神霊さんの不協和音な三兄妹、それと周りの人たち

砂樹

文字の大きさ
40 / 108
第二章

6 借家暮らしの終わりの日 その2

しおりを挟む
 暗黒の森は木々の幹も葉も下草も黒っぽい色のため感覚がおかしくなりそうだが、まだ昼だ。
 木漏れ日から差し込む太陽光は昼のそれで、対比のせいかやたらまぶしく思える。

 イノシシモドキやキャロクモドキ程度しかいない周縁部は木々が鬱蒼と生い茂ってはいないため、昼でもランタンが必要なほど暗くもない。

 他の土地を知らないシシャルにとって森や木々といったら暗黒の森がまず浮かぶから、こういうものだと理解しているが、他の土地から来た人々は感覚がおかしくなったり不気味さを感じたりしても仕方ないらしい。
 沿岸部の木々や森は明るい色なのだそうだ。

「えーっと、まずは安全地帯の確保、それから水の確保だっけ。食料は最後でいいんだよね。すぐには探す必要もないし」

「マスター、ほんとにここで自給自足するつもりなの? 認識阻害とか使ってうまく町の中で過ごす気はない?」

 二人がいるのは、暗黒の森周縁部にぽつりぽつりと存在する広場だ。
 冒険者が休憩場所として使ううちに、新たな木が生えず草原のようになったままの場所らしい。
 魔物は当然のように出てくるので安全地帯とは言えないし、冒険者たちに知られた場所でもあるため人目を忍ぶのは難しいが、今回はそれでいい。

「闇属性はおとなしく追い出されて暗黒の森で自給自足しようとしてるって噂になれば、借家が無意味に攻撃される危険は減らせるでしょ。まさか勇者が陣取っているのに公的にはもう住んでいないことになっているのに攻撃する愚か者はいないと思いたいけど、念のため。知らない場所でまた私のせいにされるのはこりごりだもん」

 シシャルは幾度となく事件事故や病の元凶扱いされてきた。
 近くで見かけたとかすれ違ったとかを根拠にする人はマシな方で、なんの接点もないのに言い張る人も少なくない。
 闇属性が幸運とか幸福とかそういったものを吸い取っているとか、不運とか不幸とかを振りまいているとかも、当然のように語られる。
 俺が犯罪に走ったのは闇属性に操られていたからだなんて言って罪逃れをしようとする輩までいる。

 どんなに馬鹿げていても、悪い可能性は潰しておかなければろくなことにならない。

「ニクスはどっかで水汲んできてくれる? 私は休める場所作るから」

「はーい。……この辺に川か湧き水あるかなぁ」

 植物の色さえ気にしなければ明るい広場の片隅で、シシャルは野営の準備を進める。

 紐の両端を別々の木に結び、巨大な布を干すようにひっかけて広げ、端にあらかじめ作られた丸い穴に通した巨大な釘を地面へ打ち込む。
 地面には野営用の布団を敷けば、雨風しのいで休める場所の完成だ。

 普通の冒険者ならここにさらに蚊帳を設置しないと虫被害を受けるが、今は冬だし、シシャルは魔術を駆使すれば蚊帳代わりの防御膜を生成できる。

(たき火の準備はニクスが戻ってきてからでいいから、次は水の浄化装置の準備かな)

 巨大水筒の上にだし取り用の大きめ茶こしを置き、茶こしをすり抜けないぎりぎりの大きさに魔力結晶を生成して縁ぎりぎりまで敷き詰めていく。
 この魔力結晶はつるりとした形状にせず、あえてでこぼこで微細な穴だらけの低品質品にする。
 上下が開いた筒を上に置き、ろうと状の器具をさらに上に置き、筒からろうとの上までぎっちりと魔力結晶を作っては詰め込んでいく。今度の魔力結晶は先ほどより若干大きめだが、構造は同じだ。

(市販の浄化装置なんて高すぎるし、浄化魔術だけじゃニオイが取れないし味も良くないんだよねー……。魔力結晶で代用できなかったら大変なことになってたよ)

 安堵しつつ次の作業に移ろうとしたところで、ニクスの存在に気付く。

「ニクス、戻ってきてたの?」

「あぁ、うん。マスターが魔力結晶をじゃらじゃら入れてってるあたりから……。川の水は持ってきたけど、なんか濁ってるから使えるかどうか」

 重量軽減魔術の効いた桶にはなみなみと水が入っているが、たしかに濁っていた。

「大丈夫大丈夫。まず、桶の中に、適当な大きさの魔力結晶をざらざら強めの雑形状でなおかつ穴だらけで作って放り込む。魔力操作の応用でよく混ぜる。そうすると水の中の大きな汚れが吸着されて底に沈むの」

