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オレツエー
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「牧場も使えるようになったし、次は鉄鉱石だな。本当は森でベリルちゃんに声をかけた足でそのまま奥まで行く予定だったんだけど」
「お腹すいた」
「そういえばもうお昼だしね。私もお腹すいた」
「牧場で食事貰ってくるか」
「「それはいや」」
「別に牧場のご飯を食べたからって産卵するわけではないとは思うけど……」
「「それでも嫌なものはいや」」
そこまで言われてしまったら仕方がない。そうなると食事をできる場所は宿しか思い当たらない。
「宿まで戻るか」
「のびのび牧場ライフがダメになったからヤケ食いしてやる」
「いつもヤケ食いみたいなもんじゃないか」
「何か言った?」
「いえ!」
俺はデコピンの素振りをするリロに反論ができない。
「私にもリョウに言うことを聞かせられるようになる必殺技かなにかないかな……」
「今日覚える予定のダークスパイラルを楽しみにしとくんだな」
何か良からぬことを考えていたマナに俺はそうアドバイスをした。するとマナは少し不思議そうに聞き返してきた。
「え? ダークスパイラルって七十くらいのダメージのやつじゃないの? もしかして他にもリョウが嫌がる効果が……?」
「まあ、正直なところ黄金の衝撃ほどじゃないけどダークスパイラルはやられたくないな」
「ふふ。ふふふ。これで明日からは私も……。ふふふ」
マナはあやしい笑みを浮かべた。新しい技だろうか?
牧場の事務所を出て宿までの距離はそれほど離れていない。間に民家が二軒建っているが、原作の距離にして最短十五マス。十五メートルといったところ。ゲームだと気にならなかったが、この世界の家は一軒一軒がとても小さく感じる。しかし中に入ると外観よりは広く、何か魔法じみたことが起こっているとしか思えない。まあ、元々魔法世界って言ってたし何でもありなのだろう。
宿に到着すると、いつもとは違ってテンションの高いリロが真っ先に扉を開けた。
「ご飯!」
客とはいえ無作法にもほどがある声をあげたリロだったが、宿の受付件料理人のお姉さんは口に手を当てて小さく笑うと席まで案内してくれた。
「どうぞ。今日もたくさんおかわりするのかしら?」
「多分、すると思います」
「そう。いっぱい食べていってね」
お姉さんはそう言うと料理のメニュー表をリロに渡した。リロは素早く受け取ると親の仇でも見るかのような鋭い眼差しでメニュー表を見る。昨日と今朝に見た限りだと二、三種類の定食の中から選ぶだけのはずだ。それを真剣に悩むのもおかしかった。お姉さんもリロの様子を見て微笑んでいる。
そうか。俺とマナはリロが見た目とは違う年月を過ごしてきた女神だと知っているが、他の人からすれば育ち盛りの少女でしかないのかもしれない。そう思えばお姉さんの温かい眼差しも納得だ。
「これ!」
リロはメニューに書かれた定食の一つを指さして注文する。
「俺とこいつも同じやつで」
「え、私も選ぶ」
選ぶのが面倒だったからマナの分も同じにと頼んだのだが、マナは慌ててメニュー表を手にとった。
「どうせ前と一緒で、みんなと同じやつって頼むんだろ」
「分かんないでしょ!」
「急げって。ほら、三、二、一……」
「あー! これ、これで!」
「はいはい。三人ともモーギュー焼き定食ね」
結局マナが頼んだのはリロと同じで、お姉さんも笑いながら注文を取って厨房の方へと下がった。
「ほれ見ろ」
「ぐぬぬ……。そんな生意気な態度を取れるのも今日までだぞ……」
マナは俺がダークスパイラルをくらいたくないと知ってから妙に強気だ。実際にダークスパイラルを覚えたらどうなるのかが今から楽しみになってくる。
リロのヤケ食いという名の普段通りの食事を終えた俺たちは鉄鉱石を取りにカンドの森へと足を踏み入れた。
「出たわねモンスター! やっちゃいなさいウサプー!」
「ぷー!」
森に入ってからというもの、出るわ出るわバックキャットども。原作では奥の鉄鉱石が採れる場所まで十回前後のエンカウントだ。しかしまだ半分ほどしか進んでいないのにすでに遭遇したバックキャットは二十を超えている。
「ナイスウサプー!」
「ぷー!」
戦闘はマナとマナが指示するウサプーでサクサクと終わる。まるでマナがアドベンチャーになっているみたいだ。これは流石にいただけない。
