Red Signal

「 Red Signal 」

一日の仕事を終え いつもの帰り道を歩いていると

なんだか 急に雨が降ってきた ・ ・ ・ 

当然 傘なんて持ち合わせているはずもなく 

近くにあった喫茶店で 少し雨宿りすることにした 私は

足早に 初めてその喫茶店の中へと入った ・ ・ ・ 


すると そこはまるで 外の通りからは想像もできない空間が

広がっていて 今ではもうあまり見かけなくなった ラッパ型 の 

蓄音機からは ベートーヴェン の 悲愴 第2楽章が 狭くて少し

薄暗い店内を どこか ボンヤリ包み込んでいる ・ ・ ・


さてどこへ座ろうか ・ ・ ・ と ぐるりと店内を見渡すと 

どうやら 一番奥のカウンター席に 赤い服を着た若い女性が 

ただひとり ぽつりと座っているだけで 店内には　

私とその女性以外 誰もいないようだ ・ ・ ・


早速 彼女から少し離れた席に座った私は 何を頼もうかと 

その店のメニューを探す ・ ・ ・ が どこにもそれらしきものが

見当らず 困った私は 取りあえず カウンター奥の調理場に声をかけた

・ ・ ・ しかし奥の調理場からは なにやら 奇妙な音が微かに

聞こえてくるだけで 何一つ返事がない ・ ・ ・ 


すると その赤い服を着た若い女性が とても静かな声で

「 このお店メニューがないんですよ 」 とそう教えてくれた ・ ・ ・

そこで私は彼女にどうしたらメニューが分かるのか尋ねたのだが

彼女はただ一言　「 猫が来たら分かりますよ・・・ 」 と そう

答えたっきり 奥の席から ただ 私をじっと見ているだけで 

後はなにも答えてはくれなかった ・ ・ ・


暫く その言葉の意味が分らず 一人考えていると

なにやら カウンター奥の調理場から 一匹の黒猫が 

ソーサーにくっ付けられた紐を口にくわえ その上に乗っかる 

これまたでかいカップを 揺らして 丁度 私のまん前に運んできた . . .

そして 驚いた私をよそに その猫は それを置いて 

また元来た奥の調理場へと足早に戻っていく ・ ・ ・ 


少し 戸惑いつつも カップに入った珈琲を一気に飲み干した私は

代金を払おうと 再び カウンター奥の調理場に声をかける . . . が 

やはり先程と同じくなにも返事がない ・ ・ ・ 

そこで仕方なく 私はカウンター内に入り その奥の調理場へ

行くことにした ・ ・ ・


すると調理場から さっきまで微かに聞こえてきた奇妙な音が

何故か そこに近づくにつれ どんどん大きくなってくる ・ ・ ・

と その時 ! ! !


突然 奥のカウンター席に座っていた あの 赤い服の女性が 

それまで聞いたことがないような 得体の知れない呻き声を上げた ! ! !

そして 彼女の方を振り向こうとした 次の瞬間 . . .


なんと 目の前の調理場から 突如 凄まじい轟音と共に 大型トラックが

猛スピードで こちら目掛け突進してくる ・ ・ ・ 



あまりに驚いた私はついその場に倒れこんでしまった ・ ・ ・ 



それからどれだけ時間が経ったろうか ・ ・ ・


そっと目を開けると 私は横断歩道でひかれそうになっていた猫を

抱きかかえたまま 大型トラックの前で倒れていた ・ ・ ・


ただ 雨に濡れて反射した赤信号の光が 不敵な笑みを浮かべて・・・