幼馴染のリスナーに媚びて人気者になりたい

久羽しん

文字の大きさ
181 / 254
第3章

118 レッツ、BL営業《後編》

しおりを挟む
「人が歌ってるところに、死角から急に飛び込むだなんて……今回は何事もなかったから良かったけど、普通に危なくない? しゅーかが倒れて怪我でもしたらどうすんの??」
「……! そ、そうだよな……。ごめん……そこは全然考えなしだった……」

 というか、俺はチビだしひょろいし、ぶつかっても秋風はよろけたりしないとたかをくくってしまっていた。

「……もちろん僕としゅーか以外もワンフレーズ歌おうっていうのは、僕が提案したよ? でもそれは、こっちがマイクを向けたらって話だったじゃん。なのにアオはなんで、マイクを向けられてもないのに自分から取りに行ったのさ」
「……そっそれは、俺、やる気だけはあるから……!!」
「……」

 俺の言い訳を聞いた桃星は呆れた風に目をすがめて、「今回だけじゃないよ」と言い募った。

「急にしゅーかのSNSに写真を無理やり載せさせたのだってそう。最近のアオ、さすがに奇行がすごいよ。……アオは自分の人気が上がったって喜んでたけどさぁ。もしかして、それって……、」
「……──!!!」

 ま、まずい。もう完全にバレている。

 桃星に先に言われたらやばい。

 (俺だって、ちゃんと言おうとしてたのに……!!)

 俺は慌てて、大きな声で桃星の声を遮った。

「──あのっっっ!!」

 俺の叫び声で、みんなの視線がこっちに集まった。注目されている。

 ここまで来たらもう、引き返すことはできない。

 (別に、もともと、しゅごフェスが終わったら話そうと思ってたし……!)

 そ、そうだ。これはピンチではない。今は絶好のチャンスだ。

 俺はぐっと拳を握り、みんなに打ち明けることにした。

「こここ、これには、理由があるんだ……!!」
「はっ? 理由……??」
「? なおちゃん……?」

 桃星が訝しそうにしている。夕陽さんは、不思議そうに目を瞬いている。

「……っ」

 俺はごくんと唾を飲み込み、やけくそのように叫んだ。

「俺、実は、ずっと──……BL営業をやってて!!!」
「…………は…………?」
「…………」

 全員が、驚いた顔をしている。

 しかし、開いた口はもう止まらない。こうなりゃ全部言ってしまおうと、俺は声を高くした。

「知らない!? び、BL営業ってやつ! 今ってその、男同士のイチャイチャとか、わちゃわちゃとか、そういうの好きな女の子たちがめちゃくちゃいるんだぞっっ!!」
「……」
「……」
「……」
「……」
「そういう子たち、腐女子っていうんだけど……! だから、そういう……その、腐媚びっ? みたいなのしたら、良いかなって!! と、特に、ごちゃまぜでは秋風が一番人気だから、秋風のリスナーに媚びたら俺、人気者になれそうと思って……! 秋風とイチャイチャするだけで、女子が喜んで、お金になるとか、ちょー簡単じゃね!!?」
「…………」
「…………」

 え……。なんでみんな、静かになっちゃったんだろう。

 こんな時、いつもなら助け舟を出してくれるはずの秋風も、黙っている。
 目を見開き、俺を凝視している。

「…………」

 もしかして、『BL』という言葉に引かれたのだろうか。俺がホモだと思われたとか?? 
 まさか、俺が自分たちを狙ってるんじゃないかって、怖がってる……?

 焦った俺は、慌てて両手を振って否定した。

「あ、誤解しないでくれ!! イチャイチャとか言ったけど、俺は断じてホモではない!! 男同士とか、BLとか、リアルは気持ち悪いと思ってるし!! 全然、そういうんじゃなくって、普通に、営業としてごっこ遊びで、ちょこ~っと絡むならアリじゃね? って、そういう話……! コスパいいし……!! 俺だけじゃなくて、グループ全体の人気が上がるからッッ!!!」
「…………」

 頑張って説明したのに、尚もみんなは黙ってる。桃星も、珀斗も、夕陽さんも、秋風も……。

 なんだこの沈黙……? いたたまれない。俺だけ話してる。

 俺は怖くなって、隣の夕陽さんをうかがった。

「な、なに? なんか、俺の言ってることダメ……?? だって、需要と供給だろ? 俺らの仕事って、それが大事ですよね?? ね、夕陽さん……!」
「……えっ? あ……、あぁ……、え、えっと…………」

