愛と友情は紙一重!|キュンとしないのになぜか尊い、陰キャ同士の捻くれた純愛ヒューマンドラマ

オニオン太郎

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友情編

第7話「オタクが陽キャになろうとして生き方を見失うのはままあること」②

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 ――自爆に自爆を重ねて、もはや取り返しのつかない状態になってしまってから、数日くらい経って。私は日に日に痛みを増す腹痛と頭痛に苛まれていた。

 アレから河野には何度かメッセージを送った。電話もかけたが、一向に既読は付かなかった。おそらく、今度は私が、奴にブロックされたのだろう。

 こうまでなって、ようやく私は理解した。私にとってアイツは、本当に大事な親友だったんだってことを。

 一緒にいて苦がなく、趣味もあって、細かいことをごちゃごちゃと言われることもなくて、それに、私の作品にしっかり向き合ってくれて。

 そんな人間との関係を、私は、自分の保身のために裁断してしまったんだ。

 ……だけど、ここに来て私は、わからなくなってしまった。

 そもそも、私は一体、自分の何を守ろうとしていたんだっけ……?

 河野をブロックしてまで、私は一体――。



◇ ◇ ◇ ◇



 私は部屋の中で、下着姿のままで呆然としていた。

 あれからというものの、漫研に足を運ぶことは無くなった。なにも吉田が余りにキモイとか(いやまあキモイのだが)、もしくは風邪をひいただとか、そういうことはない。ただ単に興が乗らなかっただけだ。

 本当なら大学も休んでしまいたいという想いさえあった。けどさすがに親に学費を払ってもらっているのだから、単位を落としてしまうようなまねはできなかった。学校へ向かう度、ギチギチに固まった機械を無理強引に動かすような辛さが私の脳を侵していくのを感じた。

 授業を終えた後はまっすぐに家へ帰る。サークルに参加したり由希と遊んでいたりをしていた時は感じなかったが、さっさと家に帰ろうとしてしまうと、存外自分は他人と関わらないのだなと強く感じてしまった。

 ……なんとなく、私は中学時代の頃を思い出した。

 あの頃は最悪だった。三年間、本当に誰一人として友達ができなくって、私はずっと、ずっとずっと本を読んでいた。本が好きだから……というのも理由なのだけど、それ以上に、それしか逃げ道がなかったのだ。

 だけどあの頃友達ができなかったのは仕方がないと思う。なにせ当時の私は、今よりずっと太ってたし、肌も荒れていたし、とにかく垢抜けていなかった。

 絵に描いたようなキモブス女とでも言おうか。漫画に出てくるカワイイ系の地味子ではなく、本当に、どこかもっさりとしているような、とにかく気持ちの悪い地味子だった。おまけに性格も暗くてじめっとしていたのだから、誰も私と一緒にいようなんて思ってくれなかった。きのこというあだ名まで付けられて、みんなから陰でひそひそと言われていたのは、今でも思い出すと胸が苦しくなる。


 だから高校に入る前に、痩せて、かわいくなろうって決意した。人生で一番頑張っていた時期だと思う。どんな苦しいダイエットも、三年間のぼっちに比べれば遥かにマシに思えた。


 ファッション雑誌も読み込んだし、化粧の方法も調べた。話し方も変えて明るく見えるように努力した。その結果、私は明るい陽キャたちの友人に恵まれた。イケメンで運動神経も良くて性格も良い彼ピッピも手に入れた。

 だけど、なんか違うって思った。でももう引っ込みがつかなくて、だから人間関係がリセットされる大学生になったら、オタクの友達を作ろうって思った。

 だけど、その結果がこのザマだ。結局、友達って心の底から言えるような奴は由希の一人くらい。後はなんかもう本当にキモイオタクとかそういうのばかりで、『ああ、コイツは友達なんだ』って言える奴は誰もいなかった。

