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第16話 水の都へ
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ハァハァしているエレメアはよそに置いといて、俺は一度情報の整理をする。
「あー、ところで一旦整理させて欲しいんだが、エレメアはアリシアの配下、つまりアリシア派に属する魔王軍の者ということだよな?」
「ええ」
「そして昨夜、俺が眠っている間に二人はここで落ち合った。彼女が夜通し魔物から護衛をしてくれたため、俺たちは安心して眠ることが出来たと。しかしよくこの居場所が分かったな」
一歩足を踏み入れば途端に迷ってしまいそうな深緑な森の中で、よくここまで辿り着けたものだ。
「私の配下の一人に魔力感知を持っている者がいるの。だから私が見つかるのは時間の問題だったわ」
「アリシア以外にも居たんだな」
「その魔力感知の所有者であるバーランダーという名の配下が、私の居場所を大雑把にだけど把握して、この方角に居ることが粗方分かったらしい。そうして私の配下一同しらみ潰しに捜索に当たっていた所を、このエレメアが偶然見つけたというわけ」
「へぇ、なるほどな」
ならば今も他の配下たちはアリシアのことを捜索しているわけか。
残りのメンバーにもどこかで合流したいものだが。
「魔力感知の精度は所有者それぞれ違うから、詳細に突き止められるほど洗練されたものを持っている者は少ないのよ」
言われてみれば確かにタタリオロチの魔力感知はアリシアに比べて随分とおざなりなものだった。
その辺はスキル熟練度も関係しているのだろう。
そう考えるとやはりアリシアは凄いやつなんだな。
しかし魔力感知というスキルは、やはり便利で活躍する場面が多い。
俺もレベルアップした時に習得できないだろか。
ローションはともかくとして、鑑定以外にも実用性のあるスキルが欲しいところだ。
「やっぱアリシアの配下って、皆エレメアくらい強いのか?」
気になった疑問を訊いてみる。
「エレメアはまだ幼いけど幹部クラスよ。この子が特別に強いの」
「確かにその歳で幹部になるくらいだもんな」
どうも彼女は幼いながらにも幹部に昇りつめた天才少女というわけらしい。
年齢や努力がというよりも、おそらく才能の世界なんだろう。
氷属性で生まれた時点で将来を約束されたようなものだしな。
世界はなんて不平等で残酷なのだ。
見た目も派手でカッコイイし、実に羨ましいことだ。
「この子は幹部の中でも、二番目に強いわね」
二番目、という言葉が気になった。
「じゃあまだ上がいるのか」
「一番はバーランダーという、魔王軍きっての騎士よ」
「ああ、さっき名前が出たやつか。魔力感知を持ってるっていう」
エレメアを基準に考えると、幹部クラスとあらばレベルが90近いことになる。
だとしたらアリシア派の他の幹部たちが勢揃いとなれば、とてつもなく強力な戦力になることが予想できる。
敵対するアリア派とも十分に対抗できるだろう。
まあアリア派の戦力といっても、例の盗賊団くらいしか知らないのだが。
しかしこれほど強い味方と共に行動するとなると、かなり心強い。
安心してアリシアのことを任せられるだろう。
更にそのバーランダーさんとやらと合流できれば、向かうところ敵無しではある。
タタリオロチみたいな格上の強敵が現れても、エレメア一人いるだけで善戦できるだろうし、そうなってくると俺という存在も、いよいよお役御免かな。
アリシアはああ言ってくれたが、呪い持ちが近くに居たところでお荷物にしかならない。
それくらいは自分でも弁えていつるもりだ。
それにたとえアリシアがよくても、エレメアが俺の同行に反対するかもしれない。
共に一緒に居られるのも、水の都までだろうな。
「拭き終わったわ。服もここに置いておくから。……着替えも手伝った方がいい?」
「……いえ、それくらい自分でやれます。これ以上アリシア様のお手を煩わせるわけには……」
「はいはい」
そういって、衣擦れするような音が俺の耳に届いた。
袖に腕を通すのを手伝っているのだろうか。
アリシアも中々世話焼きの性分である。
そうして俺は、所在なさげに青い空でも眺める。
雲ひとつない快晴が広がっており晴れやかな気分となるが、どこか寂しさも感じる空だった。
ああ、そういえば忘れていたことがある。
レベルアップの際に俺は新しいローションの技を手に入れたんだった。
まだしっかりと確認していなかった。
俺はステータスウィンドウを開き、新技であるローションブローとローションボディの説明を読んでみる。
・ローションブロー
濡れそぼつ掌底を繰り出す。
触れた対象の着衣を剥がすことができる。
まずはローションブローだが、これはローションを拳に纏って殴る技のようだ。
効果はローションボールと同様で服を剥くのみ。
大して強くもないが近接戦闘になった時に使えるかもしれない。
攻撃の手札が増えただけでも良しとしよう。
・ローションボディ
全身の汗腺からローションを噴き出す。
物理攻撃を無効化する。
続いてローションボディだ。
攻撃系しかなかった中で、初めての防御技になる。
これは結構使えるんじゃないか?
