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幼馴染マナ
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「おお。リョウくん! わざわざ昼飯に誘ってくれるなんて嬉しいではないか」
実はこのおじさん、ゲームタイトルにもなっているように裏ダンジョンのボスよりも強いキャラなのだ。ラスボスを倒した後、闘技場で戦うことができるのだが、推奨レベル九十という鬼畜仕様である。ちなみに、ラスボスの推奨レベルは五十。裏ダンジョンのボスですら七十だ。
「そうそうマナなんだが、カンドに向かう途中の草原で花を摘んでいると思うから迎えに行ってやってくれ。わしはちょっと机の上を片付けてから行くのでの」
2D時代では分からなかったが、ウィズおじさんの部屋の机はまるで紙の山と言える状態になっていた。エアコンの風を受けて何枚か音を立てて落ちていく。――さて、マナを助けに行くとしますか。
モノタウンの入り口に立っていたメリーさんは、気配が完全に無くなり、ただの村人Aになっている。そんなめり込んでいないメリーのわきを通り草原に出る。その瞬間――
「たすけてー!!」
悲鳴とともに傷だらけのマナが駆け寄って来た。服は破け、そのせいで露出度が高くなってしまっている。そんな露出度が高い状態だからこそ余計に目立つけど、リアルなマナってやっぱり……
「まな板だな」
「なんで?! 今私に言う言葉ちがくない?」
おっと、ついつい本音が出てしまった。ブロンドのロングヘアーは、HPが一なのに合わせて少し傷んでいるかのように見えるが綺麗だし、公式で設定されている通りの美少女でもある。しかしいかんせん……
「胸が無い」
「待って! 言葉が違うってそういうことじゃない!」
「胸だけ2Dのままってのもなんか違うと思うんだよね」
「誰の胸が二次元よ! 縦横高さ全部あるわっ!」
地団太を踏みながらそんな戯言を言っているマナを見つつメニューウィンドウを開くとステータスバーが表示された。レベルは十五、HPは数値としては出ていないメーターだけだが一となっている。つまりは十五歳で瀕死の状態だ。十五歳というのは公式の発表である。そしてステータスバーの下には戦闘用のコマンドが表示されていた。
「攻撃」
「スキル」
「アイテム」
「逃げる」
「何もしない」
本来なら助けてと言っている相手に対して「何もしない」という無慈悲な選択をしなければならない。なぜなら普通にプレイしているとそれしか選択肢が無いからである。しかしラストダンジョンのアイテムをコンプリートしている俺にはもっと選択肢があるのだ!
回復薬を投げることだってできるし、煉獄火炎の巻物を使って止めを刺すことだってできる!
どうしよう……選択肢がありすぎて何を試したらいいか分からない……。2D時代には試せるものは全て試したけど、結末は何も変わらなかったしな……。まあいい、普通にしよう普通に。
「待って、これなに?」
『リョウはマナの捕獲に成功した』
メニューウィンドウにそう表示されたのと同時に、先ほどバグ技で作成した絶対服従の首輪がマナの首に装着される。
「いや、瀕死のマナを助けようとしたらつい……」
「つい……で捕獲されてたまるか!」
2D時代でもマナ捕獲バグは確かに存在した。しかしHP以外の全ステータスが一であり、レベルの上昇でHP以外のステータスが上昇しないという無能っぷりだったため、誰も好んで仲間キャラにはしないのだった。さらに何故かマナを捕獲しても、村にいる幼馴染のマナは健在で、マナ増殖バグ……とも呼ばれていた。まったく……消えたり増えたり忙しいキャラだ。増やそうと思えばもっと増やせるあたりも謎なキャラだ。
「大丈夫、大丈夫。増えるから」
「ちょっと意味わかんない」
「……」
「……」
結果、マナは増えることは無かった。
「と、とにかく、モンスターに襲われてるのよ! 助けて!」
マナが俺の腕に捕まるようにして後ろに隠れる。ちなみに腕に胸は当たらない。すると目の前に「ウサプー」が現れた。説明しよう。ウサプーとはうぃずを代表する人気モンスターであり、猫ほどの小さなクマにウサギのような耳が生えているというマスコット的な存在である。
モンスターには物理技主体のファイターと魔法技主体のキャスターという分類が存在するのだが、ウサプーはゴリッゴリのファイターである。通常は両手の爪を使った切り裂き系の技を覚える。ちなみに自力で技を覚えることもなくステータスも上がらないが、マナも分類上ファイターに属する。
