魔道竜 ーマドウドラゴンー

冰響カイチ

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第2章 精霊条約書

魔道竜(第2章、12)

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少女が次々に姿をけしていく。



人さらいの魔の手をおそれ、少女を二年も外出させていないとか。



少女をもつ親は邪蛇を祠りあげ、娘を守ろうと学校にもかよわせなくなり、家にひきこもらせているという。



切実な事情をデスマウンテンへとむかう道々、熱く語ってくれる街の人と話しをすることができた。



『ちょっと、そこの道を行く可愛いお嬢さん。特製コロッケはどうだい?』



特売と書かれたのぼり旗の真下から、突然声がかかった。



のぼり旗から顔をのぞかせたそのおじさんは、豚の鼻マークを胸ポケットに縫い付けた白衣を着ていた。



『あら……私のことかしら?』



気をよくしたティアヌの横で、フンっ……と鼻でコバカにするセルティガの一笑がもれる。



『何か言いたげね』



『別に~』



セルティガは腕組みをしてティアヌの横にならぶ。



すると目ざとく、セルティガにも声がかかった。



『そこの見栄えのいい彼も、お一つどうだい?』



セルティガはそれとわかるまでに上機嫌に。不自然にアゴを撫でつけポーズをとる。



あんたはモデルか!?と、突っ込みをいれたいところではあるが、藪をつついて蛇を出すまでもない。


ゆえに沈黙をもって是非を問う。



『何をいまさら、言わずと知れた当たり前のことを。だが一つもらおう』



この男は当たり前と自らをのたまう。



己を知れ、セルティガ。見栄えがいいだけじゃ生きていけない。



ティアヌは心の葛藤をふりはらい、諦めた風に嘆息を一つもらす。



『私も一つもらうわ』



毎度あり!そう景気よく一声をあげた小さな肉屋の店主は、ふとティアヌとセルティガのイデダチを見やり、



『旅の人かい?』と気さくに問う。



『そうよ、カーニバルをみにきたの』



当たり障りのない答えをかえした。



『そりゃ…デートにはむかなかったんじゃないのかい?    隣りに彼女がいることも忘れ、彼も目移りするってもんだ』



ケラケラと下世話に嗤う。



『デ…デート?』


目を丸くしたティアヌの背後で、セルティガは店主につられるようにしてフッフフと笑む。



『おやじさん、よくわかっているな』



『これでも昔はモテた口でね。危うく踊り子ばかりみていると、彼女がやきもきして、どこを見ているのか、つぶさにチェックがはいる、だろう?』



『違いない』



なぜそこで会話がはずむ?


モテ自慢?


あんたはあんたで否定しなさいよ。



『よそは知らないが、こんな天国のような祭りは他にないだろう?』


うんうんとアカベコのようにひたすら頷くセルティガ。激しい賛同の意思がうかがえる。


『…………』


それを冷ややかに見つめるティアヌ。



『泊まるところはあるのかい?   飛び込みだと今からじゃカップル用の部屋を確保するのは難しいだろうね』


『カ、カップル用の部屋!?  コイツと俺が!?』


セルティガは目をむいた。


このままだと店主の誤解は解けるどころかエスカレートしていく。仕方なし、ティアヌはこの島に立ち寄った趣旨だけを伝えることにした。


『そんなんじゃないのよ。実は私たち、旅をしているのよ』



旅の目的をざっと話してみると、肉屋の店主は沈痛な面持ちで語りはじめた。



『そうかい。じゃあ驚いたろ。この島がこんな有り様で』


『ぇぇ』


『祭り自体は賑やかで船乗りたちにも好評で、たくさんの金を落としてくれてっていいんだがね。だが如何せん祭りの主神があれだろ?』


『確かに。あれはいただけないわ。船乗りならともかく、まっとうな人間なら寄り付こうともしないでしょうね』


『そ、そこなんだよ!  祭りが終わればこの島は閑古鳥さ。いくら島の知名度があがっても、旅行者の足が遠のいたんじゃね。しかも追いうちをかけるように変な噂もひろがって……』


ふぅと店主は息を吐いた。


『ね、その噂って?』


すると店主が、ちょいちょいと手招きする。


ティアヌは店主のそばによって耳を傾ける。


『ここだけの話し、呪いだよ、邪蛇のね。あの呪いから娘たちを守るには、他の誰かを身代わりとしてニエに捧げなくてはならないっていう。頭の痛いかぎりさ』


『へぇ……』


『けど、火の気のないところに煙はたたない、とはいうが、これはただの噂じゃない。出るんだよ、邪蛇の使いが』


『!?』


『年頃の娘がいる家にある日、その使いが現れる。もう正気の沙汰じゃない。この島は猟奇を逸している』



『そうね。だいたい想像がつくわ。けど、何とかしようとか考えなかったわけ?』


すると店主はゆっくりと首を振り、したさ、と声を絞り出す。


『皮肉に思うかい?   自分の娘を守るために、他の誰かの娘を差し出して。こんなことがもう半年も続いている』



ティアヌの推理どおり、やはりニエにするために娘たちがさらわれていたわけだ。

店主の口ぶりから、ニエを回避するためには、よその娘をさらってさしだす、の連鎖の繰り返しだったと思われる。

だが、これだけの惨事が続いているのにもかかわらず島民どうしで争いに発展しないのは、閉鎖的な島ならではの、臭いものには蓋をしろ、精神だろう。

理由が理由なだけに、なんだかやるせない。もっと他に有効な手だてもあったはずなのに。



『もう他に方法がないんだよ、最後の一人をニエに捧げるまで、邪蛇は腹の虫がおさまらないって言うんだから』


腹の虫?

普通に考えれば、それは誰かに対して怒りをあらわにしている場合につかわれる。

邪蛇がニエを要求するのは、実は誰かに対しての怒りから?

なきにしもあらずだが。

お腹がすいて?   なんてことはないだろうから、この場合前者の可能性が濃厚だ。


『何か力になれる?』


『いや、ただの通りすがりの旅の人には』


はは、とから笑う。


この魔道士そのものな装いも店主の目からすれば、祭りを楽しむ仮装に見えるのだろうか。

無知は怖い。

ま、島には魔道士はいないらしいから、島を離れたことのない島民からすれば無理もない。


『おや?』


すると肉屋の店主は何か思い付いたかのように、声をふるわせながら二人を見つめる。



『 たしかその船から下船したのは、三人じゃなかったかい?』



ぇ? よく知っているな……と訝しげながらも、



『そうよ?』



と告げると、



『そうかい』



うれしそうにほそく笑んだ。









チチッと火の粉をあげる松明は大量の湿気をまきこみながら大きくおどる。


「どうした?」


「ぅぅん、何でも」


セルティガにやんわりと首ふる。


ということは最後のニエを調達しようとして、そこで偶然あばら屋にいあわせたセイラに目をつけた?



後腐れのない旅人なら、忽然と姿を消しても知らぬ存ぜぬを押し通せばとくに差し支えない、そう考えたのかもしれない。



旅の途中で行方をくらますなんてことは日常茶飯事、よくあることだ。なんら珍しいことではない。


前払いの手付金を目当てに、そのご逃亡というまことにけしからんヤカラもいる。


「…………」



しかしセイラも魔道を志し、腕にみがきをかけた一流の精霊召喚術士。



案ずるよりも生むが易し。うまく逃げおおせたのかもしれない。



セイラとあばら屋の女主人の無事を祈りつつ、ティアヌとセルティガは火の川の釣り橋へコマをすすめた。


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