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恋人編
第11話「誰にでも変化は訪れ、故に人の未来は不確定である」③
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カラオケでひとしきりパーティーを楽しんだ後。僕は四郎と共に夜の道を歩いていた。
「あ~、喉枯れたぜ……。こんなに歌ったの久々だよ」
四郎は大きく口を開けながら言う。僕は呆然と暗い住宅街を見渡しながら、隣にいる彼へと目も向けないで語り掛けた。
「……ごめんね、四郎」
「あ? 何がだよ?」
「だって、僕を後押しするために開いたんでしょ? あのパーティー。……僕のために、慣れない人たちとも関わってくれて」
「気にすんなって。それに、いつもとノリが違う奴らと関わるのも、これはこれで面白れぇなって思ったから、別にいいよ。漫研の部長とは気が合いそうだったし」
四郎はそう言ってケラケラと僕に笑みを向けた。僕は彼のその表情に微笑むと、しかし、すぐにまた前を向き、黙して地面へと視線を落とした。
「……どうしたんだよ、真白」
僕の様子に、また四郎が語り掛けて来る。僕は「いや」と前置くと、大きく息を吸って間を持たせ、それを吐き出すと共に、自身の心情を吐露した。
「……詩子と会う前にね。実は、天音さんと会ってたんだよ」
「天音さん……って、ああ。姫川さんの友達だっけ? 優花里から聞いた」
「うん。……詩子と別れたって聞いて、あの子、僕に発破をかけようとしたんだ。それで、あの子に連れられて……あの子の家に行った」
「え、家? おいおい、マジか?」
四郎がギョッと僕を睨みつけて来る。僕はその視線で彼が変な勘違いを起こしていることを察して、「あ、いや。別に、変なことはしてないよ」と付け加えた。
「天音さんの家、どうやら道場やってるみたいでね。それで、その中でぶん殴られた」
「……は、はぁ? 殴られた、って……え、なに? どういうこと?」
「拳で語るって事だと思うよ」
「昭和かよ! 思ったよりもヤベェ女だな!」
「うん。……それで、そこで彼女と話して……思ったんだよ。……あの子の覚悟は、無駄にしちゃいけないって」
僕の言葉に、四郎の目つきが鋭くなる。僕は彼の心持を受け取って、更に自分の心情を吐き出していく。
「なのに、僕は――あの時、詩子よりも先に切り出せなかった。……本当は、僕から先に言うべきだったのに。……それが、本当に、情けなくて」
「……先に″ヨリを戻そう”って言えなかったのが、心残りってことか」
「……うん。……結局僕は、大事なところで自分から動けないような、そんな人間なんだって。……そもそも、それが今回の件の引き金だったのに。天音さんからああも発破をかけられたのに、僕は結局、詩子におんぶにだっこしてもらっていたんだ」
僕はため息を吐き、空を見上げる。下唇を噛み、自然と眉間に力がこもっていく。
「――人間の性格は、半分が遺伝子で決まる。僕の家族は、変われなかったから、今の今まで問題を抱え続けている。……だからこの性質は、きっと、僕らの生まれつきのモノなんだと思う。……だとしたら、将来の僕は、きっと、同じことを繰り返す。……向き合わなくちゃいけない問題から目を逸らして、家族をめちゃくちゃにする。……僕の、父さんのように。……それが、やっぱり、どうしても、怖くて」
カラオケで話した言葉を、僕はもう一度繰り返す。四郎は難しそうに奥歯を噛み、「あ~……」と、かける言葉が見つからない様子だった。
四郎が息を吸い、「なんだろうな」と声を漏らす。だけど、その後も彼は、やはり息を吸って吐いてを繰り返すばかりで、無意味に粘土をこねくり回すようなもどかしさが僕たちの間に蔓延した。
悶々と、僕の眉間にしわが刻まれていく。どれだけ悩んでも、どれだけ迷っても、頭の中に言葉が浮かび上がってこない。
