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友情編
第15話「ハーレムエンドは優しさと都合の良さを凝縮させた性欲の産物」
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キッチンの所で、河野が使い終わった皿を洗っている。私はスマホを見つめながら、あれやこれやと考えて唸り声を上げていた。
河野に送り付けたのは、端的に言えば、最近妙にハマってしまったなろう系の小説をパクった感じの作品だ。
主人公が冒頭でパーティを追放されて、あれやこれやとして見返していくと言う内容。まあ所謂追放モノと言う奴で、ネットでは様々と意見(主にキモイとかそういうの)があるものの、私は結構好きなのでこうして影響を受けてしまったと言うわけだ。
河野は私の作品を見たあとに端的な感想をLI○Eに送って、その後は晩飯を作って今の状態と言うわけだ。
河野曰く、『しっかりと流れは踏襲出来ている』とのことで、それなりには面白いと言う評価を受けた。私は『やった!』と思ったところで、他方、『この先が浮かばない』と河野に言ってみたところ、『この手の作品の問題点だよ』とも言ってくれた。
河野が言うには、なろう系のテンプレと呼ばれる作品は、実のところ、一般大衆の漫画や小説にも通ずるような展開が多いとのことだった。
確かに、スパンがかなり短いとは言え、追放モノはざっくりと『ムカつく奴に理不尽なことされたからやり返すぜ』と言うあらすじで、これは色々な作品で見ることができる内容だった。例えば、以前ドラマでやっていた某倍返し銀行マンの話なんかはまさにこれだろう。
河野は『色々言われているけど、主にキモイと言われている部分に関しては実は問題じゃないんだ』『大事なのはその流れをどう見せるかだよ』とも言っていたが、これも納得した。結局の所、キモオタ童貞の妄想が詰まっていようが、うだつの上がらない情けないサラリーマンの妄想が詰まっていようが、面白いモノは面白いし、つまらないモノはつまらないのだという。
だからこそ、『慣れない人はとりあえずテンプレートの流れを踏んでおいた方が面白くなるよ』『自分でオリジナリティのある作品を描くのは実は素人には難しい』とも言っていた。それはテンプレの利点であると共に、必然的に、もう一つの別の問題を孕んでいると言う。
それが私がぶち当たった、『この後の展開が無い』と言うものだ。
『無論だけれど、テンプレの流れを踏んだ先にはオリジナルの展開が必要だ。先も言ったように、オリジナリティのある展開を作るのは素人には難しい。基礎的な力を問われるからね』
『素人がやってもとりあえず面白くなるのがテンプレで、それ以降は本人の力量を問われる訳だから。流れを過ぎたら展開が無くなってしまうのは、ある意味仕方がないよ』
『しかも厄介なことに、なろう系のテンプレはその時点でなろう系のテンプレートって言うテーマを前提に置いてしまう。だからその後の展開も、その前提に沿って話を進めなくっちゃならない。よほどなろう系に理解があって、且つ、それを書くのに支障が無い作風でなくっちゃ書くのに詰まるよ。姫川はその点、作風としてはむしろ向いてない面があるから、ここから先は辛くなるかもしれない』
言われた通りだった。どれだけうんうんと考えても、なんか違う展開しか浮かばなくって、私は身動きが取れなくなっていたのだ。
なにせこちとら、河野に一番褒められているのは『生々しい人間関係や心理描写』だ。生憎と、昼ドラみたいなそんな重たい人間描写、この手の作品には合わない。私はそれでため息を吐いてしまっていたのだ。