というか普通に強くないか。
汗腺からローションを出すのはちょっとキモイが、物理攻撃を無効化が出来るなら、殴打のみならず剣などの刃物も通さないということであろう。
電撃などのスキル攻撃以外を除いては、ほぼ無敵である。
使用する機会もそう遠くないうちに訪れるだろう。
そこで、
「だいぶ落ち着きました。ありがとうございます、アリシア様」
エレメアが平静を取り戻したようだ。
「……申し訳ございませんでした。コタローさん」
アリシアに礼を述べたあと、背後から俺に対して謝罪の言葉が投げかけられる。
俺はおもむろに振り返ると、エレメアはしっかり服を着込んでいた。
自身の真っ白な髪の色とは対照的な、濃紺の装束に身を固めている。
いわゆる軍服というやつだろう。
「つい、やってしまいました」
「おい」
ついってなんだ。
それで殺されかけたら、命がいくつあっても足りない。
「エレメアは私の為を思って暴走しちゃったのよ。この子の私への忠誠心は魔王軍随一だから。でも根はいい子なの。許してあげて、コタロー」
まあ自身の敬愛する主が、どこぞの知らない凡夫に丸裸にされたら思う所はあるか。
夜通し護衛している時も、フラストレーションが溜まっていたんだろうな。
「まあ、別に怪我が無かったからいいけどさ……」
広い心を持って許すとしよう。
俺だって裸を見ちゃったし、あやうく溺死させかけたというのもある。
ここは痛み分けだ。
「俺も悪かった。アリシアから話を聞いてるかもしれないが、俺には能力暴走という呪いがかけられている。いつローションまみれ……さっき君に使用したスキルが暴発するか分からない状況だ。つまり道中でも迷惑をかけるかもしれない。ただそれも水の都までだから、我慢してくれ」
最後の言葉に、アリシアがピクッと眉根を動かした気がした。
「別にそのことは、いい……」
エレメアは俺の同行を拒否するだろうとばかり思っていたが、そこまで拒絶的な反応は見せなることはなく、少し面食らった。
エレメアは恥ずかしそうに、もじもじとして、視線が泳いでいる。
「ローションまみれ……ぬるぬる。ゴクリ……」
聞こえないくらいの小さな声で、一人ごちる。
「興奮すな」
よっぽどローションのことが気に入ったようだ。
とんだエロガキである。
「コタロー、さっきのはどう言う意味なの?」
アリシアはしかめっつらで俺に尋ねる。
「さっきのって?」
「水の都まで、っていう話よ」
ムッとした面差しで言った。
「ああ……それは俺が居ても足手まといにしかならないって言う話だよ。俺はこの旅をそこで降りようと思っている」
するとすぐにアリシアは反論した。
「コタローは身を挺して私を庇ってくれたのよ、それを邪魔になったからといって簡単に切り捨てられるわけがないでしょう」
しかしアリシアはよくても、俺が俺に納得出来ないというのがある。
「エレメアも納得してくれるわよね?」
隣のエレメアにも意見を仰いだ。
「私めが、アリシア様の考えに意見する気は毛頭ありません。全てはアリシア様の仰せの通りに」
エレメアは従順なまでにアリシアの決定事項に従うつもりでいるようだ。
「ということよ。身の危険を感じて降りるなら、もちろん私も止めるつもりはないわ。でも私に対する負い目で降りるのは、そんなものは納得できない」
「それは……」
俺は言い返す言葉もなく、たじろぐ。
「二度とそんな馬鹿なことを自分から言うものじゃないわ。あなたはもう私の仲間なのよ」
アリシアは至極当然と言わんばかりに、あっけらかんと言った。
「……すまん、ありがとう」
俺の方が気恥ずかしくなって、そっぽを向く。
いっぱしの王らしい度量のデカさに、俺は平伏するばかりだ。
そんな彼女だからこそ、俺は少しでも役に立ちたい。
そう心の中で思った。
「さあ、二人の仲直りも済んだ所だし、準備が出来次第、出発するわよ」
果たして今のくだりで仲直りが済んだのかは甚だ疑問であるが。
「出来れば今日中にも水の都まで到着する予定でいるんだから急ぐわよ。私だって早くまともな服が着たいのよ」
アリシアの言葉にエレメアが答える。
