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第11話 オスカーの想い④
「ねぇ、お願いっ」
「リトルティ、悪いけど試験勉強をしなければならないんだ」
これは本当だ。特進科の2年生は夏休み明けが大変なんだ。
夏休みが終わり、春休みになるまでの間に4回もの試験がある。
3年生への進級がかかった大事な試験だ。
その1回目が来週からだというのに、リトルティが帰りに新しいカフェに連れて行って欲しいと言ってきた。
「けど、毎日毎日そればかりじゃない。たまには息抜きも必要よ。行きましょうよ。ねっ? ねっ!」
ダメだ。こうなったらリトルティは梃でも引かない。仕方がない、数時間だけ付き合うか。
「…わかったよ」
「ありがとうっ オスカー!」
そういうと、例によって僕の腕に手を回してきた。
初めてこれをされた時はさすがに拒否をしたのだが、何度言っても聞き入れてくれなかった。
あまり強く言うと泣き始めるから、そのうち面倒臭くなって言うのを諦めた。
リトルティはダニエルともよく腕を組んで歩いているから…その延長なんだろうな。
まぁ、僕も子供にじゃれられてる感じだけど。
それに、実際夏休み明けから毎日勉強三昧で、そろそろ息抜きをしようかとは思っていた。
けど正直、リトルティに付き合う時間があるなら、早起きしてあの花壇へ行く時間に充てたかった。
結局あの夏休み以降、花壇には行けていない。
というか勉強に追われて、行きたくても行ける状況じゃなかった。
「わーっ おいしそう! いただきましょっ」
運ばれてきたアフタヌーンティースタンドに載せられた食べ物を見て、喜んでいるリトルティ。
一番下にはサンドウィッチ、その上がケーキ類、一番上にフィナンシェなどの焼き菓子が載っていた。
リトルティは紅茶を一口飲み、ケーキを一つ皿に移した。
僕はちょうど小腹が空いていたので、サンドウィッチに手を付けた。
なかなかうまい。
お茶を飲みながらふと窓の外を見ると、落とす勢いでカップをソーサーに置き、跳ね起きたように店の外に飛び出した。通りを見回したが、求めた姿は見えなかった。
…彼女を見たと思ったが。
「オスカー、どうしたの?」
リトルティがあわてて僕を追いかけてきた。
「…なんでもないよ。ごめん」
僕はまた店に戻った。
『重症だな…』
最近、長い茶色い髪の女性を見ると、反応してしまう自分がいた。
だから試験が終わり、進級が確定すれば今度こそ彼女に声をかけようと決めたんだ。
◇◇◇◇
もう季節は春になっていた。
無事に3年への進級が決まり、僕は久しぶりに朝早く登校した。
静まり返った学院内は、まだ人気がない。
僕は迷わず花壇のある場所に向かって歩いた。
あの夏の日、彼女が陽を避けるために入った樹木は、今は見事な桜を咲かせていた。
そして彼女は今日も変わらず花壇の手入れをしていた。やっと来れた。
胸の鼓動を押さえながら、僕は彼女に声をかけた。
「いつも一人でやってるの?」
彼女は目を大きく見開き、あわてて立ち上がると僕の問いに答えるかのように、何度もうなずいた。
かなり驚かせてしまったようだ。
まずは自己紹介を…
「あ、ごめんね。いきなり話しかけて。僕は…」
「ぞっ…存じ上げております。オ…オスカー・ノルマンディ様!」
僕の名前を…僕の事を知っていてくれた。
きっとあの異名のせいだろうけれど、今はつけてくれた人に感謝したい気持ちでいっぱいだ。
嬉しくて笑っている自分に気づいた。
「きれいに花を咲かせているよね。全部君が一人でしたのかい?」
「は、はい。せ…ん生に許可をいただ…って、…しておりますっ」
僕の質問に吃りながらも一生懸命答えてくれている。
耳が赤くなっているの…気が付いているのかな。可愛い。
「…僕も手伝うよ。何かする事はないかい?」
いきなりの僕の行動に彼女は最初戸惑っていたけれど、すぐに花の手入れの仕方を教えてくれた。
土いじりって何年ぶりだろう。
結構…かなり面白い。思わず夢中になっていると、いつの間にか顔に土がついていたらしい。
彼女はハンカチを差し出しながら、「ふっ」と控えめな笑顔を見せてくれた。
今、彼女の目に映る僕は【白銀の薔薇貴公子】ではなく、ただの同級生何なんだろうな。
嬉しいけど、物足りない気がするのは…なぜだろう。
◇◇◇◇
教室の前でリトルティが立っていた。
「オスカーっ どうして今朝は迎えにきてくれなかったの?」
「ダニエルに行けないって伝言を頼んでおいたんだけど」
「それは聞いたけど…やだっ 袖口に土がついているわ。オスカーらしくないわね」
少し呆れながら言うリトルティ。
僕は先程まで彼女と一緒にいた時間ときを思い出していた
…僕らしくない?