河野はフォローするような感じで、『そこで詰まるようになったのは、君が成長した証だよ』とも言ってくれたが。私はしばらく考えてから、「ダメだぁ」と言って床に寝転んだ。
「どうやら、なかなか厳しいようだね」
河野がそうと言って私の対面に座った。どうやら皿を洗い終えたらしい。
「んー、そうなんよ。なんかさ、どうしても、特にヒロインたちの描写が合わねぇなってさ」
「やっぱりか。僕もそう思っていた。ヒロイン達が主人公に惚れていくのはなろう系だからまあわかるけれど、それに対して、恋愛についてのドロドロ具合が、ね。そのせいで主人公への印象も悪くなっているし」
「そこなんだよね~……。どうしても、『普通一人の男にみんなが惚れたらこうなるだろ』ってなっちゃってさ」
「なろう系でそれは、ね」
「だよね。けどなんっつーか、どうしてもそうなると書けないって言うか。自分の中で、描写が嘘っぽいというか、なんかこう深みがないって言うか。そんな感じになって、書けないんだよ」
「わかる」
「ああ~、クソ。どうすりゃいいんだろ」
「まあ手段としては二つ。一つ目が、もうとりあえずヒロイン達の動きも都合良く嘘っぽく、他の作品を真似してしまうという方法」
「つまり?」
「恋愛に関するその辺の感情だとか、動きだとか、そういうのを他所の作品からパクってきちゃうんだよ。なんかこう、都合良く主人公に惚れているらしい2人が一時いがみ合うけど、別にその場面以外では普通に友達をしていて、なんとも思っていないとか。あるいは振り切って、『ハーレムも恋愛のあり方のひとつだよ!』ってしちゃうとか」
「ん~……なんか、嫌だわ」
「ん、だよね。二つ目の方法が、いっそ、ヒロインを一人に固定しちゃうとか」
「……! なるほど、そうか……確かに、その方法があったのか……え、でもこの作品でそれありなの?」
「これは別になろうに投稿するわけじゃないんだろ? なら気にしなくていいよ。あそこだと完全にハーレムにした方がいいけど、そうじゃないなら別の手も取れる。それに、追放モノは存外ハーレムが嫌われる傾向もあるらしいし」
「そなの?」
「女性の読者も比較的多く見ているからね。男は遺伝子をバラまきたいからハーレムを受け入れるけど、女はひとつの遺伝子を孕んだらそれまでだからね。雌雄の違いがよくよく出ていると思う」
「生々しいな」
「個人的には、ハーレムものの利点を履き違えた見方だと思うけどね。ハーレムものはあくまでたくさんの女の子が登場させられるから良いのであって、ハーレムエンドは言ってしまえばただの結果論でしかない」
「どゆこと?」
「推しが幸せになって欲しいって気持ちに雌雄は無いよ。つまり、誰か一人のヒロインを選べば、必然的に他のヒロインは恋愛において敗者になってしまう。つまり推しが悲しむわけで、読者に配慮するなら全員が納得して一人の男と結ばれるようにした方が良いんだよ」
「誰も悲しまないから、ねぇ……。でもそれってどうなの?」
「倫理的にどうこうと言えばそうだけど、まあ、所詮物語だからね。そう考えると、振られる人間が出てしまうって言うのは、仕方がないとは言え残酷なことなのかもしれないなって」
……なるほど。私は河野の理屈を聞いて、少し、ハーレムモノについて視点が立ち代わるのを感じた。
ふと。私の頭の中に、由希の姿が浮かんだ。なんで浮かんでしまったのかと言うと、おそらく、恋愛の二文字に関連していたからかもしれない。
アイツが私を好きでいたのは、おそらく本当だ。今でも信じられないけれど、思い当たる節が多くって、信じざるを得なかった。
でもだとすると、私はアイツとそういう関係になれるのか?
