真事の怪談～寸志小品七連～

其ノ三『噛め』

　式部さんはある日、夢を見た。

　暗い竹藪の中のような場所で。たくさんの鎧武者の前に引っ立てられるようにして座らされ、全員から睨み付けられている。
　夢という空間の非条理性のせいか。この人たちは俺のご先祖様だ、というのが直感でわかる。でも肝心の、怒られている理由がわからない。

「子孫よ」　先祖の一人が言う。
「主ら子孫は我ら先祖のおかげで存在している。だが何だ。最近はろくに参りにも来ず、墓が荒れ放題ではないか。思い知らしてくりょう。これでも噛め」

　目の前には、グチャグチャに潰れた肉片や内臓がたっぷり入れられた土色のドンブリが。
　式部さんはイヤイヤをしながら必死に抵抗したが、数人がかりで全身を摑まれて口元までドンブリを持って来られ、嘔吐感が喉までこみ上げてきた。先祖達は全員で、「噛め、噛め、噛め」と合唱している。

　そこで目が覚めた。
　ひでぇ夢を見た、と思ったが、同時に「誰が墓参りなぞ行くもんか」とも思った。

「ねぇ、ちょっと」 同じベッドで寝ていた彼女がおもむろに言う。

「あんた、どんなヤらしい夢見てたの？寝言でエヘエヘ笑いながら、ヨダレまみれの笑顔浮かべてたわよ。キモすぎだって」



　次の日曜日、家族全員にも声をかけて墓参りに行った。
　墓はなるほどひどい荒れ具合で、心から「スミマセン」と先祖らに謝ったという。