190 / 264
第3章
123 秋風って、なに《前編》
しおりを挟む「…………え?」
『それまでは、何度も断られていたんだけどね~。なおちゃんも一緒にということならと、OKしてくれたんだ。だから、しゅーちゃんの中でなおちゃんが大切な存在であるということは……確かなことなんだよ。昨日二人の間に何があったかは俺は分からないし、しゅーちゃんも言いたくなさそうだったから、俺が二人のいざこざに口を挟めるものじゃないんだと思うけれども……』
「…………」
ど、どういうことなんだ。
(……俺を入れることが条件……? 俺と一緒になら……?)
なんで秋風がそんなこと、する必要があるんだ。
そもそも、秋風が誘ってくれたから、俺がごちゃまぜに入れたというのは知っている。
そうじゃないと、高校の趣味程度でやっていた無名配信者の俺が夕陽さんに認知されているはずがない。どうみたって、秋風が推薦している。
ただ、俺のことを誘ってくれた理由はずっと分からなかった。
単なる人数合わせなら、俺じゃなくたって、もっと適任がいるだろう。人脈の広い秋風なら、尚更だ。
だから……俺を誘ってきてくれたのは、同情とか、気遣いとか、情けなんだろうなとぼんやり思っていた。
高校から避けていた罪悪感もあったんだろうな……とか、一応幼馴染だから、見捨てられなかったんだろうな……とか。
だって、あの頃の俺はピンチだったから。
ブラック企業で精神がすり減って、潰れかけていたから──。
(…………え?)
いや……待て。
「……」
秋風はそんなこと知らないはずだ。なのに、あまりにも丁度いいタイミングで助けてくれた。
どうして、今まで全然疑問に思わなかったんだろう。
秋風とはずっと連絡を取ってなかったし、俺が高校を卒業して働き出したことは知られていなかったはず。趣味で配信をやっていたことだって。
何も知らないはずの秋風が……どうして俺のことをごちゃまぜに誘ったんだ…………?
「…………」
『……なおちゃん……?』
通話越しの夕陽さんの声に俺はハッと我に返った。
「……!! っす、すみません……。ちょっと、混乱してて……。そ、そう……だった、んですね……?」
『……うん。ごめんね……。突然のことで、やっぱり驚くよね。二人の間で誤解やすれ違いがあったらいけないから、今話しておくべきだと思ったんだ』
「……は、はい…………」
夕陽さんは意を決したように、真剣な声色で続けた。
『俺はなおちゃんのことを知らなくて、しゅーちゃんからの強い申し出でなおちゃんの加入を決めた。それは事実。……だけど、結成後から、なおちゃんがごちゃまぜの為にたくさん頑張ってくれているところを見て。なおちゃんが入ってくれて良かったなと俺は本気で思ったし、なおちゃんの存在にすごくすごく感謝してる。これも、絶対に事実なんだよ』
夕陽さんは一呼吸おき、静かに真っ直ぐに言ってくれた。
『それを、知っておいて欲しい』
俺は瞬きして、なんとか答えた。
「……──っ、……は、い……」
はい、と言ったつもりだけど、声にならなかったかもしれない。
夕陽さんは気を遣ってくれたのか、あははと笑い、話を変えてくれた。
『な、なんだか湿っぽい話をしちゃったね……! ごめんごめん。それじゃあ、しばらくごちゃまぜの活動はないわけだけど、また日を合わせて会おう! 何かあったら、なんでもお兄さんに相談してね~。あとなおちゃん、お財布をごちゃハウスに忘れちゃってたよ!! 私物ボックスに入れておいたから、早めに取った方がいいかも! まあ、メンバーには盗む人なんていないから大丈夫だけどね!』
「……!! わ、わかりましたっ」
(まじか……!)
財布を忘れてるだなんて気づいていなかった。
そういえば、昨日ごちゃハウスでピザを取った時、お金を払おうとしてリュックから財布を取り出したんだっけ……。
夕陽さんからこれはグループの収益から出すから大丈夫と言われて、そうなんだと思い引っ込めようとして……そのまま財布を、テーブルの上に置いてしまったかもしれない。
(あ、アホすぎる……!)
