地上を創った僕らが、今そこにいる

モデル.S

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第1章

武器

ギルドを出て一息ついたタイガは、少し迷ってから、街の鍛冶屋通りへと足を向けた。

魔物が出る森での戦闘――あの棒切れで十分だったとはいえ、
**「武器を持っていない冒険者」は、この世界ではただの変人か無謀に映る。
それに、そろそろ本格的に戦うつもりでいるなら、“自分の剣”**を持つべきだとも思った。

 

鍛冶屋通りの一角、看板に“剣爪工房イーラム”と彫られた店の前で足が止まる。
店構えは古びているが、並べられた剣や槍、斧のどれもが丁寧に手入れされていた。

ギィ、と木の扉を開けると、鉄の匂いと焼けた革の香りが迎えてくる。

「いらっしゃい。武器を探しに?」

カウンター奥から顔を出したのは、いかにも職人気質な老年の男。
その隣には、すでに試し振りをしている男の姿があった。

背は高く、筋肉質な体格。革鎧をまとい、腰に一本のロングソードを下げている。
試しに大剣を構えていたが、ちらりとこちらに目をやると、興味深げに声をかけてきた。

「初めての武器選びか?」

「ええ、そうです。まだ、どんなのが自分に合うか……」

「なら、いくつか持ってみるといい。見た目じゃなく、重さとバランスで選べ」

そのまま隣でいくつかの武器を手に取り、タイガも試すよう促された。

片手剣、槍、短剣、斧……
持ってはみるものの、どれも**「悪くはないが、しっくりこない」**という感触だった。

その時、老店主が一つの布をめくり、大きな剣を見せてきた。

「少し重いが、よく仕上がってる。試してみな」

タイガが両手で握ると――不思議なほど、手に馴染んだ。

柄の重み。刀身の厚み。重いはずなのに、違和感がない。
いや、それどころか、「振るえばどうなるか」が自然に想像できる。

「……これが一番、落ち着きます」

「へぇ、両手剣が合うとは……案外、力があるんだな」

剣士の男が感心したように言った。

「人によっては振るだけで腕が壊れる。だが、お前……見た目より芯が通ってる。
その剣を扱えるなら、しばらく困ることはない」

「これ、いくらですか?」

「銀貨10枚」

タイガは迷わず、朝受け取った薬草報酬の袋を差し出した。

「買います」

「……即決か。いい目してるな、あんた」

剣士がニヤリと笑う。

「いい武器を手に入れた時ってのは、強くなれる気がするもんさ。
あんた、ただ者じゃなさそうだ。機会があれば、またどこかでな」

「ああ、ありがとう」

剣士は軽く手を挙げ、店を出て行った。
その背を見送りながら、タイガは初めて手に入れた自分の剣を見つめた。

重くて、無骨で、でも――確かに“自分の武器”だ。

(これで、戦える)

それは、冒険者・タイガとしての“骨”が通った瞬間だった。


翌朝。
空は晴れ渡り、街の通りにはパンと焼き芋の香りが漂っていた。
タイガは朝食代わりに屋台で丸パンを1つ買い、昨日と同じく東門から森へ向かっていた。

背には、大きな包布にくるまれた両手剣。
腰に差すには長すぎるため、背負う形で持ち運ぶ。

森の入口に差し掛かると、門番にギルドカードを提示して通過。
「またあの森に行くのか」と驚かれたが、軽く会釈して通り過ぎた。

(さて……)

再び足を踏み入れたリンフ森。
昨日と同じ風の匂い、木の揺れる音、湿った土の感触。
だが今日は、薬草採取ではなく――武器の試し斬りが目的だった。

 

(まずは、動きに慣れる)

人気の少ない開けた場所を選び、ゆっくりと布を解いて剣を抜く。

“ヴン……”と低く重い音が、刀身の軌道をなぞるように響いた。
刃は両肩幅ほどもある。扱いを誤れば自分を傷つけかねないが――
握った瞬間、全身が自然とバランスを取り始めるのを感じた。

「……よくできてるな」

刃の根元から先端まで、わずかな重量配分の差が感じ取れる。
まるでこの剣が、タイガの力に反応して応えてくるようだった。

試しに数回、振ってみる。
重さに振り回されるどころか、振るたびに剣が軌道に吸い込まれるように走る。

(これが“合ってる”って感覚か)

そのとき――茂みの奥から、かさり、と草を踏む音。

タイガが剣を構えると、そこから現れたのは3体の魔物だった。

緑色の肌、黄ばみかけた牙、短剣と木槍。
昨日と同じ、ゴブリンの群れ。

「またか」

だが、今日は素手でも棒でもない。
自分の意志で選んだ、自分の剣だ。

 

1体目が突進してくる。
タイガは無言のまま、一歩踏み込み、縦斬り。

“ズシャアッ!”

