スマホ片手に異世界ライフ! ~神様のアプリで無敵冒険者~

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第1章

崖王

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「……あれ、先に動いたの、別のパーティーじゃない?」

リィナの声に、ガアラは視線を崖道の上に向けた。
確かに、岩肌を慎重に移動する人影が2つ。
青みがかった軽鎧を着た青年と、後ろには回復杖を背負った魔法使いらしき女。

「先に見つけられたか……だが、相手の力量が読めねぇな」

「うん。オーガを“なめてる”感じの動き」

ふたりが見つめる中、クリフ・オーガはゆっくりと立ち上がった。
その巨体が全貌を現すと、空気が一瞬止まったように感じる。
獣ではない。“重みのある存在”だった。

「うわっ、やべっ、デカ……!」

「構えろ! 来るぞ!」

青年が剣を構え、オーガの一撃を受け止めようとする。
だが――

ドゴォン!

棍棒が空を裂き、青い鎧の男が吹き飛んだ。
崖壁に叩きつけられ、そのまま動かなくなる。

「だめだっ! あれはっ――っ!!」

女性魔法使いが叫ぶも、恐怖で手が震えている。

ガアラは一瞬で判断した。

「行くぞ、リィナ!」

「了解!」

崖道を滑るように走り、傷ついた男の前に滑り込む。
オーガの棍棒が再び振り下ろされる――

「――ライトジャベリン!」

ガアラが構えもせずに呪文を唱え、光の槍が軌道を逸らせるように閃光を放つ。
オーガがわずかに腕を逸らした隙に、リィナが滑り込み、男の腕を引っ張って崖から離す。

「うっ……はぁっ……っ!」

「しっかりしなさい、まだ終わってない!」

魔法使いの少女がリィナに続くように駆け寄り、必死に体を支える。

ガアラはオーガを睨んだが――その巨体はもう戦意を失っていた。
鋭い視線を一瞥し、棍棒を肩に乗せて、岩の間へと姿を消していく。

「……逃げたか」

「逃がした、が正しいかもね。今の光、たぶん効いた。警戒された」

 



ガアラは倒れている青年の顔色を見る。
肩口が派手に折れている。呼吸はあるが、唇が紫がかっていた。

「“リカバリー”」

光魔法が静かに男の体に流れ込む。
青白かった肌に血色が戻り、口から荒い息が漏れた。

「……た、助かった……」

魔法使いの少女が、思わず涙ぐんだような目でガアラを見る。

「どうして……助けてくれたんですか……?」

「そっちがやられそうだったから。それだけだ」

「……名前、聞いてもいいですか?」

ガアラは少し黙ってから、言葉を選ぶように答えた。

「――ガアラ。冒険者だ。あんたらは?」

「わたしはサラ。こっちは兄のゼネ。グラースから……依頼受けてきてたんです」

「そうか。じゃあ……命、拾ったな」

青年――ゼネはまだ立てないが、目に力が戻っていた。

リィナがふっと笑って肩をすくめる。

「まったく。まさかあんな無謀な突っ込みを、ここで見るとはね」

「ま、これも冒険者だな」

ガアラは剣を背負い直し、空を見上げた。

まだ終わっていない。

クリフ・オーガ――あの“崖王”を仕留めなければ、エリシアの依頼は完了しない。

「行こう、リィナ。仕切り直しだ」

「了解。また、あのバケモノに挑むのね。やれやれ……楽しくなってきたじゃない」

 

ガアラとリィナは、岩の間へと再び歩みを進めた。

背後から聞こえた少女の小さな声。

「ありがとう、ガアラさん……」

その声は、風に乗って、崖の静寂に溶けていった――。


「……いた」

岩陰を抜けた先の広い崖棚で、クリフ・オーガが再び姿を現した。
棍棒を肩に乗せ、こちらを睨むように立ち尽くしている。
だが、前回の一戦で生じた傷は、すでにほとんど塞がっていた。

「回復……してる」

「完全に回復持ちってわけじゃないけど、時間が経てばある程度は戻るのね。面倒な奴」

 



AR支援が起動され、敵の動作パターンを先読みして戦う。
ガアラとリィナは息を合わせ、クリフ・オーガの隙を突くように斬撃と回避を繰り返す。

剣術Lv6の技量と、予知回避によるギリギリの回避。
そしてARの表示が、オーガの攻撃動作の0.3秒先を描いていた。

「はぁ……っ! どうしても倒しきれない!」

ガアラの斬撃が肩を裂いても、オーガは膝をつかない。
何度も何度も攻撃を繰り出すが、その巨体は倒れる気配を見せない。

「心臓を狙えば……一撃、入るかも。でも――そこに魔石があるなら、殺さないと手に入らない」

「逃げられたら終わり、ってことよね」

ARが示すラインの先――
オーガの左胸、肋骨の奥、心臓の真横に“高密度魔力反応”があった。

「魔石は……あそこにある」

「つまり、“倒すしかない”ってこと」

オーガが吠え、棍棒を掲げる。
再び戦闘が激化する――!

