ある朝起きたら目の前に怪物がいたって話

本編

ご

　夕食を食べ終えてまた部屋に戻る。

　相も変わらず、怪物はそこにいた。

　カーテンをジャッ、と閉める。

　明日こそ休み。本当の、何もない休日。

　怪物を抱き抱え、ベットの上に寝転がる。
　あたりは随分と暗くなり、怪物の目だけがぼんやりと光っていた。

　ぱちぱちと不思議そうにそいつはまばたきを繰り返していて、それが愛らしく思えて、きゅ、と抱きしめる。
　

　気でもおかしくなったのかもしれない。

　ついに頭が、心が、崩壊したのかもしれない。

　普通じゃないと思った。

　そしてそれに、普通じゃなくなったということに、少し快感を感じた。


　怪物にキスをする。
　
　押しつけにならないよう優しく、それでいてゆっくり、味わうように。

　口のなかに悪いところでもあるのかと思ったのかもしれない。
　怪物は触手をす、と口の端からすべりこませてきた。

　他の触手で身体中を、傷がないか探ってくる。

　少し良心が傷ついた。

　
　依存は。

　常に、依存される側を消耗する。

　
　そうならないように、依存しないように。
　それだけは気を付けたかった。

　口内をめぐって少し生暖かくなった触手が出ていく。
　黒い影の塊が蠢く。

　怪物は何を思ったか部屋の鍵をガチャ、と閉めた。
　そしてタオルケットを持ち上げ、私と、そいつの上にふわりとかぶせる。

　絡まり、ねじれ、もつれて。


　その夜は熱帯夜だった。飲みすぎて酔っ払ったサラリーマンが、路上でぐがあ、といびきをかきながら、眠っていた。