神霊さんの不協和音な三兄妹、それと周りの人たち

砂樹

文字の大きさ
72 / 108
第三章

6 闇兄貴参上

しおりを挟む
 神霊の定義は、土地や種族や民族によって異なる。

 この国と周辺地域では、おおむね、地上より上位世界で誕生した生命体を指す。

 形は問わないが、身体が魔力で構成されているのは共通だ。

 似た構造で地上生まれの精霊との対比で、精霊の上位種とされている。
 が、能力的にも上位とは限らない。
 たとえ能力的に上位であっても、身体が丈夫とも限らない。

 世界は上に向かうほどに純粋性が増し、適応能力が低くなるという話もある。

 なので、きっと、それは不可抗力のようなものなのだ。

 行き倒れ寸前で、闇の神霊がやってきたのは……。





「俺が例の闇の神霊様だぜーよろしくー……。まず休ませて」

 非常にお疲れな黒髪の青年は、くたびれた茶色の上着のせいで余計に疲れて見えた。

 最初は不審者か訳ありかと警戒したが、ふわふわ様に『あ。あれが例の親友』と教えられたため、ニクス手製の光除け布を手にお迎えに向かった次第だ。

「暗くなったら本気出すから……おやすみ」

 現在、光除け布にくるまった闇の神霊は小屋の中で転がっている。

 隊長副隊長は不在なので、寝転がられていても邪魔にはならないが、頼りになる気がしない。
 神霊だから神々しいなんてのは想像に過ぎなかった。

『一応解説入れておくと、闇属性の人間や一般精霊は真夏の炎天下でも他属性と同等の活動ができるけど、闇の神霊は闇属性がわずかでも存在する空間でないと体力を削られる。太陽光の下だと酸欠に近くなる、が近いかな』

