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第1章 禁断の魔道士
魔道竜(第1章、22)
しおりを挟むベットにもぐりこむとなんだか肩の力が自然とぬけていく。
小波(さざなみ)の音をききながら、ただひたすらに体を休める。
『体を休めるときに休めないのは命取りにつながる。どんなピンチの時も冷静な判断こそ困難な状況も打破するための底力が発揮される』
虚海へ旅だった歴代の冒険者たちはそう冒険書に書きしるした。
ティアヌはそれにならい、雑念をすてひたすら小波の音をききつづけた。
………泣き声?
いつしか深い眠りにおちたティアヌは、しだいにその眠りも浅くなり、悲しげに泣く……そんな幻聴を耳にした気がした。
誰ともしれぬ名を切なくも儚く、狂おしいまでに叫びつづける。
それを聞いているだけでなぜこんなにも胸が苦しくなるのか、その小さな痛みにたえかね布団をけりあげた。
「鳥……?」
その泣き声の正体はウミネコだった。
その昔、子供を海で亡くした母親がカモメとなり子供の魂をさがすために鳥に化身したとか。猫のような鳴き声で子供の名をよびつづけたという伝説から、カモメのことをウミネコと呼ぶようになった、と伝えられている。
船室の小さな窓から海をながめる。
「……そうか……旅にでたんだ……」
いつ眠りについたのか、わからないほど昨夜はなかなか寝付けなかった。慣れない船室での睡眠からかそこはかとなくぐっすりと休めたかんがしない。
のろのろと小さなベットから起きあがる。
「…………いい香り」
船室の扉のむこうは早くも朝特有の騒々しさとたくさんの人の気配がして、胃袋を刺激するパンの焼ける芳醇な香りからして朝食の準備は万端のようだ。
ティアヌは夕食係なので朝はゆっくりと起きられるところが何よりもうれしい。
「あら」
忘れられたパジャマはサイドテーブルの上におきっぱなしに。
昨夜はお風呂を早めに入ったためパジャマに袖をとおすこともないまま、そしてあの騒ぎだ。
ま、いっか。洗濯の手間をはぶき、なおかつすぐに身支度もととのえられた。これぞ一石二鳥!
ズボラということなかれ、これも船上ならではの知恵袋。見果てぬ海に海水はあれど淡水は金銀より貴重なのだ。
海水で洗濯をすると天然のノリがききすぎてゴワゴワにしあがり、着心地は最悪。
節約、節約。
どうやら今日の海は波もおだやか、天候も申し分ない。
「今日の航海は無事に……」
ふと、セルティガの陰険きわまりない顔が脳裏をよこぎる。
「………。またあの毒舌のあいて?」
嫌だ。言う方はどうか知らないが、きくがわにとってかなりの苦痛。言葉という暴力にずっとさらされつづけるなど想像しただけでぞっとする。
だがそれを笑って聞き流せないまでも、右から左に流せるほどの大器をみにつけなければ。
虚海へはまだまだ遠い。
仲間を大事にできない船員は海の上ではつま弾き。実の家族にひとしい絆がもとめられる。
皆が一丸となって助け合わねば、ひとりの力だけでは生き抜くことなどとうてい不可能。
いや、船長たるもの、船員は吾子も同然。
おっさんばかりだが。
「…………」
ティアヌは両頬をたたく。
「よし! 行くか、あの猛者(もさ)たちのもとへ」
立ち上がり、漆黒のマントを羽織った。
すると扉のむこうに人の気配が。
まさか……のぞき!?
「船長ーッ! 甲板にお願いします」
そんなわけないか。
「オッケー、すぐ行くわ」
ダークな気持ちをきりかえ、船室をあとにした。
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