日用品や食材の買い出しがあるから、すぐにでも回収しないと。
「すみません。これから、取りに行きますっ……。夕陽さんは、まだごちゃハウスにいるんですか?」
『ううん! 俺は朝せいちゃんが帰るタイミングで一緒に出たから、もう自分ちで作業してるよ~。すれ違いで残念だね』
「そうなんですね……。……あ、あの、夕陽さん」
『? うん?』
「ありがとうございます……本当に……」
『……!!』
財布のことだけじゃなくて、全部。
伝わっただろうかと心配になったけど、『ふふ。こちらこそ』と言ってくれた夕陽さんには、伝わっているような気がした。
『それじゃあ、なおちゃん。またね~』
「はい。また」
夕陽さんとの電話が切れる。俺はスマホを置き、ベッドに仰向けで大の字になった。
「……はぁ…………」
──『しゅーちゃんは、なおちゃんの加入を条件に、俺のグループ活動の誘いを受けることを決断してくれたんだ』
「…………」
突然、驚きの事実を知ってしまった。いまだに、飲み込めていない。
(……どうして……秋風は……)
それまで断っていたということは、秋風は、グループ活動に本当は乗り気ではなかったということ。
でも、俺を加入させるために、秋風もごちゃまぜに入った。
つまり、全部が俺の為……。
(なんで、そんな…………)
「……、まさか……」
──『好きって何かわかる? 恋愛感情だよ。同性だけど、波青のことが好きだよ。波青の言う、気持ち悪いというやつ』
(あれは、本当に……??)
報復では、ないんだろうか。
アレが、本当に、秋風の本心だったんだろうか。
俺のことを、れ……レンアイ的に、好きだから……秋風は俺をグループに誘った?
(……はは……、っいやいやいやいや……!)
違う。違うって。そんなわけない。
我ながら、やばい。
好きって、なんだ。恋愛感情って。
俺に、人から好かれるところなんてないだろ。
ましてや、秋風。
誰でも選びたい放題のすごい奴なのに、あいつが俺のことなんかを好きになるはずがない。
しかも、あいつは中学生の頃から彼女がいたし、高校の時も女遊びが激しかったって女子たちが噂してて、本人もそれを認めていた。
秋風は、女の子が好きなはずだ。
俺は体格は男らしくはないかもしれないけど、顔は全然女顔ではないし、どこからどう見ても女の子には見えない普通の男だ。
さすがに……あり得なすぎる。
しかも、俺には魅力がないから、これまで異性にも同性にも、誰一人として恋愛的に好かれたことがない。当たり前だ。
もし俺が他人として生まれてきたとしても、水無瀬波青とだけは絶対付き合いたくない。どんな罰ゲームだよって話。
だけど、かりんちゃんは……俺の配信を見てくれてて、『アオ』のファンだって言ってくれてた。
ファンっていうのは、かなり見る目が甘くなっているというか、だいぶ優しく加点されている状況だ。
だから、アオのファンのかりんちゃんなら、もしかしたら俺自身のことも好きになってくれるんじゃないかって、奇跡的なことが起こって、俺にも初めて恋人ができるんじゃないかって……そう思ったんだ。
(でも……、秋風は……)
秋風は違う。
秋風は、アオのファンじゃない。ファンじゃないどころか、むしろ俺という人間の全てを子供の頃から知っている。失態も、情けないところも、呆れられるところも、俺がみんなから避けられているところも、秋風には散々見られている。
逆に、かっこいい姿なんて何一つ見せられてやしない。
つまり、俺が秋風に惚れられる要素なんて、何一つないのだ。
俺みたいな、なんにもできない奴──……。
──『波青は波青のままでいてくれるだけで……それでいいんだよ』
「…………あ……」
考えていた頭の中に、ダンスレッスンをした日の秋風の言葉が急に浮かんできた。
──『俺は波青が、人より優れてるからとか、得意なことがあるからとか……そういった理由で友達になったわけじゃない。俺だけじゃなくて……夕陽くんも、アオのファンも、みんながそうだと思う。みんな、波青の中の素敵なところを見つけて、好きになってるんだよ。それは、能力じゃない部分。だから、波青は波青のままでいていいんだよ』
「……」
そうだ……。違う。
秋風はこんな俺のままでも良いって言ってくれていた。
あれは……本当なのか?
