幼馴染のリスナーに媚びて人気者になりたい

久羽しん

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第3章

123 秋風って、なに《前編》

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「…………え?」
『それまでは、何度も断られていたんだけどね~。なおちゃんも一緒にということならと、OKしてくれたんだ。だから、しゅーちゃんの中でなおちゃんが大切な存在であるということは……確かなことなんだよ。昨日二人の間に何があったかは俺は分からないし、しゅーちゃんも言いたくなさそうだったから、俺が二人のいざこざに口を挟めるものじゃないんだと思うけれども……』
「…………」

 ど、どういうことなんだ。

 (……俺を入れることが条件……? 俺と一緒になら……?)

 なんで秋風がそんなこと、する必要があるんだ。

 そもそも、秋風が誘ってくれたから、俺がごちゃまぜに入れたというのは知っている。
 そうじゃないと、高校の趣味程度でやっていた無名配信者の俺が夕陽さんに認知されているはずがない。どうみたって、秋風が推薦している。

 ただ、俺のことを誘ってくれた理由はずっと分からなかった。

 単なる人数合わせなら、俺じゃなくたって、もっと適任がいるだろう。人脈の広い秋風なら、尚更だ。

 だから……俺を誘ってきてくれたのは、同情とか、気遣いとか、情けなんだろうなとぼんやり思っていた。
 高校から避けていた罪悪感もあったんだろうな……とか、一応幼馴染だから、見捨てられなかったんだろうな……とか。
 だって、あの頃の俺はピンチだったから。

 ブラック企業で精神がすり減って、潰れかけていたから──。

 (…………え?)

 いや……待て。

「……」

 秋風はそんなこと知らないはずだ。なのに、あまりにも丁度いいタイミングで助けてくれた。

 どうして、今まで全然疑問に思わなかったんだろう。

 秋風とはずっと連絡を取ってなかったし、俺が高校を卒業して働き出したことは知られていなかったはず。趣味で配信をやっていたことだって。


 何も知らないはずの秋風が……どうして俺のことをごちゃまぜに誘ったんだ…………?

 
「…………」
『……なおちゃん……?』

 通話越しの夕陽さんの声に俺はハッと我に返った。

「……!! っす、すみません……。ちょっと、混乱してて……。そ、そう……だった、んですね……?」
『……うん。ごめんね……。突然のことで、やっぱり驚くよね。二人の間で誤解やすれ違いがあったらいけないから、今話しておくべきだと思ったんだ』
「……は、はい…………」

 夕陽さんは意を決したように、真剣な声色で続けた。

『俺はなおちゃんのことを知らなくて、しゅーちゃんからの強い申し出でなおちゃんの加入を決めた。それは事実。……だけど、結成後から、なおちゃんがごちゃまぜの為にたくさん頑張ってくれているところを見て。なおちゃんが入ってくれて良かったなと俺は本気で思ったし、なおちゃんの存在にすごくすごく感謝してる。これも、絶対に事実なんだよ』

 夕陽さんは一呼吸おき、静かに真っ直ぐに言ってくれた。

『それを、知っておいて欲しい』

 俺は瞬きして、なんとか答えた。

「……──っ、……は、い……」

 はい、と言ったつもりだけど、声にならなかったかもしれない。

 夕陽さんは気を遣ってくれたのか、あははと笑い、話を変えてくれた。

『な、なんだか湿っぽい話をしちゃったね……! ごめんごめん。それじゃあ、しばらくごちゃまぜの活動はないわけだけど、また日を合わせて会おう! 何かあったら、なんでもお兄さんに相談してね~。あとなおちゃん、お財布をごちゃハウスに忘れちゃってたよ!! 私物ボックスに入れておいたから、早めに取った方がいいかも! まあ、メンバーには盗む人なんていないから大丈夫だけどね!』
「……!! わ、わかりましたっ」

 (まじか……!)

 財布を忘れてるだなんて気づいていなかった。

 そういえば、昨日ごちゃハウスでピザを取った時、お金を払おうとしてリュックから財布を取り出したんだっけ……。
 夕陽さんからこれはグループの収益から出すから大丈夫と言われて、そうなんだと思い引っ込めようとして……そのまま財布を、テーブルの上に置いてしまったかもしれない。
 
 (あ、アホすぎる……!)

 日用品や食材の買い出しがあるから、すぐにでも回収しないと。

「すみません。これから、取りに行きますっ……。夕陽さんは、まだごちゃハウスにいるんですか?」
『ううん! 俺は朝せいちゃんが帰るタイミングで一緒に出たから、もう自分ちで作業してるよ~。すれ違いで残念だね』
「そうなんですね……。……あ、あの、夕陽さん」
『? うん?』
「ありがとうございます……本当に……」
『……!!』

 財布のことだけじゃなくて、全部。

 伝わっただろうかと心配になったけど、『ふふ。こちらこそ』と言ってくれた夕陽さんには、伝わっているような気がした。

『それじゃあ、なおちゃん。またね~』
「はい。また」

 夕陽さんとの電話が切れる。俺はスマホを置き、ベッドに仰向けで大の字になった。

「……はぁ…………」

 ──『しゅーちゃんは、なおちゃんの加入を条件に、俺のグループ活動の誘いを受けることを決断してくれたんだ』

「…………」

 突然、驚きの事実を知ってしまった。いまだに、飲み込めていない。

 (……どうして……秋風は……)

 それまで断っていたということは、秋風は、グループ活動に本当は乗り気ではなかったということ。

 でも、俺を加入させるために、秋風もごちゃまぜに入った。

 つまり、全部が俺の為……。

 (なんで、そんな…………)

「……、まさか……」

 ──『好きって何かわかる? 恋愛感情だよ。同性だけど、波青のことが好きだよ。波青の言う、気持ち悪いというやつ』

 (あれは、本当に……??)

