スマホ片手に異世界ライフ! ~神様のアプリで無敵冒険者~

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第1章

大きな魔石

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朝焼けが街の石畳を照らし始めた頃、サーレント東門には、十数名の獣人傭兵たちが集まっていた。
槍を持つ者、爪を装備した者、背に弓を携えた者――
皆、慣れた足取りで集結し、統率された動きで出発していった。

「……結構な人数ね。これじゃあ、獲物は傭兵団に取られそう」

リィナが口を尖らせる。

「だな。俺たちは別行動でいい。あくまで“目標”は魔石の確保、戦果の誇示じゃない」

「了解。森に入るわよね?」

「ああ、ちょっと街道を外れた東の林の奥。この辺、魔力の濃さが違ってた」

そう言って、ガアラはポケットからスマホを取り出す。

すでにこの地域のマップ情報はアップデート済み。
地図アプリを開き、周辺の魔力反応をサーチモードで確認する。

> 【マップ更新完了】
【周囲半径1km範囲内に複数の魔力反応を検出】
【大型個体:東南東600m先、魔力量突出/反応名:不明】
【座標ピン登録完了】



「……いたな。ちょっと先に、でかいのが一体。多分、中型以上のやつ」

「よし、道なき道でも行くわよ。あたしらは静かに動けるし、奇襲は得意」

「魔石は無傷で持ち帰りたい。なるべく魔法は最小限にして、物理でいけるなら剛力でいく」

ガアラは剣の柄に軽く手を添えた。

リィナは短剣を太腿のホルダーに差し直し、笑う。

「さて、今日も“稼ぐ”わよ。魔法陣、動かすためにもね」

 



街道をそれ、森へ踏み入る。

木々の間は薄暗く、地面には落ち葉と小石が混じり、足元の感触が絶えず変わった。
風はなく、だが空気は重く、生き物の気配が漂っている。

「気配察知アプリも連動させてある。30メートル以内で通知が来る」

「頼りになるわね、あんたのスマホ……もう神器でしょそれ」

「たぶん神様がいじってるっぽいしな……」

ガアラが苦笑しながら画面を確認すると、登録されたピンがゆっくりと近づいてきていた。

> 【対象座標との距離:約130m】
【反応強度:安定/動きなし】



「……動かない。巣か?」

リィナが手信号で静止を伝える。

二人は地を這うように低くなり、茂みの影から前方を伺う。

 



見えた。

苔むした岩場のくぼみ――
そこに、トゲだらけの灰色のトカゲのような魔物が、身体を伏せていた。

背中の骨のような突起は固く光り、皮膚は地面と同化するように鈍く沈んでいる。
尾は岩を巻き込んでいるように太く、頭部は獣のような鋭さと爬虫の鈍重さを併せ持っていた。

> 【解析完了:魔物名:ガルヴァストーン】
【等級:A- 分類:地属性・重甲種】
【弱点:喉下軟皮部/魔石含有量:高】
【AR対応表示:ON】



「……あれだな。あれなら、魔石の条件を満たしてる」

「重そう。だけど、動きは鈍そうにも見える……いける?」

「やるしかないな。あいつを仕留めて、魔石を手に入れる」

ガアラは静かに剣を抜いた。
リィナはその背を守るように、反対の角度から回り込み始める。

風のない森に、緊張が走る。

狩りの始まりだった。


ガアラはゆっくりと息を吸い、肺の奥まで冷たい空気を取り込んだ。

重く静まり返る森――
その中心に伏している“それ”は、まるで岩の塊のように動かない。

だが、わずかに震える鼻先、耳のようにぴくりと揺れる突起――

(寝てるわけじゃない。……こっちに気づいてる)

それを確信した瞬間、ガアラは動いた。

一気に地を蹴り、低く構えたまま斬り込む――!

ザッ!

剣が走る。

だが、硬い。

「……ッのやろッ!」

ガアラの一撃は背の装甲に弾かれ、火花を散らすだけだった。

「やっぱり背中はダメね! 軟皮部を狙わなきゃ!」

リィナの声と同時に、ガルヴァストーンの尾が閃く。

ブンッ――!

大地がうねるほどの一撃が、ガアラを狙って振り下ろされた。

「ぐっ――!!」

跳躍して回避。

その直後、地面がえぐれるように砕け、粉塵が舞い上がる。

「おいおい……一撃でこの威力かよ……!」

「動きは鈍いけど、破壊力はヤバいわよ!」

リィナが左右から回り込み、短剣で後脚の関節を狙う――!

シュッ!

だが、脚の動きに弾かれる。浅い。

「くっ、反応も悪くない……! これ、真っ正面からは無理よ!」

「だったら――上を取る!」

ガアラは木の幹を蹴り、枝に飛び移り、さらに一気に跳躍!

高所から一気に急降下――!

狙うは首筋、喉元の下――
装甲のつながりが緩んだ、一瞬の“狭間”。

「――行けっ!」

ガアラの剣が光を反射しながら振り下ろされる。

ガキィンッ!

