神霊さんの不協和音な三兄妹、それと周りの人たち

砂樹

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第三章

11 冒険者の似顔絵版画 その1

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 この国には、冒険者の似顔絵版画というものがある。

 全員分あるわけじゃなく、目安としては装甲トカゲを難なく倒せるかどうか。
 その中でも許可を得た者の似顔絵のみが版画として売り出される。

 通常販売所は冒険者組合の建物内にあるが、立地が悪いとか客層に合っていないとかいろいろあって儲かっていない。

 ドレとカユシィーの兄妹も、売場の存在は知っていても見に行ったことは一度しかない。
 シシャルなど一度もないという。
 他の冒険者たちも、一回は好奇心で見に行くが滅多なことでは購入に至らないのだとか。

 そんなんで儲かるはずもないので、販売所は月に一回出張する。
 基本は町の中の露店街だが、近隣の町に行くこともあるそうだ。



 出張販売所を見つけたのは、ドレ主導で妹たちを引っ張って日用品買い出しの途中。

 どうやら、今回の店は近隣の町からの出張らしい。

 風で飛ばされないよう加工された似顔絵版画販売用の台の中で、勇者と姫の版画がかなりの面積を占めていた。

 町の人たちにとって勇者も姫も見慣れたもので、すごいところもダメなところも知れている。
 尊敬とか崇拝とかは、まずない。
 似顔絵版画買って眺めたいと思う人がどれだけいるかも、いまいち読めない。

 が、この力の入れよう、他のところでは大人気なのかもしれない。

「すごい種類ありますね。おもしろいです」

 似顔絵版画は冒険者組合から発売され、収入から実費を差し引いた全額が炊き出しなどの慈善事業に当てられる。

 なので、冒険者自身に金は入らないのだが、よほど不細工か顔を出したくない訳ありの冒険者でない限り、実際に売れるかどうかはともかく許可は出しておく者が多いとか。

 なお、カユシィーもドレもシシャルも訳ありなので、装甲トカゲを主な討伐対象にできる実力はあるが許可は出していない。
 そもそも打診があったのはカユシィーだけだが。

「冒険者ってこんなにいるのですかー。あ、この男の子わたしと同い年くらいでは?」

「え。隊長さんって何歳だっけ……」

 妹が指差している似顔絵版画の冒険者は、十代半ばくらいの少年だった。

「秘密ですけど、あなたよりは年上です」

 似顔絵版画自体は国内どこでも売っているが、品ぞろえは土地によって様々だ。
 隣町でさえ大きく違うのは、勇者と姫以外ほとんど知らない冒険者なところからうかがえる。

 よほどの人気者やよほどの有名人でもない限り、その冒険者が拠点としている町でのみ販売されるのだ。

 そのせいか、勇者と姫の版画はあるのに勇者パーティの仲間はほとんど扱っていない。

「かっこいい人も多いのですねぇ。本物より何割り増しの美形になっていたり?」

 うちのカユは無意識に可愛さを強調するそぶりをしている。
 ゆらゆらと三つ編みがしっぽみたいに揺れている。
 しかし中年の店主は半目のまま動じない。

「いくら売りたいからってそんなこたぁしねえ。可能な限り本物に忠実にしつつ、特徴をすこーし強調する程度や」

 勇者の実物を知る三人、これはちょっと特徴強調程度なのだろうかと、同時に思った。

 いや、勇者が特殊なだけかもしれない。
 姫はだいたいそのままだ。
 顔を知る他の冒険者の似顔絵版画も、特徴をよく捉えていて、誰が誰なのかぱっと見で分かる。

「この在庫一掃値引き品とある箱はなんです?」

「いろんな土地から集めてきた売れ残りや。あんま需要なかったのも多いが、人気冒険者のを刷りすぎて売れ残ったものも混じってる。掘り出し物もあるかもしれねえぞ?」

 平台に並べられている似顔絵版画を一通り眺めた後で、カユシィーとシシャルは店主の許可を得て箱からそれぞれ一束手に取り、めくり始めた。

 ちなみに、今のシシャルは目深にフードをかぶった上で認識阻害の術を使っている。

 カユシィーちゃんと兄と一緒にいるってことは例の闇属性ではないかと一瞬思っても、なんか違うかと感じるらしい。
 勇者には効かないが、姫には効くそうだ。

 初対面でこちらのことを知らない店主は、一瞬の疑念もないようだ。

「みなさん強そうですねぇ」

 冒険者は男の方が圧倒的に多いが、女性冒険者もそこそこいる。
 しかし、女性冒険者は顔出しを嫌がることが多く、版画として出回るのは微々たるものという。

 そのためか、女性冒険者の似顔絵版画が出てくるたび、カユシィーは珍しいものを見た顔をしては裏返して名前や略歴や似顔絵作成年月日を確認していた。

 シシャルは興味深そうにしてはいるが裏を確認することはなく、あっという間に一束見終わり、次の束に移ってしまう。

 似顔絵版画という分野に興味はあるが描かれた冒険者たちに興味はない、といった感じか。
 そもそも人間に良い感情を持っていないのだから、見た目の善し悪しがどうだろうと関係ないのかもしれない。