「アリシア様、目的地が水の都なのでしたら、私のアイスドラゴンで飛べば一時間とかからずに到着できます」
エレメアはいつもの調子でボソッと言う。
「ほんとう!? じゃあお願いするわ!」
マジかよ。
そんな早く着いちまうのか。
これなら最終目的地である魔王城まであっという間じゃないのか。
「あ、その前にちょっと待ってくれ。出発する前にやりたいことがあるんだ。すぐに戻る」
二人は不思議そうに首を傾げる。
俺はその場を離れ、タタリオロチの死骸があるところにまでやってきた。
当然、昨日と同じままの状態で大口を開けて倒れていた。
俺がやりたいこと、それはタタリオロチの鱗を剥ぎ取ることだ。
アリシアもタタリオロチを見たことがない珍しいモンスターと言っていた。
そんなモンスターの鱗なら、街で高値で売れるかもしれない。
俺は懐から調理用ナイフを取り出し、鱗をへつって、次々にアイテムウィンドウに収納していく。
しばらくして、軽く汗をかき始めたところで手を止めた。
これくらいあれば十分だろう。
採集を終えた俺はすぐに二人の元へと戻ってくる。
「早かったわね」
「タタリオロチの鱗を採ってた。何かに役立つかもしれないし」
そして俺は一本の大木を一瞥する。
今もなお、向かいの木にはゲルちゃんが張り付いていた。
それをさっと回収して、俺の準備は整った。
「よし、俺はいつでも出発可能だ」
「私たちもよ。じゃあエレメア、頼める?」
「かしこまりました」
エレメアは目を閉じて集中する。
途端に冷たい空気が彼女の周りを渦巻き始めたような気がした。
「来い、アイスドラゴン」
エレメアは囁くように静かに呼んだ。
すると何も存在しない虚空から、それはみるみる形成されていく。
けたましい音を立てながら、蹄、足、胴体、そして両翼を経て造り上げられる。
寒々しい白い霧を周囲に振りまきながら、眼前に顕現した。
気のせいではなく、周囲の温度が急激に下がった。
呼吸をするだけで肺が凍てつきそうだ。
「……綺麗だ」
思わず、感嘆の声が口端から漏れる。
それはさながら氷の彫刻品のような芸術性を含んでいた。
「では、乗ってください」
「……触れても凍らないよな?」
俺はおそるおそる尋ねる。
指先一つでも触れれば、そこから壊死してしまいそうで怖い。
「敵と認識しなければ無害です」
俺のことをうっかり敵と認識しそうで怖い。
ビビり散らかす俺を傍目に、アリシアはその背中に簡単に飛び乗った。
「アイスドラゴンの背には初めて乗るわ。ひんやりしてて気持ちいいのね」
エレメアも続いて乗る。
「早くしなさいコタロー」
「わ、分かってるさ」
俺も勇気を出して、一思いに飛び乗る。
凍傷してしまう、と思ったがなんとも無かった。
背中に乗ると不思議な生命力を感じて、アイスドラゴンがちゃんと生きているのが伝わってくる。
「それでは、行きます」
バサ、バサ、と氷の翼を器用に羽ばたかせ、上昇していく。
やがて、そこら中に生えている樹木の頂きをも超える高度まで上がってきた。
「しっかり掴まってください」
指示に従い、胸で抱くようにアイスドラゴンに掴まる。
ザクザクとしてちょっと痛い。
ある地点にまで達して停止すると、そこから滑空を始めた。
そうして俺たちは、水の都へと向かった。
「あー、ところで一旦整理させて欲しいんだが、エレメアはアリシアの配下、つまりアリシア派に属する魔王軍の者ということだよな?」
「ええ」
「そして昨夜、俺が眠っている間に二人はここで落ち合った。彼女が夜通し魔物から護衛をしてくれたため、俺たちは安心して眠ることが出来たと。しかしよくこの居場所が分かったな」
一歩足を踏み入れば途端に迷ってしまいそうな深緑な森の中で、よくここまで辿り着けたものだ。
「私の配下の一人に魔力感知を持っている者がいるの。だから私が見つかるのは時間の問題だったわ」
「アリシア以外にも居たんだな」
「その魔力感知の所有者であるバーランダーという名の配下が、私の居場所を大雑把にだけど把握して、この方角に居ることが粗方分かったらしい。そうして私の配下一同しらみ潰しに捜索に当たっていた所を、このエレメアが偶然見つけたというわけ」
