愛と友情は紙一重!~オタサーの姫と非モテ童貞陰キャオタクがパコパコするまでの物語~

オニオン太郎

文字の大きさ
106 / 117
サブストーリー2【私は弁えない】

10

しおりを挟む
 ――昔からそうだった。友達も、彼氏も、みんな、最初は私に寄り添ってくれて、好意的に接してくれるのだけれど、少し経つと、みんな、私から離れて行った。

 いなくなった人は、大概みんな、同じことを言った。『お前はウザい』『お前はキモイ』と。

 頭がおかしいとか、常識を弁えろとか、みんなの事を考えろとか。私はその度に、そうした声にカッと反論をしてきた。


 お前が私の一体何を知っているんだよ。どうして大して理解もしていない奴のことを、そうも易々とバカにできるんだよ。

 何が常識を弁えろ、だよ。思考停止のバカ人間は、いつだって常識って言葉で他人を縛り付ける。
 私は、常識と言う言葉に縛られたお前らとは違うんだよ。ちゃんと考えて、必死に毎日生きてるんだ。お前らみたいなバカに、私の事なんざ理解できないだろうけど。

 何がみんなの事を考えろ、だよ。そうやって、空気読めって周りに強要するの、日本人の悪い癖だと思うのだけど。
 どうして私が空気を読んで、損をしなくちゃならないんだよ。私はお前らみたいなバカとは違う。空気ばかりを読んで、自分の頭で考えられない思考停止人間なんかには、こういうの、わかんないだろ。


 身を悶えさせるくらいの不快感が全身を支配して、周りの言葉に、私は常に反論をしてきた。そうやって生きて来た私には、いつしか『友達』と呼べる存在は、いなくなっていた。

 楽しく話せる奴はいたが、そいつらは何か、「友達」とは別種の人間だった。何か、話していて裏に奇妙な思惑のようなものを感じて、どことなく信頼できなかった。

 誰も信頼できず、誰も近寄って来なくなった私は、当然のように独りになった。それならそれでと、私は孤高を目指そうと思った。

 群れるのではなく、一匹狼として、自立して生きよう。私が悪いわけじゃなくて、周りが私について来れなかっただけなんだ。独りを自覚した時は、何度も、何度も、何度も、そう呟いて、自分がどういう人間なのかを思い出すようにしていた。

 だけど、ある日気が付いた。本当に孤高な人間と言うのは、なんだかんだで友達に恵まれている、と。

 それに気が付いた私は、だからこそ、余計に『孤高』という概念にしがみついた。自分がただただ醜くて、だからこそ一人ぼっちになってしまったんだと、それを理解するのが嫌だったのだ。

 信頼できない人間を『友人』と偽って、みんなが羨むような男を彼氏にして。そうやって、自分は恵まれているのだと思い込むことでしか、自分と言う人間を保てなかった。

 私はこんなにも凄い人と過ごしている。凄い人間の周りには、凄い人が集まって来る。つまり、こんなにも凄い人たちと一緒にいる私は、凄い人なんだ。お前らなんかとは、ランクの違う世界にいる、素晴らしい人なんだ。

 そうやって、自分を肯定すればするほど、心の中に虚しさが残った。だけど私は、それに気が付かないフリをした。

 そうやって、色々な物を、ずっとずっと無視し続けて来た顛末が、きっとコレなのだろう。みんなから見下されて、みんなから嫌われて、結局、独りで、このしょうもない人生を生き続ける事になる。

 ――どうすればいいんだ、一体。もう、こんなしょうもない思いをするのは嫌だ。

 どうしよう。どうすれば私は、幸せになれるのだろう。私は狂うように、何度も何度も、その言葉を紡ぎ続けた。


◇ ◇ ◇ ◇


 優花里や玲菜からも見限られた次の日。私は机の上に置いたスマートフォンと睨み合っていた。

 迷いに迷った挙句、私はどうすれば良いのかを2人に相談しようと考えた。だけど、あれだけのことをした後に、2人に相談を持ち掛けると言うのは、あまりに気まずくて出来る気がしなかった。

 こうやってスマホと睨めっこをし始めてから、結構な時間が経っている気がする。私はカチコチと時を刻む時計の音を聞きながら、やがて、意を決してスマートフォンを手に取った。

 手が震える。呼吸がにわかに荒くなる。ブルブルと音を立てるスマホに耳を当てて、息を潜めるように、相手が応対してくれるのを待つ。

 ブロックされていたらどうしようとか、そんなことは当然考えていた。でも、そんなことを言っていたら始まらないから、わずかな可能性に縋る他なかった。しばらくそうして時間を置くと、一瞬だけプツリと音が途切れた後、『真紀?』と、優花里の声が聞こえてきた。


