幼馴染のリスナーに媚びて人気者になりたい

久羽しん

文字の大きさ
126 / 264
第2章

91 初めての美容院《後編》

しおりを挟む
 美容師さんは飛び跳ね、思い切りのけぞった。

「まじっすか! まじっすか……!! マジでご本人!?!」
「ちょ、静かに……!」
「顔が似てるだけかなって……っえ、まじか。でも、たしかに下に双子の家族がいるって動画で言ってたかも……!」
「そうなんすよ。ただ、あいつらは顔出ししてないからSNSとかには書かないでくださいね。俺が来たことも内緒で頼みます!」
「あ、はい……それはもちろん……てかなんでこんなさびれた無名サロンに!? 売れてるワイチューバーさんってもっと有名なとこ通って専属がいるもんじゃないの!?」

 (さびれたって言っちゃってる……! 自分が雇われてる店舗を!!)

 口滑らしすぎだろ……と思うけど、もしかして俺も人から見たらこんな感じなんだろうか。つらい。

「いや、俺、こういうの詳しくなくて。双子が予約してくれたんですよ。なんでも、口コミの評価が高かったとかなんとか」
「……く、口コミ……ハハハ」
「ん?」

 変な反応だ。

「や、やー、ほんとでも、今日はついてるなぁ! まさか僕の短い美容師人生、ごちゃまぜのアオさんの担当になれる日が訪れるなんて……!」
「……?」

 なんだか露骨に誤魔化された気がする。
 不思議に思っているうちに髪が濡らし終わり、俺は席に戻った。

 タブレットを渡されて雑誌を見ていいと言われて、そうしよっかなと一瞬思ったけど、やっぱり気になったので会話をすることにした。

「さっきのあれ……口コミがどうかしたんですか? 言い淀んでいたけど」
「え? あー、いやー……」
「気になります」
「……」

 美容師さんは俺の髪を切りながら、言いにくそうに答えた。

「……うーん。あの、アオさんだからぶっちゃけるんですけどね」
「はい」
「ここだけの話……正直僕、お客様からの評価かなり低いんです」
「え、えぇ?」
「おっちょこちょいらしくて、いつもミスを連発しちゃって……」

 (え、そんなこと言われたら不安……。切りながらそれ言うの!? え、俺まさか失敗される……!??)

 ギョッと鏡を見た俺に、美容師さんは慌てて首を横に振った。

「あっ、いや、仕上がりに関しては毎回高評価いただけてるので、ご安心を!! ……多分!!」

 (多分!!?)

「え、えーと……じゃあミスって、施術のことじゃなくて、さっきの飲み物間違えたりとかのこと?」
「そう! そうです! 予約の時間を間違えて取ってしまったり、お客様のお名前を別の方と間違えてずっとお呼びしてしまっていたり……」

 (やべーよあんた……!)

「一番は、トーク内容ですね。なんか僕、無意識に失礼なことを言ってしまうみたいで、とてもクレームが多いんです」

 (お、俺だ!!!)

「口コミもいつも星が一つとかで、最悪って書かれてしまうんですよね。接客業向いてないのかも……」

 (うわ。すげー、他人事とは思えねぇ……!!)

「あっ、僕だけですよ。他のスタッフはみんなリピート率も高くて、いい人だらけですし……! だからここのお店の口コミの全体評価は高いんです。僕が下げてますけどねっ。はは。アオさんは今日、ハズレを引いちゃったかもです」
「……!!」

 鏡越しにしゅんとする美容師さんを見て、ズキッと胸が痛んだ。
 俺は慌ててフォローを入れた。

「は、ハズレなんて言わないでください!!」
「え……」
「まじ気持ち分かりますから! 俺も、色々失言しがちで、敵を作りやすいタイプで……!」
「アオさん……」
「いやほんとに! 自慢じゃないけど、俺めちゃくちゃアンチ多いんすよっ」
「そうなんですか……? あ、でもたしかに、アオさんは僕なんかより大勢の人を相手にお仕事なさっているわけだから、もっと大変ですよね! 本当にすごいと思います」
「! いえいえ、そんな……」
「なんだか僕たち分かり合えるところがあって嬉しいなぁ。一方的に見てるスマホの中の人だったのに、こんなに気さくで親近感湧くなんて……あっ、前髪は長さどのくらいいきます?」
「え、まじで俺も──ん? 前髪? もう、なんでもいいっす! それより、親近感なんて嬉しいです! ほんと他人に自分を評価されるって辛いですよね! 嫌なこと書かれたときは次の日まで落ち込んじゃったり」
「分かります分かります!! クレーム見ると普通に三日は引きずりますよ僕。で、落ち込んでると更にミスしての悪循環なんで」
「それな……!!?」

