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第3章
124 嫌いの種類《後編》
しおりを挟む「そうやって、アオくんの卑屈さは、周りに気を遣わせまくってんの。良い大人のくせに、周りにご機嫌を取ってもらってる。でもアンタは、それに全く気づいちゃいない」
「……!!!」
こんなにハッキリと指摘されたのは、ごちゃまぜの活動を開始してから初めてだった。
俺は目を見開き、ただただ珀斗の顔を見返していた。
「……こういうこと言うと、アンタをいじめるなとかなんだって二匹の過保護がまたうぜーもんだから、今まで無視してたけど。良い加減、見てらんねーし。ここまできたらもう良い」
「……」
今まで、相当我慢していたらしい。
「……ッ」
思いもよらないことを一気に珀斗にぶっちゃけられて、思わず涙が出てきそうになってしまった。
でも、着ているTシャツで目を拭って、どうにか抑えた。
俺が悪いのに……ここで泣くのは、絶対。絶対に違う。
「……ごめん……」
「は?」
「いつも、ハクとか、みんなのこと嫌な目で見てたの、ごめん。俺だけダメだから、悔しくって、拗ねて……っみんなは何もしてないのに、悪くないのに。無意識に心の中で八つ当たりしてた、俺……」
「……」
「初めて会った時、ハクに酷いこと言ったのも……ごめんなさい。しかもそれを、忘れてて……本当にごめん」
「……、いや、こっちも散々好き勝手言ってるし。そこらへんはお互い様……つーか、それやめろ」
謝りながら頭を深々下げていたら、珀斗に肩を掴んで止められてしまった。
「アンタに頭下げさせたって知れたら、俺がアキくんにブチギレられんじゃん」
「……」
俺は渋々頭を下げるのをやめ、視線を落とした。
「ぶ、ブチギレるって……。……。ハクは……秋風のことを、いっぱい知ってるんだな……?」
「……別に、そんなことないけど。あの人いちいち過保護だから、めんどいだけ」
「……俺は秋風のこと、全然知らなかった……」
「捻じ曲げてるからじゃね。アンタが相手に言われたことを、そのまんま受け取ってやらないから」
「…………」
俺がこくりと頷くと、珀斗は疲れたようなため息を吐いた。
ようやく分かったのかという感じだろうか。
「……」
秋風のことを色々知っているらしい珀斗に、俺は気になっていたことを聞いてみることにした。
「……夕陽さんが言ってたんだけど……ハク、秋風に脅されたって、ほんとか?」
そんなわけないと思っていた。
でも、珀斗が秋風にブチギレられるのを嫌がるということは、本当にあったことなのかもしれない。
「……なにそれ。いつのこと言ってんの?」
(い、いつのことって……。そんなに何回も脅されてんのか……!??)
「っ一年目の時……。秋風がハクに『ごちゃまぜ辞めろ』って言ったって。そ、そんなわけないと思ったけど……」
「……あぁ。それね」
なんでもないことのように肯定されてしまった。まじなのか……?
