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日常の変化

18.

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気まずい。
席を離れるタイミングを見失いずっと長谷川部長の隣に座っている。でも一回も目が合わない。
羽柴部長のボディタッチは激しいし、長谷川部長は不機嫌だしこの席凄い嫌だ。今すぐ逃げたい。

「お二人は凄く仲良いですよね~」
「大学も一緒だったとか?」
出た。酔っぱらいのおじさん達が下世話な話題を部長達に振る。

「課は違いましたけどね、サークルが一緒だったんです」
「何のサークルだったんですか?」
室井も話題に乗っかる。

「スキーとテニス」
凄い似合う。長谷川部長の運動している姿を想像したら凄い似合っていた。寧ろ似合わない物はないのでは無いだろうか?

「長谷川君は、寒いのが苦手でね、すぐ鼻が赤くなるのよ」
「羽柴部長もストーブから離れなかったじゃないですか」
「寒くて死にそうだったのよ」
過去の話に花が咲きどんどん話が進んでいく。その度に俺の心臓がきゅーっとなっていく。俺の知らない長谷川部長の話。好きな人の話だから喜んで聞くべきなのだろうが、何故だか今はこれ以上聞きたく無いと思った。
長谷川部長は、ずっと羽柴部長の事を見て面倒そうなのにちゃんと言葉を返している。それが何だか付き合いの長いカップルの様で俺を益々苦しめる。
ふとどうにか長谷川部長にこっちを向いてもらえないか?という思考で頭が埋め尽くされてきた。そこに無防備に投げ出された長谷川部長の左手が目に入ってきた。
部長の第二の性感帯。俺にしか反応しない性感帯。
そっと手を伸ばしちょんと触れてみた。瞬間、待ち焦がれていた部長と初めて目があった。でもその目つきは悪く明らかに怒っている目だ。

「すいません」
思わず謝罪の言葉が出る。
「どうしたの?」
「何でもない。手がぶつかっただけだ」
そう。ただ手がぶつかっただけ。部長の股間を盗みみたが一切反応していない。こんな事は初めてだ。今迄、左手に触れれば一瞬で立ち上がっていたのに。
ああ、俺やっぱりダメだったんだ。気づくのが遅かったんだ。第二の性感帯が反応しなくなる位、俺は嫌われちゃったんだ。
無性に泣きたくなる。それを誤魔化す様に酒を体に流し込んだ。






「では、1次会を解散します!お疲れ様でした~」
地獄の1次会が終わり、すぐ帰る者。次の店に行く者といくつかのグループに分かれた。俺も恭子ちゃんに引っ張られ2次会に参加する事になった。部長達は先輩達と別の店に行くみたいだ。久しぶりに会えたのに明日から年末年始という事もあり、また暫く会えなくなる。
今すぐ部長と話したいが、折角の楽しい場を邪魔するのは無粋だろう。明日まで我慢しよう。その代わり明日は絶対連絡しようと心に決めて次の店へと向かう。
でも先程の左手の騒動を思い出して、段々と気分が落ちてくる。

「恭子ちゃん、やっぱり俺帰る」
「えっ!?珍しいですね」
「うん。ちょっとさっきの店で飲み過ぎたみたい」
「確かにペース早かったですもんね」
「ごめんね、ここまで付いてきといて」
「いえ、無理する方がダメですから!」
「ありがとう。今年一年お世話になりました。また来年も宜しくね」
「こちらこそ!小倉さんにはめちゃくちゃお世話になりました!また来年も宜しくお願いします」
ぺこりと頭を下げた恭子ちゃんに自然と笑みが出る。

「気をつけて帰って下さいね!ゆっくり休んで下さい!良いお年を~」
最後大きく手を振り俺を見送る恭子ちゃんに俺も大きく手を振って返した。
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