――と、その瞬間だった。
「こ――河野くん!」
突然、僕たちの後ろから声が響いた。僕と四郎はビクリと体を震わせて、後ろから話しかけて来た何某へと目を向けた。
そこに立っていたのは、息を荒げて、汗を吹き出している、吉田航平だった。
「――え、吉田くん? え、なに? なんでここに?」
僕は突然現れた彼に驚き、瞳を揺らす。すると吉田は、大きく息を吸うと、僕に向かって、大声で叫びをあげた。
「――だ、大丈夫だから!」
僕と四郎は彼の言葉に、きょとんと目を丸くする。何が言いたいのか、何を言っているのかが何もわからず、困惑が僕たちの間に漂う。
「こ、河野くんには、変わっていける力があるから……! だって、君は、僕にそれを教えてくれたから……! だから、その……い、遺伝子がどうとか、そんなの、気にしなくていいよ! そんなの、さ、些細な問題だから――!」
吉田は息をはぁはぁと荒げながら、僕たちに思いの丈を言い切った。
僕と四郎は変わらずきょとんとしたまま、互いに顔を見合わせる。そしてしばらく、二人で彼の言葉について考えてから、「ああ」と合点がいった。
「……き、聞いていたの? 今の話」
「あ……う、うん。いや、その、本当は、カラオケの時に、デブとかどうとか聞こえてきて……それで、何を言っているかわかって……ど、どうしても、今のことを伝えたくて……」
「そ、それで、後ろからつけてたの?」
「あう……。ど、どこで話に割り込めばいいか、わからなくて……」
吉田はもじもじとしながら僕に言う。僕と四郎は互いにもう一度顔を見合わせると、ため息を吐き、互いに肩を落とし合った。
「お前なぁ。いきなり大声で話しかけて来るから、なんだって思ったぞ、マジで」
「う、うう……ご、ごめん……どうすればいいか、わからなくて……」
「いや、まあ。けど、そういう所だぞ。もうちょい人付き合い、練習しような」
「うう……」
吉田は顔を下げ、心底申し訳なさそうに四郎の言葉を聞いていた。
僕は、そんな彼の様子を見て――どういうわけだか、思わず、プッと吹き出して、笑ってしまった。
「あっはっはっは!」
住宅地に、僕の笑い声が響く。四郎と吉田はきょとんと僕を見つめて、僕が突然笑いだしたことに困惑している様子だった。
「――うん。まあ、確かに、いきなりでビックリしたけど。……でも、君が僕を思ってくれたって言うのは、理解したよ」
僕はそう言うと、ゆっくりと吉田へと近寄り、そして、彼の手を取った。
「――うん。……ありがとう。……そうだよね。そうだ。君の言う通りだよ。……おかげで、少し、勇気が出たよ」
僕は笑いながら、彼に頭を下げる。吉田は一瞬目を見開くと、顔を少しだけ赤くさせて、「ど、どういたしまして……」と同じように頭を下げた。
……そうだ。遺伝子がどうとか、そんなこと、些細な問題だった。
結局のところ、一歩ずつ進むしかないのだ。どれだけ未来を嘆いても、踏み出す以外の答えは無い。僕は彼の言葉に、そんな当たり前の答えを改めて認識した。
「……それにしても、吉田くん、少し痩せたね。あと臭いもマシになったし」
「あ……い、今は、毎日筋トレしていて……。臭いは、四郎から散々指摘されて……それで、服とか全部新しくしたんだ」
「へぇ。……凄いな。そこまでできる人って、そうめったにいないよ?」
「あ、当たり前のことをやって来ていなかっただけだから……」
吉田はそう言うと恥ずかしそうに笑った。
――と。突然、僕のポケットの中で、スマートフォンがぶるぶると震えた。僕は少し驚いてから、「ちょっと、電話来たから」と、二人から離れた。
暗がりの中で、スマートフォンをポケットから取り出す。そのまま画面を見ると、そこには、詩子の名前が書かれていた。
「……どうしたんだろう、一体」
僕は言いながら、電話に出る。「もしもし? どうしたの、詩子?」と声をかけると、電波の向こう側から、詩子の声が響いてきた。
