神霊さんの不協和音な三兄妹、それと周りの人たち

砂樹

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第一章

15 闇属性はいろいろめんどくさいので勇者を使う

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 勇者パーティが帰省から戻ってきて活動再開するとか、悪魔じみた怪しい人影を目撃したとか、子供たちをさらっていったのは悪魔じゃないかとか、勇者に原因究明を要請するとか、町の中の話題には事欠かない。

 が、町外れで留守番を続けるシシャルにはあまり関係のない話だ。

 人間の悪党のせいで悪魔まで迷惑を被るのはどうかと思うが、あれは人間の仕業であって云々と指摘しに行けば余計な面倒が降りかかることになる。

 かといって、町が責任を持って保護しているはずの孤児院の子供まで被害に遭っているのに情報提供しないでいたら後々どう悪い方向に転ぶか分からないのも事実なわけで。

 悩んだあげく、魔物討伐のため暗黒の森に向かうだろう勇者パーティを暗黒の森側の門で待ちかまえることにした。
 ここならまだ遠隔魔術の範囲内なのだ。



 認識阻害系魔術やら気配消し魔術やらで存在を薄めつつ待つことしばし。

 朝早く出発しなくても獲物がいなくならない上級冒険者たちがのんびり出発していく頃になって、勇者パーティも現れた。

 先頭に立つ、二十代くらいで中肉中背で平凡顔な男。
 いかにも勇者な、神聖だの光だの炎だの要素まとめた高級装備が身体の大半を覆い隠しているため、どの程度鍛えているかはよく分からない。

 ああいうのを、馬子にも衣装と言うらしい。
 それが今代の勇者だ。

「お。おひさー」

 そして、闇属性相手でも気さくに話しかけてくる。
 それが今代勇者だ。

「おひさ。……相変わらず認識阻害も気配消しも無自覚に突破されるのは気分が良くないけど、まあいいや。勇者様の耳に入れておきたい情報があるのですが、ちょっと時間をもらってもよろしいでしょうか?」

 気さくに話しかけてくる理由が、同居人だったらカユシィーちゃんの知られざる一面を知ってるかもなんて下心全開なことさえ目をつぶれば、数少ないまともに話せる一人だ。

 この男、闇属性への偏見がないわけじゃないが、理性の方が勝っているというか。
 いや、欲望と下心の方が勝っているという方が正しいのか。

「勇者? どした? 精霊さんか妖精さんにでも声かけられたか?」

 仲間たちは勇者が誰かに話しかけたのは分かっても、その相手には気付かないらしい。
 魔術はちゃんと効果を発揮しているようだ。
 勇者が異常なだけだ。

「あー、説明面倒だからそう思っといてくれや。ちょい行ってくる」

 勇者は仲間たちから離れ、シシャルの前に立った。

 頭一つ半くらい身長差がある。
 勇者は中肉中背とはいっても、大人の男性の中では中間くらいなだけ。
 十歳の子供に過ぎないシシャルにとっては相当でかい。
 思い切り見上げる格好になってしまう。

 こういう時、フードが邪魔だ。
 少しずらさないとよく見えない。

 だから、勇者はシシャルが金の髪で琥珀色の瞳であることをよく知っている。
 そして大物狩り前になぜかシシャルに果物与えて拝んでいく。
 闇属性相手にご機嫌取りしたって祈ったって不運しかないという感覚は欠如しているらしい。

「はい、まずはこれなー。聖都名物のソルターベリィ」

 本日は勇者から来たわけじゃないのに、海岸近くでしか採れない珍しい果物をくれた。
 この勇者の個人用保管庫には果物ばかり詰まっているのではあるまいか。

「……おいしい」

 濃厚な甘さながらも酸味がいい具合に作用して食べやすい。
 後味もすっきりしている。

 なんでも、この果物、海の栄養分をたっぷりと吸い込んでいて、子供や妊産婦や病人への贈り物に重宝されているそうだ。
 シシャルが普通に食べられる辺り、これは聖別していない一般流通枠なのだろう。

