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第二章
24 墓荒らしへの鉄槌 その1
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邪霊除けで町を練り歩いてからというもの、特異種発生がゼロになった。
「今日も特異種討伐依頼はなし。予定通り動けるのはいいんだが、理由分からんと不安だよな。……もしや町全体が呪われていて、その影響で特異種が発生してたん?」
「そんなわけないでしょうに。邪霊が増えた土地は不運が起こりやすいと文献にはありましたが、その影響と考えるのもどうかと思いますわよ」
子供っぽく見られたくない一心で、背筋伸ばして胸張りすぎていて、冒険者向きとは断じて言えない厚底靴はいていて、どことなく偉そうな口振りしている姫さんは、背伸びまくっている子供と同じように見えている事実に気付いていない。
成人していて、大人に見える顔立ちで、女性の平均以上の身長があって、胸もそこそこあるのに、服装だって落ち着きあるものなのに、なぜこうもお姉さんっぽさゼロなのか。
「ま、理由はどうあれ、面倒がなくなってなによりってことで」
特異種が出なくなって数日は警戒が強く、金のためには暗黒の森で魔物討伐しなきゃいけないが不安だと考える冒険者も多かったが、十日経った今では平常に戻っている。
町の中の活気も元通りだ。
「あとは、新居を見つけてカユシィーちゃんの邪霊対策ができれば文句なしだな」
なお、邪霊対策で町を練り歩きは、あの一回限りだ。
理由は簡単。
シシャルのおかげで邪霊見えなくなっていれば契約までは簡単になるかもしれないが、住み始めてから邪霊問題が出てきたら悲惨なことになると気付いたからだ。
邪霊除けのためだからってシシャルを監禁しておくわけにもいかないし、ずっといた場所には邪霊が発生しなくなるわけでもないし、魔力結晶で対策は金がかかりすぎる。
何の小細工もなしで大丈夫な土地じゃないと、駄目なのだ。
「わたくしの伝手で新たな不動産屋を訪ねられることになったのですし、きっと今回こそは上手く行きますわ」
どんと胸を張る姫さんの頼りなさがハンパない。
なぜだ、見た目はそこそこ巨乳なお姉さんで、勇者の理想の恋人の容姿に近いのに、なんでこんなにも「違う、そうじゃない」と叫びたくなるんだろう。
「その分お高いんでしょーねー?」
おかげさまで、ついつい軽口を叩いてしまう。
相手はお飾りとはいえ王家の娘なのに。
「そ、それは、仕方ありませんわよ。安めの訳ありは全滅だったのですもの」
時間がかかったせいで勇者の貯金も心許なくなった今、高い物件の入手は困難を極めるわけだが、無理をしてでももう決めなければ。
本当に、これ以上時間がかかると破綻する。
待ち合わせ場所でドレ氏とカユシィーちゃんと合流し、姫の案内で不動産屋を目指す。
本日向かうのは、町が所有する土地を売る特殊な不動産屋だ。
国有地や町有地は滅多なことでは売りに出されない。
ゼロではないのは、様々な理由で所有者がいなくなって民間での管理ができなくなって国や町が管理することになった土地、というものが存在するためだ。
利益を生みやすい土地は権利を国や町が持ったままで人々には貸し出すだけにするというから、売りに出されるところはやっぱり訳ありだ。
「町が闇属性のいるパーティと取引してもかまわんってほどの土地なんて……今までに見て回った訳あり以上の問題を抱えているのだろうな」
ドレ氏は頭が痛そうだ。
物理的にではなく、精神的なものだろう。
「俺もそう思う。今回のもどうしても駄目だったら、前に見せてもらったどこかから妥協して選ぶしかねえな。もしくは町を出ていくか」
「嫌ですよぅそんなのっ。次の町の方が邪霊多かったらどうしろとっ? ここに来るまでいろんな町を通りましたけど、どこも邪霊いっぱいいたんですよっ」
カユシィーちゃんも町を出るのに消極的なのは、そんな理由だったのか。