 稼げたらなんでも良いスタイルの夕陽さんまで、困惑した顔をしている。

 どうして。

 いつも夕陽さん、ごちゃまぜを人気にしたいって、言ってるじゃん。

 ──『ごちゃまぜを結成してから、俺、四人分の人生を預かってると勝手に思ってるんだ。なおちゃん含めね。ワイチューバーって仕事柄、どうしても将来が不透明じゃない。人気商売だしさ。だから、四十五十になった時もしも活動できなくなったり、視聴者が飽きて去っていったとしても、全然大丈夫なくらい、そのくらい余裕のある一生分の蓄えを……今みんなに渡しておきたい。もっともっと人気を出して、ごちゃまぜを盛りあげて一生分の成果を生みたい。リーダーとして、その義務が俺にはあると思うんだ』

 前にサシで飲んだ時も、成果が大事だって、人気商売だからって……そう言ってたのに……。

「……」
「……」
「……、……はは。そう、だね。ファンサービスは大事だから……」
「……!」

 不安で一人視線を泳がしていたら、硬い空気を、いつも通り秋風が打ち破ってくれた。

 俺はホッとした。

 やっぱり、持つべきものは秋風だな。

 秋風が笑って、俺を見てくれている。

「なんだか……納得したよ。俺も、最近の波青、今までと違うことをするなと思ってたから……」
「! あ、ああ……! 春くらいからいきなり配信でお前に絡みに行くようになったりして、びっくりしたよな!? ごめんな! 全部全部そういうことだったんだよ!!」
「なるほどね……。じゃあ……こないだ、プライベートで一緒に映画を観に行こうって誘ってくれたのも……?」
「あ、うん! そう! それ、BL営業!!」
「……写真を、一緒に撮ろうって……言ってくれたのも?」
「そう! それもBL営業!!」
「……」
「いや~。写真の投稿お願いした時は、さすがにバレるんじゃないかって焦ったわ~~」
「…………」

 俺が答えるたび、秋風の微笑みが深くなっていく。

 こないだ遊んだ日のことを思い出し、納得しているんだろうか。
 さすが秋風は、話の分かるやつだ。

「てか、こういうこと俺一人でやってても微妙だし、お前にも手伝ってもらえたらもっと良いと思うんだよな!」
「…………」
「あっだってほら、こないだ秋風も、やってたじゃん!?」
「…………え?」
「しゅごフェスでさ……、最後の曲! お前、俺の方に向かって歌っただろ??」
「……!!」

 あれはびっくりした。

 心臓がドキドキした。

 でも、すぐに気がついた。

 お客さんの視線を意識して、秋風はああいう風にしたんだろうなって。

 人からの見られ方を分かっているやつだから。

 つまり、秋風もファンにキャーキャー言われるファンサービスの為に、隣に居た俺を利用したってわけだ。
 メンバーがメンバーに向かって歌うと、腐女子が喜ぶからな。

「お前だってあの時、BL営業してたじゃん!!」
「…………」

 俺がそう笑い飛ばした瞬間、秋風が急に下を向いて、表情が見えなくなった。

 (…………あれ?)

 俺は首を傾げながら、提案を続けた。

「だ、だからさ? お前もやってるんだし、いいじゃん! 別々じゃなくって、今度から一緒にBL営業をやって、ファンのみんなを喜ばせよう!!」
「……」
「ん? どした……?」
「…………そうだね」

 やっと、秋風が顔をあげた。

 ニコニコ。張り付いた笑顔で、俺に頷いた。

「良いと思う。波青がそうしたいんなら従うよ。BL営業? いいんじゃない。それ。俺も──、……」

 だけど。

 途中で、崩れてしまった。

「……──っ」

 ボロボロって、仮面が剥がれて、落ちていくみたいに。

 秋風の笑顔が崩れて、目尻からポロリと何かが流れた。

 頬を伝っていってる、それは、


「…………え?」


 (…………涙……?)


 幼馴染なのに、俺。

 
 たった今、秋風の泣き顔、初めて見た。
しおりを挟む
感想 29

あなたにおすすめの小説

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

アプリで都合のいい男になろうとした結果、彼氏がバグりました

あと
BL
「目指せ!都合のいい男!」 穏やか完璧モテ男(理性で執着を押さえつけてる)×親しみやすい人たらし可愛い系イケメン 攻めの両親からの別れろと圧力をかけられた受け。関係は秘密なので、友達に相談もできない。悩んでいる中、どうしても別れたくないため、愛人として、「都合のいい男」になることを決意。人生相談アプリを手に入れ、努力することにする。しかし、攻めに約束を破ったと言われ……?   攻め:深海霧矢 受け:清水奏 前にアンケート取ったら、すれ違い・勘違いものが1位だったのでそれ系です。 ハピエンです。 ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
また、内容もサイレント修正する時もあります。
定期的にタグも整理します。
批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。 自己判断で消しますので、悪しからず。