「へぇ、なるほどな」
ならば今も他の配下たちはアリシアのことを捜索しているわけか。
残りのメンバーにもどこかで合流したいものだが。
「魔力感知の精度は所有者それぞれ違うから、詳細に突き止められるほど洗練されたものを持っている者は少ないのよ」
言われてみれば確かにタタリオロチの魔力感知はアリシアに比べて随分とおざなりなものだった。
その辺はスキル熟練度も関係しているのだろう。
そう考えるとやはりアリシアは凄いやつなんだな。
しかし魔力感知というスキルは、やはり便利で活躍する場面が多い。
俺もレベルアップした時に習得できないだろか。
ローションはともかくとして、鑑定以外にも実用性のあるスキルが欲しいところだ。
「やっぱアリシアの配下って、皆エレメアくらい強いのか?」
気になった疑問を訊いてみる。
「エレメアはまだ幼いけど幹部クラスよ。この子が特別に強いの」
「確かにその歳で幹部になるくらいだもんな」
どうも彼女は幼いながらにも幹部に昇りつめた天才少女というわけらしい。
年齢や努力がというよりも、おそらく才能の世界なんだろう。
氷属性で生まれた時点で将来を約束されたようなものだしな。
世界はなんて不平等で残酷なのだ。
見た目も派手でカッコイイし、実に羨ましいことだ。
「この子は幹部の中でも、二番目に強いわね」
二番目、という言葉が気になった。
「じゃあまだ上がいるのか」
「一番はバーランダーという、魔王軍きっての騎士よ」
「ああ、さっき名前が出たやつか。魔力感知を持ってるっていう」
エレメアを基準に考えると、幹部クラスとあらばレベルが90近いことになる。
だとしたらアリシア派の他の幹部たちが勢揃いとなれば、とてつもなく強力な戦力になることが予想できる。
敵対するアリア派とも十分に対抗できるだろう。
まあアリア派の戦力といっても、例の盗賊団くらいしか知らないのだが。
しかしこれほど強い味方と共に行動するとなると、かなり心強い。
安心してアリシアのことを任せられるだろう。
更にそのバーランダーさんとやらと合流できれば、向かうところ敵無しではある。
タタリオロチみたいな格上の強敵が現れても、エレメア一人いるだけで善戦できるだろうし、そうなってくると俺という存在も、いよいよお役御免かな。
アリシアはああ言ってくれたが、呪い持ちが近くに居たところでお荷物にしかならない。
それくらいは自分でも弁えていつるもりだ。
それにたとえアリシアがよくても、エレメアが俺の同行に反対するかもしれない。
共に一緒に居られるのも、水の都までだろうな。
「拭き終わったわ。服もここに置いておくから。……着替えも手伝った方がいい?」
「……いえ、それくらい自分でやれます。これ以上アリシア様のお手を煩わせるわけには……」
「はいはい」
そういって、衣擦れするような音が俺の耳に届いた。
袖に腕を通すのを手伝っているのだろうか。
アリシアも中々世話焼きの性分である。
そうして俺は、所在なさげに青い空でも眺める。
雲ひとつない快晴が広がっており晴れやかな気分となるが、どこか寂しさも感じる空だった。
ああ、そういえば忘れていたことがある。
レベルアップの際に俺は新しいローションの技を手に入れたんだった。
まだしっかりと確認していなかった。
俺はステータスウィンドウを開き、新技であるローションブローとローションボディの説明を読んでみる。
・ローションブロー
濡れそぼつ掌底を繰り出す。
触れた対象の着衣を剥がすことができる。
まずはローションブローだが、これはローションを拳に纏って殴る技のようだ。
効果はローションボールと同様で服を剥くのみ。
大して強くもないが近接戦闘になった時に使えるかもしれない。
攻撃の手札が増えただけでも良しとしよう。
・ローションボディ
全身の汗腺からローションを噴き出す。
物理攻撃を無効化する。
続いてローションボディだ。
攻撃系しかなかった中で、初めての防御技になる。
これは結構使えるんじゃないか?
