真事の怪談 ~冥法 最多角百念珠~

松岡真事

文字の大きさ
48 / 62
第伍念珠

#046『折れ達磨』

 女流じょりゅう怪談朗読師・アミさんのお母さんが、2017年くらいに体験した話である。


 その当時、お母さんは原因不明の腹痛に悩まされていたという。
 キリキリと、締め付けられるような。いやな痛み。

 「動こうと思えば動けるくらいだよ」と我慢がまん強いお母さんはアミさんに語っていたというが、「うちのお母さんが〝痛い〟と言うくらいだから相当の痛みだったと思う」とは彼女の弁だ。

「この時、私も独立して親元から離れていましたし。母の様子をつぶさに把握はあくしていたわけではないのですが・・・ ひとたび痛み出したら、かなりひどかったみたいです」

 忙しいこともあってか、なかなか病院に行かなかったというが。いざお医者様を頼って診察しんさつをして貰っても、その原因がわからなかったのには閉口したという。

「内科、胃腸科、産婦人科―― ぜんぶ同じように首を傾げられまして・・・」

 結局、半年近く放置するしかなかった。


  ※   ※   ※   ※


 そんなある夏の日。

 スピリチュアル好きな従兄弟いとこに誘われ、青森県内の有名な温泉地に日帰り旅行に行ったお母さんは、そこから少し離れた場所で開業しているという地元でも有名な霊能者の所を訪ねた。

 何でも、口コミで紹介して貰った人しか視てくれないような、〝知る人ぞ知る〟先生だったという。青森という土地柄とちがら、イタコのような方だったのかも知れない。

 お母さんはちょっと疑いまじりの目で、従兄弟が謎の施術せじゅつを受けているところを見ていたという。本人はどっちかというと怖い話や怪談などが好きで、時々ときどき実話怪談の本を買ってきて読むような人だったというが。実際そういうモノを無批判むひはんに信じるかと言われれば、それは別次元べつじげんの問題である。

 しかし従兄弟の施術が終わったところで、何故かお母さん自身も「先生から見て貰える」的な運びとなってしまった。

「う、うーん。 じゃあ折角せっかくだし お願いしようかしら・・・」

 流れに身を任せてみたものの。当然、お母さんは半信半疑はんしんはんぎ
 まず、数珠じゅずからませた先生の手が頭上へかざされた。
 そしてそれはだんだん、下方向したほうこうへゆっくりゆっくりと移動してゆき、
 お母さんのおなかへと じわじわ じわじわ 達した瞬間――


「!! 気持ち悪いッッ」


 先生の手が、素早く引っ込められた。
 え、何?呆気にとられるお母さん。
 こういう経験は初めてだが。まがりなりにも霊能者がお客を相手に「きもちわるい」なんて、ふつう言ってはいけないのではないだろうか・・・?


「・・・・・・失礼。お腹から、どうにもいやな〝気〟が出ておりましたもので・・・ 続けます。ちょっと〝て〟みますね」


 変な緊張感が出来上がってしまった中、続いて施術は『霊視れいし』に入る。
 先生はしばらく お母さんのお腹へと意識を集中していたが、


「ふむ。 家に達磨だるまさまが御座ございますね」

「だ、達磨?!」

「左様です。達磨さま・・・の、ようなもの かも知れない。しかも、お腹が大きい」

「え、 え、 え、 え??」


 先生の言うことを要約すると、大体だいたい 次のようなことになるらしい。


貴女あなたの実家の中の何処どこかに、強い念を発する存在がある。それは、お腹の大きな達磨(もしくは達磨に似た何か)であり、「この家の奴らは俺のことを忘れやがって、まったく腹立たしい!俺の気持ちがわからんのか、お前たちばかり幸せになりやがって、許せない!!」・・・というようなメッセージを、強烈に発している〟


 何だそれは、という話になった。

 お家に達磨っぽい何かなどあった覚えはなく、骨董品こっとうひんや神仏に関する古物を集めるのが趣味だったお祖母ばあちゃん(アミさんの父方の祖母そぼ)に訊いてみても、「達磨?さぁ??」との返事へんじ

 霊能者を頼ったことで逆に弱り切ってしまう結果となったお母さんだが。そんな彼女に、長い連れ合いであるお父さんはとても協力的だったという。

「話はわかった。とにかく、その達磨は忘れ去られたことをうらみに思って、母さんのお腹を痛くしているってわけだろ。つまり、目に見えるところにある可能性こそ低いんじゃないか。徹底的に家捜やさがしとかしないと、ダメなんじゃないか?」