「マナ」
「なに?」
前を歩くマナは俺の問いかけに無邪気な顔で振り返る。
「一応お前もモンスターなんだから戦えよ。ウサプーに任せてばっかりだと強くなれないぞ」
「それを言うならリョウだって戦ったら?」
「俺はステータスが高いから余程のことがない限り大丈夫なんだよ。マナは一撃が命取りなんだから避けたり防御したりする戦闘技術を高めと
かないと」
今までの戦闘を見ている限り、ターン制バトルだった原作とは違ってこの世界ではアクションバトルに近い。素早さはターンが巡ってくる順番や回避率に影響するだけでなく、純粋に攻撃回数や回避能力といったものに影響する。つまり、戦闘技術があれば余程素早さに差がなければダメージを負うことなく戦えるということだ。
幸いなことに素早さのステータスはレベルアップや個体差で大きく離れることはなく、一から三十あたりで落ち着く。ちなみに三十八レベルの俺の素早さは十四。同レベル帯だとプレイヤーの方がモンスターより素早く設定されているので、普通のモンスターは十前後。
「マナの素早さが一で他のモンスターが三だからって三倍速いって訳じゃなさそうだし、鍛えるに越したことはないと思うぞ」
俺がダメ押しにそう言うが、マナは首を横に振った。
「ウサプーが頑張ってくれるから大丈夫だもん」
「あ、新しいバックキャット。マナ、攻撃」
「だからしないってって、ええーー!!」
俺がメニューウィンドウを使ってマナに攻撃指示を出す。コントローラーの権限は神にも等しい。マナの抵抗する意思など関係なく身体は攻撃を求める!
「相手のバックキャットはレベル三だ。今のマナのHPなら十回くらい反撃されても大丈夫。復活の巻物も九十七個あるから単純計算で千回くらい攻撃受けても大丈夫だぞ。頑張って一人で倒せ」
「無理無理無理無理! ぐほっ!」
マナがバックキャットに一撃入れた直後、反撃を受けて汚い悲鳴をあげる。バックキャットのHPバーを見る限り三から五パーセントほどのダメージを与えているので三十回も攻撃を当てなくても倒せるだろう。
「ウサプー助けて!」
「ぷー!」
「ウサプー、何もしない」
「ぷー……」
俺がメニューウィンドウによってウサプーに何もしないように指示を出すと、残念そうな鳴き声と共にウサプーが止まる。ふむ。服従の首輪による強制力とコントローラーによる権限は間違いない。
「この鬼畜! ほげっ!」
「ほら、戦いに集中!」
「バカ! バカ! やってやるわよ! おりゃー!」
相変わらず物分かりが早いのはマナの良いところだ。やると決めたら一生懸命なところも良い。しかし……。
「復活の巻物!」
絶望的に戦闘センスが無かった。現代社会で生きてきた俺の方がマシなレベル。マナが一度死ぬまでにバックキャットのHPは二割も減らなかった。
戦闘開始から十分ほど経った頃にようやくバックキャットの討伐が終わった。使った復活の巻物は合計五つ。最後の方はマナも少し慣れてきたのかダメージを受ける頻度が減っていた。
「ううぅ……。死ぬの辛いよぉ……。痛いよぉ……」
「お疲れ様」
「ねえ。レベル上がった?」
しゃがんだまま泣きそうな顔で聞いてくるマナ。そんなマナにしっかりと教えてあげるために俺は隣に座ってステータスウィンドウを見せた。
「今ので入った経験値は九。マナが次のレベルになるまでに必要な経験値は四千八百ニ」
「え、待って」
「今のレベルのバックキャットで次のレベルに上げるには約五百四十体だな。一体十分計算だと不眠不休で四日くらい戦えば上がるんじゃないか?」
レベリングやアイテム集めなどにかかる時間をとっさに計算してしまうのはゲーマーの癖みたいなもの。役に立つと嬉しいな。
「え、無理」
無理らしい。
「まあ、レベリングじゃなくて戦闘技術上昇のためのバトルだからそんなことはしなくていいけど、またレベル三のバックキャットが出たらマナの担当な」
「……いいわよ。やってやろうじゃない!」
「おっ」
吹っ切れた様子のマナは立ち上がると握りこぶしを強く握った。
「でも私だけってのも不公平よ。リョウとリロも戦って!」
「うーん……」
そう言われてもどうしたものか。
「ステータス高いって言ってたくらいなんだからレベル高いやつはリョウがやって」
「うーん。ならここで出る一番高いレベル八のバックキャットは俺が戦うよ。リロはレベル四でどう?」
「めんどい」
「言うと思ったよ!」
台車の上でゴロゴロするリロは即答した。草なんか咥えて雰囲気を出しているが美味しいのだろうか?
