ハッタリと適当で世界を救う ~泣きそうだけど最後まで貫く~

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第1章

賢者様の最初の試練

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俺は今、ガクガクと震えながら、ソフィアの顔を見ていた。

「さ、賢者様?」

 ソフィアは、相変わらずのクールな表情で俺を見下ろしている。
 その微笑みは慈悲ではなく、完全に楽しんでいる顔だった。

「最後まで貫くんですよね?」

「……」

(お、お前、絶対この状況を楽しんでるだろ!!)

 いや、正直めちゃくちゃありがたい。
 ソフィアが「お前偽物だから処刑!」と即断しなかっただけで、俺はまだ生きている。
 でも、俺の心はすでに瀕死状態だった。

「な、なぁソフィアさん?」
「なんです?」
「ちょっと待って、俺、このまま"伝説の賢者の弟子"として生きていかなきゃいけないの?」
「当然です」
「いや、それ無理だって!!!」

 叫ぶ俺を、ソフィアは涼しい顔で眺める。

「あなたが今さら"無理だ"と言ったところで、すでに王国全体があなたを信じています」
「ここで"実は嘘でした"と告白すれば――」

 ソフィアは、サッと自分の首を横にスッと斬るジェスチャーをした。

「即、斬首ですね」

「ガクブルガクブル」

 俺は全身が震え、床に座り込んでしまった。

「お、俺にどうしろってんだよ……。俺、本当に戦えないし、魔法も使えないんだぞ……」
「安心してください。戦う必要はありません」
「……え?」

 俺が顔を上げると、ソフィアは肩をすくめて言った。

「伝説の賢者というのは、戦闘力ではなく知識と知略で語られるものです」
「むしろ、戦う必要のない"賢者"という立場だからこそ、あなたのハッタリも活かせるのでは?」

「……おぉ……!!?」

(そうか……! 俺は最強の剣士でもなければ、最強の魔導士でもない……! だが、"賢者"というポジションなら……!!)

「つまり、俺は……頭を使って人を動かせばいいってことか?」

「そういうことですね」

(おおおおお!! なんかいけそうな気がしてきた!!!)

「とはいえ、あなたが完全に無能だと気づかれたら終わりなので、最低限の"賢者っぽさ"は演じてもらいますけどね」

「……」

 俺は一瞬で現実に引き戻された。

「え、えっと……どういうこと?」

「まずは、あなたの"試練"です」

「試練!?」

「"伝説の賢者の弟子"として、王国の前で最初の賢者らしい行動を取らなくてはなりません」

(やべえ、それめちゃくちゃハードル高いやつじゃねぇか!?!?)


---

王国広場:民衆の前で賢者らしさを見せよ!

「賢者様ーーー!!!」
「伝説の賢者の弟子が戻られたぞ!!!」
「この国は救われた!!!」

 俺は今、王都の中央広場に連れ出されていた。
 目の前には、俺の登場を待ちわびる数百人の国民たち。

(ちょっ、いきなり試練がハードすぎるんですけど!?!?)

 後ろに立つソフィアは、涼しい顔で俺に囁く。

「さぁ、賢者様。"最初の言葉"をどうぞ?」

(おい、ハードル高すぎだろ……!!)

 民衆たちが、息を呑んで俺を見ている。
 期待に満ちたその眼差し。
 これで変なことを言ったら、即終了確定。

(あ、頭を回せ……!! 何か、それっぽいことを……!!)

 必死に考える。

(……待てよ? こういうのって、難しいこと言わなくても、シンプルなやつのほうがウケるんじゃねぇか?)

 俺は一か八か、手をゆっくりと上げた。

「――皆の者」

「おおおおおおお!!!」

(よし、なんか知らんけど盛り上がった!!)

「私は、しばしの間、この地を離れていた……」

「おおおおおおおおおお!!!!」

(やべぇ、めっちゃ感動されてる!!)

「だが、今、ここに帰還した」

「うおおおおおおおおお!!!!!」

(ウケたァァァァァ!!!)

「お前ら、何も知らないのに感動しすぎだろ!!!」

 とは口に出せない。
 必死に表情を崩さないようにしながら、俺は最後にもう一言。

「――安心しろ」

「……!!」

「この国は、私が導く!!」

「うおおおおおおおおおおおお!!!!」

(よっしゃああああ!!! なんか知らんけど大成功!!!)

 俺のハッタリは、民衆の期待を超えて"伝説"として受け入れられた。

 そして――。

「賢者様……やはり、あなたは本物ですね……!!」

 後ろにいたソフィアが、呆れたような微笑みを浮かべながら小さく拍手した。

(いや、今の全部適当だったんだけど!?!?)
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