幼馴染のリスナーに媚びて人気者になりたい

久羽しん

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秋風視点 過去編

80 …………へ?/秋風 《中編》

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「明日の朝一で病院に行くように言って、絶対に」

 波青を横抱きにして運んで、ベッドに寝かせ終えてから、俺は双子の部屋で二人に言い聞かせた。

「で、でも……」
「三日前に検査して何もなかったからって、今健康かは分からない。病気が見つかるかもしれないから、絶対に行かせて」
「無理だよ……。誰がなんて言っても、にいちゃんは絶対もう病院には行ってくれないよ」
「休んじゃだめだって言うの……。納期? に、間に合わない、とか、先輩に迷惑かけちゃうとか、いつも一人でボソボソ呟いてて、帰ってくるのは深夜で、家を出ていくのは朝早くで……」
「過労で気絶してるのに、そんなこと言ってる場合じゃないでしょう? 波青一人が休んだら回らなくなる会社なんて、今すぐ辞めたらいい」
「お給料が高いから辞めたくないんだって」
「それに、高卒だし、面接が苦手だから、今のところを辞めたら自分なんかを他に受け入れてもらえるところ他にないからって……」
「パパと海乃莉達三人を支えないといけないのに、俺が無職になったらどうやって生きてくんだって。次が見つかるまでにみんなが生活できなくなっちゃうんだって言うの」
「…………」

 苦手なため息を、今ばかりはつきたくなる。

 俺の知らぬ間にどうしてこんなことになっているのか。

 波青が高校卒業して就職したのは二人に聞いていたから知っている。でもまさか、倒れるまでブラック企業で酷使されているだなんて思いもしなかった。

 波青が苦しんでいたのに、俺は何も知らないで、のうのうと大学に通って、呑気に勉強したり、配信したり……あり得ない。

「どうしてもっと早く俺に言ってくれなかったの?」
「……!!」
「ご、ごめっ……」
「あ……、」

 自分への苛立ちで、思わず責めるような言葉を言ってしまい、二人が肩をビクッと跳ねさせたのが見えた。
 俺は自分の顔を手で押さえて、どうにか気持ちを落ち着けられるよう深呼吸をした。

「ごめん……。ちがう。……二人は悪くないよね。分かってる。でも、波青のことが大切だから、できることなら、一刻も早く教えて欲しかった。そうしたら、こうなる前に助けられた」

 普段波青のことはなんでも教えてくれる二人だから、今回だけ内緒にされているとは思わなかったのだ。

 けれど、俺が浅はかだったのかもしれない。

 波青が高校の後半、趣味で配信活動を始めたのは二人に聞いて知っていた。その活動を波青が高校卒業と共に辞めた時、単純に社会人になって忙しくなったからだろうと俺は解釈した。

 あの時に、趣味をやる余裕すらないんだということに、気づいてあげるべきだった。

「ごめん、違うよな。俺のせいだ……」

 俺が後悔を口にすると、二人は、「ううん。悪いのは、僕たちのほう……っ」「そうだよ、しゅーくんはなにも悪くないよ」と言って首を横に振った。

「しゅーくんに言えなかったのは、にいちゃんが嫌がると思ったからなんだ……」
「おにいは、他人に頼ることを嫌うから」
「しゅーくんは、今の状況を聞いたら、僕ら家族のことを絶対助けてくれようとすると思って。でも、助けるって、にいちゃんが働かないでいいようにお金をくれるってことだよね……?」
「しゅーくんにお金をもらったりしたら……おにいは、すっごく惨めになると思う」
「そんなの絶対、嫌だと思う」
「自分で頑張りたいから、フラフラになっても毎日、お仕事に行ってるんだと思うの……」
「…………」

 確かにそうだ。さすが血の繋がった家族と言うべきか、二人は波青のことをよく理解している。

 長男として、家族を支えようと今まで必死に頑張ってきたのに、ここにきて他の人に役目を奪われたら。しかも全部自分のふがいなさが理由なら。

 波青のアイデンティティはきっと一瞬で崩壊する。

 自尊心がボロボロになった末、最悪、俺の生きている意味とは? と考えだす可能性まである。

 大黒柱の自分の責務を誰かに肩代わりされるなんて、そんな情けない目に遭うくらいなら、這ってでも仕事に行ってやると……そういう気高さを持っているのが、波青という人間だ。

 つまり、安易に手を貸したら逆効果。

「…………分かった」

 双子の意見を聞いて、俺は助ける方向性を再考してみた。

「じゃあ、お金を渡すんじゃなくて、俺が波青に良い仕事を紹介する。作業はほとんど自宅でのみで完結して、休みは好きなだけ取れて、みーちゃんやかいくんとの時間もたくさん確保できる、今より何十倍も高給な仕事を」
「……え?」
「そ、そんな、夢みたいなお仕事が……??」
「怖いところじゃないよね!??」
「大丈夫。そこでは俺も一緒だから」
「え……」