「いろんな人がいるのですねー。あ、この人かっこいいです」

 ドレに見せてきたのは、左目に片眼鏡をつけた渋めの中年男性の似顔絵版画だった。
 たしかに、渋い魅力はある。
 強そうだ。

 シシャルも興味を持ってちらりと見たが、それ以上の反応はなく、自分の束の似顔絵めくりに戻ってしまう。
 響かなかったようだ。

「この方ってどんな冒険者なのです?」

「あー、そいつはなぁ、二十年くらい前まで隣国貿易護衛ですさまじい実力を発揮していた冒険者さね。当時は『眼帯の岩戦士』『偽銀の疾風』と並ぶ有名二つ名持ちで、『慧眼なる魔導戦士』と呼ばれていた。そりゃもうすさまじい人気でよ、刷りすぎて大量の在庫が残り、今でも売り続けているんや。一枚どうよ?」

「買います。あ、でも、他も見てから支払います」

 買うと決めた似顔絵版画を店主に渡し、カユシィーは続きを見始める。



 結局、カユシィーは三枚購入することを決めた。

 二枚目は凄腕指揮官といった風貌の老人。
 老境に至るまで第一線の冒険者として活躍し、現在では後進の育成に当たっている人物なのだそうだ。
 なのに売れ残り箱にあったのは、実力があろうが有名だろうが売れない時は売れない、だそうで。

 三枚目は、元々目つきが悪いのか、不機嫌なだけなのか、目を細めた若い男。
 そこそこ以上の美形だが、なんとなく、不良っぽい。
 店主曰く、どこぞの貴族が平民と作った子供で不遇だったことから自力で成り上がってやると冒険者になったのだとか。
 現代は一代貴族となり、どこかの辺境の領主のところで護衛をしつつ貴族生活しているという。

 妹はどんな基準でその三枚を選んだのか。
 ドレは兄なのにまったく分からない。

「君はどうする? それ、気に入ったのか?」

 一方、カユシィーが最初に持っていた一束をめくり始めていたシシャルは、途中の一枚でぴたりと手を止めていた。

 似顔絵版画は白黒だから色合いは分からないが、表現的に中間くらいの明るさの髪を短く刈った若い冒険者だ。
 真面目なのか余裕がないのか、にこりともしていない。

「その方は最高で第一級となった凄腕やね。その版画は駆け出しの頃だが、その当時から頭角を現していて、戦う姿を見た者は奴こそ最強に至ると思ったそうだ」

 第一級は、冒険者の位としては上から二番目。
 だが、一番上の特級は伝説的な強さを持つ者しかなれないため、第一級が実質的な最高位と言える。

 ちなみに、勇者と姫は共に二級冒険者だ。

「この冒険者さんの他の似顔絵版画ってありますか?」

「ちょっと待っとくれ……?」

 シシャルが珍しく食べ物以外で思い切り食いついている。

「表を見る限り、あと一枚あるはずだね。いつのものかは分からんが」

 じっと似顔絵版画を見つめていたシシャル、ちらりとこちらを向いた。

 欲しいけど言い出せない時の目だ。

「こいつは三枚も買ってるんだ、一枚くらいで遠慮するな」

 その一枚を店主に差し出してやる。

「残りも見ておくか?」

 うなずくと、シシャルは真剣な目で束の残りをめくっていき、見つけた。

 肩に掛かる程度の長さの髪を後ろに流してまとめている姿だ。
 老いているというほどではないが、先ほどの一枚よりだいぶ後に描かれたものだろうか。

 今回もカユシィーはちらりと見てすぐに興味を失ったが、シシャルは見入っていた。

「あったか。それは……最後の似顔絵版画だな」

「最後の……?」

「あぁ、似顔絵版画ってのは基本、昇格時とそこを起点とした三年ごとに新しくするもんでな。だが、隣国貿易護衛連中は参加のたびに新しいのが作られる。それは、最後の隣国貿易参加の直前のもの。なんだかんだあっても人気あったから、刷りすぎたんだろ」

 シシャルさん、欲しいと顔に書いてあるが、口にはできないようだ。

「これももらおう。それと、他の時期のものも、もしも見かけたら確保しておいてもらうことはできるか?」

 言いたくとも言えないだろうことを代わりに提案すると、救いの手を見た顔をされた。

 特別美形というわけでもないのに、この冒険者のどこがそんなに心に響いたのだろう。

「ああ。冒険者の名前か二つ名が分かってれば探しようもある。請け負おう」

 店主はメモ用の板に冒険者の名前とこの町の名前と日時を記載していた。

 その冒険者の名は、ディールク。
 竜の光を意味する名だった。





 似顔絵版画を買って店を後にして、人通りの少ないところまで歩いてきた。

「シシャル。良い買い物ができてよかったな」

「うん。ありがと」

 シシャルはその冒険者がよほど気に入っているらしい。
 ちょっと頬が赤い。
 感極まって涙ぐんでさえいる。

 カユシィーも気付いたようで、指摘こそしないがにやにやしていた。
 君はもっと分かりやすいぞと言ってやりたい気持ちになるが、ぐっとこらえた。

「俺たちはまだ買い物があるが、帰るか?」

「うん。……夕飯は、おいしいもの作るから」

 似顔絵版画をしばらくじっと見つめた後で大切そうにしまい込むと、シシャルは全員分の買い物袋を抱えて家に帰っていった。
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