「――優花里!」

『……いきなり何?』

「あっ、いや……その…………。…………なんて言うか。まず、昨日のこと、謝りたくて……」


 私が言うと、優花里は電話口の向こうでため息を吐いて、『まあ、その件はもういいから』と、ぶっきらぼうに答えた。


『んで、要件は?』

「あ……。えっ、と…………。…………そ、相談、したくて」


 恐る恐る、私は声を出す。何をどう言えばいいのかわからなかったけど、とにかく、今の状況をどうにかしたくて、頭を真っ白にしながら言葉を繋いだ。


「昨日、アンタらに色々言われて……改めて、考え直して。……そしたら、自分が凄く情けなく思えて……。……でも、どうすればいいのかわかんなくて。ね、ねぇ。私、どうすればいいのかな?」

『………………。…………まあ…………。じゃあ、うん。今からそっち行くわ。待ってて』


 優花里はため息混じりに私にそう言ってくれた。私はそれに心底安堵して、「う、うん。早く、来て」と返した。



 それから30分位経って。部屋の呼び鈴が鳴った後に、優花里はやって来た。


「ウッス。とりま、入れて」


 私が玄関のドアを開けると、優花里はぶっきらぼうにそう言った。私は優花里を部屋に上げてから、机を挟んで、彼女と向かい合った。


「……そんで、相談したいんだって?」

「……う、うん。なんて言うか…………。…………昨日、あれから色々考えて……。このままだと、私、本当にどうしようもないんだって思って。だから、変わらなきゃって……だけど……何をしたらいいのか、何も、浮かばなくて……」


 私がそう言うと、優花里はため息を吐いてから、「ウソだろ。何すればいいかなんて、わかりきってるでしょ」と私に告げた。


「話、整理するけど。アンタ、男脅して金せびったんだよね?」

「え……あ…………えっと…………」

「そこは『うん』って素直に答えるんだよ。実際やったんだから」


 優花里が私に人差し指を指す。私はドキリとして、「う、うん」と反射的に受け答えてしまった。


「んじゃ、やることは単純。まずは、ちゃんと謝ること。んで、むしり取った金はちゃんと返すこと」

「えっ……!? お、お金返すの!?」

「はぁ? そりゃお前、当然に決まってんだろ」

「だ、だって……いくらだったか覚えてないし……それに、10万とか行く位、使ってるし……」

「うん、そうだな。払えって言われたら嫌な額だよな。でも、それお前が払わせたんだからな?」


 優花里の言葉に私は「うっ、」と押し黙る。私が顔を落とすと、こちらを睨み付けていた優花里は大きくため息を吐いて、更に私に言った。


「で、結局いくらだったの?」

「えっ?」

「実際の値段だよ。言っておくけど、正直に言えよ。ここ誤魔化したら何も意味無いからな」


 優花里が呆れた様子で言う。私はしばらく黙り込み、実際いくらかけたのかを頭の中で計算して、それを彼女に伝える。


「……えっと……たぶん、25? くらい」

「やっっば。よくお前知らん男にそんだけたかれたな」

「だ、だって……」

「ハイハイ、御託はいいから。でも、くらいってことは、それも正確な額じゃないんだろ?」

「う、うん……」

「んじゃあ、プラス2万くらい多めに見積もって返しとけ。それなら確実だろ」

「は、ハァ!? 2万も多く払うの!? ちょっと、それはいくらなんでもやり過ぎでしょ!」

「うるせぇ。本来なら、アンタは今頃警察に連れてかれてもおかしくない立場なんだよ。捕まってないだけありがたいと思って、ちょっと多めに払っとけ」

「で、でも、そんなの損じゃん!」

「あのな、こう言う時は自分が損をする選択をしなきゃならないんだよ。元はと言えば、アンタが常識を弁えなかった事が悪い。自業自得だと思って、ちゃんと責任は取っとけ」


 私は優花里の指示に顔を青くした。

 27万……27万って、結構とんでもない額だぞ。

 いや。確かに、無いことはない。でもだからって、ポンと払うにはあまりにも……。私は「うううぅ」と唸って、頭を抱える。


「……あのな、真紀」


 と、優花里がため息を吐いて、肩を落として私に話しかけてきた。


「アンタさ、何で自分が嫌われてるかわかってる?」

「え? ……じ、自分勝手……だから……」

「そうだけど、一番重要なのがココ。あのな、人間たまには、手前が損をする選択ってのをしなきゃならないんだよ。特にこう言う時は。アンタの悪い所は、ずっとそれを避けてきた所。自己中じゃない人間は、多少自分に損があっても、みんなのためにそう言う選択が取れる物なんだよ。そんで、そこに後腐れを出さない。気まずくなっからね。こう言うのは誰も言わないし、言ってくれないけど、大切なことなの。損をし合うから上手く行く所もあるんだからね?」