「あ、真白……。……ちょっっと、変なこと言うけど……。
……海とか、行かない?」
「……え?」
僕は詩子からの突然の提案に目を丸くした。
「あ~、喉枯れたぜ……。こんなに歌ったの久々だよ」
四郎は大きく口を開けながら言う。僕は呆然と暗い住宅街を見渡しながら、隣にいる彼へと目も向けないで語り掛けた。
「……ごめんね、四郎」
「あ? 何がだよ?」
「だって、僕を後押しするために開いたんでしょ? あのパーティー。……僕のために、慣れない人たちとも関わってくれて」
「気にすんなって。それに、いつもとノリが違う奴らと関わるのも、これはこれで面白れぇなって思ったから、別にいいよ。漫研の部長とは気が合いそうだったし」
四郎はそう言ってケラケラと僕に笑みを向けた。僕は彼のその表情に微笑むと、しかし、すぐにまた前を向き、黙して地面へと視線を落とした。
「……どうしたんだよ、真白」
僕の様子に、また四郎が語り掛けて来る。僕は「いや」と前置くと、大きく息を吸って間を持たせ、それを吐き出すと共に、自身の心情を吐露した。
「……詩子と会う前にね。実は、天音さんと会ってたんだよ」
「天音さん……って、ああ。姫川さんの友達だっけ? 優花里から聞いた」
「うん。……詩子と別れたって聞いて、あの子、僕に発破をかけようとしたんだ。それで、あの子に連れられて……あの子の家に行った」
「え、家? おいおい、マジか?」
四郎がギョッと僕を睨みつけて来る。僕はその視線で彼が変な勘違いを起こしていることを察して、「あ、いや。別に、変なことはしてないよ」と付け加えた。
「天音さんの家、どうやら道場やってるみたいでね。それで、その中でぶん殴られた」
「……は、はぁ? 殴られた、って……え、なに? どういうこと?」
「拳で語るって事だと思うよ」
「昭和かよ! 思ったよりもヤベェ女だな!」
「うん。……それで、そこで彼女と話して……思ったんだよ。……あの子の覚悟は、無駄にしちゃいけないって」
僕の言葉に、四郎の目つきが鋭くなる。僕は彼の心持を受け取って、更に自分の心情を吐き出していく。
「なのに、僕は――あの時、詩子よりも先に切り出せなかった。……本当は、僕から先に言うべきだったのに。……それが、本当に、情けなくて」
「……先に″ヨリを戻そう”って言えなかったのが、心残りってことか」
「……うん。……結局僕は、大事なところで自分から動けないような、そんな人間なんだって。……そもそも、それが今回の件の引き金だったのに。天音さんからああも発破をかけられたのに、僕は結局、詩子におんぶにだっこしてもらっていたんだ」
僕はため息を吐き、空を見上げる。下唇を噛み、自然と眉間に力がこもっていく。
「――人間の性格は、半分が遺伝子で決まる。僕の家族は、変われなかったから、今の今まで問題を抱え続けている。……だからこの性質は、きっと、僕らの生まれつきのモノなんだと思う。……だとしたら、将来の僕は、きっと、同じことを繰り返す。……向き合わなくちゃいけない問題から目を逸らして、家族をめちゃくちゃにする。……僕の、父さんのように。……それが、やっぱり、どうしても、怖くて」
カラオケで話した言葉を、僕はもう一度繰り返す。四郎は難しそうに奥歯を噛み、「あ~……」と、かける言葉が見つからない様子だった。
四郎が息を吸い、「なんだろうな」と声を漏らす。だけど、その後も彼は、やはり息を吸って吐いてを繰り返すばかりで、無意味に粘土をこねくり回すようなもどかしさが僕たちの間に蔓延した。
悶々と、僕の眉間にしわが刻まれていく。どれだけ悩んでも、どれだけ迷っても、頭の中に言葉が浮かび上がってこない。
――と、その瞬間だった。
「こ――河野くん!」
突然、僕たちの後ろから声が響いた。僕と四郎はビクリと体を震わせて、後ろから話しかけて来た何某へと目を向けた。
