幼馴染のリスナーに媚びて人気者になりたい

久羽しん

文字の大きさ
170 / 264
第2章

112 しゅごフェス③《後編》

しおりを挟む
 自分の無力さを感じていたら、自己紹介が終わり、夕陽さんの早口言葉コーナーに移っていた。

 夕陽さんは、お題にまず自分が挑戦してからお客さん全員にやらせ、『えっこっちもやんの!?』『難しい!!』『噛んだーー!!』などと客席を沸かしている。

 お客さん、みんな楽しそう。

 (夕陽さんもやっぱすげーや……。……、えーと、俺は何してよう……?)

 周りを見てみたら、夕陽さん以外の三人は各々好きに動き回っていた。

 お客さんに手を振ったり、指でハートを作ってあげていたり。

 (そうか……! 今はお客さんとの交流タイムなんだな)  

 夕陽さんのコーナー中は、他のメンバーは手持ち無沙汰だ。

 それでも棒立ちしているというわけにもいかないから、みんな盛り上げるために頑張っている。

 やる気のない珀斗でさえ、ステージのギリギリまで行ってしゃがみ込んでファンサービスをしているし。

 (ハクのヤツ、意外と働く時は働くよなぁ……)

 でも珀斗は、自分の膝に片肘をついてお客さんを見下ろしているだけで、全然ファンサとも言えないけど。
 ハクオタからしたら、見られてるだけで喜んでるからそれで良いのか……。なんともコスパが良いファンサだ。

 (よしっ、俺もやるか……!)

 俺に手を振られても喜んでくれる人なんて少ないだろうけどなと思いながら、とりあえず視線で自分のファンっぽい人を探してみた。

 (……!? 面白いくらい誰とも目が合わない!!!)

 みんな、他のメンバーを見るのに夢中である。

 さっきアオの名前を呼んでくれていた人たちは一体どこにいるんだ。

 注目されないのはありがたいものの、誰の目にも映ってないとまるで自分が幽霊か透明人間にでもなったような錯覚を覚えてしまう。

 (はぁ……。……ん?)

 その時、ふと青色が見えたような気がした。

「んん……??」

 いや……見間違いじゃない。目をごしごし擦ってみても、変わらない。

 挙げられた手の中に、確かに青色のリストバンドをつけている人がいるのだ。

 アレはたしか、ごちゃまぜの公式グッズだ。

 (お、俺のファン見つけたかも……!!!)

 ぱあっと突然目の前が明るくなる。

 俺は意気揚々とステージの上を駆け、リストバンドの人が見える角度まで動いた。

 すると、リストバンドの持ち主は、前方エリアの端っこにいる二人組の若い女の子たちだった。

「お……っ!」

 歳は、高校生……いや、大学生くらいだろうか?

 左の子は金髪ショートカットの女の子。毛先? 内側の髪? が、青っぽくなっている。

 右の子はふわふわのロングヘアで、色は秋風の髪色と全く同じ、アッシュベージュだ。金色の刺繍が入った白いワンピースを着ているし……なんだ、俺じゃなくてアキとハク推しかも……。

「? んん……?」

 と思いきや、その子は青色の可愛いカチューシャもつけていた。

「え……、あれ……?」

 どうも違和感を覚えて、まじまじと見てしまった。

 その瞬間、視線がバッチリと合って、女の子たちが目を見開いた。

「──!!」

 こっち見てる? 私たち?! というような張り詰めた動揺を感じる。

 (……! えーと、えーと……)

 ファンサファンサ、と慌てて、俺は自分の手首をもう片方の手で指さした。

 それから、女の子たちに向かってぐっと親指を立ててみる。

「……」
「…………」

 (む、無反応だ……っ……)

 女の子たちは、目を見開いたまま硬直している。

 (もっと大きい動作じゃないと伝わらないのかな……?)

