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第1章
ボア狩り
その翌日。
村の広場で腰を下ろしていた太賀に、見覚えのある農夫が声をかけてきた。
「おう太賀、今日ヒマか? 男手が欲しいんだが、狩りに行かねぇか」
「狩り、ですか?」
「ああ。明後日の祭りに使う肉が足りなくてな。山の方にボアが出たって話で、狩りの得意な連中が今朝から出てんだが……どうにも数が足りねぇ」
「……わかりました。手伝います」
「おお、助かる!」
すぐに身支度を整え、簡単な弓や槍を持った男たちの一団に加わる。
彼らは5人ほど。全員が太賀より少し年上で、言葉少なに準備を進めていた。
そのうちの一人が言った。
「無理はするなよ、旅人さん。ボアってのは気性が荒くて、突っ込んできたら洒落にならん」
「了解」
忠告には素直にうなずいた。だが、心の中では少しだけ思っていた。
(レベル100の筋力なら、猪程度……問題はない)
森の中は薄暗く、湿った土の匂いが鼻をつく。
鳥の声が上空で鳴き、獣道には踏みならされた跡が点々と続いていた。
やがて、先頭の男が指を立てて制止の合図を出す。
視線の先。茂みの向こうに、大きな獣影があった。
ボア――イノシシ型の大型魔獣。
体長は優に2メートルを超え、黒々とした毛並みと異様に発達した牙を持つ。
脚は太く、爪は地面を抉るほど鋭い。
おそらく通常の人間なら、真正面からぶつかれば無事では済まない。
「よし、後ろから囲んで……」
狩猟隊の指揮が下されようとした、そのときだった。
ボアが――突然、気配を察知して突進してきた。
「ッ……来るぞッ!」
轟音のような足音が地面を揺らす。
隊の前衛が叫び、逃げようとした瞬間。
太賀が、前へ出た。
(くる……!)
突進。
真っ直ぐ、自分に向かって走ってくるボアの姿が、まるでスローモーションのように見えた。
太賀は両足を踏み込み、腰を沈め――両手で、突進するボアを正面から受け止めた。
「――っ!」
衝撃が、爆音のように全身を貫く。
だが、止まった。
完全に、ボアの勢いが、彼の掌の中で――止まった。
「な、な……」
背後で誰かが言葉を失うのが聞こえた。
ボアは怒りの咆哮をあげて暴れたが、太賀の腕は微動だにしない。
そしてそのまま――
「……悪いが」
太賀は片手を拳にし、もう一方の手で牙を押さえつけ、
全力の拳を、ボアの側頭部へ打ち込んだ。
肉が裂け、骨が砕ける音。
獣は悲鳴もあげられぬまま、その場に崩れ落ちた。
沈黙が走る。
「……うそだろ……」
「素手で……ボアを……?」
「人間じゃねぇ……」
村の狩猟隊たちは、呆然とその光景を見つめていた。
太賀は息を整え、汗を拭って言った。
「無事でよかったですね。ひとまず、これで肉は足りますか?」
「足りるも何も……お、おい太賀、あんた……何者なんだよ……?」
「ただの旅人です。でも、しばらくこの村に住むことにしたんです」
「旅人が、素手でボアを……!」
「おい、本気で言うが……そんな力があるなら、冒険者になれよ!」
誰かがそう叫んだ。
そして、他の誰もがそれにうなずいた。
「間違いねぇ、あんたはこのまま村で草むしりなんかしてる器じゃねぇ!」
「ギルドに登録すれば、すぐに金も名も手に入るぞ!」
太賀は、少しだけ困ったように笑った。
静かに生きるつもりだった。
けれど、“自分の存在が静かにできないほどのもの”になっていることを、今、確かに理解した。
ボアを倒してからの帰り道、狩猟隊の誰もが興奮を隠せない様子だった。
だが、それは恐れではなく、尊敬に近いものだった。
「お前さん、絶対すげぇ戦士だったんだろ……?」