「あばら骨ゴリッゴリのファイターといったところか」
「なんか言った?」
「いえ何も」
「おおっと、危ないところにどうにか間に合ったようじゃの」
俺はシナリオ通り背後からかけられる声に振り返った。そこにはウィズおじさんが余裕の表情で腕を組んで立っている。
「あれはウサプーじゃな。丁度瀕死のようじゃし……リョウくんこれを使ってごらんなさい」
そう言って渡されたのは服従の首輪だ。これを使ってウサプーを捕獲すると晴れてアドベンチャーデビューとなる。俺はアイテムコマンドから絶対服従の首輪を選択し「使う」を選ぶ。するとマナの時と同じく一瞬ウサプーの首元が光り捕獲することができた。服従の首輪という安物なんか使わずここは贅沢に最高級のアイテムで捕獲してあげよう。まだ九十六個もあるし。それに2Dのときは分からなかったけど絶対服従の首輪は装飾が豪華だ。
『リョウはウサプーの捕獲に成功した』
「おおっと! やるじゃないか! 初めてでこんなにあっさりウサプーを捕獲してしまうとは!」
――実は初めてではないんだけど……色々な意味で。
ちらっとマナの方を見ると、物凄い半眼で俺のことを睨んでいた。おいおい、2Dゲームの時はこんなこと無かったのに。
「初めては私でしょ」
「いや、ちょっと俺二次元には興味無いんで」
「誰の胸が二次元よっ!」
「いや、今のはそういう意味で言ってない。まじで」
ゲームキャラに私が初めてなんて艶めかしい台詞を言われても二次元なのでって意味だったのだが、NANNTENA-4Dの人工知能的なやつは面白いことを考えるようだ。
「とりあえず、リョウくんの家に行こうか。お昼ご飯が待っている。そうそう、そのウサプーは君が捕獲したのだから、責任を持って使役したまえ。首輪を付けられたモンスターは主人に逆らうことはできない」
そうして、俺とマナとウサプーはウィズおじさんの後ろをついて自宅へと向かった。
歩いて直ぐの自宅に着くと、驚いたことに豪華な昼ご飯が用意されていた。俺はラストダンジョンを踏破したこともあっておなかが減っており、涎がこぼれそうになる。――ん? ゲーム内でおなかが減るなんてことあるのだろうか?
いや――これも検証する必要がありそうだ。
お母さんと俺とウィズおじさんとマナ。四人でテーブルに座り、昼食に箸を伸ばす。
――うまい!
正直な話、箸が止まらなかった。貪るようにかき込んで胃に収める。テーブルの上の食べ物が無くなるころには、俺の腹も満腹となっていた。ここでの食事はきっちり栄養になるのかもしれない……。満腹度とでも呼ぶべきパラメータがあるのか? となると――これはもはや現実と言っても差し支えない。第二の現実だ!!
「ところでリョウくん、君に話があるんだ。君にはアドベンチャーの才能がある。お父さんと一緒でね。だから、この十五才の誕生日を期に外へ出てみるのはどうだろうか?」
「そうね、リョウももう立派な大人だもの。お母さんは、もう少しここにいてくれても良いんだけど、あなたが望むのなら応援するわ」
ここの台詞はシナリオ通り……。何も変わったことは無い。
「いつでも遊びに戻ってきて……」
マナもいつも通りだ。
「じゃあ、行ってくるよ」
今回ばかりは俺もシナリオに従って淡白に家を出ようとする。
「これは、わしからの選別だ」
「少ないけど、旅の役に立ててね」
ウィズおじさんとお母さんからアイテムを貰った。――モンスター辞典と五百セトだ。これで所持金は約五十万セトから約五十万セトに変わる。ほぼ変わってない。とりあえず貰うものを貰い終えると玄関をくぐって外に出る。モンスターを引き連れて――
「……なんでリョウから離れられないの?」
俺の真後ろにウサプーを抱いたマナが仏頂面をして立ち尽くしている。俺から離れることができないことが不思議のようだが、そんな当たり前のことについて聞かれても答えは決まっているだろうに。
「俺のモンスターだからだろ?」
「誰がモンスターよっ!」
シナリオとは――大分違ってきたようだ。
「とりあえず……服、着替えに帰った方が良いよ」
破れてはだけている服を指さして指摘をすると、マナは顔を真っ赤にしてウィズおじさんの家に行こうと駆けだした。しかし――
「だからっ! なんでっ! なんでこれ以上離れられないの!」
