愛と友情は紙一重!~オタサーの姫と非モテ童貞陰キャオタクがパコパコするまでの物語~

オニオン太郎

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恋愛編

閑話2「愛の証明」⑤

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「……なるほどねぇ。あの子にそうやって教えたわけか」


 夕方頃、私はリビングの机に座り、キッチンでコーヒーメーカーを動かしている真白に言った。

 朝は心美を見送った後、そのままベッドで眠ってしまった。起きたら既にこの時間で、今日と言う一日が、まるまる潰れてしまったことを私は後悔した。

 アシスタントさんへの対応などは真白がやってくれたようだ。1人が倒れた時、自分をサポートしてくれる誰かがいると言うのはありがたい。


「ん。やっぱり、君の遺伝子を受け継いでるね。ちゃんと僕の話を聞いてくれて、理解してくれてたよ。賢い子だ、本当に」

「……遺伝子云々で片付けるのはちょっと嫌だなぁ」

「……ごめん」


 真白は苦笑しながら、リビングの食卓に座る私の前に、カフェオレを置いた。インスタントコーヒーに牛乳を混ぜた、どこの家庭でも出てくる、普通の物だ。

 私はそれを手に取りつつ、ゆっくりと中身を飲む。ちょっとだけ熱くて、「アチッ」と思わず声が出た。


「今日は本当にありがとうね。お弁当も作ってくれて、ご飯もなんとかしてくれて」

「いいよ。僕も忙しかったら君に任せきりだし。大体、最近の君は働きすぎだよ。母親っていうプライドがあるのはわかるけど、僕だって、父親だし、君の旦那なんだ。ちょっとは楽をしたって、バチは当たらないと思うけどね」


 真白は言いながら、私の対面に座る。私はカップで口元を隠しつつ、「はい。本当に、すみません」と謝った。


「謝ることではないけどね」

「……まあ」


 私は真白の言葉に小さく頷く。

 けれど、まあ、私がママ友共にマウントを取られて、それで意地を張って、真白を頼ろうとしなかったのが悪いのだ。謝ることではないにせよ、私たちの関係を見直す必要はあるだろう。


「……やっぱさぁ」

「ん?」

「ママ友のグループ、抜けたほうがいいかな?」

「――そうだね。別に、子育ての情報とか、今日日ネットで探せるし。ああいうローカルな集会は、正直時代遅れだよ」

「実際おばちゃんしかいないしねぇ。……いやがらせとか、大丈夫かなぁ」

「大丈夫だよ。ちょっとおかしい集団ではあるけど、いくらなんでもそこまでしないでしょ」

「……そうだよね。流石にそこまではいかないよね」


 私はため息を吐き、真白の言葉に従うことにした。

 まあ、変な奴らに関わると、ろくなことにならないし。専業主婦じゃないとマウントを取られる界隈って言うのは、本当、マジでよくわからない。


「……でもさ、真白」

「ん?」

「私もちょっと、言いたいことがあるんだけど」


 私は改まって真白に言う。真白は「なんだい?」と言って、私に首を傾げる。


「……お弁当のことなんだけどさ、」


◇ ◇ ◇ ◇


 翌朝。私は食卓に座り、真白が朝食を作るのを待っていた。


「やっぱ、アンタの方が手際いいね」

「君も、昔に比べて、随分と上手くなったよ?」

「玉子焼き黒焦げにしてた頃が懐かしいわ」


 机で頬杖をつき、真白と他愛もない会話をする。

 と。二階から、ゆっくりとした足取りで、私たちの娘、心美が降りてきた。


「……おはよう~……」

「あれ、心美? いつもより早いね」

「なんか、目、覚めちゃって……」


 心美はあくびをしながら食卓へと来て、ゆっくりと椅子に座る。

 と。私は真白に目くばせすると、真白は頷いて、あらかじめ作っておいたお弁当を持って、それを心美の前に出した。


「心美。今日のお弁当」


 真白がそう言って、弁当箱の蓋を外す。

 すると。蓋の下から、かわいらしいト〇ロが現れた。


「――え?」


 心美は目を丸くして、お弁当の中身をマジマジと見つめる。そして心美は、そのままの表情で、私や真白の方を交互に見つめた。


「……なんで?」


 心美は私たちに尋ねる。

 おおよそ、昨日の説教で、もうこう言うのが出ないと思っていたのだろう。私は笑ってから、心美に言った。


「なんでって、別に。だって、心美、こう言うのの方がいいんでしょ?」

「でも、お母さん、大変だからって……」

「大変っちゃ大変。だけど、ホラ。今日のは、お父さんが作ったから」


 私が言うと、真白が心美と目を合わせ、ふわりと微笑む。

 そして真白は、心美の頭にゆっくりと手を乗せ、先の微笑みとは打って変わり、しゅんとした表情で心美に言った。


「昨日は、ごめんね、心美」

「え?」

「あの後、お母さんに言われたんだ。僕の言いたいこともわかるけど、それでも、あの子に我慢をさせるのは厳しいって。……確かに、その通りだって思って。だから、ごめん」


 心美はぽかんと真白を見つめる。私はくすりと笑ってから、「心美」と娘に笑いかけた。


「昨日ね、お父さんと話したんだけど。……やっぱり、できる限り、こういうお弁当、作ることにしたの」

「あ――いいの?」

「いいよ。だって、アンタのためなんだし。……でもね、」


 私は少しだけ、表情を真面目な物に変えながら、心美の目をまっすぐに見つめる。


「お父さんも、お母さんも。どうしても大変で、お弁当に手が回らないことがある。
 そうじゃなくても、しんどかったりして、作るのが嫌って言う事も、正直、ある。
 そういう時は、ごめんだけど、簡単に、冷凍食品でまとめたお弁当を作らせてもらう。色々考えて、そういう方針で話がまとまったから。……心美は、それでもいい?」


 私が尋ねると、心美は目を大きく見開いてから、早く、深く頷いた。


「うん! お父さんとお母さんが、大変なことになるのなら、そっちの方がいい! それに、その……かわいいお弁当も、私、持っていきたいから……」

「ありがとう。――心美」


 私はさらに、心美に話しかける。心美は「へ?」と言って、ぽかんと私の目を見つめた。


「アンタは、まだ子供なんだから。私たちはね、ある程度のわがままなら、やっぱり、聞いてあげたいの。
 我慢を覚えるのは大切よ。だけどね、我慢のし過ぎは良くないの。どこまでが良くて、どこからがダメなのか。それを色々な人と話し合っていくって言うのは、大切なこと。私たちが、家にいるのに、アンタを幼稚園に行かせているのは、そういうことを、小さい頃からちゃんと覚えてほしいから」

「――」

「だから、私たちもそうする。わがまま言うな、なんては言わない。だけど、心美がわがままを言うのなら、私たちにも、ちょっとはわがままを言わせてほしい。今はまだわかんないかもだけど、人と人との関係って、全部それの繰り返しなのよ」


 私が言うと、心美は「うん。わかった」と、少しだけ理解が追い付いていない様子で頷いた。

 ――まあ、5歳だからね。私は彼女の様子に微笑んだ。


「それじゃあ、朝ごはん、食べよっか」

「――うん!」


 心美は私の言葉にうなずく。真白は「もうご飯はできてるから」と言って、目玉焼きや白米の乗ったランチプレートを私たちの前に持ってきた。


「――お父さん、お母さん」


 真白が食事を置くと、心美は私たちに話しかけた。


「ありがとう!」


 心美が笑う。私はその笑顔を見て、「どういたしまして」と、同じような表情で答えた。
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