 思ったより盛り上がってしまった。
 初めて会った人なのに、意気投合しすぎて、もっともっと話をしていたくなってしまう。

 途中前髪を切るから目をつむってと言われてつむったけど、その状態でも俺の口は興奮気味に回り続けていた。

「お兄さんの今まで言われて嫌だったことランキング一位なんすか? 教えてください!」
「おっ、一位かぁー。むずいなぁ。僕はとりあえず、空気読めない、突然叫ぶのやばい、人の気持ちわからない、ノンデリ、挙動がおかしい、天然すぎて怖いとか──」
「わかる~~~~!!」
「あはは。嬉しいです。……あ、カット終わりましたんで、お流ししますね。もう一度シャンプー台にご移動お願いします」
「はい!」

 気がつけばなんかカット終わってた。
 まあ大丈夫だろう。……多分。

「まず、シャンプーとヘッドスパからおこなっていきますね。その後トリートメントをさせていただきます」
「はい!」

 シャンプー台に寝転んで洗面ボウルの部分に後頭部を預ける。
 目元を白い布で隠されて、視界が真っ暗になった。

「……アオさん、初めてですか? ヘッドスパは」

 髪の毛に触れる手と共に、質問が飛んでくる。

「あ、はい。初めてです。双子に予約全任せしてたから正直何が何だか分かんない」
「あはは! でも、ナイスチョイスだと思います。きっと職業柄PC作業が多いと思うんですけど、そういう方って、肩こりが酷かったりしますから」
「あ! 俺肩こりやばいです! えっ肩こりとかに効くんですか? これ」
「ええ。血流が良くなりますので、肩こりに効きますし、目の疲れなんかにも良いですよ」
「へえええ! すげぇっっ!!」

 ワクワクしてきた。
 すると美容師さんは張り切った声になって、俺の髪に温かいお湯をかけた。

「大好きなごちゃまぜさんなんで、僕の手が少しでもお力になれたら良いなと思います。頑張ります! じゃあ、始めていきますねっ!」
「はい! お願いします!」

 (うおお……! いい匂い)

 もこもこの泡でわしゃわしゃされている。
 俺の家のシャンプーとも、ごちゃハウスのシャンプーとも違う、甘くて心安らぐ香りが漂っている。

 (すげぇ。人に頭洗われるのっていいな……)

 こんなに体の力が抜けて全身リラックスできているのはいつぶりだろう。

 鼻に届く甘い香りも、泡が押しつぶされる、ぎゅむぎゅむという音も。

 全てにおいて天国だ。

 それになんと言っても、この指圧。

 (良いっ! めちゃくちゃ押されてる……!!)

 頭皮がぐりぐり動かされている。

「力加減は大丈夫でしょうか?」
「……ん、あ、ハイ。だいじょーぶです……」

 大丈夫どころではない。最高だ。

 (うええ……ヤバい。きもちえぇ……)

 世の中にこんなに気持ちいいものがあったなんて。知らなんだ。

 この気持ちよさ、前に秋風にしてもらったドライヤーを思い出すな。あれに匹敵するぞ。

 (……秋風。秋風といえば……)

 秋風はヘッドスパを知っているのだろうか。美容院でやってもらったこと、あるのかな。

 (明日会ったら教えてあげなきゃ……)

 ぜひおすすめしたい。広めたい。この気持ちよさを。

 「は~……」

 (てかこの人、うまくね……?)

 ちょうどいい力加減だし……さすがプロと言うべきか、ツボをしっかり分かっている感じがする。

 頭皮だけじゃなく、首の後ろに指が押し込まれてくる瞬間なんて、極楽すぎてよだれが出そうになってしまう。

 (もはやこの指の虜だわ。性格も、なんか俺と似てて喋りやすいしな……)

 人気ないのも一緒だから、ちょっと助けになりたい気持ちも湧いてきている。

 (よし、これからこの人指名して通ってあげるか! 気持ちいいし、月一くらいで……)

 なんて考えているうちにうとうとしてきて。

 温かさと心地よさに包まれたまま、俺の意識はなくなった。
しおりを挟む
感想 32

あなたにおすすめの小説

【完結】ネクラ実況者、人気配信者に狙われる

ちょんす
BL
自分の居場所がほしくて始めたゲーム実況。けれど、現実は甘くない。再生数は伸びず、コメントもほとんどつかない。いつしか実況は、夢を叶える手段ではなく、自分の無価値さを突きつける“鏡”のようになっていた。 そんなある日、届いた一通のDM。送信者の名前は、俺が心から尊敬している大人気実況者「桐山キリト」。まさかと思いながらも、なりすましだと決めつけて無視しようとした。……でも、その相手は、本物だった。 「一緒にコラボ配信、しない?」 顔も知らない。会ったこともない。でも、画面の向こうから届いた言葉が、少しずつ、俺の心を変えていく。 これは、ネクラ実況者と人気配信者の、すれ違いとまっすぐな好意が交差する、ネット発ラブストーリー。 ※プロットや構成をAIに相談しながら制作しています。執筆・仕上げはすべて自分で行っています。

