スマホ片手に異世界ライフ! ~神様のアプリで無敵冒険者~

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第1章

不穏

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【王都・政庁区画外れ/深夜】

 石畳を踏む足音が響く。王都の政庁区画は昼とは打って変わって静まり返っていた。

 灯火の届かない裏路地を抜け、さらに奥へ。

「……この先だ。魔力の反応は、政庁の裏庭に近い……廃寺跡の方角」

 ガアラがスマホの表示を確認しつつ、低く呟く。

 カリアが緊張を帯びた声で囁く。

「王都の中でも結界が強い場所よ。そんな場所に“外から干渉”できるなんて――正気じゃない」

「正気だからこそ、やってるのかもな。目的がある以上」

 やがて、木々に囲まれた古びた寺院跡にたどり着く。

 苔むした石畳、崩れた柱。月光すら差し込まないほどの影があたりを包む。

「……いる」

 リィナが低く言った。

 ガアラたちは木陰に身を潜め、ARで“熱源”を確認する。

 《三人。フード付きのローブ。中央に魔法陣らしき構造》

 その中心では、ひとりが呪文のような響きで唱えていた。

「……集え、深き夜の記録よ……門を、再び開かせたまえ……」

 紫色の魔力が、地面に浮かび上がる魔法陣へと流れていく。

「……あの魔方陣、何かの“召喚”か?」

「……違う、これは――」

 ルーンを読み取ったカリアが息を呑む。

「“記憶再現式魔方陣”。この場所に過去存在した結界記録を呼び起こし、別の座標へと転写するための……」

「つまり、王都の結界そのものを、誰かの拠点で“再現”しようとしてる……?」

「そんなことが……本当に可能なら……王都の守りを、“外から”丸裸にできる」

 その時だった。

「誰だ」

 低く、響く声。

 ローブの一団のひとりが、こちらに顔を向けていた。

 闇の中でも、白く光る“仮面”が見えた。

(……あれは、黒の根城で見た奴らと……同じ)

 フードの影から、冷たい魔力の波動が放たれる。

「排除するか。まだ“完全”ではないが……」

 ガアラはすでに剣を抜いていた。

「やるしかないな」

 


 敵は三人。全員が、隠密行動と“時間稼ぎ”を得意とする戦法だった。

 一人が巨大な魔力障壁で正面を塞ぎ、もう二人が高速で後方から回り込む。

「くっ、速い!」

 リィナが避けながらカウンターを狙うが、敵はほとんど無音で動く。

 ガアラは【ARパリィ】を起動し、剣撃を読み合う。

 ガキン!!

「っ……重い! こいつ……見た目以上に技量ある!」

 さらにもう一人が、結界構造に干渉する“符術”を地面に投げる。

 爆ぜる結界。足元の魔力が一気に乱れる。

「フィールドの制御を壊してきてる……!」

 その時――カリアが叫ぶ。

「ガアラ、後ろ!」

 振り返った瞬間、フードの男が接近していた。

 ――ズバッ!!

