転移した先はバグだらけのモンスター育成ゲーム世界でした

色部耀

文字の大きさ
7 / 28

女神リロと女神アウスト

しおりを挟む
「あり得ない。マジであり得ない。萎えるわー」

 俺の目の前で体育座りをして背を向ける女神は口調もテンションも変えてそう言った。先ほどまでは丁寧で神々しい話し方だったのが、まるでヤンキー中学生のような話し方になっている。それほどまでに俺の所持モンスターになったことが嫌だったのだろうか。失礼な。

「そんなに嫌なら女神の力でもなんでも使って首輪外せば良いだろ」

「できたらしてるわよバカ。最低。死ねば良いのに」

 ちょっと口悪くなりすぎではないか? これではまるでこいつ自身が邪神のようだ。

「さっき神と同等の権限って言ってたと思ったんだけど?」

「神が神としての力を使えるのは神域でだけ。さっきは時を止めてこの世界を神域化してたんだけどこうなったらもう……」

「もう?」

「そこのモンスターとおんなじ存在よ」

「私はモンスターじゃないからね!?」

「あー。萎えたわ」

 女神にモンスター扱いされたマナはすぐさま否定するが、完全に無視されていた。ゲームの仕様と同じなら二人とも間違いなくモンスターに分類される。それを理解している様子の女神はどんよりしていた。ここまで露骨に嫌な態度を取られると流石に鬱陶しい。

「じゃあ、その神域とやらに行けば良いんだな?」

「そんなところに行く方法があるの?」

 俺の話に食いついたのは女神ではなくマナだった。女神というだけあって俺が想定している神域のことは分かっているのかもしれない。

「邪神の封印されている場所。そこはこの世界で神域と言われているところだ。さっき女神も言っていただろ? この世界に邪神を封印したと」

「邪神? そんなこと言ってたかしら?」

 ん? マナは胸だけでなく記憶容量も無いのだろうか?

「とある神、略してJSを封印した……あれ?」

 俺はそこまで言って思い出した。こいつはひとことも邪神とは言っていない。

「邪神なんて言ってないでしょ? 自分の過ちを認めて謝るなら今のうちよ? ほら? んん?」

 マナの! 顔が! あり得ないほどウザい!

「JSってのは邪神じゃないのか?」

 俺は体育座りで草を千切っては投げを繰り返す女神に問いかけた。無視を続けるかと思うくらいに長い沈黙の後、女神はこれまた長いため息をついて答える。

「……上司よ」

「上司?」

 上司……JS……じょうし……

「そういうことかー!!」

 俺は何を略してJSになったのか気付いて膝をついた。JASHINのJSではなくJOUSHIのJSだったのか!

「だからその方法だけは取りたくない。神域じゃないここで年取るのも嫌だけど上司に会うのはもっと嫌……。働きたくない……もう働きたくないの……」

 ステータス画面を見ると女神――リロは混乱状態になっていた。どんだけ働きたくないんだよ。ヒキニートか。てか、働きたくなくて上司である神を封印したとか、これではまるでこいつ自身が邪神のようだ。さっきも同じことを思った気もするが、今回ばかりは真剣にそう思う。でも……ん?

「女神がこうして仲間モンスターになったら、メニューのヘルプで色々と教えてくれる女神はどうなるんだ? 本来のゲームの中なら女神増殖バグとも言われてて普通に出てくるけど」

「また増殖とか意味の分からないこと言ってる」

 そう言いつつリロの背中を撫でるマナは実際に増殖することはなく、こうして目の前にいるのみだ。疑問に思えば検証するのがゲーマーの性。俺はすぐさまヘルプを開いた。
 するとそこには大量のホログラムウィンドウの前であぐらをかき、両手でキーボードのようなものを叩く女性の後ろ姿が映った。白銀の長い髪をカチューシャでオールバックにし、背中から生える真っ白な二本の翼の間に垂らしている。その様子を見ていると神々しいという感想だけではなく、どことなく見覚えのあるもののような気にもなってくる。――ああ、これは仕事の締め切りに追われて家のパソコンに向かう親父の背中だ……。