「リロ! あなただけ何もしないのはズルい!」
「おっ、マナ強気だね」
俺と違って黄金に衝撃が加えられないマナはリロに強く出ることができるのか。
「むむむ……」
リロはしばらく渋い顔をしていたが目の前で睨むマナに押されて最終的に折れた。
「じゃあ行こっか! ほら、さっそく出たわよ!」
レベル別に担当が決まったところですぐにバックキャットが出現する。三メートルも進んでいないというのに……。
「えっとレベルは……」
俺がメニューウィンドウで確認すると、運の悪いことにレベル八だった。
「八だ。俺かー」
「いってらっしゃーい」
「がんばれー」
「ぷー!」
余裕ぶるマナとやる気のないリロ。ウサプーだけは心から応援してくれているようだ。
俺は渋々ウサプーに近寄ると構えを取る。見よう見まねの空手スタイルだ。自分が戦闘で使えるスキルも正拳突きだけだしな。武器を装備してレベルを上げると一気にスキルを覚えられるんだけどな……。
そんなことを考えている間にバックキャットが飛びかかってくる。素早くバック走で近付いて来てからの跳躍。そして後ろ蹴り。
しかし、素早さの違いからか妙にスローに感じる。自分の身体も軽く、バックキャットの攻撃を軽々と避けることができた。そしてバックキャットの後ろ蹴りが空を切った直後。俺は空中で体が伸び切っているバックキャットの背中に手刀を叩き込んだ。
勢いよく地面へと叩き付けられたバックキャットは、そのまま光の粒となって消えた。
「お、俺つえー!」
「お腹すいた」
「そういえばもうお昼だしね。私もお腹すいた」
「牧場で食事貰ってくるか」
「「それはいや」」
「別に牧場のご飯を食べたからって産卵するわけではないとは思うけど……」
「「それでも嫌なものはいや」」
そこまで言われてしまったら仕方がない。そうなると食事をできる場所は宿しか思い当たらない。
「宿まで戻るか」
「のびのび牧場ライフがダメになったからヤケ食いしてやる」
「いつもヤケ食いみたいなもんじゃないか」
「何か言った?」
「いえ!」
俺はデコピンの素振りをするリロに反論ができない。
「私にもリョウに言うことを聞かせられるようになる必殺技かなにかないかな……」
「今日覚える予定のダークスパイラルを楽しみにしとくんだな」
何か良からぬことを考えていたマナに俺はそうアドバイスをした。するとマナは少し不思議そうに聞き返してきた。
「え? ダークスパイラルって七十くらいのダメージのやつじゃないの? もしかして他にもリョウが嫌がる効果が……?」
「まあ、正直なところ黄金の衝撃ほどじゃないけどダークスパイラルはやられたくないな」
「ふふ。ふふふ。これで明日からは私も……。ふふふ」
マナはあやしい笑みを浮かべた。新しい技だろうか?