「ここにも邪霊はいますけど他と比べたら楽園の如しなのですっ」
膝まで届く三つ編みを揺らしながら抗議するカユシィーちゃんは、本日も可愛い。
ちらりと姫さんの方を見ると、今日こそカユシィーちゃんに頼れるお姉さんな印象を植え付けると言わんばかりの気合いが入っていた。
知らない人が見たら不審者の顔だが。
「町全体が信仰心強めで神聖な魔力が多く漂っている土地でしたら過ごしやすいかもしれませんわよ? ……辺境にはあまりありませんけど」
「そんな土地は光も強いからシシャルちゃんの身体に悪いです」
「それは、そうですわね。あっちを立てればこっちが立たず……」
本当にその通りだなと思いながら、勇者は小さくため息をついた。
やってきた不動産屋は、町の委託で運営しているだけあって立派なものだった。
事情はすでに伝わっているのか、すんなりと案内してもらえることになったはいいのだが、案内人の服の質が、今の姫と並ぶ高級さだった。
「うらやましいです。お金持ちの着心地の良い服……」
カユシィーちゃんが、今にも指をくわえそうな勢いで服を見つめていた。
案内役の紳士風店員はどことなく居心地が悪そうだ。
「新居手に入れたら次は服を……っ」
その前に買わなきゃいけないものが多すぎる気もするが、誰も言えない。
本日回る予定は、四カ所。
それで新居問題だけでもどうにかなることを祈ろう。
訳ありその一、町の中心に近い場所にある、元処刑場。
古代のと注釈がつく。
現在は、そこそこ広い土地に石造りの建物が建っている。
庭は元々は立派な庭園だったらしいが、現在では管理の都合から雑草一本生えないように土を押し固めてある。
不気味さはないが、全体的に殺風景な印象だ。
昔からこの土地では不運だの不幸だのばかりが起こってきたという。
町有になる前の持ち主は超常現象も迷信も信じない現実主義者で、少なくない怪奇現象の原因を突き止めてきた科学者でもあったが、前の前の持ち主が建てた家に住み始めて間もなく、どうしても解明できない異常に遭遇して心身を病み、倒れ、救急搬送され、間もなく病院で衰弱死したという。
衰弱死の原因は病だったと明らかになっているし、解剖結果から推察するにこの家に住み始める前から病にむしばまれていたのだが、急変したのが住み始めた直後だったために良くない噂が立ち、親族が相続を拒否し、競売にかけても買う者はなく、最終的に町で管理することになったのだそうだ。
なお、前の前の持ち主は家を建てて住み始めて間もなく息子を暗黒の森で喪い、他の家族にも不幸が立て続けに起こったために家を手放したのだとか。
偶然で片づけようと思えばできるのだが――。
「むりむりむりむり。よどんでますひどいですこわいです」
邪霊視の魔導具を使ってみると、近くしか見えないはずなのにぼやーっとした黒い煙のような何かが複数漂っていた。
これの何倍何十倍の数がはっきり見えていたら、涙目でぶるぶる首を振りながら拒絶しても無理はない。
「こんなところに住むくらいなら暗黒の森の中で野営が続く方がマシですよぅ」
思い切り拒否されたので、却下となった。
次に案内されたのは、田園地帯の外れの荒れ果てた土地だった。
建設途中だったのか壊れたのか、土台の石と少しの石壁しかない建物。
縦横無尽に這って壁を覆うツタ。
そこら中から生えた雑草に、森に戻りつつあることを示すような若木。
別に暗いわけではないし空気がよどんでいるわけでもないのに、陰鬱な光景だった。
不動産屋は、これでようやく不良債権を処分できると言わんばかりに、あるいはこれを逃したら後がないというかのように、良いところばかり語ってくる。
先ほどの物件とは熱の入り方が違う。
これだけ広い土地でありながら大金貨五枚とか、魔物討伐をする冒険者様には暗黒の森までの距離が比較的近くて便利とか、土地の中に井戸があるので整備をすれば自前の井戸が手に入るとか、周囲は畑ばかりなので騒音に悩まされずに済むとか、ご近所さんの目を気にする必要もないとか、近くには工場も工房もゴミ処理場もないので空気が良いとか、たしかにこれは欲しいと思わせるような情報ばかりだ。