およそ六メートル。これが2D時代の六マスなのだと思うが、それ以上マナが離れることは出来なかった。まるで首輪に紐が付いているかのように引き止められて仰向けに転倒していた。マナは地面をのたうち回りながら泣きわめく。うるさい。しばらくして泣くことに飽きたのか、ウサプーをハンカチ代わりにして涙を拭う。
確かマップでの高速移動中なんかも、後ろを付いてくるモンスターが三マス間隔で離れることはあっても、それ以上離れることは無かった。だから所持モンスターが二体で六マスの六メートル……なるほど、こういう設定になるのか。ということは所持モンスターが三体に増えると九メートルまでは距離が伸びそうだな。
「とりあえず部屋の前まで付いて行くからさっさと着替えて」
「なんでっ! なんでいっつもそんなに冷たいのっ!」
地面を叩きながらそう言ったマナだったが、いつもと言われるほどの心当たりは無い。なにせ実際に言葉を交わしたのは今日が初めてなのだから。しかしマナに対して冷たい理由には心当たりがあった。
「巨乳派だから」
「なんでっ! ねえなんでっ! 酷くない?!」
マナは相変わらず喚きながら顔を背ける。その姿を見ながら俺はしみじみと考えていた。NANNTENA-4Dの性能は本当に凄い――と。
それからマナは俺の六メートル先を歩いて自分の部屋に戻り、元と同じデザインの服に着替えて戻って来た。
「服ってそのデザインの物しか持ってないの?」
「え? 普通でしょ?」
確かにうぃずのキャラクターが違う服を着ている描写なんて無かった。それは、常識――という形で反映されている訳か。面白い発想だ。
「とりあえず、裸にはなれるんだよね? ちょっと脱いで」
「なんで? 馬鹿なの?」
首輪を付けられたモンスターは主人に逆らうことはできない……それがマナには通じない……だと?
「まあいいや、行こうか。冒険に」
「やっぱり、私も行かなきゃいけない流れよね……」
ウサプーを抱いたマナがとぼとぼと俺に付いてくる形でモノタウンを出る。最弱モンスターベストスリーに入るマナとウサプーを連れての冒険。俺は楽しみで楽しみでつい叫び声をあげてしまった。
「俺たちの冒険はこれからだ!」
実はこのおじさん、ゲームタイトルにもなっているように裏ダンジョンのボスよりも強いキャラなのだ。ラスボスを倒した後、闘技場で戦うことができるのだが、推奨レベル九十という鬼畜仕様である。ちなみに、ラスボスの推奨レベルは五十。裏ダンジョンのボスですら七十だ。
「そうそうマナなんだが、カンドに向かう途中の草原で花を摘んでいると思うから迎えに行ってやってくれ。わしはちょっと机の上を片付けてから行くのでの」
2D時代では分からなかったが、ウィズおじさんの部屋の机はまるで紙の山と言える状態になっていた。エアコンの風を受けて何枚か音を立てて落ちていく。――さて、マナを助けに行くとしますか。
モノタウンの入り口に立っていたメリーさんは、気配が完全に無くなり、ただの村人Aになっている。そんなめり込んでいないメリーのわきを通り草原に出る。その瞬間――
「たすけてー!!」
悲鳴とともに傷だらけのマナが駆け寄って来た。服は破け、そのせいで露出度が高くなってしまっている。そんな露出度が高い状態だからこそ余計に目立つけど、リアルなマナってやっぱり……
「まな板だな」
「なんで?! 今私に言う言葉ちがくない?」
おっと、ついつい本音が出てしまった。ブロンドのロングヘアーは、HPが一なのに合わせて少し傷んでいるかのように見えるが綺麗だし、公式で設定されている通りの美少女でもある。しかしいかんせん……
「胸が無い」
「待って! 言葉が違うってそういうことじゃない!」
「胸だけ2Dのままってのもなんか違うと思うんだよね」
「誰の胸が二次元よ! 縦横高さ全部あるわっ!」
地団太を踏みながらそんな戯言を言っているマナを見つつメニューウィンドウを開くとステータスバーが表示された。レベルは十五、HPは数値としては出ていないメーターだけだが一となっている。つまりは十五歳で瀕死の状態だ。十五歳というのは公式の発表である。そしてステータスバーの下には戦闘用のコマンドが表示されていた。
「攻撃」
「スキル」
「アイテム」
「逃げる」
「何もしない」
本来なら助けてと言っている相手に対して「何もしない」という無慈悲な選択をしなければならない。なぜなら普通にプレイしているとそれしか選択肢が無いからである。しかしラストダンジョンのアイテムをコンプリートしている俺にはもっと選択肢があるのだ!