一撃目、浅い。

ガキィ――!

二撃目、ようやく肉に届いた。

「まだ……!」

剣に力を込め、剛力スキルを限界まで発動!

「おおおおおおおっっ!!」

――ズバッ!!

刃がめり込み、ガルヴァストーンの喉下を裂く!

グオオオオオッ!!

悲鳴のような咆哮が、森全体を震わせた。

ガアラは着地し、すぐさま身を低くする。

魔物がのたうち回り、木々をなぎ倒して暴れる――!

リィナが横合いから飛び込んだ。

「今っ――!」

跳躍一閃、短剣で関節を裂く!

バギッ――!

支えを失った脚が崩れ、ガルヴァストーンがぐらつく。

そして――

ドサァ……!

巨体が地に伏した。

 



静寂。

森に再び、風が戻る。

ガアラは息を切らしながら、倒れた魔物の胸元に手を当てる。

「……動かない。完全に沈黙した」

「はぁ……死ぬかと思った……!」

リィナも膝に手をつき、肩を上下させる。

「無傷じゃ済まなかったが……魔石、無事だな」

ガアラは剣の先で胸部を切開し、深部から大ぶりの魔石を慎重に取り出した。

紫に近い濃い青色――
核の中心にきらりと金色の芯が通っている。

「これは……上物よ」

リィナが見て、思わず唸る。

「よし。これで、転送魔法陣、動かせるかもしれないな」

二人は、互いの傷を軽く確認し合いながら、頷いた。

森に響く風が、勝者たちの汗を拭い去っていく。



日が傾きはじめた頃――
ガアラとリィナは、サーレントの門をくぐり、風の猫亭へと戻ってきた。

二人の背中には疲労があったが、それ以上に――達成の手応えがあった。

「ただいま戻った」

宿のカウンターに顔を出すと、宿の主はほっとしたように笑みを浮かべた。

「帰ってきてよかった。昨日、傭兵団の一部がけっこう苦戦したって話でね。心配してたよ」

「ま、こっちは何とか稼ぎも済ませてきたわ。獲物は――一匹だったけど“上物”よ」

リィナが涼しい顔でそう言い、ガアラは手提げ袋から布に包んだ魔石を取り出した。

「……これです。目的の“燃料”、確保しました」

 



宿の一室、テーブルの上で光を放つ魔石を、ルークがまじまじと見つめる。

「……これ、ほんとに“天然”? すごい……魔力密度が高い上に、性質が安定してる……!」

「これだけの魔力量なら、転送陣の再起動は可能です。しかも誤差も少ない」

エリシアも頷きながら、拓本と照らし合わせるように計算式を書き連ねていた。

「朝には全部準備整うわ。明日、転送陣の遺跡へ再び向かいましょう」

「了解。……じゃあ、今日はゆっくり休んでおくか」

そう言いかけたところで――

トントン。

扉が小さく叩かれた。

「……誰だ?」

「ガアラさん……いますか?」

か細く、だがはっきりとした少女の声。

「……ミーナ?」

ガアラが扉を開けると、そこには――あの黒い外套の少女と、
少し顔色はまだ浅いが、まっすぐに立っている青年がいた。

「……兄貴、今日の昼間、目が覚めたんです。……ちゃんと、立って、歩けるようにもなって……!」

「本当に……助けてくださって、ありがとうございました。俺の名前はカイルって言います。
妹から、ガアラさんに命を救われたって聞いて……どうしても、一度礼を言いたくて……」

ガアラは少し照れくさそうに頭をかいた。

「俺はたいしたことしてない。たまたま“治せる手段”があっただけだ。
……でも、元気そうでよかったよ」

ミーナは笑顔で、胸に銀貨袋をぎゅっと握りしめていた。

「ふたりでちゃんと、パンとスープ、食べたんです。お腹いっぱい! ……すっごく美味しかった!」

「そりゃ良かった」

「……それで、もうひとつ。これ、ほんのお礼です」

ミーナは手提げの袋から、小さな木彫りの動物を取り出した。
不器用な彫りだが、耳の大きな獣がこちらを見上げているようだった。

「お兄ちゃんが作ってくれたんです。彫り物、得意で……ほんの気持ちだけど……!」

「もらっておくよ」

ガアラは木彫りの人形を受け取り、じっと見つめて――小さく笑った。

「……ありがとう。大事にする」

 



ミーナとカイルは深く頭を下げ、宿をあとにした。

部屋の中、テーブルには魔石と、木彫りの小さな贈り物が並んでいた。

「……なんだかんだで、いい一日だったんじゃない?」

「たしかにな」

リィナが湯を注ぎながら呟いた。

「明日、転送が成功すれば……ようやく、元の場所に戻れるかもしれない」

「……けど、何となく、終わりじゃない気がする」

ガアラは窓の外を見ながら、静かに言った。

月が、異国の街を照らしていた。



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