新世のアリエーネ

創式浪漫砲༺艦༻

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結婚相談所のアリエル

マッチ売りはもういない

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 現代都市、アリエーネ。
 そう呼ばれてるけど、どこか嘘くさい街。
 昔、風生師っていう人たちが理想とか皮肉とかで喧嘩して、そのまま街になった……らしい。
 誰が言い出したんだか知らないけど、案外本当かもしれない。

 見た目は普通の街。けれど、歩いてみれば何かが動く――そんな気がする。



 アリエーネの端っこのほうで暮らしている少年、アリエル。
 空っぽみたいな顔で、今日も街を歩いてる。

 ここは風恋広場。昔は恋人たちが集まる場所だった。
 今じゃ、結婚相談所だらけ。夢もロマンも、どこかへ行ってしまった。

 焼き芋持って歩いてるカップルも、今は見当たらない。
 代わりにあるのは、大きな声と冷たい空気。

 「はぁ……」

 白い息が、空にふわっと消えていく。
 それでも少年は歩く。

 この街は太陽が滅多に顔を出さない。
 “常勝極夜” ――そんな異名で呼ばれて、オーロラが見えるってことで一時は人気だった。
 SNSとか新しい電車とかで人は集まり続けて、夜の街は光に埋もれた。

 でも今じゃ、星も見えない。
 人間の作った灯りで、空の川までかき消された。

 「今じゃマッチも売れないんだなぁ……」

 昔、少年はこの広場で何でも屋をしていた。
 靴を磨いたり、マッチを売ったり。
 少しでもお金を稼いで、病気の父さんにタバコのパイプを買ってあげるために。

 父さんは、最後に一言だけ言った。

 「面倒なことは煙に巻いて逃げてもいい。でもな、やるって決めたら……確定させろ」

 そう言って、ふぅ、と煙を吐いて逝った。

 きっと、今がその“やると決めた時”なんだろう。
 少年は道端の店を畳み、歩き出す。

 「……着いた」

 看板にはこう書いてある。

 結婚相談所 ーー 風恋婚活ペアリング

 最近流行ってる、大きな相談所らしい。
 “斬新なサービス”ってのがあるらしくて、ちょっとだけ話題になってる。

 少年は中に入る。
 赤いカーペット。受付に立つ、きちんとした女性。

 「いらっしゃいませ! 結婚相談所は初めてですか?」

 「……うん、まあ」

 「ではまず、氏名と電話番号、その他のご記入を――」

 「あの……」

 「……?」

 少年は少し黙って、深く息を吐いた。

 「……僕を、雇ってもらえませんか」



 希望条件:30代男性、年収600万円以上、家事スキル高め、見た目がいい人。

 「かしこまりました! 条件に合う方が見つかり次第ご連絡いたします!」

 ツー……ツー……ガチャ。

 ……少年は思った。
 どうして人は、そんなに高いものばかり求めるのだろう。
 この前の電話の相手、Aさんって人は40代で、仕事は家事代行らしい。年収は非公開。

 男も女も、自分より上の相手を求めてる。
 それが恋なのか、制度なのか、もうよくわからない。

 昔は――もっと違った気がする。
 足りないところは支え合って、心で埋めてた。
 でも今は、何もかも“条件”で決まっていく。

 少年がここで働こうとしたのは、ただの生活のため。
 金がなかった。それだけだ。
 マッチも靴も、今じゃ誰も見向きしない。
 ボロボロの姿で相談所の前に立って、見かねた受付の女性が服をくれた。

 あの時、少し泣いた。
 情けなさと、嬉しさと、何かよくわからない気持ちで。

 ――あぁ、心って、まだ死んでなかったんだな。



 この相談所、どうやら普通じゃないらしい。

 制服がない。
 みんな私服で働いてる。少年は別に気にならなかったけど、他の店だと珍しいことらしい。

 それから、接客が……すごい。
 親身ではあるんだけど、耳の痛いことも平気で言う。
 “お客様は神様”って感じじゃない。むしろ、客が怒られてるくらい。

 そして、一番びっくりしたのが――部屋を貸してること。

 それも、婚活専用のホテル。監視付き。

 ……正直、少年は「監視」ってのがよくわからなかった。
 プライバシー?センサー?キー認証?
 難しい言葉ばかりで、半分くらい意味は分からない。

 でも、とにかく安全には気を使ってるらしい。
 警備員もいて、何かあったら呼べるボタンもあって……。

 どうやらこのホテル、婚活のために作られていて、初日はランダムに相手と一緒に泊まる。
 2日目以降は、希望に沿って相手を変えるらしい。
 使い方は自由、とのこと。

 ……なんだかよくわからないけど、きっと便利なんだろう。



 「なんで、僕は働いてるんだろうな……」

 営業が終わって、手の中に少しの金。
 少年は帰る。風恋広場の、そのまた奥
 ――瓦礫の納屋。

 「いいなあ……あんなホテル、僕も泊まってみたいな」

 瓦礫を枕にして、目を閉じる。
 昔は、星がきれいだった気がする。
 けど今は、どこか儚くて。

 (都市が光を飲んだからかな……。高望みする気持ち、ちょっとだけわかるや)

 まばらに瞬く星を片目に、少年は――静かに、眠る。
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