ネクラ実況者、人気配信者に狙われる

ちょんす
BL
自分の居場所がほしくて始めたゲーム実況。けれど、現実は甘くない。再生数は伸びず、コメントもほとんどつかない。いつしか実況は、夢を叶える手段ではなく、自分の無価値さを突きつける“鏡”のようになっていた。 そんなある日、届いた一通のDM。送信者の名前は、俺が心から尊敬している大人気実況者「桐山キリト」。まさかと思いながらも、なりすましだと決めつけて無視しようとした。……でも、その相手は、本物だった。 「一緒にコラボ配信、しない?」 顔も知らない。会ったこともない。でも、画面の向こうから届いた言葉が、少しずつ、俺の心を変えていく。 これは、ネクラ実況者と人気配信者の、すれ違いとまっすぐな好意が交差する、ネット発ラブストーリー。 ※プロットや構成をAIに相談しながら制作しています。執筆・仕上げはすべて自分で行っています。

何でもできる幼馴染への告白を邪魔してみたら

たけむら
BL
何でもできる幼馴染への告白を邪魔してみたら 何でも出来る美形男子高校生(17)×ちょっと詰めが甘い平凡な男子高校生(17)が、とある生徒からの告白をきっかけに大きく関係が変わる話。 特に秀でたところがない花岡李久は、何でもできる幼馴染、月野秋斗に嫉妬して、日々何とか距離を取ろうと奮闘していた。それにも関わらず、その幼馴染に恋人はいるのか、と李久に聞いてくる人が後を絶たない。魔が差した李久は、ある日嘘をついてしまう。それがどんな結果になるのか、あまり考えもしないで… *別タイトルでpixivに掲載していた作品をこちらでも公開いたしました。

【完結】後悔は再会の果てへ

関鷹親
BL
日々仕事で疲労困憊の松沢月人は、通勤中に倒れてしまう。 その時に助けてくれたのは、自らが縁を切ったはずの青柳晃成だった。 数年ぶりの再会に戸惑いながらも、変わらず接してくれる晃成に強く惹かれてしまう。 小さい頃から育ててきた独占欲は、縁を切ったくらいではなくなりはしない。 そうして再び始まった交流の中で、二人は一つの答えに辿り着く。 末っ子気質の甘ん坊大型犬×しっかり者の男前

観念しようね、レモンくん

天埜鳩愛
BL
短編・22話で完結です バスケ部に所属するDKトリオ、溺愛双子兄弟×年下の従弟のキュンドキBLです 🍋あらすじ🍋 バスケ部員の麗紋(れもん)は高校一年生。 美形双子の碧(あお)と翠(みどり)に従兄として過剰なお世話をやかれ続けてきた。 共に通う高校の球技大会で従兄たちのクラスと激突! 自立と引き換えに従兄たちから提示されたちょっと困っちゃう 「とあること」を賭けて彼らと勝負を行いことに。 麗紋「絶対無理、絶対あの約束だけはむりむりむり!!!!」 賭けに負けたら大変なことに!!! 奮闘する麗紋に余裕の笑みを浮かべた双子は揺さぶりをかけてくる。 「れーちゃん、観念しようね?」 『双子の愛 溺愛双子攻アンソロジー』寄稿作品(2022年2月~2023年3月)です。

人並みに嫉妬くらいします

米奏よぞら
BL
流されやすい攻め×激重受け 高校時代に学校一のモテ男から告白されて付き合ったはいいものの、交際四年目に彼の束縛の強さに我慢の限界がきてしまった主人公のお話です。

天使から美形へと成長した幼馴染から、放課後の美術室に呼ばれたら

たけむら
BL
美形で天才肌の幼馴染✕ちょっと鈍感な高校生 海野想は、保育園の頃からの幼馴染である、朝川唯斗と同じ高校に進学した。かつて天使のような可愛さを持っていた唯斗は、立派な美形へと変貌し、今は絵の勉強を進めている。 そんなある日、数学の補習を終えた想が唯斗を美術室へと迎えに行くと、唯斗はひどく驚いた顔をしていて…? ※1話から4話までは別タイトルでpixivに掲載しております。続きも書きたくなったので、ゆっくりではありますが更新していきますね。 ※第4話の冒頭が消えておりましたので直しました。

処理中です...