「えーと、太陽光に焼かれて傷つくじゃないんだ?」

『直接ではなく間接的な害かな。太陽光によって闇属性が散らされているのが問題だからね。服や傘で影を作っておけば動き回れるから、純粋神聖ほど制約は多くないけど』

 ふわふわ様は、いつもより妙に優しげな声をしていた。

 親友と言っていたが、どんな関係性だったんだろう、この二人。

「マスター。ちょっといい?」

「あ、うん、何?」

 いろいろ積もる話もありそうなので、ふわふわ様は枕元に置いてから外に出る。

「ニクス、それどうしたの」

 ニクスの隣、見慣れない荷車の上に布が山積みになっていた。

「闇の神霊様に献上できそうなものを見繕って持ってきてもらったから、気に入るのがあったら持って帰ってもらって」

 魔族のみなさんは神霊というだけでわりと無条件に敬っている節がある。
 ニクスは前世魔族で今精霊だが、魔族時代の感覚がかなり濃く残っている。

 見た目はあまり重視しないとのことだが、小屋の中の姿を見られたら幻滅されること必至だ。
 そうなったからといってシシャルが困るわけじゃないが、なんとなく気まずい。

「今はお疲れで休んでるから……。暗くなってからってことで」

「わかった。たぶん雨は降らないだろうし、夜まで待つね」

 そうは言いつつ、ニクスは小屋の中の様子が気になって仕方ない様子だった。



 暗くなり、闇の神霊が回復して隊長と副隊長も戻ってきたところで、呪いの魔法陣と相対することとなった。

「お。これ親父の術式だ。相変わらずすげぇ……」

「闇の神霊様の、親父?」

『神霊や精霊の誕生は自然発生と創造と繁殖の三種類ある。あいつは繁殖で産まれたから、親がいるんだよ。ちなみに私は自然発生なので親も兄弟もいないよ』

 そんな解説の間にも、闇の神霊は歩き回りながら魔法陣を観察している。

「んー、術的な相性は悪くねぇけど……難度高いなこれ。特殊用紙に複写して理論練って試作して実験して一時停止して本番だろ……? 一ヶ月くらいかかるかもしれん」

『期間は問わないよ。停止中の守りはシシャルに一任してくれればいい』

「了解。じゃあ俺の休める場所確保したら本格的にやるぜ。どこで休めばいい?」

 そんな、特に問題でもなんでもないはずの発言に、場が凍った。

 闇の神霊がいつ来てもいいようにニクスは献上用の布作ったり、隊長副隊長は光属性の品々を小屋の倉庫部分の一角にまとめたりしていたが、やったのはそれだけだった。

 来ることと宿泊する可能性とが、結びついていなかったのだ。

 来たらすぐ終わるものと、勝手に思いこんでいた。
 一ヶ月かかるなんて想定外だった。

「ど、ドレ。神霊様には宿で休んでもらいます……?」

「いや、宿代誰が出すんだ。いくら神霊様だろうと闇属性をまともに泊めてもらえるかも疑問だろう。まさか光属性持ち多数の勇者の家を頼るわけにもいかんし……」

 隊長と副隊長は冷や汗を流し始めた。

『闇属性はどこにでも行けるからどこでも休めるって軽く考えていたなー』

「相変わらず抜けてるな俺の親友っ。ったく、適当にどっか暗いところを――」

「では、日中は僕の知り合いのところでおくつろぎくださいっ」

 ニクスが前のめりに提案した。
 魔族って、神霊なら誰でもいいんだろうか。

 闇の神霊は、隊長副隊長の兄妹ほど美形ではなく、勇者ほどもさっとしてもいない。
 普通の格好をして普通に歩くと町の雑踏にあっという間に紛れてしまいそうな人間の姿だ。

 黒髪は比較的珍しいが稀少というほどではないし、灰色の瞳もそう珍しいものではない。
 肌は抜けるように白いが、神秘性はまったくない。

 精霊のように常人視点だと半透明なんてこともないらしく、神霊特有の特殊な魔力が発散されているわけでもなく、対面当初の隊長と副隊長は魔族と見間違えていた。

「おう? いいのか? 俺、闇の神霊だけど、そんな強くないぜ?」

「神霊様が来てくださるだけで大喜びなので。暗黒の森の魔族の集落ですが」

 ニクスが平身低頭している。
 いったいどこで覚えたのか、気品のある所作だった。

「おう? もしや親父を信仰してるとこ?」

「いえ、慈悲の神霊様を神とあがめる集落です」

「あー、そっちな。あ、いや、問題はないぞ。慈悲の神霊の領域と親父の領域はだいたいかぶってるし、親父の方針を九割がた引き継いでたからな」

 闇の神霊はニクスの手を握ると、良い笑顔を浮かべた。

 その後、日中は魔族の集落で休み、暗くなったら出てきて作業し、明るくなる前に戻ることが決まった。
 必要な資材は魔族が提供するそうだ。





 闇の神霊による、呪いの魔法陣の一部書き換えで都合のいい防犯魔法陣化。

 どこがどう難航しているのかはシシャルも他の面々も門外漢過ぎて分からなかったが、悩む姿が滞在延長のための演技とは思えなかったので、おとなしく見守り続けること一月と少し。

 だいぶ暖かくなり、草木も芽吹き始め、雨の日も増えてきた。

「これで完了。はじめに承認を得ていれば、大がかりな工事をしても呪いは発動しなくなったぜ。防犯の都合上、承認は毎日やり直しになるけどな」

「承認してからきっかり一日? 日付が変わったらやり直し?」

「承認してからきっかり一日だな。基本は日付が変わる頃にやっておくのが忘れにくくて良いんじゃね?」

 闇の神霊は軽い。
 ふわふわ様曰く、『闇は夜になれば満ちるし日中でも日陰にはあるものだから、神聖みたいに誰かの祈りや信仰ないと生まれないみたいな稀少なものじゃないから……、性格的にのんびりとかぼんやりとかが多いんだ』とのこと。