正義の味方にストーカーされてます。〜俺はただの雑魚モブです〜

ゆず
BL
俺は、敵組織ディヴァイアンに所属する、ただの雑魚モブ。 毎回出撃しては正義の戦隊ゼットレンジャーに吹き飛ばされる、ただのバイト戦闘員。 ……の、はずだった。 「こんにちは。今日もお元気そうで安心しました」 「そのマスク、新しくされましたね。とてもお似合いです」 ……なぜか、ヒーロー側の“グリーン”だけが、俺のことを毎回即座に識別してくる。 どんなマスクをかぶっても。 どんな戦場でも。 俺がいると、あいつは絶対に見つけ出して、にこやかに近づいてくる。 ――なんでわかんの? バイト辞めたい。え、なんで辞めさせてもらえないの? ―――――――――――――――――― 執着溺愛系ヒーロー × モブ ただのバイトでゆるーく働くつもりだったモブがヒーローに執着され敵幹部にも何故か愛されてるお話。

百合豚、男子校に入る。

BL
百合をこよなく愛する男子高校生・眞辺恵。 母の歪んだ価値観により共学への進学を断たれ、彼が入学させられたのは―― 男同士の恋愛が“文化”として成立している、全寮制男子校《私立瑞嶺学園》だった。 この学園では、生徒会長は「抱かれたいランキング」で選ばれ、美貌こそが正義とされる世界。 それでも眞辺は決意する。 生徒会長になり、この学校を“共学”に変え、間近で百合を拝むことを。 立ちはだかるのは、顔面至上主義の学園制度、性に奔放すぎるイケメンな幼馴染、そして彼らに憧れ恋をする生徒たち。 さらに何故か、学園の人気者たちに次々と目をつけられてしまい――。 百合を拝むため男子校を変えようとする異端者が、歪んだ王道学園を改革する物語。

隣の席のイケメンに懐かれた

しょうがやき
BL
隣の席のイケメンに懐かれた平凡男子の話

記憶を無くしたら家族に愛されました

レン
BL
リオンは第三王子で横暴で傲慢で侍女や執事が少しでも気に入らなかったら物を投げたり怒鳴ったりする。家族の前でも態度はあまり変わらない… 家族からも煩わしく思われたていて嫌われていた… そんなある日階段から落ちて意識をなくした…数日後目を覚ましたらリオンの様子がいつもと違くて…

バツイチ上司が、地味な僕を特別扱いしてくる

衣草 薫
BL
理性的でクールなバツイチ上司・桐原恒一は、過去の失敗から、もう誰も必要としないと決めて生きてきた。 男が好きだという事実を隠し、「期待しなければ傷つかない」と思い込んできた部下・葉山直。 すれ違いと誤解の果てに、直が職場を去ろうとしたとき、恒一は初めて“追いかける”ことを選ぶ。 選ばれないと信じてきた直と、逃げないと決めた恒一。 二人の距離が近づくことで、直は「ここにいていい」と思える場所を見つけていく。 元ノンケ上司×自己肯定感低め部下の社会人BL。※ハッピーエンド保証。

ブラコンネガティブ弟とポジティブ(?)兄

むすめっすめ
BL
「だーかーらっ!皆お前に魅力があるから周りにいるんだろーがっ!」 兄、四宮陽太はブサイク 「でも!それって本当の僕じゃないし!やっぱみんなこんな僕みたら引いちゃうよねぇ〜 !?」 で弟、四宮日向はイケメン 「やっぱり受け入れてくれるのは兄さんしかいないよぉー!!」 弟は涙目になりながら俺に抱きついてくる。 「いや、泣きたいの俺だから!!」 弟はドのつくブラコンネガティブ野郎だ。 ーーーーーーーーーー 兄弟のコンプレックスの話。 今後どうなるか分からないので一応Rつけてます。 1話そんな生々しく無いですが流血表現ありです(※)

【完結】君を上手に振る方法

社菘
BL
「んー、じゃあ俺と付き合う?」 「………はいっ?」 ひょんなことから、入学して早々距離感バグな見知らぬ先輩にそう言われた。 スクールカーストの上位というより、もはや王座にいるような学園のアイドルは『告白を断る理由が面倒だから、付き合っている人がほしい』のだそう。 お互いに利害が一致していたので、付き合ってみたのだが―― 「……だめだ。僕、先輩のことを本気で……」 偽物の恋人から始まった不思議な関係。 デートはしたことないのに、キスだけが上手くなる。 この関係って、一体なに? 「……宇佐美くん。俺のこと、上手に振ってね」 年下うさぎ顔純粋男子(高1)×精神的優位美人男子(高3)の甘酸っぱくじれったい、少しだけ切ない恋の話。 ✧毎日2回更新中!ボーナスタイムに更新予定✧ ✧お気に入り登録・各話♡・エール📣作者大歓喜します✧

処理中です...