《異世界工房録》~魔法と技術で世界を変える二人~

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第一章

魔法使い

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リュウイチとサイガはギルドカウンターの前に立っていた。
 討伐任務も順調、戦闘スキルも伸びてきた――次の課題は、「魔法の習得」だった。

 「すみません。魔法って、どこで習えるんですか?」

 受付嬢がにっこり笑いながら、ちらりとフロアの奥を指差す。

 「……あそこにいる女性に、聞いてみたら? いまヒマそうにしてるし」


---

 そこにいたのは――

 長い銀髪を後ろで束ね、漆黒のローブに身を包んだ美しい女性。
 瞳は深紅。長身痩躯で、背筋はピンと伸びている。

 だが表情は仏頂面。
 フロアで他の冒険者と視線が合っても、まるで“虫けら”でも見るように流していた。


---

 「あの人……?」

 「うん。**名前は“レイア=フォルヴェルク”さん。Dランクの冒険者で、魔法の腕は確か。昔は貴族の家系だったけど、今は……まあ、いろいろあって」
 「ただ、性格に難があるというか……えっと、超絶高飛車で暴言魔という噂」

 「なるほど。ちょっと気になるな」

 リュウイチとサイガが恐る恐る近づくと、レイアが目を細めた。

 「何か用? ああ、もしかして“初級魔法教えてくださ~い”とか甘ったるいお願いでもしに来たの?」

 初対面にして、この口撃である。

 「はい。まさにそれです」
 「金は払う。正式に教えてほしい」

 サイガの即答に、レイアの眉がピクリと動いた。

 「……ふん。教えてあげないこともないけど――どうせ1日で泣き言を言って逃げ出す、軟弱者でしょう?」

 「軟弱者にしてはDランク魔物を正面突破してきたばかりだ」

 リュウイチがぼそっと言うと、レイアの目がすっと細まる。

 「へぇ……少しはマシな使い魔を従えてるようね、メガネ」

 「いや、僕のほうが主導なんだけど……」


 こうして、会話は険悪なのに、なぜか話が進む謎の流れに――

 後日、2人は研究所兼自宅に彼女を招き、正式に交渉を行った。



 「1時間につき銀貨2枚。知識と技術はその価値がある。交渉の余地はない」

 リビングの椅子にふんぞり返りながら、レイアが宣言する。

 「それでいい。最初は火魔法の基本から頼む」

 「……本当にあんたたち、お金持ってるの?」

 「問題ない。特許の使用料で飯を食ってる」

 「ちっ……貴族上がりの私より裕福とか、何の冗談よ……」


---

 その夜、サイガはたまたま外に出た際、家の裏にいたレイアが、荷物を抱えたままうずくまっているのを見つける。

 「どうした?」

 「……うるさい。別に、宿から追い出されて、住む所がなくて、明日から路上生活だったなんてことは……!」

 「ふむ。それなら、住み込みで雇おう」

 「は、はぁ!? 冗談じゃないわよ! なぜ私があんたたちなんかと同居しないと――」

 「家は広い。生活管理人もいる。研究所と教室スペースもある。金も払う。何も問題はない」

 「ぐ、ぐぐぐ……ぐぬぬ……じゃあ、“仕方なく”住んでやるわ! ただの一時的な避難だからね!? 変な期待しないでよねっ!!」


 こうして――

 レイア=フォルヴェルク、美人魔法使い、ツン多めのデレ予備軍。
 今日から、研究所に“住み込み魔法教師”として加入である。


---
「……いい? 魔法は“感覚”で覚えるものじゃないの。“理屈”と“練習”よ」

 レイアの声が響く。
 いつも通りのとげとげしい口調だが、その言葉は明確で、説得力があった。

 研究所兼自宅の広間。机や試作品を片付けた一角に、簡易魔法陣が床に描かれている。

 「最初は“魔力の感知”と“体内操作”から。焦って火を出そうとか思わないで」


---

 「魔力感知……つまり“自分の中にあるエネルギー”を認識するってことか?」

 「その通り。まずは瞑想の姿勢。雑念を捨てて、“胸の奥”を意識して」

 サイガとリュウイチは、正座と半跪(はんき)というそれぞれ得意な姿勢で集中に入る。


---

 10分……20分……
 空気が静まり、木の葉が風に揺れる音だけが響く。


---

 「……感じる。微かに、内側で流れてる」

 最初に声を上げたのは、サイガだった。