「よし。で、なんかやっかいごと? カユシィーちゃんがらみか?」

 勇者は隊長ことカユシィーに恋愛感情なんてないそうだが、カユシィーの存在に癒されたとかで心酔している。
 そこに至るまでに何があったのかは知らない。

「今のところは無関係だけど、流れ次第ではそうなるかも」

「言ってみろ。俺でなんとかなることなら協力する」

 そうやって安請け合いするから、パシリ勇者なんてささやかれるのではあるまいか。

「勇者様が年末年始で不在の間に、子供たちが行方不明になる事件があったんだけど、知ってる?」

「ああ。けどよ、なんで誘拐事件にまで勇者使おうとするのか分かんねぇ」

「勇者だからでしょ。じゃあ説明省くけど、私、犯人目撃したの」

「は? あー、その俺には効かない姿隠しで見ちゃったんか」

「見たのは密談だけで、誘拐現場じゃないからね」

「わーってるわーってる。そういうの見ちゃったら問答無用で天罰やるもんな」

「いや、私攻撃魔術一切使えないし腕力も乏しいし」

「この前、ひったくりを防御膜の応用で捕まえてなかったか? なんか近くを歩いてた金欠魔術師のお手柄ってことになってたけど」

「見てたのか勇者め。まぁ黙っててくれたのには感謝しとくよ」

「俺だって面倒やだし」

「でも面倒押しつけるね。ここに誘拐事件の犯人の似顔絵あるから、後はよろしく」

 ぺらぺら紙と黒インクと魔術を用いて転写した写真モドキ三枚を差し出す。

「ちょい待ちっ? 説明省きすぎじゃねっ? つうかこれ何っ? 写真かっ?」

 この国には写真技術がある。
 しかし、高価な機材と特殊で高価な紙が必要なので、金持ちの道楽的な扱いとなっている。

「写真の原理は知らないけど、たぶん違うもの。ぺらぺら紙に画像転写しただけ。魔力紙じゃないから白黒しかできなかったんだけど、特徴は分かるはずだから、よろしく」

「おーう……。で、こいつら何者」

「非合法の奴隷商。私が知ってる範囲だと、何年か前にも似たような事件起こしてる」

「なぜにそんな情報まで」

「前に捕まりかけたから。闇属性って分かったら、いらねえって捨て置かれたけどね」

「お、おう、そーかい……」

 勇者はしばらくシシャルを見つめた後で、あきらめたように紙をしまった。

「人助けに興味なさそうなのに情報提供する、その心は」

「情報持ってるのに提供しなかったなんて後で明らかになったらひどい目に遭いそうだから。だからって、闇属性な私や闇属性と親しくしている隊長さんたちが表立って情報提供してもいろんな意味でろくなことにならないでしょ? だから、よろしく」

「俺は緩衝材か何かか。まぁいいけどよ、お前になんかあるとカユシィーちゃんが傷つくし、俺の手柄になれば臨時報酬入るし。見返りは何が欲しい?」

「見返りはいらないから、私の名前は絶対に出さないで」

「へーい。勇者情報網の謎の情報提供者にしておきますよー」

 勇者、なんて便利な肩書きなんだ。





 似顔絵というには精巧すぎる絵の描かれた紙をしまった勇者は、仲間たちと共に暗黒の森へ向けて歩き出した。

 情報提供は帰ってからにする。
 本当は一刻も早く伝えた方がいいんだろうが、今日の魔物討伐は諸事情から午前中に済ませなければならないのだ。

 なのに出発が思い切り遅れたのは、年末年始の気のゆるみが抜けていないのと、昨日の深酒のせいでみんなそろって寝坊したため。
 仲間の誰も二日酔いになっていないのが不思議なくらい大量の酒瓶が拠点中に転がっていた。
 超高級酒の瓶も転がっているのを見た時はめまいがした。
 誰の金であんなもん買って誰が飲み干したのだろうか。