というか普通に強くないか。
汗腺からローションを出すのはちょっとキモイが、物理攻撃を無効化が出来るなら、殴打のみならず剣などの刃物も通さないということであろう。
電撃などのスキル攻撃以外を除いては、ほぼ無敵である。
使用する機会もそう遠くないうちに訪れるだろう。
そこで、
「だいぶ落ち着きました。ありがとうございます、アリシア様」
エレメアが平静を取り戻したようだ。
「……申し訳ございませんでした。コタローさん」
アリシアに礼を述べたあと、背後から俺に対して謝罪の言葉が投げかけられる。
俺はおもむろに振り返ると、エレメアはしっかり服を着込んでいた。
自身の真っ白な髪の色とは対照的な、濃紺の装束に身を固めている。
いわゆる軍服というやつだろう。
「つい、やってしまいました」
「おい」
ついってなんだ。
それで殺されかけたら、命がいくつあっても足りない。
「エレメアは私の為を思って暴走しちゃったのよ。この子の私への忠誠心は魔王軍随一だから。でも根はいい子なの。許してあげて、コタロー」
まあ自身の敬愛する主が、どこぞの知らない凡夫に丸裸にされたら思う所はあるか。
夜通し護衛している時も、フラストレーションが溜まっていたんだろうな。
「まあ、別に怪我が無かったからいいけどさ……」
広い心を持って許すとしよう。
俺だって裸を見ちゃったし、あやうく溺死させかけたというのもある。
ここは痛み分けだ。
「俺も悪かった。アリシアから話を聞いてるかもしれないが、俺には能力暴走という呪いがかけられている。いつローションまみれ……さっき君に使用したスキルが暴発するか分からない状況だ。つまり道中でも迷惑をかけるかもしれない。ただそれも水の都までだから、我慢してくれ」
最後の言葉に、アリシアがピクッと眉根を動かした気がした。
「別にそのことは、いい……」
エレメアは俺の同行を拒否するだろうとばかり思っていたが、そこまで拒絶的な反応は見せなることはなく、少し面食らった。
エレメアは恥ずかしそうに、もじもじとして、視線が泳いでいる。
「ローションまみれ……ぬるぬる。ゴクリ……」
聞こえないくらいの小さな声で、一人ごちる。
「興奮すな」
よっぽどローションのことが気に入ったようだ。
とんだエロガキである。
「コタロー、さっきのはどう言う意味なの?」
アリシアはしかめっつらで俺に尋ねる。
「さっきのって?」
「水の都まで、っていう話よ」
ムッとした面差しで言った。
「ああ……それは俺が居ても足手まといにしかならないって言う話だよ。俺はこの旅をそこで降りようと思っている」
するとすぐにアリシアは反論した。
「コタローは身を挺して私を庇ってくれたのよ、それを邪魔になったからといって簡単に切り捨てられるわけがないでしょう」
しかしアリシアはよくても、俺が俺に納得出来ないというのがある。
「エレメアも納得してくれるわよね?」
隣のエレメアにも意見を仰いだ。
「私めが、アリシア様の考えに意見する気は毛頭ありません。全てはアリシア様の仰せの通りに」
エレメアは従順なまでにアリシアの決定事項に従うつもりでいるようだ。
「ということよ。身の危険を感じて降りるなら、もちろん私も止めるつもりはないわ。でも私に対する負い目で降りるのは、そんなものは納得できない」
「それは……」
俺は言い返す言葉もなく、たじろぐ。
「二度とそんな馬鹿なことを自分から言うものじゃないわ。あなたはもう私の仲間なのよ」
アリシアは至極当然と言わんばかりに、あっけらかんと言った。
「……すまん、ありがとう」
俺の方が気恥ずかしくなって、そっぽを向く。
いっぱしの王らしい度量のデカさに、俺は平伏するばかりだ。
そんな彼女だからこそ、俺は少しでも役に立ちたい。