「おーいリロ。もしかしてこの画面に映ってるのってお前が言ってた上司か?」

 俺がそう言うとリロが振り返る。そして同時に画面の中の女性も物凄い勢いで振り返った。神速の振り向きだ。

「リロちゃん? そこにいるのですか? 心配したのですよ! 怪我とかしてないですか? 病気もない? 大丈夫ですか?」

 ヘルプ画面にしがみついてこちらの様子を伺う女神は目に狂気を宿らせながら早口でまくしたてる。しかし俺はそんなことよりも前のめりになって画面を覗き込む女神の胸元に釘付けだった。なぜなら、そこではたわわな果実が収穫を待つかのようにユッサユッサと重みをアピールしていたからだ。俺は後方で体育座りをしているリロと何度か見比べた末につい言ってしまった。

「チェンジで」

「どこ見て判断してんのよ!」

 すぐさまそう言って俺にローキックを入れるマナ。流石ファイタータイプ。技がキレてるぜ。

「リョウ。早くその通信切って」

 そう言ったのは女神リロ。ガタガタと震えている。しかし俺は目の前の巨乳美女神をシャットアウトすることができなかった。理由は分からない。

「ええと、リロなら元気にしてますよ。ところで女神様のお名前を伺ってもよろしいでしょうか?」

「……私らのときと態度違いすぎない?」

 マナかまた何か言っている。

「私ですか? 私は宇宙世界を管理しているアウストと言います。そちらにいるリロに仕事を教えている立場でもあります」

 相変わらず早口ではあるが、とても丁寧な物言いでリロと違って好感が持てる。リロはなぜこのような女神らしい女神を封印してしまったのだろうか。

「リロにもそろそろ一つは世界を管理してもらおうと、昔私が作った魔法世界のベースを渡したのですが……。何か不具合が出たのか、気付くと私は出口のない部屋に閉じ込められてしまっていたのです。そのせいで元の世界の管理もできずにいます。それに私と同じくリロにも何かあったのではと心配していました」

 アウストは涙ながらに話してくれた。しかし当のリロは先ほどからずっとガタガタと震えながら背中を向けて座っている。

「おいロリ。心優しい上司がこう言ってくれてるんだからちゃんと聞けよ」

「リロよ!」

 おっと間違えた。名前が見た目に引っ張られてしまったみたいだ。俺に答えたリロはやっと立ち上がるとダルそうに歩いてきて俺の隣に立った。

「アウスト……。あんた働きすぎなのよ。ちょっとそこで休んどきなさい」

 そう言ってリロは俺のコントローラーを奪ってヘルプ画面を閉じた。突然目の保養をかき消された俺が抗議をしようとしたのも束の間、リロは涙をたたえた目で俺を見上げて語り始めた。

「私が生まれたのは地球時間で言う十年前なんだけどさ……」

 俺は渋々リロの話を聞くことにした。

「アウストったら私が生まれるより前から宇宙空間全ての管理をするために神域の時間の流れを一万倍にしてたの。惑星の配置から公転速度・自転速度。恒星のエネルギーとか物質構成まで。果ては物理現象に不具合が出ないように宇宙空間全体の化学反応をチェックしたりまで。唯一生命を作ってある地球だけでも管理が大変だって言うのに一万倍に引き伸ばされた時間の中で毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日……」

 リロは焦点の合わない瞳に涙を浮かべて見開き、全身をガクガクと震わせていた。さらには過呼吸と言っていいほど息を荒くしている。十年の一万倍……十万年もの間ずっと世界の管理をしていたともなれば鬱になっても仕方ないのかもしれない。

