愛と友情は紙一重!|キュンとしないのになぜか尊い、陰キャ同士の捻くれた純愛ヒューマンドラマ

オニオン太郎

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恋人編

第13話「だから、もう一度だけ」②

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 ――予約を取った旅館の一室の、謎スペースで。私は肌をオレンジ色に染め、波打つ地平線へと顔を消していく太陽を眺めていた。

 考えていたことは、当然由希のことだった。昼頃にアイツと会って以降、何をしていても、ずっとアイツのことが頭の中に浮かんでいた。

 思い返せば、もう半年以上話していない。真白と別れた時も頼ろうとしたけれど、アイツの気持ちを知っているうえで、それでも都合よく頼ろうとするのは、いくらなんでも酷すぎると思って、結局声なんてかけられなかった。


「……どうしたんだい、詩子?」


 と。悩む私に、相部屋になった真白が声を掛けて来た。

 私は「真白……」と呟き、隣へと並ぶ彼へと目を合わせる。私は少しばかり口ごもると、おずおずとしながら彼に悩みを打ち明けた。


「……実は、その……。……さっき、海の家で、由希に会ったの」

「!」


 真白は私の言葉を聞くと、途端に目つきを鋭くさせた。真白は真剣な面持ちで私を見つめ、頭の中で言葉を編み上げる私をじっと待っていた。


「それで……その……。……でも、私……気まずく、なっちゃって……。……それで、結局……」

「――話せて、ないんだね?」


 私の言葉を、真白が紡ぐ。私は上目遣いに彼を見つめると、こくりと首を縦に振った。


「……。……どうしたらいいんだろう……」


 私は自分の中の混乱を、どうしようもないと言う風に真白へと投げつける。


「私、あれからずっと……もう、半年以上、由希と話せてなくて……。……だけど、あの子の気持ちを考えたら……」


 私は額を押さえ、悩ましく頭を振る。真白はしばし私を見つめると、やがて目を閉じ、そしてゆっくりと瞼を開くと、

 そのまま、私の手を取り、強い視線で私を見つめて来た。


「行こう」


 ハッキリとした口調で、真白は断言する。私は瞳を揺らして、「えっ、」と声を詰まらせる。


「海の家にいたんだろう? ……なら、まだいるかもしれない。急げば間に合うよ」

「――で、でも……」

「そんなことしていいのか、不安なのなら心配ない。……天音さんも、絶対に君と話したいと思っている。……それに、話さなきゃいけない。少なくとも僕は、君と天音さんの縁が途切れるなんて、絶対に嫌だ」


 真白の声は、いつになく厳しい物だった。それ以外の結末なんて許さないと言う、そんな彼らしからぬ強引さと、彼らしい温かさが溢れた、優しい声だった。


「……君も、僕と同じだ。向き合わなくっちゃいけない。……あの人との関係は、君にとってそう言う物だろう?」

「――うん。……そうだね。――行こう!」


 私は、真白の声に絆され、首を縦に振った。

 ――勇気を振り絞れ。真白が応援してくれたんだ。

 私にとって、由希は何だ。私は心の中で呟くと、真白と共に急いで部屋を飛び出した。


◇ ◇ ◇ ◇


「――え、じゃあ、2人とももう行っちゃったんですか!?」


 海の家にて、私は店主であるおじさんに叫んだ。おじさんは私の声を聞くと、「あちゃあ、タイミング悪かったなぁ姉ちゃん。もう一時間くらい前だから、きっとバスで駅にまで行っちまってるんじゃあないかなぁ。いくら田舎でも、今から向かったら間に合わねぇんじゃねぇかなぁ」と、禿げあがった頭を掻きながら、バツが悪そうな表情をした。

 私と真白は海の家を出て、砂浜にて顔を見合わせる。私は昂った焦りをそのままに、「どうしよう、真白……!」と真白へ語り掛ける。


「落ち着いて。……次のバスは、しばらく来ないよね。……ここから駅まで走ったとしたら……たぶん、20分くらいかかるし……」


 真白は顎先に親指を当て、人差し指をぎりぎりと噛む。私はあまりにも望み薄な状況に、「由希……」と眉尻を下げた。

 ――と。真白は歯を食いしばり、顔を左右へと振り言った。


「諦める訳にはいかないよ」

「え……」

「もしかしたら、間に合うかもしれない。急ごう、とにかく」


 真白の真っすぐな目を見て、彼が何を言いたいのかを察した。私はきつく唇を結びながら、「――うん!」と頷き、真白と共に急いで砂浜を出て、堤防の階段を上った。

 息を切らして、コンクリートの道を走り、走り、走り、走り。しかし、少しずつ傾いていく日とは裏腹に、一向に駅は見えない。山肌をなぞるような曲がりくねった道と、雑草の生い茂る脇道とが続くだけだった。