答えは否だ。少なくとも、今の段階では、同性のそういう人と言うのは考えられない(異性でも無理だと言うのに)。
……恋愛とは残酷なもの、か。私はそんなことを思って、ふと、大きくため息を吐いた。
「……やっぱ、恋ってのは面倒臭いな」
「……ん? どうしたんだい、一体」
「いや。色々思い出してさ。……由希のこととか」
「ああ……」
「あと、昔付き合ってた男の事も思い出したな。ハハ、あんなもん思い出したくもないんだけど」
「以前、なんか言ってたね」
「そうなんだよ。なんていうかさ、まあちょくちょく話す男友達程度に思ってたら、突然告られてさ。なんか、付き合わなきゃいけないって思っちゃった。ノリと勢いというか。ああ、リア充ってこういうのかって。今時、別に好きでもないけどとりあえず付き合うなんてよくあるしね」
「……ふむ」
「けど、合わなかった。そんでまあ別れるに至ったわけですが。なんとも女の色恋事情ってのは面倒臭いモノで、クラスのイケメン君と付き合ったら一部の奴らから邪険にされて、別れたら別れたで調子に乗ってるとかあれやこれや言われてさ。あーあ、本当、陽キャになんてなろうとするんじゃあなかったわ。
………………。でも、なんでそうしようって思ったんだろうなあ」
「…………まあ、君の場合、色々と拗れてそうだからね」
「……どゆこと?」
「あー……なんて言えばいいんだろう。
……元々、君が陽キャになったのは、友達が欲しかったからだろう?」
「……うん」
「つまり君は、『本当の自分をさらけ出していたら、友達なんかできるわけが無い』って思ってたんだよ。だから高校生になってから、君はオタクである自分を隠した。
けれど、それで君はかえって不満を覚えるようになってしまった。所詮オタクは陽キャになれないんだって思いながらも、君は独りだった頃が怖くて、3年間、必死に自分を隠し続けた。
そして大学生になってから、3年間繰り返し続けたそれは最悪な形で現れた。君は、オタク仲間を作るために入ったサークルで、また自分を偽って仲間を作ろうとしてしまったんだ」
「…………」
「えっと……まあ、その……。……ごめん、あんまり、こういう話はするべきじゃないよね」
「いや。なんか今、すっげぇスッキリしたわ。……ああ、そっか。ようは、私にとって、トラウマみたいなモンだったんだな。これって」
「……そういうことになるね」
「なるほどなぁ……。……周りにばっかり不満を持ってたけど、結局原因は自分だったか。
……なんだか、バカらしいね。わからないけど、知れば知るほど、自分って言うのが嫌いになっていく気がする」
「仕方ないよ。生憎と、人間は誰一人例外なく醜い。となれば、僕たちが僕たちを見つめれば、そりゃあ嫌いにもなる。
自分らしく生きるなんてさ、みんな簡単に言うけど、かなり難しいよ。なんて言ったって、そのためには、僕達は僕達に向き合わなくっちゃならないんだから」
河野は視線を落としたままに、話をそう締めくくった。私はまた、コイツの言葉をゆっくりと反芻してから、「うん」と呟いた。
「……やっぱアンタってスゲーよな。いつも思うけど」
「……なんで?」
「だって、アンタは私じゃないのに、私のこと、私以上にわかってるじゃん。しかも男なのにさ」
「わかってるわけじゃない。当たりをつけて予想しているだけだよ。だから、人間って言うのは、大体同じなんだよ。それだけ」
「それができるっていうのがスゲーことなのよ」
私はそう言ってケシシと歯を見せて笑ってみせた。河野は少し照れたような表情で目を逸らし、「……まあ、ありがと」と小さく答えた。
――ああ、なるほどな。
「なんか、わかった気がするな」
「……なにが?」
私はぽつりと呟いた言葉を河野に追求され、少し、ビクリと心臓が跳ねた気がした。