 私は優花里の言葉に「うっ、」とまた声を詰まらせた。

 確かにそうだ。私は、自分が損をするのを嫌がって、みんなにそれを押し付けていた。
 自分は何も与えないのに、周りには色々と要求する。そんな人間が、好かれるわけがない。私は大きく息を吸って、優花里の目を見つめる。


「…………わかった。お金、おろしてくるから」


 優花里は私の目を見て、ただ一言、「ん」とだけ言った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語

jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
 中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ  ★作品はマリーの語り、一人称で進行します。

クラスのマドンナがなぜか俺のメイドになっていた件について

沢田美
恋愛
名家の御曹司として何不自由ない生活を送りながらも、内気で陰気な性格のせいで孤独に生きてきた裕貴真一郎(ゆうき しんいちろう)。 かつてのいじめが原因で、彼は1年間も学校から遠ざかっていた。 しかし、久しぶりに登校したその日――彼は運命の出会いを果たす。 現れたのは、まるで絵から飛び出してきたかのような美少女。 その瞳にはどこかミステリアスな輝きが宿り、真一郎の心をかき乱していく。 「今日から私、あなたのメイドになります!」 なんと彼女は、突然メイドとして彼の家で働くことに!? 謎めいた美少女と陰キャ御曹司の、予測不能な主従ラブコメが幕を開ける! カクヨム、小説家になろうの方でも連載しています!

お兄ちゃんはお兄ちゃんだけど、お兄ちゃんなのにお兄ちゃんじゃない!?

すずなり。
恋愛
幼いころ、母に施設に預けられた鈴(すず)。 お母さん「病気を治して迎えにくるから待ってて?」 その母は・・迎えにくることは無かった。 代わりに迎えに来た『父』と『兄』。 私の引き取り先は『本当の家』だった。 お父さん「鈴の家だよ?」 鈴「私・・一緒に暮らしていいんでしょうか・・。」 新しい家で始まる生活。 でも私は・・・お母さんの病気の遺伝子を受け継いでる・・・。 鈴「うぁ・・・・。」 兄「鈴!?」 倒れることが多くなっていく日々・・・。 そんな中でも『恋』は私の都合なんて考えてくれない。 『もう・・妹にみれない・・・。』 『お兄ちゃん・・・。』 「お前のこと、施設にいたころから好きだった・・・!」 「ーーーーっ!」 ※本編には病名や治療法、薬などいろいろ出てきますが、全て想像の世界のお話です。現実世界とは一切関係ありません。 ※コメントや感想などは受け付けることはできません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 ※孤児、脱字などチェックはしてますが漏れもあります。ご容赦ください。 ※表現不足なども重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけたら幸いです。(それはもう『へぇー・・』ぐらいに。)

プール終わり、自分のバッグにクラスメイトのパンツが入っていたらどうする?

九拾七
青春
プールの授業が午前中のときは水着を着こんでいく。 で、パンツを持っていくのを忘れる。 というのはよくある笑い話。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

キャバ嬢(ハイスペック)との同棲が、僕の高校生活を色々と変えていく。

たかなしポン太
青春
   僕のアパートの前で、巨乳美人のお姉さんが倒れていた。  助けたそのお姉さんは一流大卒だが内定取り消しとなり、就職浪人中のキャバ嬢だった。  でもまさかそのお姉さんと、同棲することになるとは…。 「今日のパンツってどんなんだっけ? ああ、これか。」 「ちょっと、確認しなくていいですから!」 「これ、可愛いでしょ? 色違いでピンクもあるんだけどね。綿なんだけど生地がサラサラで、この上の部分のリボンが」 「もういいです! いいですから、パンツの説明は!」    天然高学歴キャバ嬢と、心優しいDT高校生。  異色の2人が繰り広げる、水色パンツから始まる日常系ラブコメディー! ※小説家になろうとカクヨムにも同時掲載中です。 ※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。

旧校舎の地下室

守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。

処理中です...