時空の魔女と猫の蓼科別荘ライフ ~追放されたので魔道具作って生計立ててたら、元の世界で女神扱いされてる件~

じごくのおさかな

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第一章 蓼科で生活環境をつくる魔女

第21話 荷を入れて生活感が出てくる

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 エスティは日向の部屋で見た、とある映像を思い出していた。


「戦隊ヒーロー、超格好いいです……」


 影を背負ったヒーローが悪と戦う特撮だ。特に孤高のブラックが使う、敵を殴った後に時間差で爆発する技をエスティは気に入っていた。

「さっさと片付けを始めるぞ」
「ロゼ、後で戦隊ヒーローごっこしましょう」
「断る。どうせ我がやられる役だろう」
「負けるのが怖いんですか? お子様ですね」
「どっちが子供だ!」

 ハマりだすと、とことんハマる。エスティが熱しやすく冷めやすいのを、ロゼは身に染みて知っていた。昨日だって、日向が寝た後に24話全てを見ていたのだ。


「まったく……それで、我は何をすればいい?」
「では、そこからイーッと言って飛んできて下さい」
「戦隊ものの話ではない! 片付けだ!」
「なぁに手加減してやりますよ、ほらほら!」
「ニャーー!!」
「イー!!」
「何してるの二人とも……」


 パン屋の朝の手伝いを終えた日向が庵にやって来た。

「ロゼ、落ち着いて下さい」
「おいエスお前があー! マタタビにゃー!」
「エスティちゃん、朝からやりたい放題だね……」
「ロゼは可愛い使い魔ですからね。ところで日向、お手伝いはもういいのですか?」


 最近の日向の手伝いは、今までとは少し内容が違っていた。朝早くからの仕込みや焼きを、成典と一緒に行うようになったのだ。

 口には出していないが、パン屋を継ぐ気になったらしい。成典と陽子はエスティにこっそりとそう話し、喜んでいた。エスティも以前から日向が迷っていた事を聞いていたので、それを聞いて嬉しかった。


「バッチリよ! 学校の課題も終わったから、残りの休みは遊び放題!」
「ふふ、良かったです。折角なので、日向の泊まれる客間も作りましょうか」
「いいの!?」


◆ ◆ ◆


 ――《改築》発動―― 


 蓼科で大型魔法を行使するのも数回目。慣れたものだ。蓼科の魔力を大量に使用しているが、周囲の魔力は減るどころか、むしろ増えているようにも感じる。ネクロマリアとはまったく違う環境らしい。

 今回もあっという間に終了した。


「おおおぉー!」

 玄関の扉を開いた日向は、感嘆の声を上げた。

 今回の改築は4点。リビングの間取りの変更、脱衣所の設置、客間の増設、そして屋内浴室の増設だ。


「結構広くなりましたね」

 リビングはシステムキッチン用のスペースを広げ、テレビを置ける場所を作った。少し面積が変わるだけで、かなり視野が広がった気がする。

 客間も作った。廊下に出て左側、転移門の部屋の正面だ。南向きの窓にベッドとクローゼットが付いた、2.5m四方の小さな寝室だ。日向が泊まるときはここになる。


 そして廊下の突き当りに脱衣所を新設した。洗濯機を置くスペースも作り、外へ出る勝手口も付けた。晴れた日はウッドデッキで干したいからだ。更に脱衣所から浴室、浴室から外の露天風呂のルートも作った。

「この浴槽は、白樺ゴージャスホテルの物です」
「妙に豪華だと思った。良いではないか」
「エスティちゃん、トイレは?」
「我が家にそんな物はありませんよ」
「おいエス……」
「冗談です。まぁ、ひとまず家電を置いていきましょうか」


 エスティはそう言うと、空間から家電を取り出してきた。

 冷蔵庫、オーブンレンジ、炊飯器、テレビ、ケトル、ドラム式洗濯機……。他にも、買ったばかりの電化製品が次々と置かれていく。

 同じように消耗品や私服も収納していく。引っ越し気分で、エスティは楽しくなってきた。


「エスティちゃん、このシーリングライトは?」

 シーリングライトとは、プロペラのついた照明だ。エスティが気に入って購入していた。

「後で電気屋さんに取り付けを頼もうかと。エアコンも給湯器もですが」


「エス、これはどうする?」

 ロゼが指したのは、猫用のクッションだ。
 皿のような形になっている。

「それは工房の窓際に置いて下さい。ロゼ、あなたのベッドですよ」
「ほう! それは嬉しいな」

 ロゼが尻尾を振りながら、クッションを咥えて運んだ。

「よし、残りは電気屋さんですか」


◆ ◆ ◆


 そして数日後。
 電気屋と水道屋がやってきた。

 彼らの仕事は早かった。

 コンセントを始めとして各家電、それに水道管もあっという間に接続されていった。タンクに水が確保できれば、すぐにでもお風呂が使えそうだ。

 そして簡単な説明が終わるやいなや、請求書を置いて颯爽と去って行った。華麗な職人技だ。


 天井には付いたばかりのシーリングライトがくるくると回っている。耳を澄ましてみれば、キッチンから機械音らしいジーっとした音が聞こえてくる。

「ロゼ、ロゼ。冷蔵庫が動いてますよ」
「あれでいいのだ。エス、ちゃんと説明を聞いていたのか?」
「聞いていましたが、覚えているかどうかは分かりません」
「自慢気に言うことではない」

 エスティは早速、時空魔法で取り出した食品を冷蔵庫の中へと入れ始めた。日向に進められて買った謎食材なので食べ方は分からないが、片付けは楽しい。


 ロゼはテレビを点けていた。
 器用にリモコンをポチッと操作している。

「ん……あれ? テレビ見れるんですか?」
「やはり聞いていなかったか」

 ロゼが言うには、彼等はこの庵に来るまでにテレビ線も電線に伝わせて来てくれていたらしい。

「成典が同時にネットの契約もしたと、彼等は言っていた」
「おおお……お父さんは素晴らしいお父さんです!」


 ロゼが契約の説明一式を持って来た。エスティはそれを受け取り、中身を取り出して読もうとして思い出した。

 文字が読めない。
 文字が絡む事柄は、ほとんど日向が教えてくれていたのだ。

「文字を学ばなければなりませんか」
「日向も暇ではないのだ。我も覚えるとしよう」

 茅野市には良い図書館があると日向が言っていた。今は家の改築を優先したいので、それが落ち着いたら行くことにする。


「しかし、随分と家らしくなったな」
「ええ。一気に生活感が出ましたね。ようやく落ち着いて魔道具開発ができそうです」

 だが、こうして買い揃えても足りないものは多かった。食器類は無いし、ハサミやペンなどの文房具やごみ袋、ティッシュなども無い。


 それでも、何もない状況からここまで来れた。


「満足したら、もよおしてきました。ちょっとお花を摘んできます。ラフレシアではありませんよ」
「宣言するな……って、トイレは結局どこだ?」
「ロゼ、そんな事を魔法少女に聞くんですか? それでも男ですか? ……いえ、いいんですよロゼ。そんなに私と一緒にお花を摘みに行きたかっ」
「あー分かった、悪かった。早く行け!」

 エスティは笑いながら、トイレに向かった。
 しかもロングスカートを脱ぎながら。

 いくつになっても子供のようだ。


 ロゼは見なかったことにし、テレビを点けた。
 戦隊ヒーローのオープニングのようだ。

「あれ、これって最新話じゃ」
「早く行け!!」
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