それとも……嘘……?
全部嘘って言っていたけど、いったいどこまでが嘘なんだ。
秋風がなんにもできない俺のことを、人間として認めてくれていたのは、それは、本当だったんだろうか。
……本当だったとしたら、それが、秋風の言う『恋愛感情』だったということか……?
(…………恋愛……?)
そもそも……レンアイって……なんだろ。
なに?
友達の好きと、恋愛の好き。
よく分からない。
何が違うんだ。
秋風が言っていたように、性行為をするか否か……?
友達は、性行為をしない。恋愛は、性行為をする。
秋風は俺と……そういうことがしたいのか?
(…………おれ……俺と……???)
こんな、冴えないちんちくりんの男と…………。
「…………ッッ」
(……あ~~~~っ…………!)
俺は目をぎゅっとつむってボサボサの髪の毛を両手でかきむしった。
意味がわからない。やっぱり、やっぱり、絶対におかしい。
想像もしたくない。
アキとアオじゃなくて、俺と秋風が……。BL漫画やBL小説の中じゃなくって、リアルに?
おかしい。そんなことって、普通じゃない。
「……っ」
嫌だ。そんなこと、俺の中の秋風は絶対に考えない。
みんなからモテモテで、女の子と付き合っていたし、絶対絶対絶対にありえない!!
「…………」
(…………っだ、だけど……)
俺はそうっと目を開けて、枕元に置いたスマホをチラ見した。
──『それまでは、何度も断られていたんだけどね~。なおちゃんも一緒にということならと、OKしてくれたんだ。だから、しゅーちゃんの中でなおちゃんが大切な存在であるということは……確かなことなんだよ』
「……」
……さっき夕陽さんに聞いた情報は、初耳だった。
それと同じで、俺の知らない秋風が、もしかしたらまだまだいっぱいいるんだろうか。
というか、俺が今まで秋風に勝手に、理想の友達像を押し付けていただけだったんだろうか……。
(秋風……、……。秋風……。『秋風』って、なんだ…………?)
もはや、分からなくなってしまった。
秋風と俺は幼馴染で、小学生の時から話をして、ずっと見ていたはずなのに。それなのに。
今は頭の中に浮かぶ秋風が、ぼやっと蜃気楼みたいにぼやけている。
秋風という人間が何を考えているのか、俺にはちっとも分からない。
何が嘘なのか、本当なのかも……。
「……っ…………」
何もかもキャパオーバーすぎて、頭が破裂してしまいそうだった。
162
あなたにおすすめの小説
伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい
マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。
最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡)
世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。
【完結】ネクラ実況者、人気配信者に狙われる
ちょんす
BL
自分の居場所がほしくて始めたゲーム実況。けれど、現実は甘くない。再生数は伸びず、コメントもほとんどつかない。いつしか実況は、夢を叶える手段ではなく、自分の無価値さを突きつける“鏡”のようになっていた。
そんなある日、届いた一通のDM。送信者の名前は、俺が心から尊敬している大人気実況者「桐山キリト」。まさかと思いながらも、なりすましだと決めつけて無視しようとした。……でも、その相手は、本物だった。
「一緒にコラボ配信、しない?」
顔も知らない。会ったこともない。でも、画面の向こうから届いた言葉が、少しずつ、俺の心を変えていく。
これは、ネクラ実況者と人気配信者の、すれ違いとまっすぐな好意が交差する、ネット発ラブストーリー。
※プロットや構成をAIに相談しながら制作しています。執筆・仕上げはすべて自分で行っています。
平凡な僕が優しい彼氏と別れる方法
あと
BL
「よし!別れよう!」
元遊び人の現爽やか風受けには激重執着男×ちょっとネガティブな鈍感天然アホの子
昔チャラかった癖に手を出してくれない攻めに憤った受けが、もしかしたら他に好きな人がいる!?と思い込み、別れようとする……?みたいな話です。
攻めの女性関係匂わせや攻めフェラがあり、苦手な人はブラウザバックで。
……これはメンヘラなのではないか?という説もあります。
pixivでも投稿しています。
攻め:九條隼人
受け:田辺光希
友人:石川優希
ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
また、内容もサイレント修正する時もあります。
定期的にタグ整理します。ご了承ください。
批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。
幼馴染がいじめるのは俺だ!