 なぜかニクスが後ずさりしたが、気にせず次の処理に移る。

「でね、さっき作った水浄化装置に流し込んであげれば、時間はかかるけど井戸水並みにきれいで安全な水の出来上がり。毎回作り直さないと効果落ちるし、少し魔力が溶け込んじゃうんだけど、無属性化処理はしているから光属性が飲んでもお腹は壊さないよ」

「……マスターさ、なんで魔力結晶使ってるの」

「砂とか炭とか手に入れられないから代用品として。魔力結晶って無味無臭だし形も大きさも自由自在だから便利だよね。いつでもどこでも作れるし」

「……それできるのマスターだけだからね。僕以外の人にそれ見せちゃダメだよ」

「見せないよ。おじさんから、本当に親しくて信用できる相手以外に見せると危ないってすごく真剣に言われたから」

「そ、そっか。ところで、隊長と副隊長は知ってるの?」

「知らないと思うよ。見せたことないし話したこともないし」

「そっかー……」

 ニクスは何かあきらめたように微笑むと、「薪取り行ってくるね」と去っていった。



 たき火を囲みながら暖をとる。
 属性相性的には光を放つもの全般が苦手だが、太陽光の下が問題ないように、魔力を伴わない普通の火であれば常人並みの距離感で問題ない。

「夕飯は、冷凍モツと冷凍野菜の煮込みにパンを付ければいいかな」

「温かそうでいいけど、あんまり食材使いすぎない方がいいよ。モツはもらってこられても塩はもらってこられないでしょ」

「あ。塩持ってくるの忘れた」

 食材も調理器具もある。
 野営での料理技術もある。
 だから外でもいつもと変わらぬ食事ができると思っていた。

「なんたる失態……。森の中で塩って採れない?」

「山の方に行けば岩塩採れる場所もあるけど、遠すぎるよ」

「困ってる人探し出して報酬に塩ひとつかみ要求できないかなぁ」

「マスター……。そこは勇者君を頼ろうよ」

「頼りたくても今戻るわけにはいかないし、呼び出しちゃったら借家の守りが」

「そか。今日は味付けなしの料理にしようか。幸い、モツは汚れ落としの時にたっぷりの塩でもみ込んでるから多少塩味ついてるし」

「それしかないかー……」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

真祖竜に転生したけど、怠け者の世界最強種とか性に合わないんで、人間のふりして旅に出ます

難波一
ファンタジー
"『第18回ファンタジー小説大賞【奨励賞】受賞!』" ブラック企業勤めのサラリーマン、橘隆也(たちばな・りゅうや)、28歳。 社畜生活に疲れ果て、ある日ついに階段から足を滑らせてあっさりゲームオーバー…… ……と思いきや、目覚めたらなんと、伝説の存在・“真祖竜”として異世界に転生していた!? ところがその竜社会、価値観がヤバすぎた。 「努力は未熟の証、夢は竜の尊厳を損なう」 「強者たるもの怠惰であれ」がスローガンの“七大怠惰戒律”を掲げる、まさかのぐうたら最強種族! 「何それ意味わかんない。強く生まれたからこそ、努力してもっと強くなるのが楽しいんじゃん。」 かくして、生まれながらにして世界最強クラスのポテンシャルを持つ幼竜・アルドラクスは、 竜社会の常識をぶっちぎりで踏み倒し、独学で魔法と技術を学び、人間の姿へと変身。 「世界を見たい。自分の力がどこまで通じるか、試してみたい——」 人間のふりをして旅に出た彼は、貴族の令嬢や竜の少女、巨大な犬といった仲間たちと出会い、 やがて“魔王”と呼ばれる世界級の脅威や、世界の秘密に巻き込まれていくことになる。 ——これは、“怠惰が美徳”な最強種族に生まれてしまった元社畜が、 「自分らしく、全力で生きる」ことを選んだ物語。 世界を知り、仲間と出会い、規格外の強さで冒険と成長を繰り広げる、 最強幼竜の“成り上がり×異端×ほのぼの冒険ファンタジー”開幕! ※小説家になろう様にも掲載しています。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

断罪後のモブ令息、誰にも気づかれずに出奔する

まる
ファンタジー
断罪後のモブ令息が誰にも気づかれないよう出奔して幸せを探す話

処理中です...