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第1章 禁断の魔道士
魔道竜(第1章、39)
しおりを挟む「何度いえばわかるの! 苦学生と呼ばないで」
「…んなことより、本当にデスマウンテンの地下に洞窟なんてあるのか? まさか踊らされてないか? 冒険の書っていったって、いつ書かれ誰がそれを書いたのかわかったもんじゃない」
「たしかに根拠もないし今となっては裏付ける証拠もない。でもあながちそうばかにしたもんじゃないわ。先人の知識や言い伝えってまれに根拠の上に裏付けされたこともあるもの」
「そうは言うが……お前は信じているのか?」
「当たり前じゃない。信じてなきゃこんなバカなことできないわよ」
冒険書の原本(オリジナル)は聖書が記されはじめた時期と同年代と考えてまず間違いない。
聖書の初期のものと冒険書の内容がかさなる文献らしきものが発見され、聖書と冒険書の信憑性が立証される形となったからだ。
少なくとも聖書が書かれたのは今よりさかのぼること数千年前、紀元前ということになる。
神々の時代を創世期とするのが一般的な解釈である。
その創世期の記憶をできるだけ正確にとどめておくことが可能なそんな時代に書かれたはずだ。
原本は精霊語で書かれ、その翻訳にたずさわった著者は実のところ一人ではないのだ。
幾多の時代の何人もの学者がてがけ、ようやく完成された。
起源をしることは人類の悲願でもある。その悲願を達成することで人は歴史を手にすることができる。ゆえに聖書と冒険書の翻訳は急務だった。
そこにあらゆる学者の見解などいっさいの介入せぬよう、いかに忠実に翻訳できるかに心血をそそいだとか。
そんな書物がペテンを語るなどありえない。真実は小説よりも奇なりだ。
そう考えると真実は冒険書に記され聖書には記されなかった……またその逆もしかり。
どちらかに何かしらのヒントが隠されている可能性は否定できない。
それに神の島に誰も行き着くことができなかったとは考えようによってはとても不自然きわまりない。
誰かが意図してそれらの事実を抹消し明るみにしなかった、そう考えるべきだ。
大昔、夢をいだいて旅だった冒険者たちはどんな思いでラグーンを目指したのだろう。行き着けたとしても二度と故郷に錦をかざることができないとされる時の神殿を夢みて。
「な…俺って実は、神の島をめざす冒険に旅だつのはこれで二度目だ」
「は?」
「でもこれほど確信にせまった冒険ではなかった。金持ちの道楽っていうか…ヒマつぶしみたいな感じでな。どうせ今回の出資者もそんなもんだろう?」
「……さぁ?」
「さぁ!?」
「どうなんだろう……私もその辺の詳しいことはよく知らないから」
「は? まさかお前、出資者がどんなヤツかろくに調べもせずに引き受けたんじゃないだろうな?」
「ご名答!」
にっこりとティアヌはほほ笑んでみた。
すると、一ついっておく、と前おいたセルティガはあらたまった面持ちで
「その笑い方…可愛く笑ってるつもりかもしれんが、ちっとも可愛くないぞ……キモい?」
グサッ!
「ハ、ハハハ………」
まったくもって有り難くもない助言がはいったところでティアヌは冷笑にかわった。
「余計なお世話をどうもありがとぉ!」
鉄拳つきの返礼は見事セルティガのミゾオチをついた。
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