むすめっすめ
BL
幼馴染が俺の事いじめてたのは、好きな子いじめちゃうやつだと思ってたのに...
「好きな奴に言われたんだ...幼馴染いじめるのとかガキみてーだって...」
「はっ...ぁ??」
好きな奴って俺じゃないの___!?
ただのいじめっ子×勘違いいじめられっ子
ーーーーーー
主人公 いじめられっ子
小鳥遊洸人
タカナシ ヒロト
小学生の頃から幼馴染の神宮寺 千透星にいじめられている。
姉の助言(?)から千透星が自分のこといじめるのは小学生特有の“好きな子いじめちゃうヤツ“だと思い込むようになり、そんな千透星を、可愛いじゃん...?と思っていた。
高校で初めて千透星に好きな人が出来たことを知ったことから、
脳破壊。
千透星への恋心を自覚する。
幼馴染 いじめっ子
神宮寺 千透星
ジングウジ チトセ
小学生の頃から幼馴染の小鳥遊 洸人をいじめている。
美形であり、陰キャの洸人とは違い周りに人が集まりやすい。(洸人は千透星がわざと自分の周りに集まらないように牽制していると勘違いしている)
転校生の須藤千尋が初恋である
今日もBL営業カフェで働いています!?
卵丸
BL
ブラック企業の会社に嫌気がさして、退職した沢良宜 篤は給料が高い、男だけのカフェに面接を受けるが「腐男子ですか?」と聞かれて「腐男子ではない」と答えてしまい。改めて、説明文の「BLカフェ」と見てなかったので不採用と思っていたが次の日に採用通知が届き疑心暗鬼で初日バイトに向かうと、店長とBL営業をして腐女子のお客様を喜ばせて!?ノンケBL初心者のバイトと同性愛者の店長のノンケから始まるBLコメディ
※ 不定期更新です。
【8話完結】魔王討伐より、不機嫌なキミを宥める方が難易度「SSS」なんだが。
キノア9g
BL
世界を救った英雄の帰還先は、不機嫌な伴侶の待つ「絶対零度」の我が家でした。
あらすじ
「……帰りたい。今すぐ、愛する彼のもとへ!」
魔王軍の幹部を討伐し、王都の凱旋パレードで主役を務める聖騎士カイル。
民衆が英雄に熱狂する中、当の本人は生きた心地がしていなかった。
なぜなら、遠征の延長を愛する伴侶・エルヴィンに「事後報告」で済ませてしまったから……。
意を決して帰宅したカイルを迎えたのは、神々しいほどに美しいエルヴィンの、氷のように冷たい微笑。
機嫌を取ろうと必死に奔走するカイルだったが、良かれと思った行動はすべて裏目に出てしまい、家庭内での評価は下がる一方。
「人類最強の男に、家の中まで支配させてあげるもんですか」
毒舌、几帳面、そして誰よりも不器用な愛情。
最強の聖騎士といえど、愛する人の心の機微という名の迷宮には、聖剣一本では太刀打ちできない。
これは、魔王討伐より遥かに困難な「伴侶の機嫌取り」という最高難易度クエストに挑む、一途な騎士の愛と受難の記録。
全8話。
天使から美形へと成長した幼馴染から、放課後の美術室に呼ばれたら
たけむら
BL
美形で天才肌の幼馴染✕ちょっと鈍感な高校生
海野想は、保育園の頃からの幼馴染である、朝川唯斗と同じ高校に進学した。かつて天使のような可愛さを持っていた唯斗は、立派な美形へと変貌し、今は絵の勉強を進めている。
そんなある日、数学の補習を終えた想が唯斗を美術室へと迎えに行くと、唯斗はひどく驚いた顔をしていて…?
※1話から4話までは別タイトルでpixivに掲載しております。続きも書きたくなったので、ゆっくりではありますが更新していきますね。
※第4話の冒頭が消えておりましたので直しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる