シラケン~知らない間に賢者の弟子に歩きたかっただけなのに、気づけば最強になってました〜

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第2章

ついに異世界へ

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視界が白から暗闇に変わった。
足元は冷たい石。壁も天井も、ざらついた石で固められた部屋。

「……ここが転移先か」

闇を払うように指先を弾く。
小さな光球が浮かび、部屋を照らした。
石造りの地下室。無骨だが堅牢、牢獄のようでありながら妙に整っている。

階段を見つけ、上へ登ると——。

吹き抜けの広間に出た。
二階への階段が左右に伸び、シャンデリアが頭上に吊るされている。
床は磨かれた大理石、壁には豪華な絵画。

「……でかっ……なんだよこれ」

師匠は飄々とした酒飲みのはずだ。
なのに、こんな立派な屋敷を持っていたなんて。
「いったい、師匠って……何者だったんだ」

玄関扉を開けて外に出る。
ひんやりとした夜風が肌を撫で、視線を上げると——。

そこには、大きさの違う二つの月が並んで輝いていた。

「……本当に、異世界に来たんだな」

胸の奥が熱くなる。
感慨に浸りながらも、ひとまず屋敷に戻り、一階の客間を借りて体を横たえた。



目を覚ますと、腹が減っていた。
リュックからカップラーメンを取り出し、キッチンを探す。
やかんに水を入れ、見慣れぬコンロの上に置くと、石をはめ込む仕組みになっていた。

