羊頭狗肉のベルゼブブ

人の心無いんか?

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双新星編

サブストーリー7 弱肉強食という世の理

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 ここは前線から僅かに後方の場所。
 そこで俺の部隊は野営をして、ある報せを待っていた。

「隊長!来ましたぜ!」

 それは羽を広げれば5mにもなる鳥型の原生生物、サンダーバード。あのキチガイ女が飼っているペットの一匹だ。
 俺はそいつの首に引っ掛けられてる書簡を取り、読み始める。
 サンダーバードは仕事は済んだ、と言うかのように飛び去って行った。

「くくく・・・・ははは・・・ひゃはははははははは!!!」
 俺はあの事件以来になる、久しぶりの心からの歓喜の笑いを上げる。

「隊長、えらくご機嫌ですね。」

 俺の部下のモヒカン雑魚が聞いてくる。俺はそいつに手紙を「読んでみろ」と渡してやった。そいつは手紙を読むと顔を歪ませ、笑いだした。

「全滅って・・・隊長ー!完璧じゃないっすかー!!こりゃ、笑いが止まりやせんな!」
 
 これであの糞チンチクリンの部隊は綺麗に無くなった。
 後はこのことを”便所”に報告するだけだ。いったいどんな顔が見れるのか今から楽しみで仕方ないぜ。
 そう今後の楽しみを考えていた、その時だった。
 
「ずいぶん楽しそうだな。ベルセルク。」

 その声に皆の笑いが一瞬で凍った。

 声がした方角から、ゆっくりと代表と、その近衛であるアドミラルを筆頭とするメイド部隊がぞろぞろと出てくる。

「だ、代表・・・何の用だよ。」

「最近、結構役に立っていた道具が壊れてね。その道具にはメリットとデメリットがあったが、壊れたことによってデメリットのほうが大きくなってしまったんだ。だから・・・」

 代表は一呼吸置き、

「だから、処分しに来たのさ。」
 そう言って代表は笑ったが、目は全く笑っていない。

「ま、待てよ。俺様はいつもランキングで5本の指に入る働きをしてきたんだぜ!それを処分たぁ、代表さんの判断としては性急すぎるんじゃねぇか?」

「君さ・・・その義手、義足。折角トータルワークスに作って貰ったみたいだけど、支払いが上手くいかなかったんだろ?どう見たって粗悪品の間に合わせだ。彼の仕事とは思えないほどのね。そんなものでこれから戦い抜けると思っているのかい?君が女に執心しないでポイントをちゃんと貯めれてたんなら、トータルワークスへの支払いも上手くいったろうに。そんな手足じゃ前のように組織に貢献するのは不可能だ。」

「だ、だからって処分はやりすぎだろ!!!おい!!!!」

「私たちが何も知らないとでも思っていたのか?」
 凍るような声と目でそう言う代表。

「な、なんのことだよ。」

「おい。」
 代表は短くそう言うと、俺様の部隊の中から新入りの軽戦士が手もみしながら代表の元へ行く。

「へへへ・・・すみませんね、ベルセルクさん。」
 軽戦士はへらへらしながら、薄ら笑いを浮かべて俺にそう言ってくる。

「てめえ・・・!!!」

「まぁ、そう言うことだ。おいたが過ぎたな、ベルセルク。」

「ちょっと待て!代表!証拠は・・・証拠はあんのか!ええ!?」
 俺は代表にがなり立てた。

 すると代表は悪魔の様な笑みを浮かべ、
。」
 そう言い切った。

「い、要るのかって・・・」
 いや、要るわけがない。ここには国家機関なんてねぇ!その気になりゃ、何でもありの世界だ。

「分かったようだな。お前がそうしてきたように。今度はお前の番さ、ベルセルク。」

「ち、ちくしょう!お前ら!やるぞ!!!構えろ!!!」
 俺は命令を下すが、部下達は誰一人戦闘態勢を取らず、代表の前に出て、

「代表!俺たちは違うんです。命令でしかたなく・・・俺たちがベルセルクの野郎に敵うわけ無いじゃないですか。嫌な命令でも言われたらやるしかない。怖いですもん。命が惜しいですもん。」
 全員がそのような泣き言を言って助命を乞い出した。

「ふむ・・・」
 代表は少し考えてから傍らに居るメイド筆頭に、
「アドミラル。こいつらを連れていけ。」
 そう指示を出した。

「畏まりました。」
 言われたアドミラルはテキパキと自身の部下に命令を下し、アドミラルの部下のメイドたちは俺の部下たちを先導して連れて行ってしまった。部下達が去って行くとき、俺に対して薄ら笑いを浮かべ、表情でこう言っていた。『ご愁傷様』と。

 残ったのは代表と俺とアドミラルを含むメイド5人だけだった。

「さて、始めようか。」
 代表はそう言って俺から少し離れる。そこにメイドの一人が荷物から組み立て式の椅子を取り出し、設置すると、代表はドカッと椅子に腰かけた。
 そして俺の目の前にはアドミラル率いる精鋭のメイド部隊。その全員がアドミラルに合わせレイピアを抜剣する。

「ちくしょおおおおおお!!!!!」

 俺は能力を発動しメイドの一人に突っ込んでいくと、アドミラルがレイピアを指揮棒のように振る。
 すると動きが読まれているかのように、簡単に避けられる。
 その後、何度も突っ込むが一発も当てられない。それどころか、攻撃を繰り出すたびにレイピアの刺突が死角から飛んできて、徐々に削られていく。

「くそう!くそう!!」
 
 俺は焦りから段々動きが雑になり、その度、傷が増える。4人のメイドたちはアドミラルの指揮棒に合わせてまるで踊っているかのように俺の攻撃を躱し、刺してゆく。

(このままじゃ・・・このままじゃ、やられる!!!)

