夫は寝言で、妻である私の義姉の名を呼んだ

Kouei

文字の大きさ
1 / 6

第1話 夫の浮気相手

しおりを挟む
「ロレーヌ…」

 結婚して三か月が経ったある夜の事、隣で寝ている夫が寝言で女性の名前を呟いた。

 けどその名前は、妻である私ではない。
 私が誰よりもよく知っている女性の名前だった。

 この瞬間、感じた気持ちを何て言えばいいのだろう…

 衝撃?
 嫉妬?
 激昂?

 いいえ…そのどれでもない。

お義姉様と関係があったのね…」

 ただの絶望だった――――…


◇◇◇◇
 

 私はそっとベッドを抜け、月に照らされた中庭のベンチにいた。

 とてもではないが、ジョシュアの隣で寝られそうもない。

 私はアーマコット。
 エルゴー伯爵家の娘だ。

 そんな私がローハイド子爵家の三男であるジョシュアと結婚したのは三か月前。
 
 ジョシュアとは幼馴染であり、初恋の人でもあった。

 昔から家に良く遊びに来ており、私とジョシュアの様子を見ていた母が積極的に婚約を取り交わしてくれたのだ。

『ずっと一緒だよ』

 婚約式の日、ジョシュアはそう私に約束してくれた。
 約束してくれたのに…っ!

「…うぅ…っ…!」

 私は声を押し殺しながら、涙した。
 夜の静寂しじまの中、私のうめき声だけが聞こえた。

「ど…して…っ どうしてっ! ジョシュア…!!」

 私は人気のないベンチで泣き伏した。

 ロレーヌお義姉様は、父が再婚した継母の連れ子だ。
  お義姉様とはいつからの関係だったの!?

 ……今思い返せば…怪しいと思う事はいくつもあった。

 あれは…結婚後、ジョシュアと私そして突然遊びに来た義姉の3人でお茶をしていた時の事。

 私がご不浄で一旦席を立ち数分後部屋に戻ると、二人は不自然に距離を置いて立っていた。

 そして真っ赤に塗られていた義姉の口紅が薄くなり少し乱れていた事に違和感を覚えたわ。

 あの時はお茶を飲んだせいだと思っていたけど…

 それと…あれはジョシュアの友人が主催した夜会の時。

 そこに義姉も出席していて驚いたわ。
 ジョシュアの友人と知り合いではないでしょうに。

 「ツテがあって」

 不敵な笑みを浮かべながらそう私に言った義姉。

 その時、ジョシュアが緊張している様子だったけど…
 今考えると、ツテとは彼の事だったのね。

 それにその夜会でジョシュアの姿が見当たらず探し回っていた時。
 とある部屋から出て来た彼に私は声をかけた。

「こんなところで何をしているの?」

「!!わあっっ!!」

 ジョシュアはこちらが引くくらいビックリしていた。

「そ、そんなに驚かなくても…」

「と、突然君が現れたから…」

 焦る彼の胸元を見ると、着けていたはずのクラヴァットが外されていた。

「クラヴァットはどうしたの?」
 不信に思い、私は尋ねた。

「あ、ああ…暑くてね…」
 そう言いながらポケットに入れていたクラヴァットを取り出し、慌てて付け直していた。
 
 あの時、中でお義姉様と一緒にいたのね…
 
 結婚する前にも気になる事は多々あった。
 ジョシュアに対して不安な気持ちをいだき始めたのは、彼からロレーヌの事でいさめられた時。

「ねぇ、アーマコット。もう少しロレーヌに優しくしてあげてもいんじゃないかな?」

「…え?」

「ロレーヌは家族として君と仲良くなりたいと思っているんだ。なのに、彼女が泣くほど拒絶するのはどうかと思うよ」

「きょ、拒絶したことなんてないわっ! わ、私は仲良くなりたいと思っているわっ けれどお義姉様が…っ」

 いつも私を邪険にし私の物を奪い、傍若無人に振舞っている義姉。
 それでも歩み寄ろうと努力しているのは私の方なのに…!