 彼の魔力は理性的、均質で整った流れ。
 まさに“数式が描くようなエネルギーの線”だった。

 「まるで、脳の回路図に沿って流れる電気のようだ……面白い」


---

 一方、リュウイチはまだ苦戦中だった。

 「くそ……胸の奥って言われても……力は感じるけど、うまく“形”にできない」

 「あなたは“頭”じゃなくて、“感覚”で動くタイプでしょう。
 だったら、“気配察知”のときと同じように、“周囲に溶け込む”つもりで魔力を探してみなさい」

 「……!」

 そのアドバイスがハマった。

 気配を読むときのように、意識を外に広げつつ、内にも向ける。
 すると――微かに、静かな“灯”のようなものが胸に灯る感覚があった。


---

 「……見つけた」

 「よし、じゃあ次。魔力の流し方を教えるわ。言うことちゃんと聞きなさいよ、バカ剣士」

 「お前、絶対教えるの好きだろ……」


---

 数日後――

 サイガは、自身の設計した魔力感知補助具を使い、魔力の流れを数値化して練習を進めていた。

 「魔力の出力は安定している。次は“術式への乗せ方”だ」

 そして、レイアが渡した魔法札に意識を流し込む。

 ボウッ――

 空中に、火の玉が浮かぶ。大きさは拳ほど。

 「……初級火球、成功」


---

 一方、リュウイチは“勢い”でやるタイプ。
 炎の魔法を感覚で制御しようとするが、時折暴発しかける。

 「ぅおあっ!? ちょ、燃えすぎ!!」

 「こらっ、火の玉を投げるな! 落ち着けって言ってるでしょうが!」

 「てめぇがツンツン煽るからだろぉ!」


 レイアはそんな2人を指導しながら、心の奥ではほんのりと笑みを浮かべていた。

 (ふふ……こんなにまっすぐ魔法に向き合う人間、久しぶり。うるさいけど……悪くないわ)


 こうして、サイガとリュウイチはついに――
 “魔法の扉”を開いた。

 それは小さな一歩。けれど確かな第一歩だった。


---
魔法訓練が日課となって数日。
 レイア=フォルヴェルクは、屋敷の一角に用意された一室にすっかり居座っていた。

 魔法の本を並べた本棚。自前の魔導杖。ベッド脇には小さな鏡と香水瓶。

 「……まさか、こんな男くさい屋敷で“落ち着く”日が来るとはね……」

 ベッドに腰かけ、つぶやくように漏らす。


---

 ある日の朝食。

 サイガがパンとスープの朝食をテーブルに並べると、リュウイチがぼそりと呟いた。

 「なぁ、レイアって意外と……なんつーか、家では静かなんだな」

 「レイアさん、朝はコーヒー派。砂糖は3杯入れる」

 「うるっさい! なんでそういう情報を勝手に仕入れてるのよ!」


---

 その夜――

 サイガは実験中の魔力計測装置の調整に苦戦していた。

 「……魔力量が暴走気味だ。火花が……」

 ボフンッ!

 煙が舞い、机の上が煤ける。

 「ちょっと、何してるのよ!」

 駆けつけたレイアは文句を言いつつも、魔法でサッと火を消し、手早く消火処理を終えた。

 「……ありがと」

 「はぁ……“誰かが怪我でもしたら困る”とか、別に思ってないんだからね」

 「言ってないのに先回りするの、助かる」

 「うぐっ……!」


---

 別の日、買い物帰りのリュウイチとサイガが、荷物を抱えて帰宅すると――

 屋敷の台所から、美味しそうな香りが漂ってきた。

 「……肉? 煮込み?」

 覗くと、エプロン姿のレイアが、黙々と鍋をかき混ぜていた。

 「……何よ。今日、ギルドの食堂が休みだっただけよ。あんたたちが不健康そうだからついでに作っただけ。感謝とかいらないわよ?」

 「めっちゃ助かる」

 「めちゃくちゃうまそうだな、レイア先生!」

 「う、うるさいっ!」


---

 夜――

 3人で囲む食卓。

 サイガはワインを少し、リュウイチは骨付き肉を豪快に。
 レイアは静かに口をつけながらも、時折こっそり微笑んでいた。


---

 その寝る前――
 レイアは自室でベッドに腰かけ、月明かりの差す窓を見つめていた。

 (……パーティーなんて、もう組まないって思ってたのに)

 (なんで、こんなに静かで……あったかいのよ)


---

 ツンツンした言動の裏で、
 少しずつ、心の距離が縮まりはじめていた。


---
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