 そう思って、今度は両手を使うことにした。
 
 自分の頭の上で大きく丸を作って、体を右に倒してみる。

『アオのリストバンド』『つけてくれて』『ありがとな!!』『まる!! 花丸!!』の意味だ。

 伝わると良いのだが……とポーズをつけたまま思っていたら、ショートカットの女の子の方が自分の口を押さえ、ゲホゲホとむせ始めた。

「え、や、えっっっぐはっっ……!!」
「沼っちしっかり……!! てか、なにっ? 今の……! へ!? わたしたち宛て!? あ、アオ、こっちの方見てるよね!?!」
「目合ってない? まじ。え? や、んえ? 今、まさか、確定ファンサ……??? は? クッッソかわ。何あの謎ポーズは……!!? やり切った感のドヤ顔もなに!?! はぁっ!?」
「どして? え、ちょ、まさか、アキアオコーデのおかげでわたしたち目立ってるとか……!?」
「やばいやばいやばいむりそれだめっちゃ見られてる!! 推しがこっち見てる!!! 見てるじゃんッッッッ~~~!!!!」
「やぁーーーー!!!!」
「……?」

 なんて話しているんだろう。

 何にも聞こえないけど、何やら女の子たちはすごく恐悦状態で、ガクガクガクと震え、お互いの背中をさすりまくっている。

 他のメンバーからならともかく……ほぼ一般人と変わらない俺からのファンサであんなふうに興奮してくれるリスナーは珍しいな。
 自分がまるでイケメンアイドルにでもなったみたいで正直気持ちがいい。嬉しい。ありがとう。俺のファンの子たち。おかげで、俺はホクホクだぞ。

 (……いやでも、ファンだとしても、めちゃくちゃ過剰反応だよな? この子達、俺にガチ恋してくれてるとか?? ……いや、ナイナイ。俺にリアコとか。それよりはまだ、腐ってるオタクという線の方が……)

「…………ん?」

 そこで、俺はハッとした。

 ……そういえば……。

 ── {しゅがー:顔知らなくても、わたしたちはアキアオ概念コーデで行くから、すぐわかると思う~~!!}

 ── {しゅがー:概念コーデっていうのは、推しをイメージした服装や髪型にすることだよ~! コスプレとは違うんだけどね~、雰囲気をアキアオに寄せるのっっ(๑>◡<๑)}

 ── {しゅがー:そぉそぉっ(๑>◡<๑)今回はゴールドのリボンがついてる白のワンピと、ブルーのカチューシャを買ったから、それで行く予定~!}

 ──{オクラ沼:今回は青はインナーだけにするわ。ベースは金で}

「……」

 そんな会話を、前にグループチャットで聞いた気がする。全部の特徴がこの子達と一致してるのは、気のせいだろうか……。

 ──{しゅがー:あと痛バめためた作る! アキアオセットで痛バ作ってる人は少ないから、きっと見たらすぐわたしだって分かるはずだよ~!(๑>◡<๑)}

「…………」

 俺は恐る恐る、ふわふわロングの子の方のバッグを見た。

 すると──その子のバッグに、アオアキ秋風の公式缶バッジが、実写版もイラスト版もずらあっと、おびただしいほどの量つけられているのが見えた。

 もはや、バッグのていをなしていない。バッグというより缶バッジが主役のアレである。その名も……

 (い、痛バだーーーーーー!!!!)

 心の中で絶叫した俺は、大きく後ろにのけぞった。

 (こ、これ……っ! この子達!! ももももしかして、しゅがーとオクラ沼さん……っ!!!??)
しおりを挟む
感想 32

あなたにおすすめの小説

【完結】ネクラ実況者、人気配信者に狙われる

ちょんす
BL
自分の居場所がほしくて始めたゲーム実況。けれど、現実は甘くない。再生数は伸びず、コメントもほとんどつかない。いつしか実況は、夢を叶える手段ではなく、自分の無価値さを突きつける“鏡”のようになっていた。 そんなある日、届いた一通のDM。送信者の名前は、俺が心から尊敬している大人気実況者「桐山キリト」。まさかと思いながらも、なりすましだと決めつけて無視しようとした。……でも、その相手は、本物だった。 「一緒にコラボ配信、しない?」 顔も知らない。会ったこともない。でも、画面の向こうから届いた言葉が、少しずつ、俺の心を変えていく。 これは、ネクラ実況者と人気配信者の、すれ違いとまっすぐな好意が交差する、ネット発ラブストーリー。 ※プロットや構成をAIに相談しながら制作しています。執筆・仕上げはすべて自分で行っています。

