魔道竜 ーマドウドラゴンー

冰響カイチ

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第3章 精霊王

魔道竜(第3章、18)

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風もなく逃げ延びるための陸地ですらもない。

船底から不安がこみあげる。

「!!」

船底には巨大生物マグマドンが好機を狙っていつ襲おうかとてぐすねをひいて待ち構えている。

見渡すかぎり三百六十度、海原を漆黒に埋めつくした黒い影。

背鰭が一つ二つと海面に上昇し、ついには海原をおおいつくす黒緑の禍々しい魚体をあらわにし、海面が見えなくなった。

「ヒィィィィ…………!!」

侵入者の排除にマグマドンが一斉攻撃を仕掛けようと雲霞のごとき大群をさしむけてきた。

「…………」

もう誰一人として言葉を発しようとはせず、櫂をこぐ手も止まっていた。

いや、こう取り囲まれてしまっては進みようがない、と言ったほうが適切だろう。

船員たちのいずれか、ゴクリと固唾をのむ音がやけに響く。それが開戦の合図となった。



ウギャオォォォォォーーーーッ



マグマドンの矢叫びが天地に轟く。

「…………」

誰もが船に襲いかかってくるものだと双眸を固く閉じた。

死の瞬間を脳裏に描き、マグマドンに五体を食いちぎられる苦痛と断末魔の叫びまでよぎった。

しかし船に襲いかかってくるでなし。

「?」

そろりと眸をひらく。

何故マグマドンは襲ってこないのか?

船員たちは恐怖で顔を歪めながら、隙間から、そろりそろりと覗き込む。

「!!」

船底を見下げた次の瞬間、海面すれすれの位置にある巨大な白地に黒い玉のあるものと目があった。

ヒィィィィと息をのむ。

ギョロ、その音に反応した巨大な生物は巨体を活発に動かした。

「!?」

右往左往と振り子のようにもてあそばれる船体。必死につかまれるものにしがみつく。

「うわぁぁぁぁーーーー!」

だが船員の一人が小さな窓枠から投げ出された。


「!」

一瞬のことだった。「ぁ」と思わずもれる。

バシャンと海面に打ち付けられ、巨大な生物が一斉に獲物に意識を奪われる。

腹をすかせたマグマドンには久方ぶりの人間ごちそうに見えたにちがいない。
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