 ……あまつさえ、ようやく手に入れたその人物まで、私は手放してしまったのだ。私は今まで、ずっと『何かが違う』『何かが足りない』って思っていたけど、それはもしかしたら、私があまりにも傲慢だからかもしれない。


「……なんか、本当に」


 私は誰に言うわけでもなく。指で、河野が書いた小説が映ったスマホの画面をいじりながら呟く。


「……めんどくさいな。私って」


 言葉にため息が混じる。
 自分でも、自分が心底嫌になる。こんな人間なのだから、他人に見放されても正直仕方がないと言わざるを得ないだろう。

 ……もしかしたら、いつか由希も、私に愛想を尽かして離れていくのかな。心の中にじんわりと不安が拡がった瞬間、

 ピンポン、と、部屋のベルが鳴った。


「……だれだろ」


 私は立ち上がって、ゆっくりと玄関まで行き、扉のドアスコープを覗き込んだ。
 扉の向こうには、見慣れた金髪の姿があった。


「由希じゃん」


 私はぽつりと呟いてから、ガバッと扉を開く。すると由希がそれに気付いてはっと私に視線を合わせた。


「よ、詩子……って、格好!」

「よう由希。まあ家の中だし、多少はね?」

「いやだからって下着でドア開けんなよ! ちょ、部屋入れて! ドア閉めて早く!」


 由希は妙に顔を赤くさせながら急いで玄関に入って来た。まあ、確かにこれを知らない人に見られたら恥ずかしいし、言葉に従って早くドアを閉めるか。

 私は由希が入ったのを見計らってバタンと勢い良くドアを閉めた。「もうちょっと静かに閉めろよ」と由希が苦笑いを浮かべてくる。私は「わるいね」と言ってケラケラと笑った。

 特にこれと言った言及もなく、由希と私は部屋の奥へと入っていく。由希が「なんか、アンタの部屋入るの久しぶりな気がする」と呟いた。


「相変わらず、片付いてないな」

「ほっとけ」

「ペットボトルとか缶くらいは捨てなよ。あーあ、大学の資料も机とかに置きっぱなしじゃん」

「あんまし言わないでよ。アンタは私の奥さんかい」

「いや、まあ、アハハ」



 なんか歯切れの悪い返事だな。私は由希の様子に少し首を傾げた。まあいいんだけど。


「それはそうと、詩子。アンタ最近大丈夫?」


 と、由希は突然、私の心臓をガッと掴むかのような問いかけをしてきた。

 私は思わず「うっ」と言って固まってしまう。由希はそこから更に続けて「最近、漫研にも来てないし、まっすぐ帰ってるじゃん。いや別に、あんな所来なくていいんだけど。ちょっと調子悪いんじゃないの?」と尋ねてくる。私は彼女の言葉にたじたじになった。