牧場の事務所を出て宿までの距離はそれほど離れていない。間に民家が二軒建っているが、原作の距離にして最短十五マス。十五メートルといったところ。ゲームだと気にならなかったが、この世界の家は一軒一軒がとても小さく感じる。しかし中に入ると外観よりは広く、何か魔法じみたことが起こっているとしか思えない。まあ、元々魔法世界って言ってたし何でもありなのだろう。
宿に到着すると、いつもとは違ってテンションの高いリロが真っ先に扉を開けた。
「ご飯!」
客とはいえ無作法にもほどがある声をあげたリロだったが、宿の受付件料理人のお姉さんは口に手を当てて小さく笑うと席まで案内してくれた。
「どうぞ。今日もたくさんおかわりするのかしら?」
「多分、すると思います」
「そう。いっぱい食べていってね」
お姉さんはそう言うと料理のメニュー表をリロに渡した。リロは素早く受け取ると親の仇でも見るかのような鋭い眼差しでメニュー表を見る。昨日と今朝に見た限りだと二、三種類の定食の中から選ぶだけのはずだ。それを真剣に悩むのもおかしかった。お姉さんもリロの様子を見て微笑んでいる。
そうか。俺とマナはリロが見た目とは違う年月を過ごしてきた女神だと知っているが、他の人からすれば育ち盛りの少女でしかないのかもしれない。そう思えばお姉さんの温かい眼差しも納得だ。
「これ!」
リロはメニューに書かれた定食の一つを指さして注文する。
「俺とこいつも同じやつで」
「え、私も選ぶ」
選ぶのが面倒だったからマナの分も同じにと頼んだのだが、マナは慌ててメニュー表を手にとった。
「どうせ前と一緒で、みんなと同じやつって頼むんだろ」
「分かんないでしょ!」
「急げって。ほら、三、二、一……」
「あー! これ、これで!」
「はいはい。三人ともモーギュー焼き定食ね」
結局マナが頼んだのはリロと同じで、お姉さんも笑いながら注文を取って厨房の方へと下がった。
「ほれ見ろ」
「ぐぬぬ……。そんな生意気な態度を取れるのも今日までだぞ……」
マナは俺がダークスパイラルをくらいたくないと知ってから妙に強気だ。実際にダークスパイラルを覚えたらどうなるのかが今から楽しみになってくる。
リロのヤケ食いという名の普段通りの食事を終えた俺たちは鉄鉱石を取りにカンドの森へと足を踏み入れた。
「出たわねモンスター! やっちゃいなさいウサプー!」
「ぷー!」
森に入ってからというもの、出るわ出るわバックキャットども。原作では奥の鉄鉱石が採れる場所まで十回前後のエンカウントだ。しかしまだ半分ほどしか進んでいないのにすでに遭遇したバックキャットは二十を超えている。
「ナイスウサプー!」
「ぷー!」
戦闘はマナとマナが指示するウサプーでサクサクと終わる。まるでマナがアドベンチャーになっているみたいだ。これは流石にいただけない。
「マナ」
「なに?」
前を歩くマナは俺の問いかけに無邪気な顔で振り返る。
「一応お前もモンスターなんだから戦えよ。ウサプーに任せてばっかりだと強くなれないぞ」
「それを言うならリョウだって戦ったら?」
「俺はステータスが高いから余程のことがない限り大丈夫なんだよ。マナは一撃が命取りなんだから避けたり防御したりする戦闘技術を高めと
かないと」
今までの戦闘を見ている限り、ターン制バトルだった原作とは違ってこの世界ではアクションバトルに近い。素早さはターンが巡ってくる順番や回避率に影響するだけでなく、純粋に攻撃回数や回避能力といったものに影響する。つまり、戦闘技術があれば余程素早さに差がなければダメージを負うことなく戦えるということだ。
幸いなことに素早さのステータスはレベルアップや個体差で大きく離れることはなく、一から三十あたりで落ち着く。ちなみに三十八レベルの俺の素早さは十四。同レベル帯だとプレイヤーの方がモンスターより素早く設定されているので、普通のモンスターは十前後。
「マナの素早さが一で他のモンスターが三だからって三倍速いって訳じゃなさそうだし、鍛えるに越したことはないと思うぞ」
俺がダメ押しにそう言うが、マナは首を横に振った。
「ウサプーが頑張ってくれるから大丈夫だもん」
「あ、新しいバックキャット。マナ、攻撃」
「だからしないってって、ええーー!!」
俺がメニューウィンドウを使ってマナに攻撃指示を出す。コントローラーの権限は神にも等しい。マナの抵抗する意思など関係なく身体は攻撃を求める!
