神霊さんの不協和音な三兄妹、それと周りの人たち

砂樹

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第四章

4 お届け物からはじまる……猫様騒動 その1

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 新居とは名ばかりの廃墟じみた土地を入手し、隊長の寝室と倉庫だけの小屋を建て、ひたすら魔物討伐で稼いで増築してから数年。

「お届け物でーす」

 定期的に宅急便が届くようになったのは、大きな変化だ。

「はーい。あの二人宛ね。いつもどうも。小銀貨しかないけどおつりあります?」

 ただいまのシシャル、認識阻害ゼロでフードもかぶっていない。

 が、宅急便のお兄さんは動じることなくにかっと笑っている。

 小銀貨、と言ったところで口の端がひきつり若干目がそれたが。

「今回は小銀貨一枚と中銅貨三枚となりまして。申し訳ありません」

「え。値上がりしたんですか。途中の街道で何か?」

 荷物の大きさと重さと輸送距離で料金は変わるが、ぱっと見、木箱はいつも通りの大きさだし、重さもそれほど変わらない。
 送り主も手続き場所も配達先もいつも通りだ。

 自然災害や街道整備不良による迂回で時々値上がりするが、そういったものはある程度事前に予測できたはず。
 最近その手の話題は聞いていない。

 ちなみに、この宅急便、前払いで八割、後払いで二割が基本の料金設定だ。

「こちら、値上がりの理由書と明細になります。だいぶ北の方なんですが、盗賊が出没していて、護衛費用が荷物にも上乗せされているそうで。荷物を発送してからの上乗せなのでこちらに請求となった次第です」

「盗賊ね……。まさかそいつら人殺して荷物奪ったりしてるわけ?」

「いえ。死者どころか負傷者もいませんし、荷物も一切被害に遭っていませんが、それでも護衛は必要なんですよ。ただの商人だけでは危険ですから。最初に襲われた商人は当商会所属の元冒険者なので被害がなかっただけです」

 これ、盗賊が不運な案件だろうか。
 だとしても割を食っているのは一般の利用者なわけで、盗賊許すまじになるのは別におかしな思考ではない、はず。

「小銀貨一枚と中銅貨三枚、たしかに受け取りました。領収書です」

 この商会の宅急便の領収書は、特殊な草を紙にした品だ。
 ぺらぺら紙よりは長持ちするが保管用の本に使われる上質な厚紙や羊皮紙よりは持たない。
 あと、色が悪い。
 しかしほどほどに丈夫でほどほどに保ってほどほどのお値段なので、最近はちょっとした書類でよく使われている。

 この紙の出所が暗黒の森の魔族なのは、一部のみに知られた情報だ。

 闇属性じゃない魔族なら簡単に人間に紛れて暮らせて商売もできてしまう現実を知った時の衝撃とやるせなさは、今なお鮮明だ。

 やっぱりこの国で一番不遇なのは闇属性なのでは疑惑。

「ところで、お客様に一つ相談なのですが。盗賊除けのお守りみたいなものはありませんかね? 盗賊から気付かれずに危険地域を抜けられる方向で」

 とはいえ、借家の器物損壊事件の頃と比べたら、別世界疑惑あるほど暮らしやすくなっている。

 闇属性でもかまわないからなんとかしてくれ、という、必死なのかたくましいのか分からない人が増えただけ、とも言えるが。

「特定個人を指定して避けるのであれば、相当高度だけど可能です。でも、盗賊みたいな大ざっぱなくくりだと無理です。敵味方関係なく気付かれにくくする方法はありますが、たぶん事故誘発しますし、何かあっても助けが来なくなりかねません」

 目をそらしていて見えなかったものは認識しようがない。
 見えていても視界の端だと認識しづらい。
 調べたはずと思い込まれて見過ごされることもある。

 シシャルが使う認識阻害魔術というのは、そういう注意不足や注意力散漫を特定の対象に対してのみ起こしやすくするものといえる。

「護身用の新作持っていきます? 一回ごとに充填で、害意ある者をびりっとしびれさせてひるませる程度の効果しかありませんけど。あと、いつものお守りをどうぞ」

「いつもお世話になります。こちら、匿名希望の商会からのお礼の品と贈り物です」

「匿名希望……。意味あるのかなぁ」

 言いつつ布袋を素直に受け取る。
 どちらも伝票には『食料品』とある。
 聖都で流行っている食べ物で光属性を持っていなくて日持ちするものが定番だ。

「何事も体面と建前が大事なのですよ。かといって、拝金主義の腐敗神殿に落とす金などありませんが。円滑な商売にもいろいろな方法論がありますので」

 商人は合理的というが、そこまで割り切られてもいろいろ角が立つのではあるまいか。

「異端狩りに遭わないでくださいねー……」

「はっはっは。隣国貿易で稼ぎに稼いだ冒険者が徒党を組んで作り上げたこの商会、神殿もうかつに手を出すと危険ともっぱらの噂。理不尽な理由で攻撃されたら熨斗つけて報復しますのでご安心を」

 毎度やってくる宅急便のお兄さん、筋骨隆々で大剣を背負っている。
 その上で棍棒だの短剣だの弓だのも装備している。
 シシャル作のお守りも持っている。

 いつも隊長副隊長の母親からの荷物を持ってきてくれる商会傘下の宅急便、強いのはこの人だけではないらしい。
 一度臨時の代役で来た人も筋骨隆々だった。

「闇属性に与する商会だと言われたら、『闇の守護竜が特別顧問だ』と返すのです。闇属性であっても神霊様と守護竜様は別格ですので」

 何がどうなったら人間の商会の特別顧問を竜がすることになるのか、そもそも特別顧問って何をする役職なのか、シシャルには分からない。

 守護竜なんて大物といつどこで知り合ったなんて聞かないのは、装甲トカゲより一段階強いオオクマモドキを討伐できる冒険者は会うだけなら簡単だからだ。

 闇の守護竜の住処、最辺境のこの町の南門から徒歩半日。
 がんばれば日帰りできる。

「それに加え、我らは隣国貿易経験者。つまり闇属性の魔族とも取引実績があるのです。闇属性の人間程度で物怖じしていたらやっていられませんとも」

「あー……。建前と現実って、そこにも……」

 隣国貿易は国家事業とされているが、実質的には神殿主導。

 闇属性滅ぶべし魔族は先祖の敵滅ぶべしなんて掲げつつ、闇属性との取引で莫大な利益を上げているのだ。

「神殿がああである以上、まじめに教義遵守なんてやってられんでしょう?」

「ですねー……」

「では、いつも通りであれば来月にまた来ます」

「ご苦労様でしたー」
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