そこに立っていたのは、息を荒げて、汗を吹き出している、吉田航平だった。
「――え、吉田くん? え、なに? なんでここに?」
僕は突然現れた彼に驚き、瞳を揺らす。すると吉田は、大きく息を吸うと、僕に向かって、大声で叫びをあげた。
「――だ、大丈夫だから!」
僕と四郎は彼の言葉に、きょとんと目を丸くする。何が言いたいのか、何を言っているのかが何もわからず、困惑が僕たちの間に漂う。
「こ、河野くんには、変わっていける力があるから……! だって、君は、僕にそれを教えてくれたから……! だから、その……い、遺伝子がどうとか、そんなの、気にしなくていいよ! そんなの、さ、些細な問題だから――!」
吉田は息をはぁはぁと荒げながら、僕たちに思いの丈を言い切った。
僕と四郎は変わらずきょとんとしたまま、互いに顔を見合わせる。そしてしばらく、二人で彼の言葉について考えてから、「ああ」と合点がいった。
「……き、聞いていたの? 今の話」
「あ……う、うん。いや、その、本当は、カラオケの時に、デブとかどうとか聞こえてきて……それで、何を言っているかわかって……ど、どうしても、今のことを伝えたくて……」
「そ、それで、後ろからつけてたの?」
「あう……。ど、どこで話に割り込めばいいか、わからなくて……」
吉田はもじもじとしながら僕に言う。僕と四郎は互いにもう一度顔を見合わせると、ため息を吐き、互いに肩を落とし合った。
「お前なぁ。いきなり大声で話しかけて来るから、なんだって思ったぞ、マジで」
「う、うう……ご、ごめん……どうすればいいか、わからなくて……」
「いや、まあ。けど、そういう所だぞ。もうちょい人付き合い、練習しような」
「うう……」
吉田は顔を下げ、心底申し訳なさそうに四郎の言葉を聞いていた。
僕は、そんな彼の様子を見て――どういうわけだか、思わず、プッと吹き出して、笑ってしまった。
「あっはっはっは!」
住宅地に、僕の笑い声が響く。四郎と吉田はきょとんと僕を見つめて、僕が突然笑いだしたことに困惑している様子だった。
「――うん。まあ、確かに、いきなりでビックリしたけど。……でも、君が僕を思ってくれたって言うのは、理解したよ」
僕はそう言うと、ゆっくりと吉田へと近寄り、そして、彼の手を取った。
「――うん。……ありがとう。……そうだよね。そうだ。君の言う通りだよ。……おかげで、少し、勇気が出たよ」
僕は笑いながら、彼に頭を下げる。吉田は一瞬目を見開くと、顔を少しだけ赤くさせて、「ど、どういたしまして……」と同じように頭を下げた。
……そうだ。遺伝子がどうとか、そんなこと、些細な問題だった。
結局のところ、一歩ずつ進むしかないのだ。どれだけ未来を嘆いても、踏み出す以外の答えは無い。僕は彼の言葉に、そんな当たり前の答えを改めて認識した。
「……それにしても、吉田くん、少し痩せたね。あと臭いもマシになったし」
「あ……い、今は、毎日筋トレしていて……。臭いは、四郎から散々指摘されて……それで、服とか全部新しくしたんだ」
「へぇ。……凄いな。そこまでできる人って、そうめったにいないよ?」
「あ、当たり前のことをやって来ていなかっただけだから……」
吉田はそう言うと恥ずかしそうに笑った。
――と。突然、僕のポケットの中で、スマートフォンがぶるぶると震えた。僕は少し驚いてから、「ちょっと、電話来たから」と、二人から離れた。
暗がりの中で、スマートフォンをポケットから取り出す。そのまま画面を見ると、そこには、詩子の名前が書かれていた。
「……どうしたんだろう、一体」
僕は言いながら、電話に出る。「もしもし? どうしたの、詩子?」と声をかけると、電波の向こう側から、詩子の声が響いてきた。
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