「まあ、遠回しではあったけどな。『そんなにメンバーが気に入らないんなら早く辞めたら?』って言われて、いや俺が抜けたら困るのはそっちだろって返したらアキくんが『お前なんていなくても成り立つよ。もしかして自分が偉いとでも思ってるの?』ってニコニコしながら詰めてきて。『お前がいなくても成り立つ』……とか他人に断言されたの、生まれて初めてなもんで。正直痺れたわ。アレは」
(……!!?? えええぇ…………)
「でも、こっちもあの人がいずれ抜けようとしてるのは気づいてたからな。『俺が抜けてアンタも抜けたらごちゃまぜは三人になる。そんな状態でアオくんの為の箱庭継続できねーだろ』って、逆に脅してやったわけ」
「は……」
「誰か適当な奴を新しく補充するっていうのもできるけどさぁ、ユウさんくらいのお人好しじゃなきゃ、アオくんのノンデリさには誰だって音をあげるっしょ。あの人レベルのお人好しなんていくら探したっていねーから、俺の代わりに新メンバー補充は現実的じゃないってアキくんも思ったんだろうな」
「……」
「だから、俺を辞めさせるの自体は諦めて、チクチクしてくるようになったな。アンタの前では誰だよってくらい可愛いこぶっててウケるけど、あの人の正体は、相当ねちっこいよ。アオくんはあの人に清廉潔白を求めてそうだし、ガッカリかもね~~。あーあ」
そう言って皮肉げに嗤った珀斗が、すっと立ち上がった。
もうこれ以上俺に話すことはないということだろう。
「!! 待っ──!」
「……なんだよ」
俺は思わず、その足を掴んでしまった。
でも、なんで掴んだのか自分でも分からない。
まだ珀斗に……教えて欲しいことでもあるのだろうか。俺は……。
「離せよ、うぜーな」
「……っ」
見限られる前に早く言わなきゃと必死に頭を動かした結果、出てきたのはアホみたいな言葉だった。
「お、おれは……どうしたら…………!?!」
「…………はぁ?」
珀斗は苦虫を噛み潰したような顔をし、俺の手を振り払った。
「ざけんな、知らねーよ。そんなんは自分で考えろ」
「っ……! そ、そうなんだけど……! でも俺、自分で考えてると、っまた変な方向に行きそうな気が…………」
「…………」
珀斗はため息をつき、「……確かに。猪突猛進って気がするわ、アンタ。悪い意味で……」と謎のことを言ってきた。
「……本当にどうしたら良いかわからない?」
珀斗が再び、目の前にしゃがんできた。
俺はホッとし、急いで正座になって頼んだ。
「は、ハクの言ったことは! 合ってる……。俺、良くない考えいっぱいしてた。し、秋風のことも、全然、分かってなくて……。だから、ハクの率直な意見を聞けて、ありがたい……それに、お前の言葉は全然俺に配慮がなくて、年下なのに上から目線でやばくて、逆に……なんかその、逆に……? 一周回って、信頼できる?? よ、ような……そんな気が…………」
「巧妙に貶してんね」
「!! え!? ご、ごめん……! ちがう! 悪い意味じゃない! そうじゃなくて、えっと……!」
「そういうとこがノンデリだって言ってんだけど」
「~~っ……ううっ……。俺、ずっと……こんなんで生きてきたから。突然、今になって、お前の考え方は変だって言われても、今更、どうやって変えたらいいか……。ど、どうしよう…………?」
「本当に頭が悪いんだな」
ぐさっっっっ。
「……っ」
「……んじゃあ、方向を間違えないようにだけ」
言葉の刃でえぐられた胸を押さえていたら、珀斗が諦めたような声で呟いた。
「……!! た、頼んだ……!」
「……、そうだな……アオくんは、いったん、自分じゃなくて相手目線に立って考えてみれば?」
「? あいて目線……?」
「アンタは、どこまでも自分自分だろ? 自分の価値観を相手に押し付けるし、自分の目線で見たことしか考えられない。……良くも悪くも。だからいつも、無意識に人を傷つけてる」
「…………う……。たしかに……」
「……みんな、アンタと出会う前にそれぞれの人生があって、それぞれの思考がある。全部が全部アンタの理解できる範疇にあるわけじゃない。相手のことをなんも知らないくせに、勝手に想像して、勝手な価値観を押し付けんのをとりあえずやめろ。んで、妬むのもやめろ」
「……!! はっはい」
そういうことか。
俺から見たその人……じゃなくて。価値観の押し付けじゃなくて。
『その人そのもの』を、考えるようにしたら良いんだ。
俺は今まで、それができてなかったんだ……。
自分にとって見たいものしか、見ていなかった。ずっと。
(…………そうか……)
突然目の前が開けたような気がして、俺は口を半開きにさせたままゆっくりと瞬きをした。
「……アホ面」
「っ……」
ぱちんと、珀斗の指におでこを弾かれてしまった。
痛い。
でも、おかげで目は覚めた。
「んじゃ。その小さい脳みそでどうしたら良いか考えろよ。このままだと、アキくんがマジで不憫なんで。まー、あの人もあの人だけどな……」
そう言った珀斗は、今度こそ立ち上がりPCの前に戻って行った。
雑に腰掛け、キーボードを打ち始めている。
「……」
(……編集画面……?)