「……はあ。由希さんは私のことなんでもお見通しね」

「……まあ、よく見てるからね」

「なんかさ。行きたくなくなっちゃったんだよね。漫研」

「あー。吉田がなんかキモイこと言ってたしね」

「いやまあ、アレはキモイけど、それが理由じゃないよ。……なんていうのかな。
 …………バカらしくなった。無理矢理自分を繕って、ああやって人と関わるのが」


 私はひとつひとつ編んでいくかのように言葉を連ねた。そうして自分が出した一言は、私の中で、ぴたりと欠けたピースに当てはまるような感覚を覚える言葉だった。


「……ああ、そっか。私、そうだ。自分を繕いたくなかったんだ。けど、なんで今更そんなことわかるかなあ。もう遅いって言うのに……」

「……詩子?」

「……ごめんね、由希。突然変なこと言って」

「……別にいいけどさ。……ねえ、詩子。一体何があったの? ちょっと、色々と唐突過ぎてよくわかんないんだけど。だから、話してくれない?」


 由希が訝しむような視線を向けてくる。私は少し黙した後に、小さくため息を吐いてから、河野と私の関係について話し始めた。

 由希はしっかりと私の話を聞いてくれた。私が一体何をしたかを全部話すまで、一言も言葉を挟まず、ただ相槌を打ちながら私の声を全部拾ってくれた。


「……なるほど。いや、ごめん。けど、それはアンタが悪いと思う」

「……うん。わかってる。なにも言い訳なんかできない」

「いや、それはそうなんだけど、そういう意味じゃないって言うかさ。……あー、なんだろ。
 ……あのさ、詩子。ずっとイチャイチャできるカップルって、いると思う?」


 由希は突然私にそんなことを言ってきた。私は質問の意図が理解できず、「え?」と小さく呟くことしかできなかった。


「どう? いると思う?」

「………………。ぶっちゃけ、いないと思う」

「うん。いつまでも末永く幸せに暮らしました、なんて言うけど、私はそんなの絶対ないって思ってる。残念だけど、永遠の愛とか運命の人とかよく言うけど、あんなモン、あるわけがない。それは恋愛に理想を抱き過ぎな奴らのお花畑な言葉だって、私は思ってる。
 人間同士関われば、絶対なにかしらトラブルが起きる。長く一緒にいるってなったら尚更。それは、友達でもね」

「……なにが、言いたいの?」

「大事なのは、トラブルが起きた時にどうするか……じゃないかなって、私は思ってるんだよ」


 私はその言葉で、由希が言わんとしていることをなんとなく察した。ふっと顔を上げて、私は由希の目を、まっすぐに見つめる。


「詩子。私、河野のことはよくわかんないし、ぶっちゃけキモイって思ってる。アンタがアイツと付き合い始めたって聞いた時は、正直虫唾が走った」

「そんな、酷い。アイツは……」

「そんなんじゃないんでしょ? わかってる。アンタがここまで悩む人間なんだから、きっとそうだって。
 だってぶっちゃけアンタ、私以外に友達いないでしょ?」

「ちょ、それは……!
 …………言われてみれば、確かに」

「ほら。アンタ、他人に対して警戒心が強いんだよ。だから心を開かない。高校のころも、ぶっちゃけ私らのグループといて辛かったっしょ?」

「うあ……な、なんでそれを……!」

「見てたらわかるって。ずっとオタク共の話に混ざりたそうにしてたし、卓也(たくや)がアイツらバカにしてた時微妙そうな顔してたし」

「元カレの話はすんな。思い出したくもない」

「ごめん。とかく、アンタ、性根が陰キャなんだよ。そんな他人をあんまし信用しないタイプのアンタが、信頼して、心を開いた相手なんだよ。まあ確かにキモイかもしれないけど、良い奴なんだろ? 河野。
 じゃあ、大丈夫だって。しっかり謝って、許してもらって、そうすりゃ仲直りできるって。人間関係なんて、そんなモンだよ。面倒臭くて当然なんだって」


 由希の言葉を聞いて、私はポンと、アイツの言葉を思い出した。


『面倒臭くない人なんて単なる都合が良い人だ』


 私はその瞬間に、なんでアイツの言葉に惹かれたのかを理解した。

 そうだ。あの言葉が、私って言う人間を、ただ私だって言うだけで、認めてくれているかのように感じたからだ。

 それがどれだけ、私にとって貴重だったか。だからこそ私は、決心した。


「……由希、ありがとう」

「ん、別にいいよ。気にしなくて」

「私、河野に謝る。とにかく謝って、この話にケリつける。……それで嫌われたのなら、しょうがないって受け止める」

「ん? 許してもらいたいんだろ?」

「そりゃ、許しては欲しいよ。けど、私の立場でそれを望んじゃいけない。だから許してもらわなくても仕方がない。だから、ケリをつける。これは、私のプライドだよ」

「……アンタも、やっぱし、めんどっちー性格してるな」


 由希はそう私を貶したけど、その顔は一切の屈託もなく笑っていた。
 ――仕掛けはいらない。工夫も。ただ、私は私の想いを伝えよう。一抹の不安と恐怖の中で、私は覚悟を決めた。
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