「ギルドに登録してねぇのが信じられん……って、もしかしてあんた、登録してねぇのか?」
「……村にはギルドなんてないですけど、どこかにあるんですか?」
太賀が尋ねると、先頭を歩いていた男が頷いた。
「ああ。南の街、ゼリアに行けば冒険者ギルドがある。登録さえ済ませれば、すぐにでも依頼が舞い込むはずだ。……あんたみたいな奴なら、たぶん初日から上の仕事も回されるぞ」
「ギルド……」
その響きに、ほんの少しだけ懐かしさが混じった。
PFW内で設計された“冒険者ギルド”は、本来プレイヤーもいない世界において、戦力や人材の流動を支える一種の社会装置として作られた。
それが今、本当に機能しているらしい。
「……行くとしても、少し先ですね」
「なんでだ? 今すぐでも行けるだろ」
太賀は、静かに言った。
「この村で世話になった。だから、まずは恩を返したいんです。誰かに認められるより、ここで“ありがとう”って言われる方が、今はずっと嬉しい」
沈黙が流れた。
だがその直後、仲間たちは一斉に笑った。
「ははっ、いい奴だな、太賀!」
「じゃあもうちょっと頼るか! あんたがいれば百人力だ!」
「村の守護者って感じだな、あんた」
それからの数日、太賀は村のあちこちを駆け回った。
倒したボアを解体し、肉と皮を分け、村の保存庫に運ぶ。
昼は畑仕事の補助、夜は薪割り。
森に入っては、また一頭、また一頭とボアを仕留めてくる日々。
彼が素手で獣を止め、圧倒的な力で仕留めてくるという噂は、村中に広まった。
だが太賀はそれを鼻にかけることもなく、あくまで一人の村人として、静かに働き続けた。
笑う子供たちに囲まれ、手を振る老人に挨拶し、夕食を一緒に囲む。
戦って、働いて、笑って――
それは、この世界で生きる者としての、本当のスローライフの始まりだった。
「太賀、ちょっといいか」
畑仕事を終えて宿に戻ろうとしていた夕方、村の広場で声をかけてきたのは、村長だった。
年配の男性で、白いひげと深い皺が印象的な人物。
これまで遠巻きに見ていたが、決して無関心ではなかったのだろう。
「お時間、いただけますか?」
「もちろん。実はな……一つ、頼みたいことがある」
村長は太賀を案内して、広場から少し外れた、見晴らしのいい小高い場所に腰を下ろした。
そこからは村全体が見渡せた。屋根の上にかかる三つの月が、空を静かに照らしている。
「……この村を守ってくれて、礼を言いたかった。お前さんが来てから、皆の顔が明るくなった」
「いえ、自分にできることをしただけです」
「その“できること”が、普通の人にはできんのよ」
村長は笑い、ゆっくりと太賀に地図を差し出した。
簡素な羊皮紙に、山、川、街道、街の位置が手描きで示されている。
「……ゼリアの街。ここへ行ってみてはどうだ?」
「……やはり、ギルドの話ですか」
「そうだ。お前さんほどの力があるなら、この村だけに閉じ込めておくには惜しい。
だが、誰よりも村に尽くしてくれた。その分、私たちも……できる限りのことはしたいと思ってる」
地図の他に、小さな袋が手渡された。
開けてみると、銀貨と数枚の金貨が入っていた。
「皆からの寸志だ。旅路の足しにしてくれ。あとは……この村に、また帰ってきてくれると嬉しい」
太賀は静かにうなずいた。
「もちろん。……自分にとって、ここは“最初の居場所”ですから」
「ありがとう。出発は、いつになる?」
「明日の朝。荷物はまとめてあります」
「そうか……なら、村の者には声をかけておくよ。きっと皆、見送りに来る」
その夜。太賀は宿に戻り、今まで使っていた部屋を丁寧に片付けた。
布団を畳み、机を拭き、窓を少し開けて外の空気を吸う。
森の匂い、薪の煙、遠くの笑い声。