「じゃあ君の目に映る僕は、別の僕だよ」
「え? どういう意味…」
「それからもう、朝迎えに行く事はできないから。これからはダニエルに頼んでもらえるかな? ごめん」
「なっ…オスカー!」
僕はそのまま教室に入って行った。
この時僕は、リトルティに対しての対応をきちんと考えるべきだった。
いや、もっと前から、リトルティとの関係にしっかりと線引きをするべきだったんだ…
「リトルティ、悪いけど試験勉強をしなければならないんだ」
これは本当だ。特進科の2年生は夏休み明けが大変なんだ。
夏休みが終わり、春休みになるまでの間に4回もの試験がある。
3年生への進級がかかった大事な試験だ。
その1回目が来週からだというのに、リトルティが帰りに新しいカフェに連れて行って欲しいと言ってきた。
「けど、毎日毎日そればかりじゃない。たまには息抜きも必要よ。行きましょうよ。ねっ? ねっ!」
ダメだ。こうなったらリトルティは梃でも引かない。仕方がない、数時間だけ付き合うか。
「…わかったよ」
「ありがとうっ オスカー!」
そういうと、例によって僕の腕に手を回してきた。
初めてこれをされた時はさすがに拒否をしたのだが、何度言っても聞き入れてくれなかった。
あまり強く言うと泣き始めるから、そのうち面倒臭くなって言うのを諦めた。
リトルティはダニエルともよく腕を組んで歩いているから…その延長なんだろうな。
まぁ、僕も子供にじゃれられてる感じだけど。
それに、実際夏休み明けから毎日勉強三昧で、そろそろ息抜きをしようかとは思っていた。
けど正直、リトルティに付き合う時間があるなら、早起きしてあの花壇へ行く時間に充てたかった。
結局あの夏休み以降、花壇には行けていない。
というか勉強に追われて、行きたくても行ける状況じゃなかった。
「わーっ おいしそう! いただきましょっ」
運ばれてきたアフタヌーンティースタンドに載せられた食べ物を見て、喜んでいるリトルティ。
一番下にはサンドウィッチ、その上がケーキ類、一番上にフィナンシェなどの焼き菓子が載っていた。
リトルティは紅茶を一口飲み、ケーキを一つ皿に移した。
僕はちょうど小腹が空いていたので、サンドウィッチに手を付けた。
なかなかうまい。
お茶を飲みながらふと窓の外を見ると、落とす勢いでカップをソーサーに置き、跳ね起きたように店の外に飛び出した。通りを見回したが、求めた姿は見えなかった。
…彼女を見たと思ったが。
「オスカー、どうしたの?」
リトルティがあわてて僕を追いかけてきた。
「…なんでもないよ。ごめん」
僕はまた店に戻った。
『重症だな…』
最近、長い茶色い髪の女性を見ると、反応してしまう自分がいた。
だから試験が終わり、進級が確定すれば今度こそ彼女に声をかけようと決めたんだ。
◇◇◇◇
もう季節は春になっていた。
無事に3年への進級が決まり、僕は久しぶりに朝早く登校した。
静まり返った学院内は、まだ人気がない。
僕は迷わず花壇のある場所に向かって歩いた。
あの夏の日、彼女が陽を避けるために入った樹木は、今は見事な桜を咲かせていた。
そして彼女は今日も変わらず花壇の手入れをしていた。やっと来れた。
胸の鼓動を押さえながら、僕は彼女に声をかけた。
「いつも一人でやってるの?」
彼女は目を大きく見開き、あわてて立ち上がると僕の問いに答えるかのように、何度もうなずいた。
かなり驚かせてしまったようだ。
まずは自己紹介を…
「あ、ごめんね。いきなり話しかけて。僕は…」
「ぞっ…存じ上げております。オ…オスカー・ノルマンディ様!」
僕の名前を…僕の事を知っていてくれた。
きっとあの異名のせいだろうけれど、今はつけてくれた人に感謝したい気持ちでいっぱいだ。
嬉しくて笑っている自分に気づいた。
「きれいに花を咲かせているよね。全部君が一人でしたのかい?」
「は、はい。せ…ん生に許可をいただ…って、…しておりますっ」
僕の質問に吃りながらも一生懸命答えてくれている。
耳が赤くなっているの…気が付いているのかな。可愛い。
「…僕も手伝うよ。何かする事はないかい?」
いきなりの僕の行動に彼女は最初戸惑っていたけれど、すぐに花の手入れの仕方を教えてくれた。
土いじりって何年ぶりだろう。
結構…かなり面白い。思わず夢中になっていると、いつの間にか顔に土がついていたらしい。
彼女はハンカチを差し出しながら、「ふっ」と控えめな笑顔を見せてくれた。
今、彼女の目に映る僕は【白銀の薔薇貴公子】ではなく、ただの同級生何なんだろうな。
嬉しいけど、物足りない気がするのは…なぜだろう。
◇◇◇◇
教室の前でリトルティが立っていた。
「オスカーっ どうして今朝は迎えにきてくれなかったの?」
「ダニエルに行けないって伝言を頼んでおいたんだけど」
「それは聞いたけど…やだっ 袖口に土がついているわ。オスカーらしくないわね」
少し呆れながら言うリトルティ。
僕は先程まで彼女と一緒にいた時間ときを思い出していた
…僕らしくない?
「じゃあ君の目に映る僕は、別の僕だよ」
「え? どういう意味…」
「それからもう、朝迎えに行く事はできないから。これからはダニエルに頼んでもらえるかな? ごめん」
「なっ…オスカー!」
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この時僕は、リトルティに対しての対応をきちんと考えるべきだった。
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