《異世界工房録》~魔法と技術で世界を変える二人~

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第一章

異世界との最初の接触

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森の中を歩き始めて、すでに半日が経っていた。

 「……マジで道がないな。地図もコンパスも使えねぇし、携帯は圏外どころじゃないし」

 神代龍一は呟きながら、草をかき分けて進む。
 周囲は深い緑に包まれ、時折どこかで聞いたことのない鳥の声が響く。

 才賀健一は後ろから、双眼鏡を片手に地形を観察していた。

 「こっちの動植物、ほとんどが見たことない種だな。酸素濃度は地球とほぼ同等、気圧も安定……って、聞いてる?」

 「いや、聞いてるけどな? その前に食い物が問題だって言ってんだよ」

 「非常食はあと3日分。それまでに街らしき場所を見つけないとまずいな」

 そんな会話の最中――視界がひらけた。

 木々の向こうに、石造りの壁が見える。城壁だ。
 人の手によって整備された、それは確かに「文明の証」だった。

 「……あったな」

 「街だ。よし、突撃だ」

 才賀は勢いよく歩き出し、龍一はその背中にため息をつきながらついていく。


門の前には、鎧姿の衛兵たちが立ち並び、龍一と才賀の姿を訝しげに見ていた。

 龍一は視線を避けつつ、汗をかいた掌でズボンの膝を拭う。

 「……完全に怪しまれてんな」
 「まあな。この格好じゃ無理もない。俺たちの服、素材も形も違いすぎるし」

 才賀健一は笑いながらも、目だけは周囲を観察していた。
 言葉が通じないため、身振り手振りで無害を示すが――伝わっていない。
 いよいよ兵たちが腰の剣に手をかけ始めたその時。

 「ちょっと待って! この人たち、そんなに悪い人には見えないけど?」

 元気な声が飛んだ。

 駆け寄ってきたのは、赤茶色のショートカットの女性衛兵。
 軽装の鎧を着ており、その動きには無駄がない。

 「ねぇ君たち、言葉通じる? 通じないかー……」

 彼女は興味深そうに龍一の服の袖を摘んだ。

 「これ、見たことない素材ね。肌触りが変わってるし……まさか魔獣の皮とか? それとも遠い地方の織物?」

 才賀が小声で呟く。「……好奇心旺盛なタイプだな。利用できる」

 数分後、2人は兵たちに連行される形で城壁内の施設へ案内された。
 目立った拘束はされていないが、緊張感は薄れていない。

 案内された部屋では、ローブ姿の女性が静かに指輪の入った箱を開ける。

 「これを、つけて」

 その一言だけは、なぜか耳に届いた。

 龍一と才賀は無言で指輪を手に取り、はめた。

 ――音が、変わる。
 言葉が、意味を持って脳に染み込んでくるようになる。

 「おお、すごい! 」

 先ほどの女性衛兵が、目を輝かせて話しかけてくる。

 「やっと通じた! よかったー。ね、君たち、名前は?」

 龍一は少し迷ってから答える。

 「……神代龍一。こっちは才賀健一だ」

 「ふーん、リュウイチとサイガ、ね。私はアンナ。よろしく!」

 元気よく笑うその顔は、屈託がない。
 だがその裏に、何か“自由でいたい”という意志のようなものが見えた。

 「で、君たち……どこから来たの?」

 一瞬、空気が張りつめる。

 才賀がさりげなく割って入った。

 「東の森を越えた集落から来ました。旅の途中で魔物に遭って、逃げてきたんです」

 「へぇー。東の森かぁ……うん、確かに地元じゃない感じはするよね。言葉も通じなかったし」

 龍一は安堵の息をつく。

 才賀は、微笑みながらも目は真剣だ。

 (この世界の権力者に“異世界から来た”と知られたら、どう扱われるかわからない。最悪、実験対象だ)