 だが、その斬撃は寸前で止まる。

 仮面の男は静かに言った。

「……記録完了。これ以上は不要」


 仮面の男たちは、結界が乱れたのを確認すると、即座に後退しはじめた。

「下がるぞ。追撃は想定外だ」

 一人が短く言い捨て、残りの二人も魔法の残滓を巻き上げながら身を翻す。

「待てっ――!」

 ガアラが追おうと一歩踏み出す。

 だが、直後に地面から黒煙が噴き上がり、視界が一瞬で塞がれた。

「煙幕!? ちっ……!」

 AR支援でも視界の回復が追いつかず、視認不能。

 煙が晴れたときには、ローブの三人はすでに姿を消していた。

「……逃げられたか」

 リィナが剣を納め、警戒を解かずに周囲を見回す。

 カリアが地面に落ちていた“焦げた紙片”を拾い上げた。

「……文様が一部残ってる。転移じゃなく、ただの煙と脱出用の印ね」

「つまり、今回は“準備中”だった。まだ動き出す前だったからこそ、逃げた……」

 ガアラは息を整え、剣を肩に乗せた。

「だが、これで確定だな。王都の中に、結界そのものを再現しようとする勢力がいる。そして、やっぱり“あの仮面”の連中だ」

「情報が漏れてない分、余計に厄介ね……」

 夜の静けさの中、風が一陣、崩れた寺院跡を吹き抜けていく。

 ガアラたちは、王都の“見えない敵”がすでに動いていることを、確かに感じていた――。


 ---

 寺院跡から帰還したガアラたちは、すぐにエストバーン子爵家の屋敷へと報告に向かった。

 応接室にはランドルが一人で待っていた。

「お帰り。……さて、何か収穫はあったか?」

「“仮面の男たち”が、王都で動いてる。転送陣を模した結界の痕跡もあった」

 ガアラが簡潔に報告すると、ランドルの顔が険しくなる。

「……となると、王都の内部に協力者がいる可能性が高いな。結界の構築には、高度な魔術知識が必要だ。一般人や冒険者の手には負えない」

「そっちの情報は?」

「議会派の一部に、どうも“魔術の民”と呼ばれる古い流派に接触している動きがある。裏から金が流れてるらしい」

「議会派が“魔術の民”と……」

 リィナが眉をひそめる。

「彼らは王族に仕えていた古の学派だったはず……それが、いまさら?」

「本来ならただの伝承で終わるはずの名前だ。だが、“仮面の連中”が動いてる今、関連を疑わざるを得ない」

 ランドルは静かに椅子にもたれた。

「王都の表舞台は、“議会派”と“王党派”が日々争っている。だが、問題は表ではなく、その下――“第三の派閥”だ」

「“中立派”……だな?」

 ガアラが言うと、ランドルは頷く。

「表向きは経済・技術中立を掲げる者たち。だが、彼らの中には“混乱”を望む連中もいる。王族にも議会にも属さず、むしろ崩壊後の再構築を狙ってるような……」

「つまり、“黒幕”がいるとしたら――そこ、か」

「その可能性がある。……今はまだ証拠が薄いがな」

 ランドルの声は冷静だったが、その背後に確かな緊張があった。

「これ以上、王都が混乱すれば、王国の防衛線が崩れる。“異形”と戦っている場合じゃなくなる」

「それだけは、絶対に避けなきゃならない」

 ガアラは拳を握った。

「王都の崩壊は、すなわち――“終わり”だ」

 ランドルは立ち上がった。

「明日、議会派のある男と会う。……お前たちも“護衛”という名目で同行してくれ。会話の内容をお前たちの目で見ておいて欲しい」

「わかった。任せてくれ」

「気をつけてね、ガアラ」

 カリアが小さく笑いながら言う。

「いやな予感しかしないわ、貴族の会合なんて」

「同感だ」

 リィナが剣の柄を握りしめる。

 

 こうして――
 ガアラたちは、王都の“内側”へと踏み込んでいく。
 仮面の男、議会派、魔術の民――
 すべての線が、静かに、ゆっくりと、ひとつに繋がり始めていた。


 ---

 迎賓の間にて――

 王都・議会塔の一角。重厚な扉が開くと、そこに現れたのは議会派幹部――クラウス・ジェダル伯爵。

 鋭い目元と灰銀の髪、整った髭をたくわえ、堂々たる威圧感を放ちながら、ゆったりと応接室に入ってきた。

「……お前か、ランドル・エストバーン。子爵の身分で、ずいぶん大層な報告を携えて来たものだな」

 クラウスは椅子に腰を下ろすと、足を組んだまま冷ややかに言った。

「先般お伝えした件について、調査結果の一端を持参いたしました」

 ランドルは礼を取りつつも、声は抑えきれない緊張を帯びていた。

 クラウスは受け取った魔方陣の拓本と測定記録を一瞥し、鼻を鳴らす。

「……ふん。確かにこれは興味深い。
 だが、これだけで“王都から持ち出された”と騒ぐには、少々お前の格が足りんな」

「……承知しております。あくまで、報告と判断を仰ぐために参りました」

「分を弁えているならよい。
 この件、議会派で預かってやる。ただし――余計な真似はするな。
 お前のような若造が出しゃばれば、それなりの“代償”を払うことになるぞ」

 クラウスの声は静かだったが、鋭い刃のような重みがあった。

 ランドルは深く頭を下げたまま、何も言わなかった。

 

 廊下に出た後、彼はひとつ息をついた。

「……やっぱり、あの爺さんは一筋縄じゃいかねぇ」

「だが、お前の言いたいことは伝わったみたいだ」

 と、ガアラが声をかけると、ランドルは苦く笑った。

「伝わったってのは、“利用価値あり”って意味だ。俺たちは、もうこの“渦”の中だぞ」

 