けど、まあ。コイツとの関係は、こうやって隠す物じゃあないな。私は少し考えてからそう思って、河野の目を見つめて言った。
「なんで私が、アンタと友達になろうとしたかってこと。アンタさ、似てるんだよね」
「それは、君に?」
「んにゃ、由希に。アイツは陽キャだけど、物の見方とか、考え方とか、そういうのがアンタに似てるのよ。最高の親友に似た奴なんだから、そりゃあ、相性もいいだろってね」
「――な、なるほど」
河野はそう言ってまた顔を逸らした。どうやらまた照れているらしい、私はケラケラ笑いながら「うはは、きっも~」と言ってみせた。
「……でも、ありがとね、河野」
「ん?」
「おかげで、また前を向けそう」
「…………それならまあ、よかった」
私と河野は互いにそう言って、笑い合った。
河野に送り付けたのは、端的に言えば、最近妙にハマってしまったなろう系の小説をパクった感じの作品だ。
主人公が冒頭でパーティを追放されて、あれやこれやとして見返していくと言う内容。まあ所謂追放モノと言う奴で、ネットでは様々と意見(主にキモイとかそういうの)があるものの、私は結構好きなのでこうして影響を受けてしまったと言うわけだ。
河野は私の作品を見たあとに端的な感想をLI○Eに送って、その後は晩飯を作って今の状態と言うわけだ。
河野曰く、『しっかりと流れは踏襲出来ている』とのことで、それなりには面白いと言う評価を受けた。私は『やった!』と思ったところで、他方、『この先が浮かばない』と河野に言ってみたところ、『この手の作品の問題点だよ』とも言ってくれた。
河野が言うには、なろう系のテンプレと呼ばれる作品は、実のところ、一般大衆の漫画や小説にも通ずるような展開が多いとのことだった。
確かに、スパンがかなり短いとは言え、追放モノはざっくりと『ムカつく奴に理不尽なことされたからやり返すぜ』と言うあらすじで、これは色々な作品で見ることができる内容だった。例えば、以前ドラマでやっていた某倍返し銀行マンの話なんかはまさにこれだろう。
河野は『色々言われているけど、主にキモイと言われている部分に関しては実は問題じゃないんだ』『大事なのはその流れをどう見せるかだよ』とも言っていたが、これも納得した。結局の所、キモオタ童貞の妄想が詰まっていようが、うだつの上がらない情けないサラリーマンの妄想が詰まっていようが、面白いモノは面白いし、つまらないモノはつまらないのだという。
だからこそ、『慣れない人はとりあえずテンプレートの流れを踏んでおいた方が面白くなるよ』『自分でオリジナリティのある作品を描くのは実は素人には難しい』とも言っていた。それはテンプレの利点であると共に、必然的に、もう一つの別の問題を孕んでいると言う。
それが私がぶち当たった、『この後の展開が無い』と言うものだ。
『無論だけれど、テンプレの流れを踏んだ先にはオリジナルの展開が必要だ。先も言ったように、オリジナリティのある展開を作るのは素人には難しい。基礎的な力を問われるからね』
『素人がやってもとりあえず面白くなるのがテンプレで、それ以降は本人の力量を問われる訳だから。流れを過ぎたら展開が無くなってしまうのは、ある意味仕方がないよ』
『しかも厄介なことに、なろう系のテンプレはその時点でなろう系のテンプレートって言うテーマを前提に置いてしまう。だからその後の展開も、その前提に沿って話を進めなくっちゃならない。よほどなろう系に理解があって、且つ、それを書くのに支障が無い作風でなくっちゃ書くのに詰まるよ。姫川はその点、作風としてはむしろ向いてない面があるから、ここから先は辛くなるかもしれない』
言われた通りだった。どれだけうんうんと考えても、なんか違う展開しか浮かばなくって、私は身動きが取れなくなっていたのだ。
