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魔功都市ジンフォルド

99 英国ブリトニア

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「ん…」

 ふと目が覚める。見慣れない天井。起き上がろうとすると動けなくなっている。

「や、やばい」

 ジンフォルドだろうか。首だけ動かし確認をする。わかったことは、ここが魔法妨害術が施されているのと、俺が牢獄に閉じ込められているということ。

「あの後」

 俺は思い出す。サタンに無謀にも挑みそして完敗し、ジンフォルドの門前で倒れてしまったことを。

「は、ありゃバケモン以上じゃねえかよ」

 誰だよ、異世界でヌルゲーとか言ったやつ。出てこい馬鹿野郎。

「そんなことより、ここからどうやってでるか、だな」

 そういった時、

「やめといた方がいい」

 声の主はどこからかと首をキョロキョロと動かす。すると目の前の牢屋に少女が座っていた。ボロボロの服。殆どボロ雑巾だ。

「あなた、新人ね。ヴォーティガンの命令に背いたの?」

「あ?」

 ジンフォルドなのに何故ヴォーティガンが出てくるのかわからなかった。

「おい、ここどこだよ」

「あなた、面白いことをいうのね。ここはブリトニア。国王ヴォーティガンが治める国よ」

 捕まっている理由は分からない。ただ、わかるのはこのままここにいるのは良くないということ。

「嘘だろ…」

 ヒュムが俺を裏切ったってのか?確かに喧嘩はしてたけど。

「アタシはここから脱出できる自信があるわ」

 そもそもこの少女は何者なのか。

「アタシはしがないジンフォルドの捕虜よ」
 
 捕虜ってことは、首だけ少女に向ける。

「!?」

 体中に痣や切り傷、蚯蚓脹れがある。尋問と思しき形跡。

「あんた、大丈夫かよ!」

「ん?ああ、この傷のこと?大丈夫大丈夫。痛みはね、受け入れると痛くないものよ。抗えば抗うほど痛いのよ。案外、人間の体は単純なのかもね」

 感情を打ち捨てたような虚ろな目。戦争に正しいなんてことは無い。自分で言っていたはずなのに、知ってたはずなのに、俺は絶望していた。いや、知っていただったのだ。

「それより、ここから脱出できるって話だけど、あなたも手伝ってくれない?いい加減ここの兵士の欲求不満を解消するのは辛くて」

 想像はしない。したくない。吐き気が襲うからな。脱出できる方法。信用してもいいものか、それとも疑うべきか。

「別に信用してくれとは言わないわ。アタシだってあなたを信用する気は毛頭ないから」

 軽い口調で話しているが声が微かに震えている。交渉をする際は相手に弱みを見せないことが第一だ。恐ろしいのだろう。だから俺は頷く。

「分かった。俺はあんたを信用しないが、あんたの言葉は信じる」

「よかったわ。さて。まずはあなたのそれを外す方法だけれど、どうしたものかしら。それの外し方は分からない。外したあとのことしか考えてなかったから」

 魔法妨害術がある。これも一応は魔法であり、魔法を妨害するのならその魔法も妨害するものがあるはずだ。

「…ああ。あれ使ってみよう」

「あれ?」

 俺は格子の外に向けて口笛を吹く。ここが地下牢ではなくて助かった。
 
 バサバサとうるさいほどの音が聞こえる。

「鳥呼笛」

 俺のつぶやきに首を傾げる少女。わかるはずはないので説明をしてあげる。俺ってば最高にクールだな。紳士って感じがするぜ(キリッ。

「人間には少なからずマナが蓄積されている。それらは無意識の中にあるから、意識的に使うマナとは別物なんだよ。意識的に使うマナは魔法妨害術に阻害されるけど、無意識下にあるマナはそれに当てはまらない」

 この知識もレヴィアタンの城にあった文献から抜粋。本って便利だよなー。

「つまりその微弱なマナを口笛の音に刷り込ませ、鳥をおびき寄せる。それから」

 バサバサバサと格子の隙間から小さな鳥が入ってきて、俺を縛っている縄をつつき始める。

「こうやって命令を出せば、っと」

 ものの数分で小鳥たちが縄をつつき切り、俺は耐久の減った縄を自力で千切る。

「こんな芸当はなかなか見れはしないぜ?」

「あなた、何者?」

「この世界ではトリストと呼ばれている」

「トリスタン?」

「んー、惜しいな。似てるけど違う。円卓の騎士にゃ所属してない」

 第一難関は突破。次の作戦に移行する。…かっこいい!ミ○ショ○イ○ポ○シ○ルみたいだ。

「次の作戦と行こうか」

 俺はニタリと笑い鉄格子を開けるのだった。って鉄格子開けとくなよ。縛ってても鍵くらい閉めようぜ…。


 
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