が、そんなに良い土地なら、闇属性いてもかまいませんなんて言うはずがないのだ。
貸しはしても手放そうとはしないはずなのだ。
「この土地にはどんな歴史がある?」
ドレ氏は警戒を隠しているつもりかもしれないが、全然隠せていない。
「そ、そんなの、古代の墓地というだけですよ。墓石も遺体も片付けてありますので、土地はもう、まっさら。掘っても骨の欠片一つ出ないくらいまっさらです」
「かつての墓地という部分が土地の価値を下げる要因になったとしても、闇属性に売ってもいいとはならないのでは? 一度ここで何か建物を造ろうとして頓挫したようにも見受けられる。ここで何か事故でも起こったのか?」
不動産屋、ギクリと顔を強ばらせた。
ドレ氏は整った美形で、決して目つきも顔立ちも鋭くないが、時々見透かすような目をする。
でもって、それを真っ向から見てしまうと、すごく怖い。
本人に自覚はないようだが。
「あー、その、実は、ちょっとした作業程度なら問題ないのですが、大きく土を掘り返したり重い物を置こうとしたり、大規模工事をすると、事故が多発しまして。高名な魔術師と神官に調べていただいたところ、古代の呪いが土地に残っていると……。墓石と遺骨の撤去中は神官様の祈祷によって収まっていたのですが、予算の都合で頻度を減らすと事故が起こり、増やすと予算が足りなくなり、どうしようもなくなり放棄することに」
想像以上にあっさりと事情が暴露され、沈黙が降りた。
ちなみに、この土地は手に入れた時からずっと町の所有のままで、本当に初期はこのあたりを町の中心部にして省庁を立てる計画だったらしい。
しかしどうにもできず、予算に余裕がある時になんとかしようといじっては頓挫を繰り返してきたそうだ。
それが何百年。筋金入りの訳ありだった。
「それは、つまり、立派な建物を建てるのは難しい、と」
「はい! ですがみなさんでしたらそこまで大きな工事はしませんでしょうし! お買い得かと! いかがでしょう!」
立派な石造りの建物どころか、簡素な木造の小屋さえ建てるのが難しい財政状況だ。
自分たちだけの野営地のような感覚で整備していくとすれば、ありかもしれない、が。
遮るものがないだだっ広い土地で、寒風吹きすさぶ中、野営用のテントで過ごせるのだろうか。
冒険者向けはたいていが暗黒の森仕様だから、風に弱いのだ。
それに、最低でも屋根は欲しいはずだ。
どんなに大きかろうとテントはテント。
どこかのシシャルさんのように、雨風しのげれば上にあるのが板だろうが布だろうが問題ないと思えるほど、ドレ氏もカユシィーちゃんもたくましくない。
「ふむ……。カユ、ここは邪霊はどうなんだ?」
「いるにはいますけど、特に多いわけではないですし、変な動きもないです」
勇者も魔導具で確認してみる。
たしかに普通だ。
ちらほら邪霊っぽい黒いものは視えるが、ゾクリとするような異常さはない。
「ならば、候補にしても問題ないか?」
「はい。邪霊問題は大丈夫だと思います」
「よし。……古代の呪いとやらがどう起こるのか確認してもかまわないか?」
ドレ氏の言葉に、店員がさあっと顔を青ざめさせた。
「確認せずにご購入というわけには、まいりませんよな……。で、では、自己責任でしたらどうぞ。わ、私は店に戻ってますので気の済むまでお試しを! では失礼!」
闇属性の仲間なんて目を離したら何をしでかすか分からない、というのが町の普通の人間の感覚ではないのか。
呪いの巻き添えの方が怖いのか。
不動産屋が逃げるように帰り、勇者と姫と兄妹だけが残される。
「呪いを発動させてみる前に、解析した方が良さそうだな。まさか死人出るほど強烈な呪いとは思いたくないが……」
「ドレ、解析系の魔術使えるのです?」
「父様に教わったことがある。子供の頃の話だし、必要性を感じられなくて中途半端だから、この土地にある何かに太刀打ちできるかは疑問だが」