「……いい村だったな」
声に出すと、少しだけ寂しさが込み上げてきた。
けれど、歩みを止める気はない。
この世界を知るために、自分の居場所を広げるために、
次の一歩を踏み出す時が来たのだ。
朝靄が残る村の通りに、ぱたぱたと足音が響いていた。
まだ日も高くない時間。
けれど、広場にはすでに十数人の村人が集まっていた。
「太賀さん……本当に、行っちゃうの?」
昨日まで屈託なく声をかけてくれていた子供が、淋しそうに顔を上げて聞いた。
太賀はしゃがんで目線を合わせ、優しく言った。
「うん。でも、また来るよ。きっと」
子供はうなずき、後ろに隠していた小さな花束を差し出した。
野の花を数本、紐で束ねただけの素朴な贈り物。
けれど太賀は、それを真剣な表情で受け取り、軽く頭を下げた。
「ありがとう。大切にする」
見送りに来ていた村の面々が、代わる代わる声をかけてくる。
「今度帰ってきたら、うちの納屋の屋根も見てくれよ」
「ゼリアの街でも、きっと立派な冒険者になれるよ!」
「身体に気をつけてね。無理はしないで」
「ちゃんとご飯食べるんだぞ!」
皆が口々に言葉を投げかけてくる。
太賀はそれを一つひとつ受け止めながら、何度も頭を下げた。
最後に、村長が前に出てきた。
「……あんたは、ここで誰よりも働いてくれた。
だから、どこに行っても誇れる村人の一人だ。胸を張って行け」
「……ありがとうございます」
「街での暮らしは、村とは違う。けれど、あんたなら大丈夫だ。
またいつでも帰ってこい。この村は、あんたの居場所だ」
太賀は背負い袋を背に回し、腰の袋に地図と旅用の干し肉を入れ、最後にもう一度だけ振り返った。
三つの月はもう空になく、朝の陽が木々の間から差し込んでいる。
道は、南へと続いていた。
太賀は歩き出した。
ゆっくりと、一歩一歩、足元の土を踏みしめながら。
この世界で生きるということ。
その本当の意味を、探しに。
こうして久我太賀は、村を後にし――
街ゼリアへと向かう最初の旅を始めた。
村の広場で腰を下ろしていた太賀に、見覚えのある農夫が声をかけてきた。
「おう太賀、今日ヒマか? 男手が欲しいんだが、狩りに行かねぇか」
「狩り、ですか?」
「ああ。明後日の祭りに使う肉が足りなくてな。山の方にボアが出たって話で、狩りの得意な連中が今朝から出てんだが……どうにも数が足りねぇ」
「……わかりました。手伝います」
「おお、助かる!」
すぐに身支度を整え、簡単な弓や槍を持った男たちの一団に加わる。
彼らは5人ほど。全員が太賀より少し年上で、言葉少なに準備を進めていた。
そのうちの一人が言った。
「無理はするなよ、旅人さん。ボアってのは気性が荒くて、突っ込んできたら洒落にならん」
「了解」
忠告には素直にうなずいた。だが、心の中では少しだけ思っていた。
(レベル100の筋力なら、猪程度……問題はない)
森の中は薄暗く、湿った土の匂いが鼻をつく。
鳥の声が上空で鳴き、獣道には踏みならされた跡が点々と続いていた。
やがて、先頭の男が指を立てて制止の合図を出す。
視線の先。茂みの向こうに、大きな獣影があった。
ボア――イノシシ型の大型魔獣。
体長は優に2メートルを超え、黒々とした毛並みと異様に発達した牙を持つ。
脚は太く、爪は地面を抉るほど鋭い。
おそらく通常の人間なら、真正面からぶつかれば無事では済まない。
「よし、後ろから囲んで……」
狩猟隊の指揮が下されようとした、そのときだった。
ボアが――突然、気配を察知して突進してきた。
「ッ……来るぞッ!」
轟音のような足音が地面を揺らす。
隊の前衛が叫び、逃げようとした瞬間。
太賀が、前へ出た。
(くる……!)