 報復では、ないんだろうか。

 アレが、本当に、秋風の本心だったんだろうか。

 俺のことを、れ……レンアイ的に、好きだから……秋風は俺をグループに誘った?

 (……はは……、っいやいやいやいや……!)

 違う。違うって。そんなわけない。

 我ながら、やばい。

 好きって、なんだ。恋愛感情って。

 俺に、人から好かれるところなんてないだろ。

 ましてや、秋風。

 誰でも選びたい放題のすごい奴なのに、あいつが俺のことなんかを好きになるはずがない。

 しかも、あいつは中学生の頃から彼女がいたし、高校の時も女遊びが激しかったって女子たちが噂してて、本人もそれを認めていた。

 秋風は、女の子が好きなはずだ。

 俺は体格は男らしくはないかもしれないけど、顔は全然女顔ではないし、どこからどう見ても女の子には見えない普通の男だ。

 さすがに……あり得なすぎる。

 しかも、俺には魅力がないから、これまで異性にも同性にも、誰一人として恋愛的に好かれたことがない。当たり前だ。
 もし俺が他人として生まれてきたとしても、水無瀬波青とだけは絶対付き合いたくない。どんな罰ゲームだよって話。

 だけど、かりんちゃんは……俺の配信を見てくれてて、『アオ』のファンだって言ってくれてた。

 ファンっていうのは、かなり見る目が甘くなっているというか、だいぶ優しく加点されている状況だ。

 だから、アオのファンのかりんちゃんなら、もしかしたら俺自身のことも好きになってくれるんじゃないかって、奇跡的なことが起こって、俺にも初めて恋人ができるんじゃないかって……そう思ったんだ。

 (でも……、秋風は……)

 秋風は違う。

 秋風は、アオのファンじゃない。ファンじゃないどころか、むしろ俺という人間の全てを子供の頃から知っている。失態も、情けないところも、呆れられるところも、俺がみんなから避けられているところも、秋風には散々見られている。

 逆に、かっこいい姿なんて何一つ見せられてやしない。
 つまり、俺が秋風に惚れられる要素なんて、何一つないのだ。

 俺みたいな、なんにもできない奴──……。

 ──『波青は波青のままでいてくれるだけで……それでいいんだよ』

「…………あ……」

 考えていた頭の中に、ダンスレッスンをした日の秋風の言葉が急に浮かんできた。

 ──『俺は波青が、人より優れてるからとか、得意なことがあるからとか……そういった理由で友達になったわけじゃない。俺だけじゃなくて……夕陽くんも、アオのファンも、みんながそうだと思う。みんな、波青の中の素敵なところを見つけて、好きになってるんだよ。それは、能力じゃない部分。だから、波青は波青のままでいていいんだよ』

「……」

 そうだ……。違う。

 秋風はこんな俺のままでも良いって言ってくれていた。

 あれは……本当なのか?

 それとも……嘘……?

 全部嘘って言っていたけど、いったいどこまでが嘘なんだ。

 秋風がなんにもできない俺のことを、人間として認めてくれていたのは、それは、本当だったんだろうか。

 ……本当だったとしたら、それが、秋風の言う『恋愛感情』だったということか……?

 (…………恋愛……?)

 そもそも……レンアイって……なんだろ。

 なに?

 友達の好きと、恋愛の好き。

 よく分からない。

 何が違うんだ。

 秋風が言っていたように、性行為をするか否か……?

 友達は、性行為をしない。恋愛は、性行為をする。

 秋風は俺と……そういうことがしたいのか?

 (…………おれ……俺と……???)

 こんな、冴えないちんちくりんの男と…………。

「…………ッッ」

 (……あ~~~~っ…………!)

 俺は目をぎゅっとつむってボサボサの髪の毛を両手でかきむしった。

 意味がわからない。やっぱり、やっぱり、絶対におかしい。

 想像もしたくない。

 アキとアオじゃなくて、俺と秋風が……。BL漫画やBL小説の中じゃなくって、リアルに?

 おかしい。そんなことって、普通じゃない。

「……っ」

 嫌だ。そんなこと、俺の中の秋風は絶対に考えない。
 みんなからモテモテで、女の子と付き合っていたし、絶対絶対絶対にありえない!!

「…………」

 (…………っだ、だけど……)

 俺はそうっと目を開けて、枕元に置いたスマホをチラ見した。

 ──『それまでは、何度も断られていたんだけどね~。なおちゃんも一緒にということならと、OKしてくれたんだ。だから、しゅーちゃんの中でなおちゃんが大切な存在であるということは……確かなことなんだよ』

「……」

 ……さっき夕陽さんに聞いた情報は、初耳だった。

 それと同じで、俺の知らない秋風が、もしかしたらまだまだいっぱいいるんだろうか。

 というか、俺が今まで秋風に勝手に、理想の友達像を押し付けていただけだったんだろうか……。

 (秋風……、……。秋風……。『秋風』って、なんだ…………?)

 もはや、分からなくなってしまった。

 秋風と俺は幼馴染で、小学生の時から話をして、ずっと見ていたはずなのに。それなのに。
 今は頭の中に浮かぶ秋風が、ぼやっと蜃気楼みたいにぼやけている。

 秋風という人間が何を考えているのか、俺にはちっとも分からない。
 何が嘘なのか、本当なのかも……。

「……っ…………」

 何もかもキャパオーバーすぎて、頭が破裂してしまいそうだった。
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