 俺の言葉に、双子は目をパチパチと瞬いた。

「任せて。絶対にもう、倒れさせたりしないから」

 さっき見た、波青の尋常じゃない顔色の悪さや、抱えた時に感じた体の軽さを思い出して、俺はグッと拳を強く握りしめた。

 二人は真剣な顔で「分かった。しゅーくんを、信じるよ」と言ってくれた。

「ありがとう。準備ができたら、すぐに波青に俺から連絡するね。それまでは、二人がちゃんと波青のことを見張っていて。元気がなかったら、頑張って仕事を休ませるんだよ。泣き落としでも使って、どうにか」
「うっ、うん! 了解!」
「僕たちもがんばる!!」
「泣き落とし、がんばるよ!!」

 二人と約束を取り付け、俺は家に戻った。

 翌日の朝、早速ある人に電話をした。

「──すみません。前々からご提案をいただいていた件なのですが」
『え!? とうとう結論決まったの!? 待って待って、お兄さん、心の準備が……──』
「お受けいたします」
『!!?? ほ、ほんと!? ほんとにいいの!!?』
「はい。でも、条件というか……いくつかお願いしたいことがあって、」
『いやいやいや!! なんでも言って、なんでも!! 決断してくれて、本当にありがとね!!!』

 それから交渉を進め、話がまとまったところで、電話を切った。

 相手は、夕方最高! ちゃんねるのユウという、大手ゲーム実況者。

 以前イベントで共演したことをきっかけに、グループを組まないかという誘いを受けていた。

 グループ活動に興味がなくて最初は断ったものの、『ごめん。申し訳ないけど、諦められない! 君しかいないと思ったから!!』と言って、何度も何度もしつこくグループの良さを俺にプレゼンしてきて、正直困っていたところだった。

 彼の人柄の良さもあり、どうも跳ね除け続けられなくて……。
 しばらく考えますという返事で保留にしていたのは、結果的に幸運だったのかもしれない。

 俺はまず、自分の幼馴染の波青をグループに入れることを一つ目の条件とした。

 波青は一応高校時代配信をしていた経験があるし、全くの素人というわけではない。

 ユウも俺の紹介なら悪い人間ではないだろうということで、二つ返事で了承してくれた。

 ユウの思い描くグループは、顔出し有りの実写系グループだから、全世界に波青の顔を知られざるを得なくなるのは嫌だけど……それでも、ブラック企業に波青を搾取させ続けるよりはまだマシだ。

 俺は、波青にお金を渡すという手段が取れないのなら、『波青自身』が稼げるような場所を作り出そうと決めた。

 これまでアキについてきてくれたファンや、芸能活動で得るファンを全部、これから結成するグループに引っ張っていく。

 俺の全てを捧げて、グループを人気にさせる。

 そうすれば結果的に、波青が自分自身の手で得る報酬が多くなる。

 波青は誰にも頼ることなく、縋ることなく、自分の働いたお金で家族を養うことができる。


 ──そして、二つ目の条件は、俺はグループに長くは居続けられないということ。

 ユウは困惑していたけど、俺がどうしてもこの条件を譲らないのを見て、なんとか飲み込んでくれた。

 俺はなんでもない顔をして波青の隣を陣取り続けるつもりはない。

 波青が一生働かなくても問題なく暮らせるほどの額を手に入れたと分かったらすぐ、グループを抜けて、一人の活動に戻ろうと思っている。

 大体、五・六年ほどあればその数字を達成できるだろうか。

 ユウも、『将来は失速して、それぞれ一人ずつの活動に戻っちゃうかもしれないし、若い時に稼げるだけ稼いでグループのメンバーが貯金できるようにする』という思考を持っているらしく、大体は理解してくれた。

 それから、波青に連絡を取って、グループ活動に誘った。

 数年ぶりに会う波青は、『ずっと連絡をよこさなかったくせに今更何を……』『何を考えてるのか、分からない。こいつを信じられない』という顔をしていて、中学生の時より俺に壁があるようだった。

 当たり前のことだった。

 波青との関係を断ち切ったのは俺で、勝手に親友の席から転落したのも俺の愚かな欲求のせいで……申し開きのしようもなかった。

 幸い、ブラック企業を辞められること、ユウのネームバリュー、見込める経済的利益、家族のための休みが自由に取れるようになる……など波青にとっては色々と魅力的な部分があったらしく、渋い顔だけど提案を受け入れてくれはした。

 波青の加入が決まった後、俺がユウのグループに入ることをどこからか聞きつけた桃星が、自分も入れてくれと声をかけてきた。

 桃星は俺より先にワイチューブで活動をやっていたし、チャンネル登録者やSNSのフォロワー、抱えているファンの数がかなり多い。彼は高校時代から気がつけば人が周りに集まっているような人気者で、周りの目を惹きつけられる力もある。

 桃星が入ればグループが成功する確率が更にぐんと上がるだろう。そしてグループが成功することは、『波青のためになること』に直結する。

 そう判断した俺は、桃星の加入をユウに提案した。

 ユウも珀斗という知り合いのプロゲーマーの子供から『俺を入れろ』とせがまれているようで、結局グループは五人グループになった。


 グループ名はリーダーのユウが考え、『ごちゃっとまぜる』──通称『ごちゃまぜ』に決定した。


 グループが始動すると、俺は顔出しをし、芸能活動を精力的に行うようになった。

 ごちゃまぜはどんどん人気になり、波青の懐も潤っていく。

 双子が言うには、二人分の学費をもう貯められたと嬉しそうに話していたらしい。

 当初の目的は果たし、全てが順調に進んだ。
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