「これ……魔石で動いてるのか」

魔法で沸騰し始めた湯を注ぎ、しばし待つ。
久しぶりの熱いスープが、体に染み渡った。



食事を終え、師匠の言葉を思い出す。
「まずは書斎へ行け」

扉を開けると、豪奢な机の上に無造作に金貨と銀貨がばら撒かれていた。

「……適当すぎるだろ」

貨幣価値は分からない。だが当面の生活費なのは間違いない。
近くの革袋に全部詰め込み、肩に背負う。

次に衣装部屋。並ぶ服は派手なものから落ち着いたものまで揃っていた。
「どんだけ趣味悪いんだよ師匠……」
結局、カジュアルなシャツとズボンを選び、着替える。



準備を整え、屋敷を出る。
並ぶのは豪華な邸宅ばかり。どうやら高級住宅街らしい。

物珍しげにキョロキョロ歩いていると、巡回中の兵士に声をかけられた。
「おい、お前! こんな所で何をしている!」

慌てて例の手紙を取り出し、裏の宛名を見せる。
「この人に手紙を渡したいんです。どこに行けば会えますか?」

二人の兵士は顔色を変え、背筋を伸ばした。
「こ、これは……失礼しました! 領主様のお屋敷はこの道を真っ直ぐ突き当たりです!」

「領主……だったのか」

兵士たちはわざわざ一緒に屋敷まで案内してくれ、門衛に取り次いでくれた。


門衛は手紙を見るなり目を見開き、中へ駆け込んだ。
すぐに戻ってきて深々と頭を下げる。
「どうぞ、中で領主様がお待ちです」

案内してくれた兵士に礼を言い、屋敷へ入る。

廊下で迎えたのは、壮年の執事と、その後ろに立つ美しい若いメイド。
「ようこそ。領主様がお待ちです」

応接室へ通されると、そこには威厳ある白髭の老人がいた。
豪奢な服に身を包み、鋭い眼光で日向を射抜く。

「……あいつからの手紙を持ってきたのだな?」

日向はズボンのポケットから手紙を取り出し、執事へ渡す。
老人は封を開け、目を走らせ、そして驚愕の声を漏らした。

「なんと……お前は、あいつの弟子か!?」

「はい。そうです」

老人はしばし日向を凝視したのち、鋭い声を和らげて言った。
「とりあえず座れ」

日向は応接室のソファへ腰を下ろした。

——師匠の名が、この異世界でどれほどの意味を持つのか。
胸の鼓動が高鳴っていた。


「……あいつ、ミドは元気か?」
突然の言葉に、日向は瞬きをした。

「ミド……?」
恐らく師匠のことだ。御堂——ミドウ。
「はい。酒ばかり飲んでいますが……元気です」

「そうか……」
領主は遠い目をし、手紙を静かに置いた。
その表情は懐かしさと、どこか苦い思い出をにじませていた。

「お前は弟子らしいが、実戦経験は無いそうだな?」
「はい。魔法は一通り習いましたが……戦いはまだです」

領主は執事に目を向ける。
「おい、メリーを呼べ」
「かしこまりました」

執事が出て行った後、領主は問いかけた。
「あいつの屋敷に住むのか?」
「当面はそうするつもりです。師匠から、自由に使えと」
「分かった。ならば使用人を貸し出そう。明日の朝には着くように手配しておく」

「……ありがとうございます。なぜそこまで?」

領主は静かに目を細めた。
「あいつには——ミドには、借りがある。大きな借りがな。……だから、お前は困ったら私を頼れ」

その言葉に胸が熱くなる。師匠が異世界でどんな生き方をしてきたのか——それを、少しだけ垣間見た気がした。



扉がノックされ、執事が入ってきた。
「旦那様、メリー様をお連れしました」

革鎧をまとい、背に剣を負った猫獣人の女性が姿を現した。鋭い瞳と俊敏そうな身のこなしが、戦士としての気配を隠しきれない。

「お呼びですか?」
「こいつはミドの弟子だ。名前は……」
「ヒューガです」日向は即座に答えた。

「だそうだ。ギルドへ連れて行き、実戦経験を積ませろ。細かいことも教えてやれ」
「了解しました」メリーは短く答える。

領主はソファから身を乗り出し、低く言った。
「ミドの時のように、またその力を借りる時が来るかもしれん。その時までに経験を積んでおけ」

「……分かりました。本当に、ありがとうございます」

深々と頭を下げ、日向はメリーと共に部屋を後にした。


部屋を出ると同時に、メリーは日向を鋭く睨みつけ、舌打ちをした。

「……え、あの、僕……何か失礼しましたか?」

「お前じゃない」
メリーは鼻を鳴らし、唇を歪めた。
「ミドだ。会うたびに胸や尻を触ってくる変態野郎だ」

「……何やってんだよ師匠……」
思わず天を仰いだ。あの酒飲みの軽さは、異世界でも変わらなかったらしい。

「毎回反撃してるけどな! 何せあいつは強い! 全然当たらん! ムカつく!」
ぶんぶんと拳を振り回し、軽快なフットワークで空を切る。
その姿は完全に、見えない師匠を相手にシャドーボクシングをしているかのようだった。

「きっと……メリーさんが美人だから、師匠もついちょっかい出したんですよ」

日向がそう言うと、メリーは目を見開き、みるみる顔を赤くした。
「なっ……! やっぱりお前はあいつの弟子だ!」

ぷいと顔を背ける仕草に、日向は苦笑した。



屋敷を出て並木道を歩きながら、メリーが説明を始めた。

「冒険者ギルドはな、見習いから始まる。次がブロンズ、その上がアイアン、ミスリル、オリハルコン……だ」

「ゲームみたいですね」
「ん? げぇむ?何だそれは。……ただ、あんたは私の推薦があるから、見習いは飛ばしてブロンズから始められる」

「それって……助かりますね」
「見習いは面倒な仕事ばっかりだからな。雑用とか街掃除とか。ブロンズからなら討伐依頼を受けられる。実戦経験を積むにはちょうどいい」

日向は頷きかけてから、ふと気づいた。
「……あの、僕、文字が読めないんです」

メリーは目を丸くする。
「マジか。……まあ仕方ないな。本屋に寄って、基礎の本を買ってやる。勉強しろ」

「ありがとうございます」
言葉の壁を取り払う翻訳指輪はある。けれど、文字だけは別だ。
新しい世界に溶け込むためには、読み書きが必須なのは分かっていた。


そんな話をしているうちに、大きな石造りの建物が見えてきた。
表には剣と盾を組み合わせた紋章。
中からは人々の笑い声や怒声、酒場のような喧騒が響いてくる。

「着いたぞ。ここが冒険者ギルドだ」

重厚な扉の前に立ち、日向は深呼吸をした。
——ここから、僕の冒険が始まる。
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