 闇が危険というのは人間界限定の認識で、見た目からの印象が九割なのだそうで。

「シシャルちゃん。ニクス君。承認の権限渡すためにちょっと加護あげるぞ」

「え。あの、闇属性の加護もらうとさらに周りの目が厳しく……なるのでは」

「ないない。光に対する弱さは変わらんし、闇がにじんで見えるわけでもねえし。つか闇属性って知れ渡ってんだしいまさらじゃね?」

「いまさらだけどこれ以上攻撃の材料増やしたくないんだよねっ?」

「人間ってめんどくせー。しゃーねえ、えーっと、これをこう……」

 認識を共有できない。
 が、ある程度尊重してくれる気はあるようで、シシャルには加護ではなく鍵という形で渡してくれた。

「ニクス君は加護でいいのな。ま、闇の精霊が闇属性忌避するわけねえしな」

「ありがとうございます、神霊様」

「お、おう。……思い切り敬われると、それはそれでむずがゆいわな。俺、神殿の一つも持ってねえし、なくっても問題なく生きられる側だし、うん。拝まれたのなんて何百年生きてきて初めてかも」

 闇の神霊は、顔を逸らして照れ隠しのように笑っていた。



 翌日の夜のはじめ頃、闇の神霊は魔族の集落の人たちに別れを告げると小屋にも来て、ここを離れると告げてきた。

「また用があったら呼んで? 今度も来られるまでに時間かかるかもしれんけど、緊急ならすぐ来るぜ。……俺の力が緊急時に役立つかはさておき、だけども」

 闇の神霊は最後まで軽めの青年だった。

「じゃーなー。元気でなー」

 ニクスと魔族が用意した献上品の一部を抱えて、夜の闇に消えるように去っていく。

「そういえば、名前聞かなかったけど、神霊って名前あるの?」

『あー……。あるといえばあるけど、身分証明用の名前は好まない神霊が多いし、親から付けられた名前はあっても秘するものだから。他に闇の神霊が現れるまでは闇の神霊様とか闇兄貴とかでいいのでは?』

 神霊界の事情はよく分からないが、そうしておこうと決める一同だった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

真祖竜に転生したけど、怠け者の世界最強種とか性に合わないんで、人間のふりして旅に出ます

難波一
ファンタジー
"『第18回ファンタジー小説大賞【奨励賞】受賞!』" ブラック企業勤めのサラリーマン、橘隆也(たちばな・りゅうや)、28歳。 社畜生活に疲れ果て、ある日ついに階段から足を滑らせてあっさりゲームオーバー…… ……と思いきや、目覚めたらなんと、伝説の存在・“真祖竜”として異世界に転生していた!? ところがその竜社会、価値観がヤバすぎた。 「努力は未熟の証、夢は竜の尊厳を損なう」 「強者たるもの怠惰であれ」がスローガンの“七大怠惰戒律”を掲げる、まさかのぐうたら最強種族! 「何それ意味わかんない。強く生まれたからこそ、努力してもっと強くなるのが楽しいんじゃん。」 かくして、生まれながらにして世界最強クラスのポテンシャルを持つ幼竜・アルドラクスは、 竜社会の常識をぶっちぎりで踏み倒し、独学で魔法と技術を学び、人間の姿へと変身。 「世界を見たい。自分の力がどこまで通じるか、試してみたい——」 人間のふりをして旅に出た彼は、貴族の令嬢や竜の少女、巨大な犬といった仲間たちと出会い、 やがて“魔王”と呼ばれる世界級の脅威や、世界の秘密に巻き込まれていくことになる。 ——これは、“怠惰が美徳”な最強種族に生まれてしまった元社畜が、 「自分らしく、全力で生きる」ことを選んだ物語。 世界を知り、仲間と出会い、規格外の強さで冒険と成長を繰り広げる、 最強幼竜の“成り上がり×異端×ほのぼの冒険ファンタジー”開幕! ※小説家になろう様にも掲載しています。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

断罪後のモブ令息、誰にも気づかれずに出奔する

まる
ファンタジー
断罪後のモブ令息が誰にも気づかれないよう出奔して幸せを探す話

処理中です...