、見てるファン? の人が多いとお友達が多いみたいで、おにいの中ではすっげぇってなるのかも!」
「僕、こないだにいちゃんの話聞いたよ! 配信者って、げーのうじんよりなんだか身近に感じるし、自分に会ったことのないお友達ができたみたいだし、その人の声を聞いてるだけで寂しくないんだってさ! あとね、えーっと……『ワイチューブ、テレビよりおもしれぇえ~! 俺には絶対できないけど、まじ憧れるわ……! 実況プレイだけじゃなくて、ただの雑談枠でこんなに場が持つの天才だろ!!? トークスキル凄すぎっ。一人でこんなに視聴者集めて、話に夢中にさせて、か~っけぇーーーっ!!!』──って、にいちゃん、スマホ見ながら叫んでたのっっ」
「…………ふーん……」
海依斗くんによる波青の声真似は正直すごく似ていた。一緒に暮らしてよく観察しているだけある。まるで目の前に波青本人がいるみたいだ。
俺はなんだかモヤモヤして……。
翌日学校で会った桃星の何度目かの誘いに、この日初めて頷いていた。
「ねぇ、しゅーかー。やっぱりやらないの? 僕みたいにチャンネル作って、ネットに歌をあげようって! 絶対バズるから!!」
「……やる」
「もー、なんでそういつも消極的なの~!? しゅーかほどのイケボなら、普通に話してるだけで再生伸びるよ? 歌は最悪載せなくていいし、バイトしてるより稼げるだろうし──ん? 待って、今なんて言った!? 『やる』って言った!? は!!!?」
「俺、やるよ」
「──ええええええ!!!」
飛び上がった桃星は、「ま、まじ! まじで!? じゃあ、さっそく放課後僕んちでレコーディングをしよう!! 気が変わらないうちにね! もう言質とったから!! やっぱやめるはナシね!!!」と興奮した様子で、俺を自分の家に連れていった。
桃星の家は蓮見家にも引けを取らない大きさの上、一家全員音楽好きらしく、家の中に防音スタジオがあった。設備と機材も完璧に揃っている。父親はIT社長で、母親は高名なピアニストらしい。
俺は桃星によるプロデュースで、自分のチャンネルを作り、初めてインターネットに歌をアップした。
それからは、あっという間だった。
元々知名度のある桃星が拡散してくれたからか、akiという名はすぐに広まって、載せた動画は瞬時に急上昇一位を獲得した。
鰻登りにチャンネル登録者数が増えて、ネット上に熱狂的なファンができていった。
「ほらね!! ほらねっっだから言ったでしょ!? 僕の目に狂いはなかったの!! 才能があるんだよ!! しゅーかには……悔しいけど、僕よりも……!!!」
悔しいと言いつつ、桃星はすごく嬉しそうだった。
『僕の推してるものが周りにも認めてもらえて感激なんだ』と、まるで自分のことのように喜んでくれていた。
正直、バズるバズると桃星が言っていた時は、いやそんなに簡単なことじゃないんじゃ……と俺は思っていたから、実際そうなって、ただただ驚きしかなかった。
顔出しをしない状態で、歌声や話し声が好きだとたくさんの人に言ってもらえたのもすごく驚いた。
私生活では毎日容姿のことばかり言われて、容姿抜きで自分が判断されるということがほとんどない。自分の容姿以外を好きになってもらえるというのは、俺にとって初めての体験だった。
最初は、不純な動機だったけど。
波青に憧れられている、かっこいいと言われている配信者が羨ましくって。俺も同じ土俵に上がりたいという、ただただそれだけの気持ちで始めた活動だったけど……。
けれど、やっていくうちに、責任感が生まれた。
アキのことを好きと言って応援してくれるファンの人たちの思いに、少しでも応えたいという気持ちが芽生えていた。
俺の中に、蓮見秋風とは別に、アキという存在ができていく。
どちらも俺自身ではない。
いくら二人が評価されても、本当の俺は、誰にも見つからないし、どこにもいない。中学校の卒業と共に、思い出の中に置いてきたから。
でも……波青以外に俺を見てもらいたいとも思わないし、それでいいんじゃないかという気がしていた。
蓮見秋風とアキの存在に救われる人がこの世界のどこかにいるのなら、どちらも壊したくないと強く思う。
俺を捨てて、アキになりきって、一人でも多くの人を喜ばせる。それが、俺の生きる意味なのかもしれないと感じるようになった。
俺は、アキのファンの為に、ほぼ毎日歌枠や雑談枠の配信をした。
配信上では、甘い言葉や優しい言葉をささやいて、求められている自分を演じる。
蓮見秋風をしている時と特に変わらないから、難しいことじゃなかった。
「──あれ、しゅーか、収益化はしないの? 条件はもう達成してるよね?」
「ああ……うん。十八歳になるまでは、このままにするかな」
「えーー。そーなんだ。もったいない」
未成年が収益を得るには保護者の合意と手続きが必要だから、桃星と違い俺にはできなかった。
できるだけ義父と母にはバレないようにしたかった。
家の名前に傷がつかないのなら何をしても基本無関心な義父だが、高校生の俺が目立つ活動をするのならきっと話は別だからだ。
同じ理由で、街中で芸能事務所のスカウトを受けても全部断った。
高校を卒業して、自分一人の家に住んで、完全に自由になるまでは油断できない。俺は家族には秘密でひっそり活動を続けた。
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