回復薬を投げることだってできるし、煉獄火炎の巻物を使って止めを刺すことだってできる!
どうしよう……選択肢がありすぎて何を試したらいいか分からない……。2D時代には試せるものは全て試したけど、結末は何も変わらなかったしな……。まあいい、普通にしよう普通に。
「待って、これなに?」
『リョウはマナの捕獲に成功した』
メニューウィンドウにそう表示されたのと同時に、先ほどバグ技で作成した絶対服従の首輪がマナの首に装着される。
「いや、瀕死のマナを助けようとしたらつい……」
「つい……で捕獲されてたまるか!」
2D時代でもマナ捕獲バグは確かに存在した。しかしHP以外の全ステータスが一であり、レベルの上昇でHP以外のステータスが上昇しないという無能っぷりだったため、誰も好んで仲間キャラにはしないのだった。さらに何故かマナを捕獲しても、村にいる幼馴染のマナは健在で、マナ増殖バグ……とも呼ばれていた。まったく……消えたり増えたり忙しいキャラだ。増やそうと思えばもっと増やせるあたりも謎なキャラだ。
「大丈夫、大丈夫。増えるから」
「ちょっと意味わかんない」
「……」
「……」
結果、マナは増えることは無かった。
「と、とにかく、モンスターに襲われてるのよ! 助けて!」
マナが俺の腕に捕まるようにして後ろに隠れる。ちなみに腕に胸は当たらない。すると目の前に「ウサプー」が現れた。説明しよう。ウサプーとはうぃずを代表する人気モンスターであり、猫ほどの小さなクマにウサギのような耳が生えているというマスコット的な存在である。
モンスターには物理技主体のファイターと魔法技主体のキャスターという分類が存在するのだが、ウサプーはゴリッゴリのファイターである。通常は両手の爪を使った切り裂き系の技を覚える。ちなみに自力で技を覚えることもなくステータスも上がらないが、マナも分類上ファイターに属する。
「あばら骨ゴリッゴリのファイターといったところか」
「なんか言った?」
「いえ何も」
「おおっと、危ないところにどうにか間に合ったようじゃの」
俺はシナリオ通り背後からかけられる声に振り返った。そこにはウィズおじさんが余裕の表情で腕を組んで立っている。
「あれはウサプーじゃな。丁度瀕死のようじゃし……リョウくんこれを使ってごらんなさい」
そう言って渡されたのは服従の首輪だ。これを使ってウサプーを捕獲すると晴れてアドベンチャーデビューとなる。俺はアイテムコマンドから絶対服従の首輪を選択し「使う」を選ぶ。するとマナの時と同じく一瞬ウサプーの首元が光り捕獲することができた。服従の首輪という安物なんか使わずここは贅沢に最高級のアイテムで捕獲してあげよう。まだ九十六個もあるし。それに2Dのときは分からなかったけど絶対服従の首輪は装飾が豪華だ。
『リョウはウサプーの捕獲に成功した』
「おおっと! やるじゃないか! 初めてでこんなにあっさりウサプーを捕獲してしまうとは!」
――実は初めてではないんだけど……色々な意味で。
ちらっとマナの方を見ると、物凄い半眼で俺のことを睨んでいた。おいおい、2Dゲームの時はこんなこと無かったのに。
「初めては私でしょ」
「いや、ちょっと俺二次元には興味無いんで」
「誰の胸が二次元よっ!」
「いや、今のはそういう意味で言ってない。まじで」
ゲームキャラに私が初めてなんて艶めかしい台詞を言われても二次元なのでって意味だったのだが、NANNTENA-4Dの人工知能的なやつは面白いことを考えるようだ。
「とりあえず、リョウくんの家に行こうか。お昼ご飯が待っている。そうそう、そのウサプーは君が捕獲したのだから、責任を持って使役したまえ。首輪を付けられたモンスターは主人に逆らうことはできない」
そうして、俺とマナとウサプーはウィズおじさんの後ろをついて自宅へと向かった。
歩いて直ぐの自宅に着くと、驚いたことに豪華な昼ご飯が用意されていた。俺はラストダンジョンを踏破したこともあっておなかが減っており、涎がこぼれそうになる。――ん? ゲーム内でおなかが減るなんてことあるのだろうか?