そう心の中で思った。
「さあ、二人の仲直りも済んだ所だし、準備が出来次第、出発するわよ」
果たして今のくだりで仲直りが済んだのかは甚だ疑問であるが。
「出来れば今日中にも水の都まで到着する予定でいるんだから急ぐわよ。私だって早くまともな服が着たいのよ」
アリシアの言葉にエレメアが答える。
「アリシア様、目的地が水の都なのでしたら、私のアイスドラゴンで飛べば一時間とかからずに到着できます」
エレメアはいつもの調子でボソッと言う。
「ほんとう!? じゃあお願いするわ!」
マジかよ。
そんな早く着いちまうのか。
これなら最終目的地である魔王城まであっという間じゃないのか。
「あ、その前にちょっと待ってくれ。出発する前にやりたいことがあるんだ。すぐに戻る」
二人は不思議そうに首を傾げる。
俺はその場を離れ、タタリオロチの死骸があるところにまでやってきた。
当然、昨日と同じままの状態で大口を開けて倒れていた。
俺がやりたいこと、それはタタリオロチの鱗を剥ぎ取ることだ。
アリシアもタタリオロチを見たことがない珍しいモンスターと言っていた。
そんなモンスターの鱗なら、街で高値で売れるかもしれない。
俺は懐から調理用ナイフを取り出し、鱗をへつって、次々にアイテムウィンドウに収納していく。
しばらくして、軽く汗をかき始めたところで手を止めた。
これくらいあれば十分だろう。
採集を終えた俺はすぐに二人の元へと戻ってくる。
「早かったわね」
「タタリオロチの鱗を採ってた。何かに役立つかもしれないし」
そして俺は一本の大木を一瞥する。
今もなお、向かいの木にはゲルちゃんが張り付いていた。
それをさっと回収して、俺の準備は整った。
「よし、俺はいつでも出発可能だ」
「私たちもよ。じゃあエレメア、頼める?」
「かしこまりました」
エレメアは目を閉じて集中する。
途端に冷たい空気が彼女の周りを渦巻き始めたような気がした。
「来い、アイスドラゴン」
エレメアは囁くように静かに呼んだ。
すると何も存在しない虚空から、それはみるみる形成されていく。
けたましい音を立てながら、蹄、足、胴体、そして両翼を経て造り上げられる。
寒々しい白い霧を周囲に振りまきながら、眼前に顕現した。
気のせいではなく、周囲の温度が急激に下がった。
呼吸をするだけで肺が凍てつきそうだ。
「……綺麗だ」
思わず、感嘆の声が口端から漏れる。
それはさながら氷の彫刻品のような芸術性を含んでいた。
「では、乗ってください」
「……触れても凍らないよな?」
俺はおそるおそる尋ねる。
指先一つでも触れれば、そこから壊死してしまいそうで怖い。
「敵と認識しなければ無害です」
俺のことをうっかり敵と認識しそうで怖い。
ビビり散らかす俺を傍目に、アリシアはその背中に簡単に飛び乗った。
「アイスドラゴンの背には初めて乗るわ。ひんやりしてて気持ちいいのね」
エレメアも続いて乗る。
「早くしなさいコタロー」
「わ、分かってるさ」
俺も勇気を出して、一思いに飛び乗る。
凍傷してしまう、と思ったがなんとも無かった。
背中に乗ると不思議な生命力を感じて、アイスドラゴンがちゃんと生きているのが伝わってくる。
「それでは、行きます」
バサ、バサ、と氷の翼を器用に羽ばたかせ、上昇していく。
やがて、そこら中に生えている樹木の頂きをも超える高度まで上がってきた。
「しっかり掴まってください」
指示に従い、胸で抱くようにアイスドラゴンに掴まる。
ザクザクとしてちょっと痛い。
ある地点にまで達して停止すると、そこから滑空を始めた。
そうして俺たちは、水の都へと向かった。
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