 



だが、傷は深い。オーガは動きが鈍っていた。

「リィナ! 左肩から斬り込む!」

「任せなさい!」

ガアラが踏み込み、オーガの腹部に斬撃。
その一瞬の硬直を突いて、リィナの短剣が肩に突き刺さる――!

だが、それでも崩れない。
クリフ・オーガは膝をつき、息を荒くしながら、再び棍棒を振り上げる――!

「くそっ……まだ、倒れないのかっ!」

予知回避のアラートが点滅する。攻撃がくる。
だが、その軌道は“自分たちでは止められない”。

「――引け!」

ガアラはリィナの手を引いて、すんでのところで崖から転がるように距離を取った。
オーガの棍棒が地面を砕き、土煙が立ち上る。

視界が晴れるころには、オーガはすでにその場を離れていた。

「……逃げられた」

「……でも、あれだけの傷。次は“確実に”仕留められる」

 



ふたりはその場に座り込み、荒い呼吸を整える。

「しっかりトドメを刺しに行くわよ。」

「ああ。中途半端じゃ、ダメだ」

「次で終わらせるわよ。あの“崖王”に……引導、渡してやる」

崖の風が、静かに二人の前髪を揺らしていた。


---

崖の静寂を裂くように、鈍く響く足音が近づいてきた。

「……来た」

リィナの声が張り詰める。
視界の向こう――岩肌の奥から、巨躯の影が現れる。

クリフ・オーガ。
幾度も対峙したこの魔物の姿に、ガアラの中に宿るのは恐怖ではなく――覚悟だった。

「今回は、逃がさない」

ガアラは剣の柄を握り直し、スマホを腰に挿し込む。
戦闘支援モードが自動で起動し、AR表示が視界に重なる。

左胸奥――
あの場所に“魔石”がある。

倒さなければ、手に入らない。
“命”を奪う――その選択を、今、下す。

 



「行くよ!」

ガアラが崖を駆け上がる。
リィナもそれに続き、ふたりは左右に分かれて接敵する。

オーガが構えを取り、棍棒を大上段に振りかぶった。

「避けろ!」

「“予知回避”!」

ARが示す警告ラインを信じ、ガアラは左に飛ぶ。
リィナも低く地を這うように前転、真横を棍棒が轟音と共に通過する。

ドゴォン!!

岩が砕け、土が舞い上がる。
だが、その煙の中からガアラが突っ込んだ。

「膝、潰す!」

ズバッ!

剣がオーガの膝裏に食い込み、巨体が一瞬よろける。

リィナが跳ねるように回り込み、逆の脚に短剣を滑らせる。

「止まりなさいよ、“でかブタ”!」

咆哮。
棍棒を振り回す動きが荒くなり、隙が生まれる。

「……見えた!」

左胸奥、ARが強調する一点。

そこに向けて――ガアラは跳躍した。

「オォォォォラアアアッ!!」

全身の筋力を“剛力Lv5”で最大限に強化。
勢いと重量を一閃に乗せ、斜め下から左胸をえぐるように斬り上げた――!

グシャアアアアアッ!!

肉を裂き、骨を砕き、刃が確かに――心臓部へ届いた。

オーガの体が大きくのけぞる。
地を揺らすような唸りを上げ、棍棒を落とした。

「まだ……っ!」

剣を抜き、もう一撃、腹部に斬りつける。

オーガの膝が崩れる。
呼吸が止まり、口から濁った息が漏れ――

――崩れ落ちた。

 



「……終わった、のか……?」

息が荒い。汗が滝のように流れている。
けれど、確かに――勝った。

リィナが駆け寄り、無言で肩に手を置く。

ガアラは深く息を吸い、ゆっくりと、魔石の位置を確認した。

左胸。そこに、紫色の脈動が見える。
慎重に刃で肉を割き、奥から、手のひらほどもある深紅に近い魔石が姿を現した。

「……あった」

リィナがそっと布を差し出す。

「包んで。直接触ると、魔力が吸われるわ」

「……ありがと」

 



ふたりは崖に座り、ようやく一息をつく。

「にしても……やっぱり強かったね、あいつ」

「ああ。剣が折れてもおかしくなかった」

「何度か“終わった”と思ったもん」

静かに風が吹く。
ガアラは空を仰いだ。

「でも、これで……やっと、戻れるな」

「うん。エリシアに、この魔石、渡して」

「……次の準備を始めるか」

リィナが立ち上がり、ガアラの手を引くように言った。

「行こう、相棒。今日はもう、帰って休もう」

「そうだな。少しだけ、ぐっすり眠りたい気分だ」

ふたりの足取りは、少し重く、けれど確かな強さを帯びていた。

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