まさか、解析しようとしただけで牙をむくほど凶悪な呪いではないと思いたい。
が、万一のことを考えて、勇者と姫とカユシィーちゃんは少し離れた場所から見守ることになった。
「今日も特異種討伐依頼はなし。予定通り動けるのはいいんだが、理由分からんと不安だよな。……もしや町全体が呪われていて、その影響で特異種が発生してたん?」
「そんなわけないでしょうに。邪霊が増えた土地は不運が起こりやすいと文献にはありましたが、その影響と考えるのもどうかと思いますわよ」
子供っぽく見られたくない一心で、背筋伸ばして胸張りすぎていて、冒険者向きとは断じて言えない厚底靴はいていて、どことなく偉そうな口振りしている姫さんは、背伸びまくっている子供と同じように見えている事実に気付いていない。
成人していて、大人に見える顔立ちで、女性の平均以上の身長があって、胸もそこそこあるのに、服装だって落ち着きあるものなのに、なぜこうもお姉さんっぽさゼロなのか。
「ま、理由はどうあれ、面倒がなくなってなによりってことで」
特異種が出なくなって数日は警戒が強く、金のためには暗黒の森で魔物討伐しなきゃいけないが不安だと考える冒険者も多かったが、十日経った今では平常に戻っている。
町の中の活気も元通りだ。
「あとは、新居を見つけてカユシィーちゃんの邪霊対策ができれば文句なしだな」
なお、邪霊対策で町を練り歩きは、あの一回限りだ。
理由は簡単。
シシャルのおかげで邪霊見えなくなっていれば契約までは簡単になるかもしれないが、住み始めてから邪霊問題が出てきたら悲惨なことになると気付いたからだ。
邪霊除けのためだからってシシャルを監禁しておくわけにもいかないし、ずっといた場所には邪霊が発生しなくなるわけでもないし、魔力結晶で対策は金がかかりすぎる。
何の小細工もなしで大丈夫な土地じゃないと、駄目なのだ。
「わたくしの伝手で新たな不動産屋を訪ねられることになったのですし、きっと今回こそは上手く行きますわ」
どんと胸を張る姫さんの頼りなさがハンパない。
なぜだ、見た目はそこそこ巨乳なお姉さんで、勇者の理想の恋人の容姿に近いのに、なんでこんなにも「違う、そうじゃない」と叫びたくなるんだろう。
「その分お高いんでしょーねー?」
おかげさまで、ついつい軽口を叩いてしまう。
相手はお飾りとはいえ王家の娘なのに。
「そ、それは、仕方ありませんわよ。安めの訳ありは全滅だったのですもの」
時間がかかったせいで勇者の貯金も心許なくなった今、高い物件の入手は困難を極めるわけだが、無理をしてでももう決めなければ。
本当に、これ以上時間がかかると破綻する。
待ち合わせ場所でドレ氏とカユシィーちゃんと合流し、姫の案内で不動産屋を目指す。
本日向かうのは、町が所有する土地を売る特殊な不動産屋だ。
国有地や町有地は滅多なことでは売りに出されない。
ゼロではないのは、様々な理由で所有者がいなくなって民間での管理ができなくなって国や町が管理することになった土地、というものが存在するためだ。
利益を生みやすい土地は権利を国や町が持ったままで人々には貸し出すだけにするというから、売りに出されるところはやっぱり訳ありだ。
「町が闇属性のいるパーティと取引してもかまわんってほどの土地なんて……今までに見て回った訳あり以上の問題を抱えているのだろうな」
ドレ氏は頭が痛そうだ。
物理的にではなく、精神的なものだろう。
「俺もそう思う。今回のもどうしても駄目だったら、前に見せてもらったどこかから妥協して選ぶしかねえな。もしくは町を出ていくか」
「嫌ですよぅそんなのっ。次の町の方が邪霊多かったらどうしろとっ? ここに来るまでいろんな町を通りましたけど、どこも邪霊いっぱいいたんですよっ」
カユシィーちゃんも町を出るのに消極的なのは、そんな理由だったのか。
「ここにも邪霊はいますけど他と比べたら楽園の如しなのですっ」
膝まで届く三つ編みを揺らしながら抗議するカユシィーちゃんは、本日も可愛い。
