神にもらった最強チートでやりたい放題

モデル.S

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第1章

怪しい

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夕暮れ時の街。
 学園の外にある小さな食堂――冒険者たちにも親しまれる、気取らない店。

 木製のテーブルに並べられた料理を囲んで、ケント、ティナ、リュカの三人は久々に揃っていた。


---

 「はー! 久しぶりに肉って感じの肉食べたーっ!」
 ティナは豪快に串焼きをかぶりつきながら、満足そうに唸った。

 「ずっと塔の中にいたからな。空気の味が違うわ」
 リュカはスープを啜りながら、半分冗談のように言った。


---

 「それでさ、ティナ。最近の講義、なんか面白いネタなかったの?」

 「面白いっていうか……グチならあるよ?」


---

 ティナはフォークを置き、少し身を乗り出す。

 「なんかね、“アニエル先生”の講義、最近すっごく厳しくてさ。
  前はもう少し緩かったのに、急にピリピリし始めてるってみんな言ってる」

 「アニエル?」
 ケントが眉を動かした。

 「うん。元素魔術の担当で、けっこう有名な家系の人らしいよ。
  でも最近はなんかね……“誰かを気にしてる”みたいな感じで、落ち着かない空気がある」


---

 リュカも口を挟んだ。

 「俺も聞いたぞ。“研究室の情報が外部に漏れてる”とかで、監視強化中だって噂。
  あんまり表には出てねぇけど、どうやら上層部でピリついてるらしいな」


---

 「……なるほど」

 ケントは、その名を記憶に刻んだ。

 (アニエル。名簿には未だ現れてないが……“内部の情報漏洩”に関与しているのか?
  それとも、漏洩を恐れて動いているだけか?)


---

 「……ん? なんか難しい顔してるけど、ケント。肉食べなさい肉」
 ティナが皿を押し出してくる。

 「いや、ありがとう。ちょっと考えごとをしてただけ」

 「仕事脳になってるぞ。ダメだ、そういう時はとりあえず飯!」


 たわいのない会話、落ち着く空気。
 だがその中に、ひとつだけ――確かな“手がかり”が混ざっていた。


 (アニエル。次は、この名前から調べてみるか)


---
研究塔・第二分室。
 エルヴィン先生の代わりに、装置の調整と記録整理を任された日の午後――

 扉がノックもなく開いた。


 「失礼する。解析資料、昨晩提出の予定だったはずだが……未だ出ていないようだな?」

 鋭く、無駄のない言葉。
 入ってきたのは、漆黒のローブに身を包んだ、一人の魔術師だった。

 長身で細身、灰色の瞳と整った顔立ち。
 それでいて、どこか“冷たい”という印象を強く受ける人物。


 「ああっ、ごめんごめん、資料整理してたら“寄り道”しちゃってねぇ」
 エルヴィン先生が笑って肩をすくめる。

 「……エルヴィン、君は本当に変わらないな。いや、変わらなさすぎる」

 アニエルと呼ばれたその人物は、ため息のように呟いた。


 その後ろで控えていたケントが、静かに会釈する。

 「こんにちは。補助のケントです。資料整理、お手伝いしています」

 「……外部か」

 アニエルは一瞬、鋭い視線を送った。
 だがそれ以上、特に詮索する様子もなく、目線を資料の束へと戻す。


---

 「君、エルヴィンの補佐で塔に出入りしているそうだが、
  第三研究棟の実験に立ち会ったことは?」

 「いえ、第三棟はまだありません。何か不備が?」

 「いや……別件だ」


 そして、アニエルが資料を手に取ったその時――

 ふと、視線を感じたように振り返る。

 誰もいない廊下へと、数秒じっと目を凝らし――

 「……気のせいか」

 再び資料に目を落としたが、そのわずかな仕草に、ケントは見逃さなかった。



 (視線。気にしてた……いや、あれは“恐れてる”動きだった)



 アニエルは理知的で、冷たくて、まるで感情が希薄に見える。
 けれど、その一瞬の動きは――明らかに、“普通の学者”ではない反応だった。


 「ケントくん、あの人ねぇ……あれでも昔は学生人気があったんだよ。
  見た目だけならだけど」
 エルヴィンがひそひそと囁いた。

 「……見た目だけ、ですか」

 「うん。あとはこう……“背中に常に刃を感じてる人”みたいな。僕にはムリ」


---

 ケントは、アニエルという名を、また一つ
 “注視すべき名前”として、心に刻んだ。


---
数日後――
 ケントは研究塔の補佐の傍ら、空いた時間を使って「アニエル」という名を静かに調べていた。

 調査の場は、学園の図書館でもなければ、記録室でもない。
 学生たちが集う、ただの中庭のベンチ。


---

 「ねぇケント、今日は研究塔じゃなくてのんびりモード?」

 軽く声をかけてきたのは、何度か顔を合わせた魔術科の男子学生だった。

 ケントは軽く笑い返す。

 「まあね。ちょっと、人間観察中。……たとえば、アニエル先生って、どういう評判?」


---

 その名を聞いた途端、男子学生は少し表情を曇らせた。

 「……うーん。変な話、あんまり“表立った悪い噂”はないんだけどさ。
  “あの人に近づくと、運が落ちる”って、昔から言われてるんだ」

 「運が落ちる?」

 「うん。研究で組んだ学生が途中で退学したり、精神を病んだり、突然いなくなったり……。
  もちろん全部が偶然かもしれないけど、何か“妙に関係者が続かない”ってさ」