 だから今は、伏せておくべきだ。
 力を持つ前に、情報と環境を整えなければならない。

 「街を見て回りたいんだけど……案内してくれたり、できる?」

 龍一の問いに、アンナは親指を立てて答えた。

 「もちろん! 初めて来た人には、ちゃんと歓迎しなきゃね!」

 こうして、神代龍一と才賀健一は――
 異世界で最初の味方、「アンナ」と共に、新たな世界へ足を踏み出した。


---
城門を抜けた先に広がっていたのは、活気ある石畳の街並みだった。

 整った建物、露店、行き交う荷馬車、色とりどりの民族衣装――
 まさに「ファンタジー世界の町並み」そのものだった。

 「……ゲームの中に入り込んだ気分だな」
 龍一は思わずつぶやく。

 「いや、これはもうゲームじゃない。現実なんだよ。現実に“こういう構造の世界”が存在している。それが重要なんだ」

 才賀の目は、完全に“研究モード”に切り替わっていた。

 「通貨は? 社会構造は? 魔法は? スキルの扱いは? 統一言語があるのか? どういう形式で教育されている?……ああ、情報が欲しい」

 「おい、涎垂れてるぞ」

 アンナはというと、先を軽やかに歩きながら振り返った。

 「こっちが商業通り! この時間だと、パン屋さんの焼きたてがあるかもよ」

 焼きたてという言葉に釣られて、龍一の腹が鳴った。

 「……すみません、何か、簡単に買えるものってありますか?」

 「あはは、食べてないの? じゃあ案内するね。銀貨ある?」

 龍一と才賀は顔を見合わせた。

 「……銀貨って、何と交換レートなんだ?」

 「お金持ってないの?」とアンナが首を傾げる。

 その後、親切な露店の爺さんが「初めての旅人なら試食させてやる」と焼きパンを一つ分けてくれた。
 柔らかい生地に、塩とチーズの香り。胃袋に染み渡るうまさだった。

 「……ありがてぇ」

 「旅人さんなら、宿と冒険者ギルドに行くのが定番コースだよ。登録すれば、いろいろ便利になるし」

 「冒険者ギルド……」
 才賀がぴたりと立ち止まる。

 「アンナさん、“スキル”って、この世界にはあるんだよね?」

 「うん。あるよ。剣術、魔法、鑑定、体術……いろんなのがあるよ。龍一は持ってないの?」

 「いや、俺たちは……辺境の田舎育ちだからさ。情報が全然なくて」


「君たち、“ステータスオープン”って言ってみたことある?」

アンナが軽い調子でそう言った瞬間だった。

「……ステータスオー――」

 龍一が言い終えるより先に、視界がふわっと揺れた。

 次の瞬間、目の前に淡い光で浮かぶ半透明の板のようなものが現れる。
 まるでSF映画のホログラムのように、目の前に――けれど自分にしか見えない場所に、情報が展開されていた。


---

▼神代龍一 – ステータス

レベル:1
HP:100/100
MP:50/50
筋力:14 敏捷:10 知力:9 集中:12
スキル:なし


---

「うわっ……! なんだこれ……?」

「やったね、ステータス出た!」

アンナはにこにこしながら答える。

「自動的に開くんだよ。開きたいときに自分の意思で開いたり閉じたりできるの」

才賀も、すぐさま呟いた。

「ステータスオープン」

 彼も同じように驚きの声を上げた。

 「……これは……視覚情報を脳内に直接投影する魔法的インターフェースか? 音声トリガーで発動する個人限定の認識魔法……!」

 「落ち着け天才。ひとまず閉じられるのか試せ」

 龍一が言うと、才賀は「ステータスクローズ」と言って視界の情報を消した。

 「なるほど……この情報、他人には表示されない……つまり完全に“自分だけの知覚”に閉じた表示か」

 「その通りだよー」アンナが指で丸を作った。

 「ちなみにギルドでもステータスは特に見せなくていいよ。登録したら依頼が受けられるだけ。スキル持ってるかどうかは、受付がちょっと聞いてくるくらいかな」

 「……つまり、強さは自己申告制か?」

 「うん、だからたまに“ハッタリだけのやつ”も出てくるのよね」

 才賀がメモ帳を取り出してメモを取り始める。

 > ・ステータス:音声トリガー→個人認識情報出現
 > ・他者不可視
 > ・スキル空欄→行動・習得条件型と仮定
 > ・ギルドとの連携性なし=管理組織不在?

 龍一はそれを横目で見ながら、再びステータスを開いた。

 (スキル欄が空白――だが、これが埋まっていけば、俺たちはこの世界で“戦える”ってことだ)


---
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