「うん、そうらしいんだけど・・・
 力貸してくれる?信じてくれる? お父さん」

「当たり前だ。それで母さんのお腹が治れば、安いもんじゃないか!」


 そんなわけで、実家の中を大捜索だいそうさくとなった。
 家中を虱潰しらみつぶしに探しまくり〝隠された達磨〟を追うわけだ。

 しかし。


「・・・・・・フーム。達磨の〝だ〟の字もないな・・・」
「・・・・・・〝だ〟の字も見つかりませんねぇ・・・」


 当然の如く、捜索は難航なんこうした。
 

 あっちも無いなぁ、こっちも無いなぁ、
 納屋も全部探したしなぁ、何処だろなぁ、と――
 いい加減、疲れの色が捜索隊に見え始めた

 そんな最中さなか


「あ、何だこれ」


 すがるような気持ちで、屋根裏まで調べた時だった。
 お父さんが、一幅いっぷくの掛け軸を見つけてきた。
 屋根裏に掛け軸。
 どう考えても、意味深いみしんすぎる。


「あれっ? あ、そうか、思い出した、アレは〝達磨〟だ!」
「え。 ど、どうしたんですか、お父さん?」
「いや、確かに達磨だよ、母さん。しかし、何でコレが?」
「・・・・・・・・・・・・??!」


 とにかく、それを展開してみた。


 「えっっ・・・」


 お母さんは、言葉をなくした。


 お腹の大きな、〝達磨〟
 ・・・っぽい人の姿絵すがたえ
 眼光鋭く、野にしてぜんふけり、
 背後には 円い月の輪が描かれている。
 そして。
 その絵の男性の、衣からまろび出たお腹の部分には
 かなりシッカリ目の、〝〟が出来上がっていた。


  これだーー!!! 


 疑いようは無かった。


  ※   ※   ※   ※


 掛け軸を仕舞しまう時に全体をきつく巻きすぎてしまうと、その際にかかったストレスが長い年月をかけて〝折れ〟を作ってしまう場合があるという。おそらくこの掛け軸の折れも納められた時は無かったもので、として出来上がったものなのであろう。

「何でも、この掛け軸は30年近く 箱の中に入れられて、ほったらかしだったそうなので・・・」

 さもあらん、である。
 まぁ、そんな考察はさておき。


 結果として、それから事態は一気に好転した。


 専門の職人さんを頼って修繕した掛け軸を和室に飾ることにしたところ、いつの間にやらお母さんの腹痛は治まっていたのだという。

 ちなみに、その掛け軸の正体とは お祖母さんが若い頃、お嫁に入った時に実家から持ってきたものであった。つまり結局、お祖母さんゆかりのものだったのだ。

「俺が子供の頃、仏間に飾ってあったのを思い出したのさ。ほら、何かこの絵・・・怖いだろ?だから印象に残ってるんだ。思い返してみれば、達磨さまのお姿だったんだなァ」

「でも、何で屋根裏なんかに・・・・・・」

「きっと引っ越しの時に仕舞ってそのまんまだったんだよ。おふくろも、おそらくこの絵はあまり気に入ってなかったんじゃないかな。掛け軸を季節ごとに掛け替えるくらい風流だったおふくろが、あんな所に直し込むなんて そうとしか考えられない」

 全てお父さんの推測すいそく通りだった。
 お祖母さんは、その掛け軸のことをいさぎよいくらいすっかり忘れており、見つかった現物げんぶつを見るまですっかり記憶から失念しつねんされていたらしい。嫁入り道具の一つだったにも関わらず、全然ぜんぜん思い入れなどは無かったようだ。


 ともあれ、これで一件落着である。
 以後、お母さんの腹痛は ぶり返すこともなかったそうであるが、


 実はアミさん。 この一件について を働かせている。

 くだんの絵の男は、やはり疑いなく 禅宗ぜんしゅう開祖かいそである達磨大師だるまだいしなのではないかという。
 一方、アミさん一家の宗派しゅうは浄土宗じょうどしゅう
 つまり、「お腹が折れていた」のとは別の次元でのイザコザ、「信仰の相違そうい」が原因となった〝〟が家の中に出来上がっていたのではないか、と仰るのだ。
 それに加えて、

