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第2章 精霊条約書
魔道竜(第2、10)
しおりを挟む「セルティガ、悪いけど…ちょっと松明を持っていてくれる?」
「ぉ?おぅ、いいぞ」
ティアヌは懐から愛読書をとりだす。
セルティガは松明を近付け、そのタイトルを読みあげた。
「冒険書?」
「そうよ、何か問題でも?」
「いや、ない」
付箋のつけられたページをひろげ、洞窟の深部を見つめる。
「そろそろ第一関門のようね」
「第一関門?」
「魔法が使えない地点みたい」
吹き出しのように小さく線で囲まれた地図によれば、妙な×印しが数ヵ所、要所にみられる。
説明書きによると、点在する×印しは、瞳をかたくとじた精霊の像をあらわすものらしい。
魔法をつかってはならないこの地点で、禁をおかしたものは跡形もなく消え去るのみ、とある。
その場所は、溶岩の通り道にあり、どうやら溶岩の真上に釣り橋をわたされただけの危険な所らしい。
「火の眷属バルバダイの僕の像、としか書かれていないけど、魔法を使うと釣り橋は焼け落ちてしまう仕組みらしいわ。他にどんなトラップが仕掛けられているかわからないわ。
ここから先、自力よ自力。私の魔法をあてにしないでね」
するとセルティガは、天下でもとったかのように背中をのけぞらせる。
「はは~ん! それで俺をご指名ってわけか?なるほど」
「それはどうかしら?」
「魔法を使えない、ってことは…俺の剣が役にたつ、だろ?」
「たてば、いいけどね」
「素直じゃないな」
ボソっとこぼした、゛可愛げがない゛発言は、甚(はなは)だもって遺憾なれど、あえて聞かなかったことにする。
「行きましょう」
「ぉ、ぉぅ」
喋る、それだけでも負担になりつつある。
無駄話しをするより、体力温存。
ある意味、相手に対して言葉で言葉をかえさない…という行為は、無視をするよりヒドい仕打ちなのかもしれない。
哀れなり、セルティガ。回復するまでしばし待て。
しばらく道なき道をすすみ、やがてひらけた場所にでくわした。
「ここのようね」
その赤々とした燃えさかる明るさに目がくらみ、慣れるまで二人はたちつくす。
状況確認のため、ティアヌはゆっくりと辺りにめをこらした。
「う、嘘でしょ?」
誰か嘘だと言って!
セルティガに期待をこめるが、セルティガとて同様の感想をいだいたようだ。
「これが第一関門?」
そう告げてから、長いこと沈黙がおちた。
いや、言葉に出来なかった、そう表現したほうが適切なのかもしれない。
「……ぁ……」
やっとのことで絞り出した言葉は、喉もとでからまわる。
それにしても、そこに存在していられることじたいが不思議な釣り橋。よく燃えつきないものだと思わず感心してしまう。
二本のロープははるかむこう、崖のふちまでわたされているだけ。貧弱きわまりない。
見れば木製の板がはりめぐらされてはいるものの、穴がぽっかりと口をあけた個所も。
「なぁ」
「あのね~、長年つれそった夫婦じゃあるまいし。なぁって何よ」
「ずっと不思議だったことがある」
「何かしら、拝聴しましょう…なんなりと、どうぞ?」
「どうやってこんな所から、一人だけ無事に脱出できるんだ?」
「何よ、藪から棒に」
「魔道士でもなく、凄腕の剣客ってわけでもない。おまけに魔族がひょっこりあらわれたりもする。なのに、ただの女ひとりきり、逃げ延びる? ありえん。誰かの手引きがなきゃ、いくら俺でもここから脱出するとなるとかなり厳しい」
だってよくよく考えてみろ、と付け加え、
「真っ先にニエにされこそすれ、それを助かるなんておかしいぞ。しかも今も健在で」
「…………」
それまで沈黙をまもっていたティアヌは、微笑をこぼした。
目のつけどころは、そう悪くない。
「その通りよ、って言ったら満足?」
「ちょっと待て。まさか、お前…はなっから承知の上で?」
「確率の問題だった。確信にいたったのは、トカゲ石のあたりかしら」
「!?」
そんなに前からわかっていて、なぜ言わなかった、そうセルティガの瞳が告げている。
「知りたかった?」
セルティガは嘆息を一つもらす。気持ちを落ち着かせ、ティアヌをみすえる目差しには怒りなどの感情はうかがえない。
そこは流石、魔剣士、評価するにたる。
「お前の推理のほどを聞かせろよ。少なくとも巻き込まれたからには、俺にもそれを聞く権利はあると思うぞ」
「正論ね。いいわよ、ここまでの私なりの賢才てきな推理を、お聞かせしましょうか」
ちょうどここらで休みが欲しかった所だ。
あの、釣り橋を渡りきる心の準備が整うまで。
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