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女神リロと女神アウスト
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「あり得ない。マジであり得ない。萎えるわー」
俺の目の前で体育座りをして背を向ける女神は口調もテンションも変えてそう言った。先ほどまでは丁寧で神々しい話し方だったのが、まるでヤンキー中学生のような話し方になっている。それほどまでに俺の所持モンスターになったことが嫌だったのだろうか。失礼な。
「そんなに嫌なら女神の力でもなんでも使って首輪外せば良いだろ」
「できたらしてるわよバカ。最低。死ねば良いのに」
ちょっと口悪くなりすぎではないか? これではまるでこいつ自身が邪神のようだ。
「さっき神と同等の権限って言ってたと思ったんだけど?」
「神が神としての力を使えるのは神域でだけ。さっきは時を止めてこの世界を神域化してたんだけどこうなったらもう……」
「もう?」
「そこのモンスターとおんなじ存在よ」
「私はモンスターじゃないからね!?」
「あー。萎えたわ」
女神にモンスター扱いされたマナはすぐさま否定するが、完全に無視されていた。ゲームの仕様と同じなら二人とも間違いなくモンスターに分類される。それを理解している様子の女神はどんよりしていた。ここまで露骨に嫌な態度を取られると流石に鬱陶しい。
「じゃあ、その神域とやらに行けば良いんだな?」
「そんなところに行く方法があるの?」
俺の話に食いついたのは女神ではなくマナだった。女神というだけあって俺が想定している神域のことは分かっているのかもしれない。
「邪神の封印されている場所。そこはこの世界で神域と言われているところだ。さっき女神も言っていただろ? この世界に邪神を封印したと」
「邪神? そんなこと言ってたかしら?」
ん? マナは胸だけでなく記憶容量も無いのだろうか?
「とある神、略してJSを封印した……あれ?」
俺はそこまで言って思い出した。こいつはひとことも邪神とは言っていない。
「邪神なんて言ってないでしょ? 自分の過ちを認めて謝るなら今のうちよ? ほら? んん?」
マナの! 顔が! あり得ないほどウザい!
「JSってのは邪神じゃないのか?」
俺は体育座りで草を千切っては投げを繰り返す女神に問いかけた。無視を続けるかと思うくらいに長い沈黙の後、女神はこれまた長いため息をついて答える。
「……上司よ」
「上司?」
上司……JS……じょうし……
「そういうことかー!!」
俺は何を略してJSになったのか気付いて膝をついた。JASHINのJSではなくJOUSHIのJSだったのか!
「だからその方法だけは取りたくない。神域じゃないここで年取るのも嫌だけど上司に会うのはもっと嫌……。働きたくない……もう働きたくないの……」
ステータス画面を見ると女神――リロは混乱状態になっていた。どんだけ働きたくないんだよ。ヒキニートか。てか、働きたくなくて上司である神を封印したとか、これではまるでこいつ自身が邪神のようだ。さっきも同じことを思った気もするが、今回ばかりは真剣にそう思う。でも……ん?
「女神がこうして仲間モンスターになったら、メニューのヘルプで色々と教えてくれる女神はどうなるんだ? 本来のゲームの中なら女神増殖バグとも言われてて普通に出てくるけど」
「また増殖とか意味の分からないこと言ってる」
そう言いつつリロの背中を撫でるマナは実際に増殖することはなく、こうして目の前にいるのみだ。疑問に思えば検証するのがゲーマーの性。俺はすぐさまヘルプを開いた。
するとそこには大量のホログラムウィンドウの前であぐらをかき、両手でキーボードのようなものを叩く女性の後ろ姿が映った。白銀の長い髪をカチューシャでオールバックにし、背中から生える真っ白な二本の翼の間に垂らしている。その様子を見ていると神々しいという感想だけではなく、どことなく見覚えのあるもののような気にもなってくる。――ああ、これは仕事の締め切りに追われて家のパソコンに向かう親父の背中だ……。
「おーいリロ。もしかしてこの画面に映ってるのってお前が言ってた上司か?」
俺がそう言うとリロが振り返る。そして同時に画面の中の女性も物凄い勢いで振り返った。神速の振り向きだ。
「リロちゃん? そこにいるのですか? 心配したのですよ! 怪我とかしてないですか? 病気もない? 大丈夫ですか?」
ヘルプ画面にしがみついてこちらの様子を伺う女神は目に狂気を宿らせながら早口でまくしたてる。しかし俺はそんなことよりも前のめりになって画面を覗き込む女神の胸元に釘付けだった。なぜなら、そこではたわわな果実が収穫を待つかのようにユッサユッサと重みをアピールしていたからだ。俺は後方で体育座りをしているリロと何度か見比べた末につい言ってしまった。
「チェンジで」
「どこ見て判断してんのよ!」