なにせこちとら、河野に一番褒められているのは『生々しい人間関係や心理描写』だ。生憎と、昼ドラみたいなそんな重たい人間描写、この手の作品には合わない。私はそれでため息を吐いてしまっていたのだ。
河野はフォローするような感じで、『そこで詰まるようになったのは、君が成長した証だよ』とも言ってくれたが。私はしばらく考えてから、「ダメだぁ」と言って床に寝転んだ。
「どうやら、なかなか厳しいようだね」
河野がそうと言って私の対面に座った。どうやら皿を洗い終えたらしい。
「んー、そうなんよ。なんかさ、どうしても、特にヒロインたちの描写が合わねぇなってさ」
「やっぱりか。僕もそう思っていた。ヒロイン達が主人公に惚れていくのはなろう系だからまあわかるけれど、それに対して、恋愛についてのドロドロ具合が、ね。そのせいで主人公への印象も悪くなっているし」
「そこなんだよね~……。どうしても、『普通一人の男にみんなが惚れたらこうなるだろ』ってなっちゃってさ」
「なろう系でそれは、ね」
「だよね。けどなんっつーか、どうしてもそうなると書けないって言うか。自分の中で、描写が嘘っぽいというか、なんかこう深みがないって言うか。そんな感じになって、書けないんだよ」
「わかる」
「ああ~、クソ。どうすりゃいいんだろ」
「まあ手段としては二つ。一つ目が、もうとりあえずヒロイン達の動きも都合良く嘘っぽく、他の作品を真似してしまうという方法」
「つまり?」
「恋愛に関するその辺の感情だとか、動きだとか、そういうのを他所の作品からパクってきちゃうんだよ。なんかこう、都合良く主人公に惚れているらしい2人が一時いがみ合うけど、別にその場面以外では普通に友達をしていて、なんとも思っていないとか。あるいは振り切って、『ハーレムも恋愛のあり方のひとつだよ!』ってしちゃうとか」
「ん~……なんか、嫌だわ」
「ん、だよね。二つ目の方法が、いっそ、ヒロインを一人に固定しちゃうとか」
「……! なるほど、そうか……確かに、その方法があったのか……え、でもこの作品でそれありなの?」
「これは別になろうに投稿するわけじゃないんだろ? なら気にしなくていいよ。あそこだと完全にハーレムにした方がいいけど、そうじゃないなら別の手も取れる。それに、追放モノは存外ハーレムが嫌われる傾向もあるらしいし」
「そなの?」
「女性の読者も比較的多く見ているからね。男は遺伝子をバラまきたいからハーレムを受け入れるけど、女はひとつの遺伝子を孕んだらそれまでだからね。雌雄の違いがよくよく出ていると思う」
「生々しいな」
「個人的には、ハーレムものの利点を履き違えた見方だと思うけどね。ハーレムものはあくまでたくさんの女の子が登場させられるから良いのであって、ハーレムエンドは言ってしまえばただの結果論でしかない」
「どゆこと?」
「推しが幸せになって欲しいって気持ちに雌雄は無いよ。つまり、誰か一人のヒロインを選べば、必然的に他のヒロインは恋愛において敗者になってしまう。つまり推しが悲しむわけで、読者に配慮するなら全員が納得して一人の男と結ばれるようにした方が良いんだよ」
「誰も悲しまないから、ねぇ……。でもそれってどうなの?」
「倫理的にどうこうと言えばそうだけど、まあ、所詮物語だからね。そう考えると、振られる人間が出てしまうって言うのは、仕方がないとは言え残酷なことなのかもしれないなって」
……なるほど。私は河野の理屈を聞いて、少し、ハーレムモノについて視点が立ち代わるのを感じた。
ふと。私の頭の中に、由希の姿が浮かんだ。なんで浮かんでしまったのかと言うと、おそらく、恋愛の二文字に関連していたからかもしれない。
アイツが私を好きでいたのは、おそらく本当だ。今でも信じられないけれど、思い当たる節が多くって、信じざるを得なかった。
でもだとすると、私はアイツとそういう関係になれるのか?