「相手のバックキャットはレベル三だ。今のマナのHPなら十回くらい反撃されても大丈夫。復活の巻物も九十七個あるから単純計算で千回くらい攻撃受けても大丈夫だぞ。頑張って一人で倒せ」
「無理無理無理無理! ぐほっ!」
マナがバックキャットに一撃入れた直後、反撃を受けて汚い悲鳴をあげる。バックキャットのHPバーを見る限り三から五パーセントほどのダメージを与えているので三十回も攻撃を当てなくても倒せるだろう。
「ウサプー助けて!」
「ぷー!」
「ウサプー、何もしない」
「ぷー……」
俺がメニューウィンドウによってウサプーに何もしないように指示を出すと、残念そうな鳴き声と共にウサプーが止まる。ふむ。服従の首輪による強制力とコントローラーによる権限は間違いない。
「この鬼畜! ほげっ!」
「ほら、戦いに集中!」
「バカ! バカ! やってやるわよ! おりゃー!」
相変わらず物分かりが早いのはマナの良いところだ。やると決めたら一生懸命なところも良い。しかし……。
「復活の巻物!」
絶望的に戦闘センスが無かった。現代社会で生きてきた俺の方がマシなレベル。マナが一度死ぬまでにバックキャットのHPは二割も減らなかった。
戦闘開始から十分ほど経った頃にようやくバックキャットの討伐が終わった。使った復活の巻物は合計五つ。最後の方はマナも少し慣れてきたのかダメージを受ける頻度が減っていた。
「ううぅ……。死ぬの辛いよぉ……。痛いよぉ……」
「お疲れ様」
「ねえ。レベル上がった?」
しゃがんだまま泣きそうな顔で聞いてくるマナ。そんなマナにしっかりと教えてあげるために俺は隣に座ってステータスウィンドウを見せた。
「今ので入った経験値は九。マナが次のレベルになるまでに必要な経験値は四千八百ニ」
「え、待って」
「今のレベルのバックキャットで次のレベルに上げるには約五百四十体だな。一体十分計算だと不眠不休で四日くらい戦えば上がるんじゃないか?」
レベリングやアイテム集めなどにかかる時間をとっさに計算してしまうのはゲーマーの癖みたいなもの。役に立つと嬉しいな。
「え、無理」
無理らしい。
「まあ、レベリングじゃなくて戦闘技術上昇のためのバトルだからそんなことはしなくていいけど、またレベル三のバックキャットが出たらマナの担当な」
「……いいわよ。やってやろうじゃない!」
「おっ」
吹っ切れた様子のマナは立ち上がると握りこぶしを強く握った。
「でも私だけってのも不公平よ。リョウとリロも戦って!」
「うーん……」
そう言われてもどうしたものか。
「ステータス高いって言ってたくらいなんだからレベル高いやつはリョウがやって」
「うーん。ならここで出る一番高いレベル八のバックキャットは俺が戦うよ。リロはレベル四でどう?」
「めんどい」
「言うと思ったよ!」
台車の上でゴロゴロするリロは即答した。草なんか咥えて雰囲気を出しているが美味しいのだろうか?
「リロ! あなただけ何もしないのはズルい!」
「おっ、マナ強気だね」
俺と違って黄金に衝撃が加えられないマナはリロに強く出ることができるのか。
「むむむ……」
リロはしばらく渋い顔をしていたが目の前で睨むマナに押されて最終的に折れた。
「じゃあ行こっか! ほら、さっそく出たわよ!」
レベル別に担当が決まったところですぐにバックキャットが出現する。三メートルも進んでいないというのに……。
「えっとレベルは……」
俺がメニューウィンドウで確認すると、運の悪いことにレベル八だった。
「八だ。俺かー」
「いってらっしゃーい」
「がんばれー」
「ぷー!」
余裕ぶるマナとやる気のないリロ。ウサプーだけは心から応援してくれているようだ。
俺は渋々ウサプーに近寄ると構えを取る。見よう見まねの空手スタイルだ。自分が戦闘で使えるスキルも正拳突きだけだしな。武器を装備してレベルを上げると一気にスキルを覚えられるんだけどな……。
そんなことを考えている間にバックキャットが飛びかかってくる。素早くバック走で近付いて来てからの跳躍。そして後ろ蹴り。
しかし、素早さの違いからか妙にスローに感じる。自分の身体も軽く、バックキャットの攻撃を軽々と避けることができた。そしてバックキャットの後ろ蹴りが空を切った直後。俺は空中で体が伸び切っているバックキャットの背中に手刀を叩き込んだ。
勢いよく地面へと叩き付けられたバックキャットは、そのまま光の粒となって消えた。
「お、俺つえー!」
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