すぐさまそう言って俺にローキックを入れるマナ。流石ファイタータイプ。技がキレてるぜ。
「リョウ。早くその通信切って」
そう言ったのは女神リロ。ガタガタと震えている。しかし俺は目の前の巨乳美女神をシャットアウトすることができなかった。理由は分からない。
「ええと、リロなら元気にしてますよ。ところで女神様のお名前を伺ってもよろしいでしょうか?」
「……私らのときと態度違いすぎない?」
マナかまた何か言っている。
「私ですか? 私は宇宙世界を管理しているアウストと言います。そちらにいるリロに仕事を教えている立場でもあります」
相変わらず早口ではあるが、とても丁寧な物言いでリロと違って好感が持てる。リロはなぜこのような女神らしい女神を封印してしまったのだろうか。
「リロにもそろそろ一つは世界を管理してもらおうと、昔私が作った魔法世界のベースを渡したのですが……。何か不具合が出たのか、気付くと私は出口のない部屋に閉じ込められてしまっていたのです。そのせいで元の世界の管理もできずにいます。それに私と同じくリロにも何かあったのではと心配していました」
アウストは涙ながらに話してくれた。しかし当のリロは先ほどからずっとガタガタと震えながら背中を向けて座っている。
「おいロリ。心優しい上司がこう言ってくれてるんだからちゃんと聞けよ」
「リロよ!」
おっと間違えた。名前が見た目に引っ張られてしまったみたいだ。俺に答えたリロはやっと立ち上がるとダルそうに歩いてきて俺の隣に立った。
「アウスト……。あんた働きすぎなのよ。ちょっとそこで休んどきなさい」
そう言ってリロは俺のコントローラーを奪ってヘルプ画面を閉じた。突然目の保養をかき消された俺が抗議をしようとしたのも束の間、リロは涙をたたえた目で俺を見上げて語り始めた。
「私が生まれたのは地球時間で言う十年前なんだけどさ……」
俺は渋々リロの話を聞くことにした。
「アウストったら私が生まれるより前から宇宙空間全ての管理をするために神域の時間の流れを一万倍にしてたの。惑星の配置から公転速度・自転速度。恒星のエネルギーとか物質構成まで。果ては物理現象に不具合が出ないように宇宙空間全体の化学反応をチェックしたりまで。唯一生命を作ってある地球だけでも管理が大変だって言うのに一万倍に引き伸ばされた時間の中で毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日……」
リロは焦点の合わない瞳に涙を浮かべて見開き、全身をガクガクと震わせていた。さらには過呼吸と言っていいほど息を荒くしている。十年の一万倍……十万年もの間ずっと世界の管理をしていたともなれば鬱になっても仕方ないのかもしれない。
「おい。おい。落ち着けって」
俺の声にハッとなって深呼吸をするリロ。その後、ようやく落ち着いたかのように思えたリロは力強く俺を指さして言ったのだった。
「私もう働かない。動かない」
そうしてリロは再び体育座りで空を見上げ始めたのだった。
俺の目の前で体育座りをして背を向ける女神は口調もテンションも変えてそう言った。先ほどまでは丁寧で神々しい話し方だったのが、まるでヤンキー中学生のような話し方になっている。それほどまでに俺の所持モンスターになったことが嫌だったのだろうか。失礼な。
「そんなに嫌なら女神の力でもなんでも使って首輪外せば良いだろ」
「できたらしてるわよバカ。最低。死ねば良いのに」
ちょっと口悪くなりすぎではないか? これではまるでこいつ自身が邪神のようだ。
「さっき神と同等の権限って言ってたと思ったんだけど?」
「神が神としての力を使えるのは神域でだけ。さっきは時を止めてこの世界を神域化してたんだけどこうなったらもう……」
「もう?」
「そこのモンスターとおんなじ存在よ」
「私はモンスターじゃないからね!?」
「あー。萎えたわ」
女神にモンスター扱いされたマナはすぐさま否定するが、完全に無視されていた。ゲームの仕様と同じなら二人とも間違いなくモンスターに分類される。それを理解している様子の女神はどんよりしていた。ここまで露骨に嫌な態度を取られると流石に鬱陶しい。
「じゃあ、その神域とやらに行けば良いんだな?」
「そんなところに行く方法があるの?」
俺の話に食いついたのは女神ではなくマナだった。女神というだけあって俺が想定している神域のことは分かっているのかもしれない。
「邪神の封印されている場所。そこはこの世界で神域と言われているところだ。さっき女神も言っていただろ? この世界に邪神を封印したと」
「邪神? そんなこと言ってたかしら?」
ん? マナは胸だけでなく記憶容量も無いのだろうか?
「とある神、略してJSを封印した……あれ?」
俺はそこまで言って思い出した。こいつはひとことも邪神とは言っていない。
「邪神なんて言ってないでしょ? 自分の過ちを認めて謝るなら今のうちよ? ほら? んん?」
マナの! 顔が! あり得ないほどウザい!