ちらりと姫さんの方を見ると、今日こそカユシィーちゃんに頼れるお姉さんな印象を植え付けると言わんばかりの気合いが入っていた。
知らない人が見たら不審者の顔だが。
「町全体が信仰心強めで神聖な魔力が多く漂っている土地でしたら過ごしやすいかもしれませんわよ? ……辺境にはあまりありませんけど」
「そんな土地は光も強いからシシャルちゃんの身体に悪いです」
「それは、そうですわね。あっちを立てればこっちが立たず……」
本当にその通りだなと思いながら、勇者は小さくため息をついた。
やってきた不動産屋は、町の委託で運営しているだけあって立派なものだった。
事情はすでに伝わっているのか、すんなりと案内してもらえることになったはいいのだが、案内人の服の質が、今の姫と並ぶ高級さだった。
「うらやましいです。お金持ちの着心地の良い服……」
カユシィーちゃんが、今にも指をくわえそうな勢いで服を見つめていた。
案内役の紳士風店員はどことなく居心地が悪そうだ。
「新居手に入れたら次は服を……っ」
その前に買わなきゃいけないものが多すぎる気もするが、誰も言えない。
本日回る予定は、四カ所。
それで新居問題だけでもどうにかなることを祈ろう。
訳ありその一、町の中心に近い場所にある、元処刑場。
古代のと注釈がつく。
現在は、そこそこ広い土地に石造りの建物が建っている。
庭は元々は立派な庭園だったらしいが、現在では管理の都合から雑草一本生えないように土を押し固めてある。
不気味さはないが、全体的に殺風景な印象だ。
昔からこの土地では不運だの不幸だのばかりが起こってきたという。
町有になる前の持ち主は超常現象も迷信も信じない現実主義者で、少なくない怪奇現象の原因を突き止めてきた科学者でもあったが、前の前の持ち主が建てた家に住み始めて間もなく、どうしても解明できない異常に遭遇して心身を病み、倒れ、救急搬送され、間もなく病院で衰弱死したという。
衰弱死の原因は病だったと明らかになっているし、解剖結果から推察するにこの家に住み始める前から病にむしばまれていたのだが、急変したのが住み始めた直後だったために良くない噂が立ち、親族が相続を拒否し、競売にかけても買う者はなく、最終的に町で管理することになったのだそうだ。
なお、前の前の持ち主は家を建てて住み始めて間もなく息子を暗黒の森で喪い、他の家族にも不幸が立て続けに起こったために家を手放したのだとか。
偶然で片づけようと思えばできるのだが――。
「むりむりむりむり。よどんでますひどいですこわいです」
邪霊視の魔導具を使ってみると、近くしか見えないはずなのにぼやーっとした黒い煙のような何かが複数漂っていた。
これの何倍何十倍の数がはっきり見えていたら、涙目でぶるぶる首を振りながら拒絶しても無理はない。
「こんなところに住むくらいなら暗黒の森の中で野営が続く方がマシですよぅ」
思い切り拒否されたので、却下となった。
次に案内されたのは、田園地帯の外れの荒れ果てた土地だった。
建設途中だったのか壊れたのか、土台の石と少しの石壁しかない建物。
縦横無尽に這って壁を覆うツタ。
そこら中から生えた雑草に、森に戻りつつあることを示すような若木。
別に暗いわけではないし空気がよどんでいるわけでもないのに、陰鬱な光景だった。
不動産屋は、これでようやく不良債権を処分できると言わんばかりに、あるいはこれを逃したら後がないというかのように、良いところばかり語ってくる。
先ほどの物件とは熱の入り方が違う。
これだけ広い土地でありながら大金貨五枚とか、魔物討伐をする冒険者様には暗黒の森までの距離が比較的近くて便利とか、土地の中に井戸があるので整備をすれば自前の井戸が手に入るとか、周囲は畑ばかりなので騒音に悩まされずに済むとか、ご近所さんの目を気にする必要もないとか、近くには工場も工房もゴミ処理場もないので空気が良いとか、たしかにこれは欲しいと思わせるような情報ばかりだ。