「君の父上が再婚して、いろいろ複雑な立場だという事は察するよ。けど…もう少し広い心をもって対応してもいいんじゃないかな?」

「!!」

 彼は私の言葉を聞こうともせず、ただお義姉様の言った事を真に受けて私に注意したのだ。

 数か月前に顔を合わせたばかりなのに…ジョシュアはお義姉様の言葉を優先した。
 この時から嫌な予感はしていた。

 けれど…彼は優しいから、新しい家に来たばかりの義姉を気遣っていただけ。
 そう思うようにした。
 でなければ、全てが壊れてしまう気がして…

 でも―――
 
「やっとあの家を出て、愛する人と幸せになれると思っていたのに…結局、全てお義姉様に奪われてしまった…」

 私は誰に言うともなく、溜息ためいきと共につぶやいた。

 父が再婚した事で、私の生活は一変した…
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

婚約者は王女殿下のほうがお好きなようなので、私はお手紙を書くことにしました。

豆狸
恋愛
「リュドミーラ嬢、お前との婚約解消するってよ」 なろう様でも公開中です。

娼館で元夫と再会しました

無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。 しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。 連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。 「シーク様…」 どうして貴方がここに? 元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!

戦場から帰らぬ夫は、隣国の姫君に恋文を送っていました

Mag_Mel
恋愛
しばらく床に臥せていたエルマが久方ぶりに参加した祝宴で、隣国の姫君ルーシアは戦地にいるはずの夫ジェイミーの名を口にした。 「彼から恋文をもらっていますの」。 二年もの間、自分には便りひとつ届かなかったのに? 真実を確かめるため、エルマは姫君の茶会へと足を運ぶ。 そこで待っていたのは「身を引いて欲しい」と別れを迫る、ルーシアの取り巻きたちだった。 ※小説家になろう様にも投稿しています

妻の遺品を整理していたら

家紋武範
恋愛
妻の遺品整理。 片づけていくとそこには彼女の名前が記入済みの離婚届があった。

旦那様に愛されなかった滑稽な妻です。

アズやっこ
恋愛
私は旦那様を愛していました。 今日は三年目の結婚記念日。帰らない旦那様をそれでも待ち続けました。 私は旦那様を愛していました。それでも旦那様は私を愛してくれないのですね。 これはお別れではありません。役目が終わったので交代するだけです。役立たずの妻で申し訳ありませんでした。

私と結婚したいなら、側室を迎えて下さい!

Kouei
恋愛
ルキシロン王国 アルディアス・エルサトーレ・ルキシロン王太子とメリンダ・シュプリーティス公爵令嬢との成婚式まで一か月足らずとなった。 そんな時、メリンダが原因不明の高熱で昏睡状態に陥る。 病状が落ち着き目を覚ましたメリンダは、婚約者であるアルディアスを全身で拒んだ。 そして結婚に関して、ある条件を出した。 『第一に私たちは白い結婚である事、第二に側室を迎える事』 愛し合っていたはずなのに、なぜそんな条件を言い出したのか分からないアルディアスは ただただ戸惑うばかり。 二人は無事、成婚式を迎える事ができるのだろうか…? ※性描写はありませんが、それを思わせる表現があります。  苦手な方はご注意下さい。 ※この作品は、他投稿サイトにも公開しています。

離婚した妻の旅先

tartan321
恋愛
タイトル通りです。

側妃は捨てられましたので

なか
恋愛
「この国に側妃など要らないのではないか?」 現王、ランドルフが呟いた言葉。 周囲の人間は内心に怒りを抱きつつ、聞き耳を立てる。 ランドルフは、彼のために人生を捧げて王妃となったクリスティーナ妃を側妃に変え。 別の女性を正妃として迎え入れた。 裏切りに近い行為は彼女の心を確かに傷付け、癒えてもいない内に廃妃にすると宣言したのだ。 あまりの横暴、人道を無視した非道な行い。 だが、彼を止める事は誰にも出来ず。 廃妃となった事実を知らされたクリスティーナは、涙で瞳を潤ませながら「分かりました」とだけ答えた。 王妃として教育を受けて、側妃にされ 廃妃となった彼女。 その半生をランドルフのために捧げ、彼のために献身した事実さえも軽んじられる。 実の両親さえ……彼女を慰めてくれずに『捨てられた女性に価値はない』と非難した。 それらの行為に……彼女の心が吹っ切れた。 屋敷を飛び出し、一人で生きていく事を選択した。 ただコソコソと身を隠すつもりはない。 私を軽んじて。 捨てた彼らに自身の価値を示すため。 捨てられたのは、どちらか……。 後悔するのはどちらかを示すために。

処理中です...