正義の味方にストーカーされてます。〜俺はただの雑魚モブです〜

ゆず
BL
俺は、敵組織ディヴァイアンに所属する、ただの雑魚モブ。 毎回出撃しては正義の戦隊ゼットレンジャーに吹き飛ばされる、ただのバイト戦闘員。 ……の、はずだった。 「こんにちは。今日もお元気そうで安心しました」 「そのマスク、新しくされましたね。とてもお似合いです」 ……なぜか、ヒーロー側の“グリーン”だけが、俺のことを毎回即座に識別してくる。 どんなマスクをかぶっても。 どんな戦場でも。 俺がいると、あいつは絶対に見つけ出して、にこやかに近づいてくる。 ――なんでわかんの? バイト辞めたい。え、なんで辞めさせてもらえないの? ―――――――――――――――――― 執着溺愛系ヒーロー × モブ ただのバイトでゆるーく働くつもりだったモブがヒーローに執着され敵幹部にも何故か愛されてるお話。

百合豚、男子校に入る。

BL
百合をこよなく愛する男子高校生・眞辺恵。 母の歪んだ価値観により共学への進学を断たれ、彼が入学させられたのは―― 男同士の恋愛が“文化”として成立している、全寮制男子校《私立瑞嶺学園》だった。 この学園では、生徒会長は「抱かれたいランキング」で選ばれ、美貌こそが正義とされる世界。 それでも眞辺は決意する。 生徒会長になり、この学校を“共学”に変え、間近で百合を拝むことを。 立ちはだかるのは、顔面至上主義の学園制度、性に奔放すぎるイケメンな幼馴染、そして彼らに憧れ恋をする生徒たち。 さらに何故か、学園の人気者たちに次々と目をつけられてしまい――。 百合を拝むため男子校を変えようとする異端者が、歪んだ王道学園を改革する物語。

隣の席のイケメンに懐かれた

しょうがやき
BL
隣の席のイケメンに懐かれた平凡男子の話

記憶を無くしたら家族に愛されました

レン
BL
リオンは第三王子で横暴で傲慢で侍女や執事が少しでも気に入らなかったら物を投げたり怒鳴ったりする。家族の前でも態度はあまり変わらない… 家族からも煩わしく思われたていて嫌われていた… そんなある日階段から落ちて意識をなくした…数日後目を覚ましたらリオンの様子がいつもと違くて…

バツイチ上司が、地味な僕を特別扱いしてくる

衣草 薫
BL
理性的でクールなバツイチ上司・桐原恒一は、過去の失敗から、もう誰も必要としないと決めて生きてきた。 男が好きだという事実を隠し、「期待しなければ傷つかない」と思い込んできた部下・葉山直。 すれ違いと誤解の果てに、直が職場を去ろうとしたとき、恒一は初めて“追いかける”ことを選ぶ。 選ばれないと信じてきた直と、逃げないと決めた恒一。 二人の距離が近づくことで、直は「ここにいていい」と思える場所を見つけていく。 元ノンケ上司×自己肯定感低め部下の社会人BL。※ハッピーエンド保証。

ブラコンネガティブ弟とポジティブ(?)兄

むすめっすめ
BL
「だーかーらっ!皆お前に魅力があるから周りにいるんだろーがっ!」 兄、四宮陽太はブサイク 「でも!それって本当の僕じゃないし!やっぱみんなこんな僕みたら引いちゃうよねぇ〜 !?」 で弟、四宮日向はイケメン 「やっぱり受け入れてくれるのは兄さんしかいないよぉー!!」 弟は涙目になりながら俺に抱きついてくる。 「いや、泣きたいの俺だから!!」 弟はドのつくブラコンネガティブ野郎だ。 ーーーーーーーーーー 兄弟のコンプレックスの話。 今後どうなるか分からないので一応Rつけてます。 1話そんな生々しく無いですが流血表現ありです(※)

【完結】君を上手に振る方法

社菘
BL
「んー、じゃあ俺と付き合う?」 「………はいっ?」 ひょんなことから、入学して早々距離感バグな見知らぬ先輩にそう言われた。 スクールカーストの上位というより、もはや王座にいるような学園のアイドルは『告白を断る理由が面倒だから、付き合っている人がほしい』のだそう。 お互いに利害が一致していたので、付き合ってみたのだが―― 「……だめだ。僕、先輩のことを本気で……」 偽物の恋人から始まった不思議な関係。 デートはしたことないのに、キスだけが上手くなる。 この関係って、一体なに? 「……宇佐美くん。俺のこと、上手に振ってね」 年下うさぎ顔純粋男子(高1)×精神的優位美人男子(高3)の甘酸っぱくじれったい、少しだけ切ない恋の話。 ✧毎日2回更新中!ボーナスタイムに更新予定✧ ✧お気に入り登録・各話♡・エール📣作者大歓喜します✧

処理中です...