突進。
真っ直ぐ、自分に向かって走ってくるボアの姿が、まるでスローモーションのように見えた。
太賀は両足を踏み込み、腰を沈め――両手で、突進するボアを正面から受け止めた。
「――っ!」
衝撃が、爆音のように全身を貫く。
だが、止まった。
完全に、ボアの勢いが、彼の掌の中で――止まった。
「な、な……」
背後で誰かが言葉を失うのが聞こえた。
ボアは怒りの咆哮をあげて暴れたが、太賀の腕は微動だにしない。
そしてそのまま――
「……悪いが」
太賀は片手を拳にし、もう一方の手で牙を押さえつけ、
全力の拳を、ボアの側頭部へ打ち込んだ。
肉が裂け、骨が砕ける音。
獣は悲鳴もあげられぬまま、その場に崩れ落ちた。
沈黙が走る。
「……うそだろ……」
「素手で……ボアを……?」
「人間じゃねぇ……」
村の狩猟隊たちは、呆然とその光景を見つめていた。
太賀は息を整え、汗を拭って言った。
「無事でよかったですね。ひとまず、これで肉は足りますか?」
「足りるも何も……お、おい太賀、あんた……何者なんだよ……?」
「ただの旅人です。でも、しばらくこの村に住むことにしたんです」
「旅人が、素手でボアを……!」
「おい、本気で言うが……そんな力があるなら、冒険者になれよ!」
誰かがそう叫んだ。
そして、他の誰もがそれにうなずいた。
「間違いねぇ、あんたはこのまま村で草むしりなんかしてる器じゃねぇ!」
「ギルドに登録すれば、すぐに金も名も手に入るぞ!」
太賀は、少しだけ困ったように笑った。
静かに生きるつもりだった。
けれど、“自分の存在が静かにできないほどのもの”になっていることを、今、確かに理解した。
ボアを倒してからの帰り道、狩猟隊の誰もが興奮を隠せない様子だった。
だが、それは恐れではなく、尊敬に近いものだった。
「お前さん、絶対すげぇ戦士だったんだろ……?」
「ギルドに登録してねぇのが信じられん……って、もしかしてあんた、登録してねぇのか?」
「……村にはギルドなんてないですけど、どこかにあるんですか?」
太賀が尋ねると、先頭を歩いていた男が頷いた。
「ああ。南の街、ゼリアに行けば冒険者ギルドがある。登録さえ済ませれば、すぐにでも依頼が舞い込むはずだ。……あんたみたいな奴なら、たぶん初日から上の仕事も回されるぞ」
「ギルド……」
その響きに、ほんの少しだけ懐かしさが混じった。
PFW内で設計された“冒険者ギルド”は、本来プレイヤーもいない世界において、戦力や人材の流動を支える一種の社会装置として作られた。
それが今、本当に機能しているらしい。
「……行くとしても、少し先ですね」
「なんでだ? 今すぐでも行けるだろ」
太賀は、静かに言った。
「この村で世話になった。だから、まずは恩を返したいんです。誰かに認められるより、ここで“ありがとう”って言われる方が、今はずっと嬉しい」
沈黙が流れた。
だがその直後、仲間たちは一斉に笑った。
「ははっ、いい奴だな、太賀!」
「じゃあもうちょっと頼るか! あんたがいれば百人力だ!」
「村の守護者って感じだな、あんた」
それからの数日、太賀は村のあちこちを駆け回った。
倒したボアを解体し、肉と皮を分け、村の保存庫に運ぶ。
昼は畑仕事の補助、夜は薪割り。
森に入っては、また一頭、また一頭とボアを仕留めてくる日々。
彼が素手で獣を止め、圧倒的な力で仕留めてくるという噂は、村中に広まった。
だが太賀はそれを鼻にかけることもなく、あくまで一人の村人として、静かに働き続けた。
笑う子供たちに囲まれ、手を振る老人に挨拶し、夕食を一緒に囲む。
戦って、働いて、笑って――
それは、この世界で生きる者としての、本当のスローライフの始まりだった。
「太賀、ちょっといいか」
畑仕事を終えて宿に戻ろうとしていた夕方、村の広場で声をかけてきたのは、村長だった。