「おい。おい。落ち着けって」

 俺の声にハッとなって深呼吸をするリロ。その後、ようやく落ち着いたかのように思えたリロは力強く俺を指さして言ったのだった。

「私もう働かない。動かない」

 そうしてリロは再び体育座りで空を見上げ始めたのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

『急所』を突いてドロップ率100%。魔物から奪ったSSRスキルと最強装備で、俺だけが規格外の冒険者になる

仙道
ファンタジー
 気がつくと、俺は森の中に立っていた。目の前には実体化した女神がいて、ここがステータスやスキルの存在する異世界だと告げてくる。女神は俺に特典として【鑑定】と、魔物の『ドロップ急所』が見える眼を与えて消えた。  この世界では、魔物は倒した際に稀にアイテムやスキルを落とす。俺の眼には、魔物の体に赤い光の点が見えた。そこを攻撃して倒せば、【鑑定】で表示されたレアアイテムが確実に手に入るのだ。  俺は実験のために、森でオークに襲われているエルフの少女を見つける。オークのドロップリストには『剛力の腕輪(攻撃力+500)』があった。俺はエルフを助けるというよりも、その腕輪が欲しくてオークの急所を剣で貫く。  オークは光となって消え、俺の手には強力な腕輪が残った。  腰を抜かしていたエルフの少女、リーナは俺の圧倒的な一撃と、伝説級の装備を平然と手に入れる姿を見て、俺に同行を申し出る。  俺は効率よく強くなるために、彼女を前衛の盾役として採用した。  こうして、欲しいドロップ品を狙って魔物を狩り続ける、俺の異世界冒険が始まる。 12/23 HOT男性向け1位

【完結】転生したら最強の魔法使いでした~元ブラック企業OLの異世界無双~

きゅちゃん
ファンタジー
過労死寸前のブラック企業OL・田中美咲(28歳)が、残業中に倒れて異世界に転生。転生先では「セリア・アルクライト」という名前で、なんと世界最強クラスの魔法使いとして生まれ変わる。 前世で我慢し続けた鬱憤を晴らすかのように、理不尽な権力者たちを魔法でバッサバッサと成敗し、困っている人々を助けていく。持ち前の社会人経験と常識、そして圧倒的な魔法力で、この世界の様々な問題を解決していく痛快ストーリー。

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。

カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。 今年のメインイベントは受験、 あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。 だがそんな彼は飛行機が苦手だった。 電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?! あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな? 急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。 さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?! 変なレアスキルや神具、 八百万(やおよろず)の神の加護。 レアチート盛りだくさん?! 半ばあたりシリアス 後半ざまぁ。 訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前 お腹がすいた時に食べたい食べ物など 思いついた名前とかをもじり、 なんとか、名前決めてます。     *** お名前使用してもいいよ💕っていう 心優しい方、教えて下さい🥺 悪役には使わないようにします、たぶん。 ちょっとオネェだったり、 アレ…だったりする程度です😁 すでに、使用オッケーしてくださった心優しい 皆様ありがとうございます😘 読んでくださる方や応援してくださる全てに めっちゃ感謝を込めて💕 ありがとうございます💞

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~

宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。 転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。 良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。 例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。 けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。 同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。 彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!? ※小説家になろう様にも掲載しています。

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

【改訂版アップ】10日間の異世界旅行~帰れなくなった二人の異世界冒険譚~

ばいむ
ファンタジー
10日間の異世界旅行~帰れなくなった二人の異世界冒険譚~ 大筋は変わっていませんが、内容を見直したバージョンを追加でアップしています。単なる自己満足の書き直しですのでオリジナルを読んでいる人は見直さなくてもよいかと思います。主な変更点は以下の通りです。 話数を半分以下に統合。このため1話辺りの文字数が倍増しています。 説明口調から対話形式を増加。 伏線を考えていたが使用しなかった内容について削除。(龍、人種など) 別視点内容の追加。 剣と魔法の世界であるライハンドリア・・・。魔獣と言われるモンスターがおり、剣と魔法でそれを倒す冒険者と言われる人達がいる世界。 高校の休み時間に突然その世界に行くことになってしまった。この世界での生活は10日間と言われ、混乱しながらも楽しむことにしたが、なぜか戻ることができなかった。 特殊な能力を授かるわけでもなく、生きるための力をつけるには自ら鍛錬しなければならなかった。魔獣を狩り、いろいろな遺跡を訪ね、いろいろな人と出会った。何度か死にそうになったこともあったが、多くの人に助けられながらも少しずつ成長し、なんとか生き抜いた。 冒険をともにするのは同じく異世界に転移してきた女性・ジェニファー。彼女と出会い、ともに生き抜き、そして別れることとなった。 2021/06/27 無事に完結しました。 2021/09/10 後日談の追加を開始 2022/02/18 後日談完結しました。 2025/03/23 自己満足の改訂版をアップしました。

処理中です...