---

 ケントは静かに頷き、さらにいくつかの小さな噂を拾っていった。

アニエルは、かつて術式暴走事故の抑止に関わったと言われている

しかしその際の関係者は、なぜか誰も“語りたがらない”

「誰かに見られている」ような発言をたびたび繰り返していた記録がある

自分以外の研究者を信用していない節があり、会議では常に孤立気味だった


 (……内部の情報に触れていたのは間違いない。そして、何かを“抱えてる”)

 (問題は……“アニエル自身が何を知り、何を恐れているのか”だ)


 その夜。
 研究塔の廊下を歩いていたケントの背に、ひとつの視線が突き刺さる。

 「……あの女生徒、やけに近いようだな。セリナとか言ったか」

 振り返ると、レイ=カーストが立っていた。


 「気にしてるのか?」
 ケントが淡々と尋ねると、レイは眼鏡の奥で目を細めた。

 「ただの印象だ。だが“彼女が欲してる情報”と“君が動いている範囲”は、奇妙に重なっている」

 「……忠告、ありがとう」

 「忠告じゃない。“観察記録”の共有だよ」


 塔の中、交差する視線と沈黙の気配。
 アニエル、セリナ、レイ――
 それぞれが“違う正体”と“違う目的”を隠して、今日も学園の中で動いていた。


---
研究塔の夜。
 補佐の業務を終え、ケントが塔を後にしようとしていた時――

 ふと、一つの明かりがまだ残っていることに気づいた。

 第二分室。
 資料閲覧専用の部屋。誰も使っていないはずのその場所に、
 かすかな魔力の気配があった。


---

 扉をノックし、返事を待つ。
 しばらくして、かすれた声が返ってきた。

 「……入れ」

 静かに扉を開けると――
 そこにいたのは、アニエル・ディザレだった。


---

 魔力灯の明かりの下、
 机に並べられた古い術式記録と、彼自身が書き殴ったメモの山。

 その顔は相変わらず冷たく、整っている。
 だが目の奥には、どこか疲れたような色があった。


---

 「……補佐の者か。用件は?」

 「いえ……帰り際に、灯りが見えたもので。先生がまだ残っていたとは思わず」

 「そうか。ならば、黙って座ってろ。声をかけられるのは好かんが、沈黙は悪くない」


---

 無言の空気の中、ケントはふと、テーブルに並んだメモの一枚に目をやる。
 そこにはこう書かれていた。

 《術式逆流時の残滓/魔力波形の断裂》


 「……以前、術式の暴走に立ち会ったと、先生の噂を聞きました」

 その一言に、アニエルの手がピタリと止まった。


 「噂、か……それで済めばどれだけ楽だったろうな」

 低く、吐き捨てるような声。

 ケントは黙って、次の言葉を待った。


---

 「君は、“魔力が戻ってくる瞬間”を見たことがあるか? 本来、放出されるはずの力が、
 逆流し、術者の身体と精神を蝕む――そんな現象を」

 「……いいえ」

 「なら忘れることだ。あれは“魔術”とは呼べない。“呪い”だ」


 しばらく沈黙が流れる。
 アニエルは資料を一枚、指でたぐり寄せる。

 「三年前、この塔の最深で起きた事故は記録に残っていない。
  なぜかって? 上の連中が全て“実験失敗”として処理したからだ。
  だが、あの日確かにいた者は、皆、何かを“見た”」


 「それは……何だったんですか?」

 アニエルは答えない。ただ、ぽつりと。

 「目を合わせてはいけなかった。あれは、術式の奥に“存在してはいけないもの”が混じった結果だ。
  ……いや、存在させてしまった、のかもしれないがな」


---

 ケントはその言葉を深く胸に刻んだ。
 (やはり――アニエルは何かを知っている。そして、恐れている)


---

 部屋を後にする直前、ケントは振り返る。

 「……先生。僕は、その事故に関わった人間の名前を知りたい。
 護衛任務で動くうえで、“何が危険か”を知っておきたいので」


---

 アニエルは目を伏せ、しばらく何も言わなかったが――
 やがて一枚の紙に、数人の名前を走り書きし、机の隅に置いた。

 「これは公には出せん名だ。見た後は……焼け」

 「……感謝します」


---

 その紙には、こう記されていた。

セラ・ルヴァリエ

ミリア=グロイス

フェリク・ザーハルト

レオン=シュタイン



---

 (レオン……やはり関わっていたか)

 ケントの中で、かすかな点と点が、一本の線に変わりはじめていた。


---
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