が、そんなに良い土地なら、闇属性いてもかまいませんなんて言うはずがないのだ。
貸しはしても手放そうとはしないはずなのだ。
「この土地にはどんな歴史がある?」
ドレ氏は警戒を隠しているつもりかもしれないが、全然隠せていない。
「そ、そんなの、古代の墓地というだけですよ。墓石も遺体も片付けてありますので、土地はもう、まっさら。掘っても骨の欠片一つ出ないくらいまっさらです」
「かつての墓地という部分が土地の価値を下げる要因になったとしても、闇属性に売ってもいいとはならないのでは? 一度ここで何か建物を造ろうとして頓挫したようにも見受けられる。ここで何か事故でも起こったのか?」
不動産屋、ギクリと顔を強ばらせた。
ドレ氏は整った美形で、決して目つきも顔立ちも鋭くないが、時々見透かすような目をする。
でもって、それを真っ向から見てしまうと、すごく怖い。
本人に自覚はないようだが。
「あー、その、実は、ちょっとした作業程度なら問題ないのですが、大きく土を掘り返したり重い物を置こうとしたり、大規模工事をすると、事故が多発しまして。高名な魔術師と神官に調べていただいたところ、古代の呪いが土地に残っていると……。墓石と遺骨の撤去中は神官様の祈祷によって収まっていたのですが、予算の都合で頻度を減らすと事故が起こり、増やすと予算が足りなくなり、どうしようもなくなり放棄することに」
想像以上にあっさりと事情が暴露され、沈黙が降りた。
ちなみに、この土地は手に入れた時からずっと町の所有のままで、本当に初期はこのあたりを町の中心部にして省庁を立てる計画だったらしい。
しかしどうにもできず、予算に余裕がある時になんとかしようといじっては頓挫を繰り返してきたそうだ。
それが何百年。筋金入りの訳ありだった。
「それは、つまり、立派な建物を建てるのは難しい、と」
「はい! ですがみなさんでしたらそこまで大きな工事はしませんでしょうし! お買い得かと! いかがでしょう!」
立派な石造りの建物どころか、簡素な木造の小屋さえ建てるのが難しい財政状況だ。
自分たちだけの野営地のような感覚で整備していくとすれば、ありかもしれない、が。
遮るものがないだだっ広い土地で、寒風吹きすさぶ中、野営用のテントで過ごせるのだろうか。
冒険者向けはたいていが暗黒の森仕様だから、風に弱いのだ。
それに、最低でも屋根は欲しいはずだ。
どんなに大きかろうとテントはテント。
どこかのシシャルさんのように、雨風しのげれば上にあるのが板だろうが布だろうが問題ないと思えるほど、ドレ氏もカユシィーちゃんもたくましくない。
「ふむ……。カユ、ここは邪霊はどうなんだ?」
「いるにはいますけど、特に多いわけではないですし、変な動きもないです」
勇者も魔導具で確認してみる。
たしかに普通だ。
ちらほら邪霊っぽい黒いものは視えるが、ゾクリとするような異常さはない。
「ならば、候補にしても問題ないか?」
「はい。邪霊問題は大丈夫だと思います」
「よし。……古代の呪いとやらがどう起こるのか確認してもかまわないか?」
ドレ氏の言葉に、店員がさあっと顔を青ざめさせた。
「確認せずにご購入というわけには、まいりませんよな……。で、では、自己責任でしたらどうぞ。わ、私は店に戻ってますので気の済むまでお試しを! では失礼!」
闇属性の仲間なんて目を離したら何をしでかすか分からない、というのが町の普通の人間の感覚ではないのか。
呪いの巻き添えの方が怖いのか。
不動産屋が逃げるように帰り、勇者と姫と兄妹だけが残される。
「呪いを発動させてみる前に、解析した方が良さそうだな。まさか死人出るほど強烈な呪いとは思いたくないが……」
「ドレ、解析系の魔術使えるのです?」
「父様に教わったことがある。子供の頃の話だし、必要性を感じられなくて中途半端だから、この土地にある何かに太刀打ちできるかは疑問だが」
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