「勇者ー。最後まで誰と話してるかわかんなかったけど、精霊さん? 妖精さん?」

 最古参の仲間の一人で魔術担当が興味津々に尋ねてくる。

 この国では、精霊は肉体を持たなくて魔力の操作に長けた生命体、妖精は肉体を持っていて魔力の操作に長けた生命体を指す。
 そして、どちらも人の目には映りづらい。

 精霊術師にもなりたかったが見えなくて断念したそいつは、精霊とか妖精とか見えざる存在への関心が結構強い。

「その二択なら妖精さんが近いな」

 闇属性なのは知っているが、カユシィーちゃんの生命線ともいえる同居人だから敵意は向けない。
 そもそも、あの才能を敵に回したらどうなるんだと怖い。

 今は事なかれ主義的に自身への被害を抑える方向で動いているから人畜無害、いや人類に有益な存在にさえなっているのだが、キレたら手に負えない気がする。
 闇属性だからと攻撃したり意地悪したりする人々の姿を見るたび、心底はらはらする。
 あれは言うなれば、眠っている竜をつつく愚か者を見ているような不安感だ。

「そういや、妖精さんといえば、最近町には人間大好きで親切な妖精さんがいるって聞いたことあるか? 姿はおぼろげでよく見えないが、人々の窮地に現れては助けてくれるんだってさ」

 今度のは投げ槍担当。
 弓じゃなくて槍な理由は知らない。

 こいつらに限らず、仲間たちはわりと噂好きだ。
 女子との会話を持たせるには話題の収集が欠かせないんだとか。
 弱い冒険者はモテないから努力を惜しまないのだそうだ。

 そんなヒマがあるなら素振りしろよと思うのだが、これが思想の違いというやつか。

「勇者ならはっきり見えるんじゃね?」

「どーだろーな」

 本物の妖精さんなんて誰も見たことがない。

 カユシィーちゃんは妖精さんみたいだと常々思っているが、彼女はただの人間だ。

 あの幼く可憐で儚げな見た目に似合わぬ戦闘能力だからすさまじい実力者に見られやすいが、実力は見た目と年の割にすごいというだけであって、冒険者全体の中では下の方。

 このまま研鑽をすれば成人頃には装甲トカゲにも勝てるのではないかと見込まれているから、有望には違いないのだが。

「私は見たことありますわ、妖精さんっ」

 いかにも立派な魔術師な服装の姫さんが、かなり自慢げに手を挙げた。
 悪目立ちしたくないとかぶっていた帽子をわざわざ外している。
 おおかた、帰省中にこれはと思って買ったはいいが、でかすぎて邪魔だったのだろう。

 見た目は美人なお姉さんなのに、中身はわりと幼い。
 言動が子供っぽい。

 本人は威厳とか頼れるお姉さんな雰囲気をなんとか得ようと努力して服装や口調を変えたり動きを変えたりしているが、なんかうまく行ってない。

 神殿勢力に権力奪われたお飾り聖王家の聖王の末娘だからか、見目麗しく素の能力も高いのに、近寄りがたさゼロ。
 なめられやすそうと言い換えてもいい。

 この姫さんより、カユシィーちゃんの同居人(十歳)の方がよほど大人の貫禄がある。

「姿はなぜか覚えていないのですけれど、重い病で臥せる方の家を示されて、治療してあげてほしいと頼んできましたの」

「ふーん。姫さんがいろんなところで無償奉仕してるのは妖精さんの導きかよ」

 徳を積んで聖王家を盛り立てるとかそういうのじゃなかったのか。

「カユシィーちゃんの平穏な日常を守るためには人々が闇属性への攻撃を考えなくなるような環境づくりが必要だと、カユシィーちゃんの安眠を守りたいなら協力してくれと、それはもう熱心に頼んでくるものですから、つい」

 姫さんもカユシィーちゃんを見守る会の一員だ。
 ただし、見守るようになったり気にかけてかまったりするようになった動機は異なっている。

 姫さんは末娘だからか、どんなに頑張って優秀になっても一番年下ということで誰からも頼ってもらえないという不平不満があったのだとか。
 そして、慕って頼ってくれる幼い子を溺愛するようになった。

 ただし、父親に溺愛されている約一名はのぞく、だそうな。

「ほ、ほーう……」

「カユシィーちゃんの寝顔をとても精密に描いた絵もつけてもらえまして」

 それ欲しい、と思わず口走る前に気付く。

 その妖精さん、カユシィーちゃんの同居人。
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