上から下へ振り下ろされた剣が、ゴブリンの胴を地面ごと断ち割った。
振動すら感じない。切断と同時に、敵の体が崩れる。

すぐに2体目が横から飛びかかってくる。
タイガは軽く身をひねりながら、剣を横に払う。

刃が空気を裂き、ゴブリンの腕ごと胴を吹き飛ばす。
血が舞うよりも早く、地に倒れる。

最後の1体が逃げようと背を向けた。
だがタイガは、刃を肩にかついだまま追いつき、柄の先端で後頭部を殴打。

ゴブリンは無音で崩れ落ちた。

 

……静寂。
地に伏した3体の魔物。
重い息すら出ない。それほど、力の無駄がなかった。

「……いい剣だ」

呟きながら、血のついた刃を雑草で拭き取る。
そして、昨日教わった通り、胸部近くを丁寧に切り裂いて――
赤黒い魔石を、それぞれの体から取り出した。

3つの魔石を小袋にしまいながら、タイガは小さく笑った。

「やっと……“戦える”気がする」

冒険者、戦士、そして異世界の住人として。
自分がこの世界の“地面”に立ったという感覚が、確かに胸の奥に灯っていた。


夕方、タイガは3体分の魔石を納めた小袋を手に、再びギルドのカウンターを訪れていた。
受付嬢はすぐに気づき、笑顔で出迎える。

「おかえりなさい、タイガさん。……その袋は?」

「今日、ゴブリン3体倒しました。魔石、回収してます」

「まあ……!それはすごい。見せていただけますか?」

袋を受け取った受付嬢は、手慣れた動きで中身を広げ、魔石の大きさと質を確認し始めた。
黒く澄んだ魔石が3つ。形も損傷がなく、きれいに採取されている。

「この大きさなら……1個につき銅貨40枚相当ですね。3個で銅貨120枚になります。すぐにお支払いいたします」

銀貨1枚と銅貨20枚に両替され、タイガの手に渡る。
魔物を倒すことの“対価”が、確かにそこにあった。

「それにしても、薬草に続いて魔石も……タイガさん、本当にFランクですか?」

受付嬢が冗談めかして笑う。

「……登録したばかり、という意味では正しいです」

「なるほど……でしたら――」

受付嬢は手元の記録板をトントンと指で叩き、真顔になった。

「Eランク昇格試験、受けてみませんか?」

タイガは少しだけ眉を上げた。

「もう、受けられるんですか?」

「はい。FからEへの昇格試験は、ギルドに試験官が在席していれば、いつでも実施可能です。
条件は“ゴブリンを単独で倒せる実力”があること。……タイガさんなら問題ないと思いますよ?」

(つまり、実力確認を兼ねた簡易昇格だな)

「試験官は?」

「現在、在席中です。試験官は元Cランク冒険者のリョーガさん。50代のベテランです。
ギルド内でも信頼されている方で、見る目は確かです。……ただ、ちょっと口が悪いですけど」

「……なるほど」

受付嬢は、少しだけ声を潜めて付け加えた。

「ちなみに、タイガさんの噂……少しずつ広まり始めてます。
“静かにしてるけど、何かおかしい奴がいる”って。試験、早めに受けておいた方が、余計な詮索はされにくいと思います」

(……目立たないつもりだったが、無理があったか)

タイガは小さく息を吐いて頷いた。

「じゃあ……受けてみます。昇格試験」

「承知しました!準備しますので、少しだけお待ちください。すぐにご案内いたしますね」

 

ギルドの裏手にある訓練場――
そこで、タイガは“次の段階”へと踏み出すことになる。
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