「うちのお祖母ちゃん、やたらパワフルな人で・・・ 信仰心は強いんだけども強いから、と いろいろ相性が悪いみたいなんですよ。 だから、」

 だから、直接ちょくせつ掛け軸と関係のあるお祖母さんの代わりに
 心優しいお母さんの所へ、さわりが出てしまったのではないか、と。

 つまり とばっちり というわけだ。
 だが。


「ねぇ、ちょっと聞いてよアミ。お母さんのお腹、嘘みたいに治っちゃったんだけどね。信じられない一騒動ひとそうどうがあったの!やっぱり不思議なことって、あるものなのよ~!!」


 ・・・・・・洒落しゃれにならないレベルのとばっちりを受けながらも。お母さんは、この事後報告じごほうこくをアミさんに語る時、とても興奮しておられたという。
 しかも相当に人生観を揺さぶられたのか。それから風水や占いにも興味を抱き、怪談や怖いお話にもそれまで以上に愛着を持たれるようになられたのだとか。


「ウチの母、昔から『自分には霊感がないから、逆に怪談とかが好きなんだ』って口癖みたいに言ってました。 私も一緒です。 私が怪談の朗読を始めたのも、そんな母の影響なんです。 明るくて、前向きで、我慢強くて、 でもちょっと天然気味の 昭和のお母さん――」 


 アミさんは
 そんなお母さんが、大好きである。

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

だんだんおかしくなった姉の話

暗黒神ゼブラ
ホラー
弟が死んだことでおかしくなった姉の話

洒落にならない怖い話【短編集】

鍵谷端哉
ホラー
【累計55万PV突破‼】 話題作「アンケートに答えたら、人生が終わった話」が10万PVを記録。 日常に潜む“逃げ場のない恐怖”を集めた、戦慄の短編集。 その違和感は、もう始まっている。 帰り道、誰もいないはずの部屋、何気ない会話。 どこにでもある日常が、ある瞬間、取り返しのつかない異常へと変わる。 意味が分かると凍りつく話。 理由もなく、ただ追い詰められていく話。 そして、最後の一行で現実がひっくり返る話。 1話1000〜2000文字。隙間時間で読める短編ながら、 読み終えたあと、ふとした静寂が怖くなる。 これはすべて、どこかで起きていてもおかしくない話。 ――あなたのすぐ隣でも。 洒落にならない実話風・創作ホラー。

意味が分かると怖い話(解説付き)

彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです 読みながら話に潜む違和感を探してみてください 最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください 実話も混ざっております

怪談実話 その2

紫苑
ホラー
本当にあった怖い話です…

二重のカーテン (スカートの下の黒い意志)

MisakiNonagase
青春
洗濯物の隙間に隠したのは、母としての祈りと、娘のプライド。 かつて、女子高生という生き物はもっと無防備で、自由だった。 44歳の主婦、愛子が朝のベランダで手にするのは、娘たちが毎日履き替える漆黒のオーバーパンツ、通称「黒パン」。それは、令和を生きる娘たちが自らの尊厳を守るために身に着ける、鉄壁の「鎧」だった。 小学校時代のママ友たちとのランチ会。そこで語られるのは、ブルセラショップに下着を売っていた奔放な50代、無防備なまま凛と歩くしかなかった40代、そして「見せないこと」に命を懸ける10代の、あまりに深い断絶。さらには、階段で石像のように固まる父、生徒の背後に立たないよう神経を削る教師……。 一枚の黒い布を通して浮き彫りになる、現代社会の歪さと、その根底にある不器用なまでの「優しさ」。 ベランダに干された黒いカーテンの向こう側に、あなたは何を見ますか?

(ほぼ)5分で読める怖い話

涼宮さん
ホラー
ほぼ5分で読める怖い話。 フィクションから実話まで。

女子切腹同好会

しんいち
ホラー
どこにでもいるような平凡な女の子である新瀬有香は、学校説明会で出会った超絶美人生徒会長に憧れて私立の女子高に入学した。そこで彼女を待っていたのは、オゾマシイ運命。彼女も決して正常とは言えない思考に染まってゆき、流されていってしまう…。 はたして、彼女の行き着く先は・・・。 この話は、切腹場面等、流血を含む残酷シーンがあります。御注意ください。 また・・・。登場人物は、だれもかれも皆、イカレテいます。イカレタ者どものイカレタ話です。決して、マネしてはいけません。 マネしてはいけないのですが……。案外、あなたの近くにも、似たような話があるのかも。 世の中には、知らなくて良いコト…知ってはいけないコト…が、存在するのですよ。