答えは否だ。少なくとも、今の段階では、同性のそういう人と言うのは考えられない(異性でも無理だと言うのに)。
……恋愛とは残酷なもの、か。私はそんなことを思って、ふと、大きくため息を吐いた。
「……やっぱ、恋ってのは面倒臭いな」
「……ん? どうしたんだい、一体」
「いや。色々思い出してさ。……由希のこととか」
「ああ……」
「あと、昔付き合ってた男の事も思い出したな。ハハ、あんなもん思い出したくもないんだけど」
「以前、なんか言ってたね」
「そうなんだよ。なんていうかさ、まあちょくちょく話す男友達程度に思ってたら、突然告られてさ。なんか、付き合わなきゃいけないって思っちゃった。ノリと勢いというか。ああ、リア充ってこういうのかって。今時、別に好きでもないけどとりあえず付き合うなんてよくあるしね」
「……ふむ」
「けど、合わなかった。そんでまあ別れるに至ったわけですが。なんとも女の色恋事情ってのは面倒臭いモノで、クラスのイケメン君と付き合ったら一部の奴らから邪険にされて、別れたら別れたで調子に乗ってるとかあれやこれや言われてさ。あーあ、本当、陽キャになんてなろうとするんじゃあなかったわ。
………………。でも、なんでそうしようって思ったんだろうなあ」
「…………まあ、君の場合、色々と拗れてそうだからね」
「……どゆこと?」
「あー……なんて言えばいいんだろう。
……元々、君が陽キャになったのは、友達が欲しかったからだろう?」
「……うん」
「つまり君は、『本当の自分をさらけ出していたら、友達なんかできるわけが無い』って思ってたんだよ。だから高校生になってから、君はオタクである自分を隠した。
けれど、それで君はかえって不満を覚えるようになってしまった。所詮オタクは陽キャになれないんだって思いながらも、君は独りだった頃が怖くて、3年間、必死に自分を隠し続けた。
そして大学生になってから、3年間繰り返し続けたそれは最悪な形で現れた。君は、オタク仲間を作るために入ったサークルで、また自分を偽って仲間を作ろうとしてしまったんだ」
「…………」
「えっと……まあ、その……。……ごめん、あんまり、こういう話はするべきじゃないよね」
「いや。なんか今、すっげぇスッキリしたわ。……ああ、そっか。ようは、私にとって、トラウマみたいなモンだったんだな。これって」
「……そういうことになるね」
「なるほどなぁ……。……周りにばっかり不満を持ってたけど、結局原因は自分だったか。
……なんだか、バカらしいね。わからないけど、知れば知るほど、自分って言うのが嫌いになっていく気がする」
「仕方ないよ。生憎と、人間は誰一人例外なく醜い。となれば、僕たちが僕たちを見つめれば、そりゃあ嫌いにもなる。
自分らしく生きるなんてさ、みんな簡単に言うけど、かなり難しいよ。なんて言ったって、そのためには、僕達は僕達に向き合わなくっちゃならないんだから」
河野は視線を落としたままに、話をそう締めくくった。私はまた、コイツの言葉をゆっくりと反芻してから、「うん」と呟いた。
「……やっぱアンタってスゲーよな。いつも思うけど」
「……なんで?」
「だって、アンタは私じゃないのに、私のこと、私以上にわかってるじゃん。しかも男なのにさ」
「わかってるわけじゃない。当たりをつけて予想しているだけだよ。だから、人間って言うのは、大体同じなんだよ。それだけ」
「それができるっていうのがスゲーことなのよ」
私はそう言ってケシシと歯を見せて笑ってみせた。河野は少し照れたような表情で目を逸らし、「……まあ、ありがと」と小さく答えた。
――ああ、なるほどな。
「なんか、わかった気がするな」
「……なにが?」
私はぽつりと呟いた言葉を河野に追求され、少し、ビクリと心臓が跳ねた気がした。
けど、まあ。コイツとの関係は、こうやって隠す物じゃあないな。私は少し考えてからそう思って、河野の目を見つめて言った。
「なんで私が、アンタと友達になろうとしたかってこと。アンタさ、似てるんだよね」
「それは、君に?」
「んにゃ、由希に。アイツは陽キャだけど、物の見方とか、考え方とか、そういうのがアンタに似てるのよ。最高の親友に似た奴なんだから、そりゃあ、相性もいいだろってね」
「――な、なるほど」
河野はそう言ってまた顔を逸らした。どうやらまた照れているらしい、私はケラケラ笑いながら「うはは、きっも~」と言ってみせた。
「……でも、ありがとね、河野」
「ん?」
「おかげで、また前を向けそう」
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私と河野は互いにそう言って、笑い合った。
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