いや――これも検証する必要がありそうだ。
お母さんと俺とウィズおじさんとマナ。四人でテーブルに座り、昼食に箸を伸ばす。
――うまい!
正直な話、箸が止まらなかった。貪るようにかき込んで胃に収める。テーブルの上の食べ物が無くなるころには、俺の腹も満腹となっていた。ここでの食事はきっちり栄養になるのかもしれない……。満腹度とでも呼ぶべきパラメータがあるのか? となると――これはもはや現実と言っても差し支えない。第二の現実だ!!
「ところでリョウくん、君に話があるんだ。君にはアドベンチャーの才能がある。お父さんと一緒でね。だから、この十五才の誕生日を期に外へ出てみるのはどうだろうか?」
「そうね、リョウももう立派な大人だもの。お母さんは、もう少しここにいてくれても良いんだけど、あなたが望むのなら応援するわ」
ここの台詞はシナリオ通り……。何も変わったことは無い。
「いつでも遊びに戻ってきて……」
マナもいつも通りだ。
「じゃあ、行ってくるよ」
今回ばかりは俺もシナリオに従って淡白に家を出ようとする。
「これは、わしからの選別だ」
「少ないけど、旅の役に立ててね」
ウィズおじさんとお母さんからアイテムを貰った。――モンスター辞典と五百セトだ。これで所持金は約五十万セトから約五十万セトに変わる。ほぼ変わってない。とりあえず貰うものを貰い終えると玄関をくぐって外に出る。モンスターを引き連れて――
「……なんでリョウから離れられないの?」
俺の真後ろにウサプーを抱いたマナが仏頂面をして立ち尽くしている。俺から離れることができないことが不思議のようだが、そんな当たり前のことについて聞かれても答えは決まっているだろうに。
「俺のモンスターだからだろ?」
「誰がモンスターよっ!」
シナリオとは――大分違ってきたようだ。
「とりあえず……服、着替えに帰った方が良いよ」
破れてはだけている服を指さして指摘をすると、マナは顔を真っ赤にしてウィズおじさんの家に行こうと駆けだした。しかし――
「だからっ! なんでっ! なんでこれ以上離れられないの!」
およそ六メートル。これが2D時代の六マスなのだと思うが、それ以上マナが離れることは出来なかった。まるで首輪に紐が付いているかのように引き止められて仰向けに転倒していた。マナは地面をのたうち回りながら泣きわめく。うるさい。しばらくして泣くことに飽きたのか、ウサプーをハンカチ代わりにして涙を拭う。
確かマップでの高速移動中なんかも、後ろを付いてくるモンスターが三マス間隔で離れることはあっても、それ以上離れることは無かった。だから所持モンスターが二体で六マスの六メートル……なるほど、こういう設定になるのか。ということは所持モンスターが三体に増えると九メートルまでは距離が伸びそうだな。
「とりあえず部屋の前まで付いて行くからさっさと着替えて」
「なんでっ! なんでいっつもそんなに冷たいのっ!」
地面を叩きながらそう言ったマナだったが、いつもと言われるほどの心当たりは無い。なにせ実際に言葉を交わしたのは今日が初めてなのだから。しかしマナに対して冷たい理由には心当たりがあった。
「巨乳派だから」
「なんでっ! ねえなんでっ! 酷くない?!」
マナは相変わらず喚きながら顔を背ける。その姿を見ながら俺はしみじみと考えていた。NANNTENA-4Dの性能は本当に凄い――と。
それからマナは俺の六メートル先を歩いて自分の部屋に戻り、元と同じデザインの服に着替えて戻って来た。
「服ってそのデザインの物しか持ってないの?」
「え? 普通でしょ?」
確かにうぃずのキャラクターが違う服を着ている描写なんて無かった。それは、常識――という形で反映されている訳か。面白い発想だ。
「とりあえず、裸にはなれるんだよね? ちょっと脱いで」
「なんで? 馬鹿なの?」
首輪を付けられたモンスターは主人に逆らうことはできない……それがマナには通じない……だと?
「まあいいや、行こうか。冒険に」
「やっぱり、私も行かなきゃいけない流れよね……」
ウサプーを抱いたマナがとぼとぼと俺に付いてくる形でモノタウンを出る。最弱モンスターベストスリーに入るマナとウサプーを連れての冒険。俺は楽しみで楽しみでつい叫び声をあげてしまった。
「俺たちの冒険はこれからだ!」
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2022/02/18 後日談完結しました。
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