「ぐぅ……! クソ、もっと、ちゃんと、運動しとくべきだった……!」


 私はもう何度目だと言う後悔を抱く、真白も険しい顔で脇腹を押さえながら、「クソ……! 道が、遠い……! 車かバイクでもあれば、すぐなのに……!」と呟いていた。

 ――と。後ろから、バイクの音がした。私は真白と共に歩道の端まで寄り、後ろのバイクが過ぎ去るのを待つ。

 ブン、と、バイクが私たちの脇を過ぎ去る。途端、「あれ!?」という声が響き、バイクは勢いよくドリフトをしながら、コンクリートを滑りながら止まった。


「アンタら、なにやってんの?」


 黒いライダースーツを着て、白いフルフェイスヘルメットを被った何某が話しかけて来る。私は真白と共に顔を見合わせ、「誰?」と互いに首を傾げる。

 と。「ちょっと、何その反応、酷くない?」と言いながら、何某は勢いよくヘルメットを外した。

 現れたのは……茶色い長い髪をなびかせた、かなり綺麗な女の人だった。私はどこか見覚えのあるその女性の顔にもう一度首を傾げ、「えぇっっ……と……?」と呟いた。

 しばらく、女の人の顔を見続け。私はようやく、それが誰なのかを悟り、「げっ」と思わず顔をしかめてしまった。


「ま、松田……!」

「げっ、て、酷くない? そんなに私に会いたくない?」

「当たり前だろ! お前、自分が何やったのかわかってんのかよ!」


 私は一歩後ろへ下がり、真白が私の手を引き「行こう」と露骨に彼女を避ける。松田はバイクから降りて、「わぁ! 待って、待てって!」と私たちへと追い縋って来た。


「なんだよ、お前! 来んなって、気持ち悪い!」

「ちょっと、何その言い方……」


 松田は一瞬眉を吊り上げると、しかし、すぐにバツが悪そうに目を伏せ、頭を掻きながら大きく、大きくため息を吐いた。何なんだよ、一体。

 私がげんなりとしていると。松田は私たちに近づき、そして、突然勢いよく頭を下げた。


「――あん時は、ごめん。……いや、ちょっと、その……色々あって。……そういや、謝ってないなって」


 私は彼女の行動にぽかんと目を見張り、思わず身動きを止める。そして、「……は?」と、彼女の脳天に向かって肩を落とした。


「……いや、今更謝っても。大体、そんなんで許すわけねぇだろ。謝るべきは私じゃないし」

「それは……そう、だけど。……」


 松田はバツが悪そうに顔を背け、イライラとした様子で地面を足で擦っていた。

 ……なんなんだよ、コイツ。あの時も突然変なことしやがって。私は嫌々とした目線を彼女へ向けると、真白が突然、「ねぇ」と松田へ声をかけた。


「……僕たち、駅に向かっているんだ。……天音さんがそこにいる」

「――!」

「……謝るつもりがあるのなら、詩子をバイクに乗せて。……駅まで、彼女を連れて行って欲しい」


 私は真白の提案にギョッとして、「ちょっと!」と彼の袖を引く。真白は私を見ると、首を左右へ振り、「時間がない。使えるのなら、何でも使おう」と言い返した。

 と。松田はバイクへと戻ると、座席の蓋を開け、中から簡素なヘルメットを取り出した。


「……乗れ」


 松田は言いながら、私にヘルメットを投げ渡した。私は「ぎぇ!」とそれに取り乱し、そのままヘルメットを取り損ねて落としてしまう。

 松田が「なにやってんだよ」と言い放つ。私は「突然で取れるわけねぇだろ!」と言い返しながら、地面に落ちたヘルメットを手に取った。

 ……被ると言うより、頭に乗せる感じのヘルメットだ。頭頂から地面に落ちたけど、ちょっと傷が入った程度で、頑丈さがうかがえる。

 松田が「早く」と私を急かす。私は舌打ちをしながらヘルメットを被り、顎下で紐を止めながら、「わかったって!」と言い返し、そそくさと彼女のバイクへと寄る。

 松田がバイクにまたがり、私はおずおずと彼女の後ろへ座る。私はもう一度、真白へと目を向けると、真白は「行って!」と私に言った。

 私は彼の言葉に頷くと、「出して!」と松田へ言う。松田は「飛ばすよ!」と言うと、エンジンを勢いよく吹かし、物凄い速度でコンクリートを走り始めた。


「ちょっ……は、速い!」

「――わかってんのよ。自分がカスだってのは」


 と。松田は突然何かを言い出し、私はそれに、「はぁ?」と怪訝に返した。


「ずっと、自分の事しか見えてなかった。……みんなから嫌われたって、文句言えないって言われた。……だから、変わんなきゃって。……だから、アンタらとはケジメをつけたかった。……そんだけ」


 松田の声は、以前聞いた時のような、ふざけた態度ではなく。むしろ、あの時の彼女が何者だったのかと思う位に、凛としていて、真剣だった。

 ――コイツは、もうあの時のアイツじゃあないんだ。私はなんとなくそれを理解すると、「知るか。……けど、ありがとう。おかげで、私も、ケジメ付けられそう」と、不本意ながらに、少し大きくなった背中に、とげとげしく言い返した。
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