年配の男性で、白いひげと深い皺が印象的な人物。
これまで遠巻きに見ていたが、決して無関心ではなかったのだろう。
「お時間、いただけますか?」
「もちろん。実はな……一つ、頼みたいことがある」
村長は太賀を案内して、広場から少し外れた、見晴らしのいい小高い場所に腰を下ろした。
そこからは村全体が見渡せた。屋根の上にかかる三つの月が、空を静かに照らしている。
「……この村を守ってくれて、礼を言いたかった。お前さんが来てから、皆の顔が明るくなった」
「いえ、自分にできることをしただけです」
「その“できること”が、普通の人にはできんのよ」
村長は笑い、ゆっくりと太賀に地図を差し出した。
簡素な羊皮紙に、山、川、街道、街の位置が手描きで示されている。
「……ゼリアの街。ここへ行ってみてはどうだ?」
「……やはり、ギルドの話ですか」
「そうだ。お前さんほどの力があるなら、この村だけに閉じ込めておくには惜しい。
だが、誰よりも村に尽くしてくれた。その分、私たちも……できる限りのことはしたいと思ってる」
地図の他に、小さな袋が手渡された。
開けてみると、銀貨と数枚の金貨が入っていた。
「皆からの寸志だ。旅路の足しにしてくれ。あとは……この村に、また帰ってきてくれると嬉しい」
太賀は静かにうなずいた。
「もちろん。……自分にとって、ここは“最初の居場所”ですから」
「ありがとう。出発は、いつになる?」
「明日の朝。荷物はまとめてあります」
「そうか……なら、村の者には声をかけておくよ。きっと皆、見送りに来る」
その夜。太賀は宿に戻り、今まで使っていた部屋を丁寧に片付けた。
布団を畳み、机を拭き、窓を少し開けて外の空気を吸う。
森の匂い、薪の煙、遠くの笑い声。
「……いい村だったな」
声に出すと、少しだけ寂しさが込み上げてきた。
けれど、歩みを止める気はない。
この世界を知るために、自分の居場所を広げるために、
次の一歩を踏み出す時が来たのだ。
朝靄が残る村の通りに、ぱたぱたと足音が響いていた。
まだ日も高くない時間。
けれど、広場にはすでに十数人の村人が集まっていた。
「太賀さん……本当に、行っちゃうの?」
昨日まで屈託なく声をかけてくれていた子供が、淋しそうに顔を上げて聞いた。
太賀はしゃがんで目線を合わせ、優しく言った。
「うん。でも、また来るよ。きっと」
子供はうなずき、後ろに隠していた小さな花束を差し出した。
野の花を数本、紐で束ねただけの素朴な贈り物。
けれど太賀は、それを真剣な表情で受け取り、軽く頭を下げた。
「ありがとう。大切にする」
見送りに来ていた村の面々が、代わる代わる声をかけてくる。
「今度帰ってきたら、うちの納屋の屋根も見てくれよ」
「ゼリアの街でも、きっと立派な冒険者になれるよ!」
「身体に気をつけてね。無理はしないで」
「ちゃんとご飯食べるんだぞ!」
皆が口々に言葉を投げかけてくる。
太賀はそれを一つひとつ受け止めながら、何度も頭を下げた。
最後に、村長が前に出てきた。
「……あんたは、ここで誰よりも働いてくれた。
だから、どこに行っても誇れる村人の一人だ。胸を張って行け」
「……ありがとうございます」
「街での暮らしは、村とは違う。けれど、あんたなら大丈夫だ。
またいつでも帰ってこい。この村は、あんたの居場所だ」
太賀は背負い袋を背に回し、腰の袋に地図と旅用の干し肉を入れ、最後にもう一度だけ振り返った。
三つの月はもう空になく、朝の陽が木々の間から差し込んでいる。
道は、南へと続いていた。
太賀は歩き出した。
ゆっくりと、一歩一歩、足元の土を踏みしめながら。
この世界で生きるということ。
その本当の意味を、探しに。
こうして久我太賀は、村を後にし――
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