 王都の底で、貴族たちの暗闘が静かに幕を開けようとしていた――。


 ---

ランドルの屋敷・応接室

夜。王都ベンデックスの貴族街に構える、エストバーン子爵家の屋敷。
広すぎず、だが気品ある佇まい。
その応接室に、ガアラ、リィナ、カリアの三人が通された。

目の前の椅子には、ランドル・エストバーン子爵。
背筋を正しつつも、若さを感じさせる彼は、すぐ隣の老執事・ガンドルフと共に耳を傾けていた。

「――“仮面の男たち”だと?」

「王都の外、グラースの近郊でも何度か対峙しました。
共通して言えるのは、“異形の生成”や“魔物の強化”といった魔術的な工作に長けているということ。
今回の王都での襲撃も、類似の術式痕跡がありました」

リィナが言葉を継ぐ。

「直接的な証拠はないけど、裏で“何か”を仕掛けてる気配は濃厚。
最近の王都の治安悪化とも、無関係とは思えません」

ランドルは腕を組み、眉間に深く皺を寄せた。

「……議会派か」

「議会派?」

カリアが首をかしげる。

老執事ガンドルフが静かに説明を始めた。


---

◆王都三大派閥の構図(詳細)

1. 王党派
 現王家を中心に据え、国家権力を“血筋”で支えようとする保守派。
 貴族の中でも由緒ある大貴族が主に所属。
 主導者:王族付き宰相、および“剣聖”ヴァルゼル。


2. 議会派
 有力貴族や豪商が力を持ち、“能力”や“資本”を優先した政務改革を進めようとする勢力。
 現在、王都での発言力が強い。
 筆頭:バルゼン伯爵(現在の実質的な行政長官)


3. 中立派(穏健派)
 どちらにも明確に属さず、仲裁と調整を得意とする派閥。
 多くの地方貴族や学術院関係者が属する。




---

「議会派が“王都の防衛結界”の運用変更を進めようとしているのは知ってるな?」

「……聞いたことはあります。何か、問題が?」

ランドルは静かに頷く。

「王都の防衛結界は本来、“王家の血”を持つ者の魔力を基幹にして張られている。
その要となる“結界核”に手を入れようとしている。
名目は『効率化』だが……本音は、王権の根本を握ろうとしている可能性がある」

「その結界が……乗っ取られたら?」

「王都の制圧は容易になる。しかも外部からの侵入にも脆くなる。
王城の剣聖ヴァルゼルがいる限り、一斉蜂起など不可能だと思っていたが……
結界が破られ、混乱が起きれば、“誤射”や“異常”という名目で王家に手を出す口実ができる」

ガンドルフが重く頷いた。

「つまり、“内側”から王都を崩す計画が進んでいると?」

「……そう考えて間違いない。
そして――“仮面の男たち”は、その計画に深く関わっているはずだ」

 


一同は言葉を失っていた。

やがて、ガアラが低く呟く。

「……この国、ヤバいな」

「そうだな。だが――まだ間に合う。
この件に関して、私の父には連絡を取っておく。
そして、君たちには……“剣聖”の動向を注視してもらいたい」

「……剣聖?」

ランドルは頷いた。

「彼が動けば、何かが“始まる”。
逆に言えば、彼が動かなければ……“本当の危機”はまだこれからということだ」

 

