サイコミステリー

色部耀

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15.退室

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 俺はそう言って美波さんのお父さんと同じように笑った。ただ一人、美波さんだけは不思議そうな顔をしていたが、いつか自分がどう可笑しかったのか理解してくれる日が来れば一緒に笑える日が来るだろう。もっとも、その時には笑いの原因である美波さんは今回のような行動を取っていないだろうけれど。

「あ、先ほどは丁寧なメールありがとうございます。これで中学校にも小学校にも行くことができそうです」

 美波さんは話題を切り換えてそう言うと頭を下げた。今日俺は病院に同行してお父さんと話をする事だけが目的だと思ってきたわけだが、美波さんは美波さんで母校へ行く方法を聞くという目的があった。その目的が達成されたことでとりあえずの満足感と安心感を得ている様子だ。その母校とやらへは明日か明後日にでも付き合わされることになるのだろうか。

「真壁君。まだ日も高いことですし、今から一緒に行ってくださいませんか? 特別報酬もはずみます」

 俺が気を抜いていたところに美波さんはそんなことを言いだした。今から行くということにも驚いているが、それよりも特別報酬という言葉にも度肝を抜かれた。父親の前だぞ? と小さくパニック状態になる俺の気も知らずに美波さんはただただ返事を待っている。

「まあ、寮の夕飯時まで俺も予定はないし……。付き合うよ」

「ありがとうございます。それでは特別報酬の件ですが」

「それはあとで聞くから大丈夫! じゃ、行こうか。それでは失礼します」

 俺は慌てて美波さんの口をふさぐと病室を出た。病室の扉をくぐる時に美波さんのお父さんが笑いながらまた来てくれと言ってくれたので、俺で良ければいつでも来ますと答えておいた。美波さんと美波さんのお父さんが良いのであれば毎日でも来て良いかもしれない。いつ亡くなるか分からない状態という人相手なら、少しでも一緒に過ごす時間を大切にしたいと思う。そのくらいには俺も美波さんのお父さんの人生に触れてしまったのだと思う。
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