 俺は致命傷を避けながら、チャンスを伺う。

(アイツさえ・・・アイツさえ、やれば!)

 その瞬間が訪れる。メイド同士の間の空白。その向こうにアドミラルが見える。

(ここだ!!!)

「終わりだ!!!阿婆擦れーーーーー!!!!」

 俺は能力を使い地面を蹴り、アドミラル目掛けロケットのように飛んでいく。
 その瞬間・・・アドミラルが笑った・・・様な気がした。

(さ、誘われた!!!・・・待て待て待て待て待てーーーー!!止まってくれーーー!!俺ーーー!!!)

しかし、身体はもう宙に浮いており、能力を使って蹴りだした推進力は衰えることはない。

「うわああああああああああ!!!」

 俺はダメもとでパンチを繰り出すが、あっさり躱され、カウンターで胸を貫かれた。
 そのまま倒れこむ。
 代表は立ち上がり拍手をしていた。

「一段と踊りが上手くなったな。アドミラルよ。」

「もったいないお言葉です、代表。」
 整列したメイドたちが服の裾をつまみ深々と礼をする。

「さて、では戻るぞ。」
 そう言って去っていこうとしたが、代表はアドミラルの顔を見ると、

「少しだけ許す。」
 そう言って他のメイドを連れて去っていった。

 俺を無表情で覗き込む能面女。

「なんだよ・・・阿婆擦れ・・・新しい男に付いて行かなくても良いのか?」

「あなたが・・・あなたが変わらなければ、私は今でもあなたの傍にいた。」

「自分のこと棚上げしてんじゃねぇ!!てめぇだって!!てめぇだって・・・変わったじゃねぇか・・・そんな仮面女じゃ無かった。」

「・・・どうして。あなたは現世から粗暴な方でしたが、異世界に来て変わりました。人々から感謝され、口では「面倒だ。」と言っても異世界の方を助けて、満更でもなかったでしょう?
狭間世界に来てからも、あなたは『俺が皆を元の世界に戻す』そう言って皆を引っ張ってくれたのに・・・」

 俺は昔を思い出す。近所の幼馴染連中と異世界転移した日のことを。

 現世で空手をやっていた俺は幼馴染の連中と別れ地元を離れて強豪校に入った。
 しかし、地元じゃ敵なしだった俺も、強豪校じゃ、よく居るちょっと空手の上手いやつだった。
 俺は完全に埋もれた。その学校じゃ俺のような奴はゴロゴロしていた。
 それまでの俺は周りの才能の無い奴と比べ、『俺はお前らみたいな道端の石ころじゃない。才能の固まりの、宝石の原石なんだ!』と、そう思っていた。
 だが、強豪校に入って分かった。俺も石ころだったんだ、と。思い知らされた。
 練習に身が入らない俺は次第に学校をサボりがちになり、中退して、地元に戻った。
 バイトしながらブラブラと夜の街に繰り出し、気に入らねぇ奴はボコボコにのした。弱そうなやつ見つけては恐喝もした。
 そんなとき、幼馴染達から『久しぶりに会おう』と連絡があった。アイツらに合わせる顔が無かったが、それでも会いたい気持ちが勝った。
 そして、久しぶりにみんなで会ったその日、
 俺たちは異世界に転移した。

 そこじゃ、俺たちは英雄だった。勇者だった。才能の固まりだった。周りは凡夫の有象無象。
 簡単に敵を倒し、凡夫たちに感謝され、チヤホヤされた。気持ちよかった。最高だったよ。
 この狭間世界に来た時だって、今までの奴らより多少手ごわかったが、それでも俺の方が強かった。でも・・・

 あるとき出会ってしまった。恐怖の固まりに。才能の固まりに。
 見るだけで身体が竦み涙が出た。
 俺たちが現世に帰るには、あの化け物をどうにかしないといけないと思うと、『もう、無理だ』と俺の頭が警告していた。

 まるで、あの時のようだった。強豪校で本当の才能を見せつけられた時の様な・・・
 俺はまた戻ってしまった。
 いや・・・違う。それこそが本当の俺の本質だったんだ。
 下には強く出れるが、上を・・・”ホンモノ”を見ると簡単に心がぽっきり折られ、諦めてしまう。それが俺なんだ。俺が変わった?なにも変わっちゃいねぇ・・・俺は変わっちゃいねぇ・・・こいつが節穴なだけだ。

 「●●●」
 かつての幼馴染の名を呼ぶ。4人いた幼馴染も、もう残ってるのはこいつだけだ。

 かつての名で呼びかけられ、少し驚愕し、泣きそな顔になる。しかし、それも束の間、また表情が能面になる。

(なんだよ・・・お前、まだ””に居るんだな。完全に”アドミラル”になったかと思ったが・・・)

 もう・・・最後だろう。言葉を発するのが難しくなってきた。
 最後の幼馴染を残して俺は逝く。最後の別れをしようと思うが、素直になるなんて俺らしくない。
 嫌味の一つでも言ったほうが俺らしいってもんだ。

 俺は目いっぱい人をバカにしたような表情を作り、

 「お前・・・・人を見る目ないな。」

 別れを告げた。 

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