その夜――

王都の空は、雲に覆われていた。
静かながら、どこか“きな臭い風”が吹き始めていた。


---
朝の王都は一見、いつも通りの活気を見せていた。
だが、注意深く耳を澄ませば――噂話の中に、かすかな異変が混じっていた。

「昨夜、兵舎前で見張りが倒れてたらしいよ」 「魔物の爪痕みたいな傷だって話だ」 「でも門番は“犬に噛まれた”って誤魔化してるらしいぜ?」

「市場周辺で魔力障壁の誤作動が起きたらしい」 「いや、あれは誰かが“故意に魔力を流し込んだ”って噂も……」

ガアラは、リィナと並んで街の噴水広場を歩きながら、周囲の声に耳を傾けていた。

「……動き出してるな、何かが」

「昨日の話とつながってると見て間違いない。あたしも妙な魔力の残り香を感じた」

「これが“結界干渉”ってやつか?」

「結界の内部から、誰かが魔力を注いで“揺らし”てる感じ」

そのとき――

ガアラのポケットが微かに振動した。

> 【通知:高密度魔力の干渉を検出】
【王都南部地区・第七障壁ノードに異常な魔力集中】
【推定:結界核の制御干渉または外部侵入用の開放処理】



リィナが画面を覗き込んだ。

「……来たわね、スマホの解析結果。もう間違いない。王都の防衛結界が“内部から”いじられてる」

「まさかこの時間に、ここまであからさまにやるとはな……」

「まだ“実験段階”だと思う。反応は断続的。けど、誰かが“仕掛けてる”のは間違いない」

「ランドルに連絡を。……ん?」

ガアラは、目の前の大通りの向こうに視線を向けた。



石畳を行き交う貴族たちと、整然とした露店の列。
その中に――異様な空気が混じっていた。

「……なあ、なんか騒がしくないか?」

ガアラが首をひねると、広い通りの先で人だかりができていた。
中心には、大きな商会の建物。その前で、何人もの男たちが怒鳴り合っていた。

「おい商会の連中! てめぇら、また取り分を誤魔化してんじゃねぇだろうなッ!」

「ふざけるな! 契約書通りに払ってる! そっちのゴロツキどもがどれだけ無理を言ってきたか!」

ガアラとリィナは群衆の中から様子をうかがっていた。

「ただの口論……じゃないな。剣、抜いてる」

ガアラがつぶやく。確かに数人の男たち――筋骨隆々の用心棒らしき者たちが、手に剣を下げていた。
対するは、粗末な革鎧のならず者風の一団。すでに刃を抜いている者もいた。

「まずい、斬り合いになる……」

次の瞬間だった。

「……あれ……あの男……」

リィナが小さく呟く。

一人の男が、群衆をかき分けて歩いてくる。

白銀の短髪。黒の軽装の外套。背筋はすっと伸び、剣を背負っているわけでもない。
だが――周囲の人々が、ざわめいた。

「……あれ……あの人、見たことあるぞ……」
「まさか……王城の……あの方……」
「剣聖ヴァルゼル様……!?」

ガアラが聞き耳を立てた。

(……剣聖?)

男――ヴァルゼルは何も言わず、騒ぎの中心へと歩み出た。

「なんだてめぇ……関係ねぇなら引っ込んでろッ!」

怒声と共に、ならず者の一人が剣を抜き、真っ向から振りかぶった。

ヴァルゼルは――動いた。

右手をふわりと前に出す。

シュッ――

金属音と共に、ならず者の剣がふっと逸れる。
ヴァルゼルの手が、斬撃の軌道をまるで“風を払う”かのように、横へずらした。

そのまま、拳が軽く男の顎を打った。

ガッ。

「……ごぶっ……!」

ならず者は、膝から崩れ落ち、白目をむいて倒れた。

「なっ……! あいつ……剣も抜かずに……ッ!?」

他の者たちが吠えるように突っ込んだ。

三人、四人、刃を振りかざしてヴァルゼルに迫る。

だが――

ヴァルゼルは、微動だにせず。

それぞれの剣を、“指先”で弾いた。
まるで“子どもが水を払うような動き”。

ズッ、ズン!

金属が悲鳴を上げて撥ね返される音と同時に、拳が走る。

肋骨、顎、腹、肩口――
的確に、非致死だが動きを止める一点にだけ力が注がれる。

ならず者たちは、呻く暇もなく次々と崩れた。

「う、うそだ……こいつ……!」

「化け物かよ……ッ!」

最後の一人が叫び、狂ったように剣を突き出す――

しかし、突きが届く寸前、ヴァルゼルの右手が、その剣の柄を“押さえた”。

「――武器を振るう理由を、見誤るな」

低く、静かな声。

ズドッ!

次の瞬間、男は腹に掌底を受け、空中を舞って地面に転がった。

通りに沈黙が降りた。

――全員、無傷ではない。
だが“致命傷”は、ひとつもない。

まるで“計算された制圧”。

周囲の衛兵たちが駆け込み、ヴァルゼルに会釈してならず者たちを拘束していく。

ガアラは、ただ呆然とそれを見ていた。

「……なんなんだ、あの人……。あれが、“剣聖”……?」

「ううん。あれは……“剣”すら抜かない“王都最強”。伝説でも、現実でも、目の前にいる人だよ」

リィナが静かに応えた。

その場にいた全員が、誰一人――“反論”できる者はいなかった。

まるで、王都そのものが彼の“鞘”であるかのように。


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