「JSってのは邪神じゃないのか?」
俺は体育座りで草を千切っては投げを繰り返す女神に問いかけた。無視を続けるかと思うくらいに長い沈黙の後、女神はこれまた長いため息をついて答える。
「……上司よ」
「上司?」
上司……JS……じょうし……
「そういうことかー!!」
俺は何を略してJSになったのか気付いて膝をついた。JASHINのJSではなくJOUSHIのJSだったのか!
「だからその方法だけは取りたくない。神域じゃないここで年取るのも嫌だけど上司に会うのはもっと嫌……。働きたくない……もう働きたくないの……」
ステータス画面を見ると女神――リロは混乱状態になっていた。どんだけ働きたくないんだよ。ヒキニートか。てか、働きたくなくて上司である神を封印したとか、これではまるでこいつ自身が邪神のようだ。さっきも同じことを思った気もするが、今回ばかりは真剣にそう思う。でも……ん?
「女神がこうして仲間モンスターになったら、メニューのヘルプで色々と教えてくれる女神はどうなるんだ? 本来のゲームの中なら女神増殖バグとも言われてて普通に出てくるけど」
「また増殖とか意味の分からないこと言ってる」
そう言いつつリロの背中を撫でるマナは実際に増殖することはなく、こうして目の前にいるのみだ。疑問に思えば検証するのがゲーマーの性。俺はすぐさまヘルプを開いた。
するとそこには大量のホログラムウィンドウの前であぐらをかき、両手でキーボードのようなものを叩く女性の後ろ姿が映った。白銀の長い髪をカチューシャでオールバックにし、背中から生える真っ白な二本の翼の間に垂らしている。その様子を見ていると神々しいという感想だけではなく、どことなく見覚えのあるもののような気にもなってくる。――ああ、これは仕事の締め切りに追われて家のパソコンに向かう親父の背中だ……。
「おーいリロ。もしかしてこの画面に映ってるのってお前が言ってた上司か?」
俺がそう言うとリロが振り返る。そして同時に画面の中の女性も物凄い勢いで振り返った。神速の振り向きだ。
「リロちゃん? そこにいるのですか? 心配したのですよ! 怪我とかしてないですか? 病気もない? 大丈夫ですか?」
ヘルプ画面にしがみついてこちらの様子を伺う女神は目に狂気を宿らせながら早口でまくしたてる。しかし俺はそんなことよりも前のめりになって画面を覗き込む女神の胸元に釘付けだった。なぜなら、そこではたわわな果実が収穫を待つかのようにユッサユッサと重みをアピールしていたからだ。俺は後方で体育座りをしているリロと何度か見比べた末につい言ってしまった。
「チェンジで」
「どこ見て判断してんのよ!」
すぐさまそう言って俺にローキックを入れるマナ。流石ファイタータイプ。技がキレてるぜ。
「リョウ。早くその通信切って」
そう言ったのは女神リロ。ガタガタと震えている。しかし俺は目の前の巨乳美女神をシャットアウトすることができなかった。理由は分からない。
「ええと、リロなら元気にしてますよ。ところで女神様のお名前を伺ってもよろしいでしょうか?」
「……私らのときと態度違いすぎない?」
マナかまた何か言っている。
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相変わらず早口ではあるが、とても丁寧な物言いでリロと違って好感が持てる。リロはなぜこのような女神らしい女神を封印してしまったのだろうか。
「リロにもそろそろ一つは世界を管理してもらおうと、昔私が作った魔法世界のベースを渡したのですが……。何か不具合が出たのか、気付くと私は出口のない部屋に閉じ込められてしまっていたのです。そのせいで元の世界の管理もできずにいます。それに私と同じくリロにも何かあったのではと心配していました」
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「おいロリ。心優しい上司がこう言ってくれてるんだからちゃんと聞けよ」
「リロよ!」
おっと間違えた。名前が見た目に引っ張られてしまったみたいだ。俺に答えたリロはやっと立ち上がるとダルそうに歩いてきて俺の隣に立った。
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そう言ってリロは俺のコントローラーを奪ってヘルプ画面を閉じた。突然目の保養をかき消された俺が抗議をしようとしたのも束の間、リロは涙をたたえた目で俺を見上げて語り始めた。
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リロは焦点の合わない瞳に涙を浮かべて見開き、全身をガクガクと震わせていた。さらには過呼吸と言っていいほど息を荒くしている。十年の一万倍……十万年もの間ずっと世界の管理をしていたともなれば鬱になっても仕方ないのかもしれない。
「おい。おい。落ち着けって」
俺の声にハッとなって深呼吸をするリロ。その後、ようやく落ち着いたかのように思えたリロは力強く俺を指さして言ったのだった。
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2025/03/23 自己満足の改訂版をアップしました。
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