チラ見したら、どうやら動画の編集をしているようだ。
なるほど。珀斗も活動休止と知って急いでストックを作りにきていたのか。
いつもサボっているくせに、やる時はやるようだ。
しかも、かったるそうにしている割に、マウスを動かすたびサクサクと作業が終わっていっているし……。
(うわ、こいつ、俺の三倍は早いんじゃないか……?)
さすが天才だ。
(……俺は、必死に勉強してコマンド覚えて、やっとちょっとだけできるようになってきたレベルなのに……、……)
「…………」
一瞬また妬みそうになってしまって、俺はぶんぶんと首を横に振った。
だ、ダメだ。もう、人を妬まないって決めた。
変わらないと。
自分目線で考える思考パターンは、もう止めるんだ。
「……」
羨ましがることより。今は、考えよう。秋風のことを……。
(……しゅうかは……)
俺は床に仰向けに寝転がって、目を閉じた。
秋風は……どんな気持ちだったんだろうか?
『俺がこうであって欲しい秋風』じゃなくて、秋風本人のことを、想像してみる。
「…………」
(本当のあいつは。えっと……俺を、好きで……、)
「…………っ」
ああ、ダメだ。
考えようとしても、脳が現実を拒絶してくる。
やっぱりそんなわけないだろって。
受け入れ難いことを考えるのは、こんなにも苦しい行為だったのか。
(秋風が、俺を、好き……?)
そんなわけあるか。おかしい……。
「……いや。ここで考えんの?? 帰れよ、アオくん」
「…………」
でも──秋風や夕陽さんや珀斗が言ったことを全部重ね合わせたら、どうやら『好き』というのは事実らしい。
(秋風が、ごちゃまぜに俺を誘ってくれたのも……)
俺が入らないと自分も入らないというふうに夕陽さんに交渉したらしいのも。
秋風が俺を、……す……好き…………? ……と、考えれば……納得は……い、……いく。……けれども………………。
「…………」
「おい。帰れって」
「…………」
(いやいやいや! っでも……なんで……??)
なんで、好き……なんだ。あいつが、ただの友達の俺を。
理由はぜんぜん分からない。
珀斗が言ったように、秋風が物好きで、他の人と違う変わった趣味というだけなのかも……。
「帰れ」
「……」
「……はぁ。聞こえてねーし。ほんっと、なんなんだこいつ…………」
「…………」
なんでか……分からない。
分からないから、ひとまず理由は置いておくとして。
本当に秋風が俺のこと、好き……、…………。
いや、うん……、……いや、そうだとするなら! 本当にそうなら、じゃあそれは、『いつから』、なんだろう?
──『本当は、友達だなんて思ってないよ。親友なんて、もってのほか。子供の頃から俺は、波青のことが好きなんだから』
(……あの時、言っていたことが本当なら。子供の頃から……?)
でも、全然、そんなふうには見えなかった。
そんな気配、なかった。
秋風は中学生の時、俺のこと、親友だって言ってくれたし。
──『クラスメイトとか、友達じゃないよ。俺は波青のこと親友と思ってる。自分から写真を撮ろうって言ったのも、波青にだけだし』
あれは、嘘には……見えなかった。
──『波青が好きだった蓮見秋風を残してあげたくて、偽ろうと思ったんだけど、どうにも上手くいかないや』
「…………」
もしかして。
俺があいつに求めているのは、友達としての秋風だから、それを作ってくれていたということだろうか。
本当は昨日みたいなことを俺にしたかったのに、ずっと隠してくれていたということだろうか。
(じゃあ……こないだ、一緒に遊んだ時も……)
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